家で健康的な料理を自炊したいけど、時間がない──。現代の都市部の共働き家庭に共通する悩みを解決しようとしているのが、インド発のPosha(ポシャ、本社:米カリフォルニア州)だ。同社が開発するロボットのポシャは、食材を投入すれば、1,000種類以上のメニューを自動的に調理してくれる。すでに200台以上が購入されており、数千人の顧客が予約待ちしているという。同社の共同創業者でCEOのラグハブ・グプタ(Raghav Gupta)氏に話を聞いた。

目次
自動運転と同じ仕組みで「自動調理」
都市部の共働き世帯がターゲット
「家庭料理」と「キャリア」を両立させたい
日本市場と自動調理ロボットは「相性良い」

自動運転と同じ仕組みで「自動調理」

―ポシャは1,000種類以上のレシピを完全自動で調理するロボットを開発しています。ロボットが自動で調理できる、その仕組みはどうなっているのですか?

 当社が実現したのは、AIとアルゴリズム、カメラ、センサーを駆使したコンロ調理の自動化です。人間の調理人は、コンロで何千ものレシピを調理できますよね。適切なタイミングで適切な食材を加え、食材をかき混ぜ、火加減を調節し、味付けを行う。このように、人間は「自分の目と判断力」で料理を完成させます。

 私たちが、「ポシャ」に学習させたのも全く同じ知性です。「パスタをソースと絡めるときの火加減」や「カレーのチキンをどのタイミングで投入するか」を徹底的に模倣させました。つまり、ポシャはプロ調理人と同様の技術を持つようになったのです。

 もう少し具体的に説明しましょう。調理人は自分の目で食材の色や質、硬さの変化を確認します。ポシャの場合、AIで学習させたカメラで色、質感、硬さの変化を検出し、その場で適切な対応ができます。ポシャと同じ原理で動くのが自動車の自動運転です。自動運転車はカメラとGPU、AIモデルを駆使することで人間のように運転しますよね。

 ポシャのAIアルゴリズムの裏側では、プロ調理人が動作を確認し、逐一正しい動作を学習させています。ベテラン調理人が若手を指導していたように、今はベテラン調理人が機械を指導しているのです。

Raghav Gupta
Co-Founder & CEO
インドのジャミア・ミリア・イスラミア大学にて電気電子工学の学士号を取得。2016年に家庭用調理ロボットを開発するNymbleをインドにて共同創業し、CEOを務める。2025年に社名および製品名をPoshaに改め、引き続きCEOに就く。2024年からForbes Technology CouncilのMemberにも就任。

都市部の共働き世帯がターゲット

―2025年1月からロボットの商業販売を本格化させたとのことですが、顧客層の特徴を教えてください。

 顧客層の大部分は「アメリカの大都市」に居住しています。例えば、テキサス州のダラス、ヒューストン、オースティン。カリフォルニア州のロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴ、ワシントン州のシアトル。東海岸ではニューヨーク州などですね。すでにポシャは200台ほどが購入されており、数千人の顧客が「予約」に名を連ねています。

 ポシャの価格は1台1,750ドルですが、これらの大都市には富裕層が多いのと同時に、共働き家庭も多い。子どもの有無にかかわらず、世帯内で夫と妻の両方が収入を得ているケースが多く、一戸建てに住んでいて、週3〜6回の頻度で家で料理をしているような層です。彼らは毎日新鮮な食材を選んで調理し、家族に食べさせたいけど、「料理をする時間がない」という手料理への潜在的なニーズを抱えています。

 ポシャの完全自動調理ロボットは、このニーズにぴったりと合致します。ポシャは食材の切り分け、投入作業こそ必要なものの、「煮る」「焼く」「茹でる」などの作業は全てロボットが行います。

 メニューも「地中海料理」「インド料理」「アジア料理」「アメリカ料理」「郷土料理」などジャンルが豊富。さらに「低糖質」「ビーガン」「赤ちゃんも食べられる」「すぐにできる料理」など、シーンに応じた料理も対応します。具体的なメニューとしてはパスタや野菜炒め、カレーなど1,000種類以上を用意しています。

image : Posha

―ポシャはインドで設立されましたが、現在の主要な顧客はアメリカにいます。なぜアメリカでの販売をメインにしたのでしょう。

 インドではサービス産業の規模が非常に大きく、ほとんどの問題を人間が解決することから、自動化への依存度が低いのです。つまり、飲食店が多数存在し、食品価格も配達料も比較的安価という事情があります。また、忙しい人の場合、自宅でプライベートシェフを雇うとしてもアメリカに比べると安く済みます。

 一方、アメリカでは食に対する時間的・金銭的コストが桁違いに高い。外食は非常に高額ですし、プライベートシェフの雇用はほぼ不可能です。フードデリバリーを利用するにしても、金銭的に毎日利用するわけにはいきません。

 食に関連した時間的・金銭的コストが高いことの表れとして、テクノロジーへの依存が挙げられます。アメリカの70%以上の世帯が食洗機を利用していますし、50%以上の世帯が電子レンジを持っています。つまり、家庭内で食事への時間的・金銭的コストを抑えようという努力が著しい市場なのです。

 これに対し、インドの食洗機の普及率は1%未満で、電子レンジを持っている家庭もそう多くありません。こうした事情から、働き盛りの忙しい共働き世帯に対して、ポシャのニーズが高いと判断しました。

image : Posha ポシャのモバイルアプリ

「家庭料理」と「キャリア」を両立させたい

―ポシャの前身であるニンブル(Nymble)を2016年に創業し、現在に至ります。創業のきっかけをおしえてください。

 私自身が育った家庭環境と関係があります。私の家は「家庭料理を通して愛情を表現する」ことに価値をおいていて、食事をとても大切にしていました。ところが多くの家庭では「家族に健康的な食事を提供すること」と「有望なキャリアを選ぶこと」を、まるで二者択一かのように選ばされていることを知ったのです。つまり、健康的な食事を家族に提供するためにキャリアを諦める人や、逆にキャリアを選ぶことで家族に十分な食事をつくれずに悩んでいる人がいたのです。

 私は「家で家庭的で健康な、美味しい食事を食べられること」と「キャリアを貫徹すること」を両立させる世界をつくりたいと思いました。それがポシャを立ち上げた想いです。

 また、2016年当時は、コンピュータービジョンの応用が現実世界に登場し始めていた時期です。自動運転車やスマート防犯カメラ、工場でのスマートピッキングなど「AIを搭載したカメラが、人間のように動作する」世界が目前まで来ていたのです。私は、この発想が料理という営みに応用されていないことに気づき、ポシャのような調理ロボを開発したというわけです。

image : Posha ポシャ 内蔵パーツ「Spice Pods(スパイスポッド)」

日本市場と自動調理ロボットは「相性良い」

―日本市場に進出する考えはありますか。

 私自身はまだ日本を訪れたことはありませんが、当社の顧客から日本市場とポシャの相性の良さについてよく言及されます。

 日本人は自動化を好みますし、新しい技術に対して前向きに受け入れます。また、日本市場では高齢化が著しく、身体能力の低下で自炊が難しくなる人も増えるでしょう。こうした課題に対して、ポシャはダイレクトにアプローチできると思います。

―日本では、どのような業界との協業をのぞんでいますか。

 家電業界と介護業界、食品メーカー、医療業界です。家電業界に関しては、ポシャ製品を販売ルートに乗せていただきたいと考えています。介護業界に関しては高齢者向け介護施設などで、ポシャが導入される可能性が高いのではないでしょうか。

 医療業界と食品メーカーに関しては、栄養食の完全調理とそれを家庭で食してもらうという課題に対して直接的に働きかけ、効果的に取り組めると考えています。多くの場合、医療機関で患者が適切な食事を指導されても、時間不足などの理由でその通りに家で食べられないのが現実です。

 食品メーカーや医療機関と連携し、医師が処方したレシピを自宅でそのまま食べられる体制をつくりたいです。

 協業の際して理想的な形態は資本と流通だと思います。また、日本の半導体メーカーやセンサーメーカーが自社の部品をポシャに組み込みたいというニーズがあれば、興味深いと思います。



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