NASAの研究センターからスタートアップコミュニティへ
―まずはCEOの経歴と、Orbital Insight設立の経緯を教えていただけますか。
私は、AIという言葉の意味が世の中で理解される前からAIを研究していました。
そして、NASAエイムズ研究センターにあるAutonomy and Robotics部門のリーダー職のオファーを受け、カリフォルニアに越してきました。最初から起業を目指してカリフォルニアに来たわけではありません。NASAでは、AIを活用した火星探査ローバーの自律型プランナーなど、素晴らしいプロジェクトに携わりました。
その後は、スタートアップコミュニティーと縁があり、様々なスタートアップに携わりました。デジタル農業技術を開発していたThe Climate Corporationでは、モンサント社に買収されるまで、Science and EngineeringのSVPを務め、Googleブックスプロジェクトの技術ディレクターを4年間務めました。Googleブックスプロジェクトでは、2,000万冊の本をスキャンしました。Orbital Insightは、Googleブックスからインスピレーションを得ています。
Googleとの縁で、Sequoia Capitalでピッチする機会を得て、起業に至りました。当社のビジョンは、AIとデータサイエンスを活用し地球を理解することです。人間が地球上で行っていること、地球に対して行っていることを理解することを使命としています。そして、近年では衛星画像だけでなく匿名化されたコネクテッドカーやスマートフォンのデータ、船舶自動識別装置(AIS)からのデータなど、経緯/緯度を持つ様々なデータを全て活用しています。
顧客が簡単に独自のプロジェクトを作れるプラットフォーム
―具体的にはどういったサービスを提供しているのでしょうか。
最初は、AIを使い衛星画像を解析し、構築したデータセットを、サブスクリプションで提供していました。例えば、サウジアラビアなど、世界中にある原油貯蔵量タンクの衛星画像から、タンクに入っている原油の貯蔵量を算出したことがあります。
昨年からは、ソフトウェアプラットフォームの販売に切り替え、Orbital Insight GOと名付けたプラットフォームを提供しています。顧客自身が、どこの何を、いつからいつまで見たいか決め、当社のプラットフォームを使い、独自にデータセットを構築し事業活動に活かすことが可能です。多くの顧客が、非常にクリエイティブに当社のプラットフォームを活用していることに、驚いています。
―実際の活用例を教えていただけますか。
日本では、東京海上日動火災保険と提携し大規模災害時の情報提供を行っています。状況に応じて、可視光画像とレーダー画像を組合せ、例えば、水害発生時の被害エリア早期把握や、過去の水害における保険料の支払実績データを含めたAI解析により、保険契約者への迅速な対応を可能にします。
他に、道路地図の更新に当社のプラットフォームを使用しているケースもあります。東京は新しい道路やビルの建設が多く変化が激しいため、地図情報も頻繁に変わります。正確かつ最新な道路地図を必要とする企業が、当社のプラットフォームから情報を得ています。
米国では、国防総省の組織Defense Innovation Unit(DIU)が当社を利用しています。その他にも政府機関との関係はありますが、公開できないものの方が多いですね。
大規模サプライチェーンを持つ企業や保険会社に関心
―日本企業のパートナーや御社の日本支社もあり、日本市場での展開が進んでいますね。
日本市場は当社を歓迎してくれましたし、Geodesic Japanがアドバイサーとなり、日本チームの事業展開を支援してくださいました。また、ABeamや伊藤忠という素晴らしいパートナーもおり、保険会社の他に、SMBCコンシューマーファイナンスなど、日本の大手企業に当社のプラットフォームをご利用いただいています。
私達は、日本の大規模かつ複雑なサプライチェーンにおいて、当社のプラットフォームが有効だと考えています。例えば、輸入食品を取扱う小売業者が輸入元の生産現場の情報を得るため、または、工場を持つ企業では海外の製油所の精製状況の把握など、現地の状況を正確に可視化した情報は、様々な形でお役に立てます。
―日本の読者にメッセージをお願いします。
新しい道路やビル建設などの物理的な変化と、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱など経済的な変化が無秩序に起きています。私達は、誰も予想できなかった事態が起こる世界に生きており、事業活動の継続において、様々な「問い」があるでしょう。その問いに対する「答え」を、カスタマイズ可能な当社のプラットフォームを使い、見つけてください。