大洪水がきっかけ。スタンフォード大学で出会った二人が起業
――One Concernを起業した経緯は何だったのでしょうか。
もともと私と共同創業者のアマッド・ワニ(Ahmad Wani)は、スタンフォード大学大学院で知り合いました。アマッドは構造工学を学び、私はコンピューターサイエンスを学んでいました。
起業のきっかけは、アマッドが2014年に発生したカシミール地方の大洪水を経験したことでした。被害地は洪水対策が十分ではなく、多数の人が亡くなる大惨事となりました。アマッド自身も自宅が崩壊し、救助が来てくれるのか分からない中で、死と隣り合わせの状態を経験しました。幸いにもアマッドは無事でしたが、彼はその災害体験をきっかけに「どうすれば自然災害の被害を予測ができるのか」と考え始めたんです。
まず私たちは、災害科学の分野で問題を解決するため、地震について調べ始めました。そして地震科学のデータと人工知能を組み合わせて解決する方法を模索していたところ、カリフォルニア州ナパバレーで地震が発生しました。
地震のインパクトを予測していた私たちは、自然環境や建物などのデータを使用し、被害状況を予測できることに気づきました。当時そのようなサービスが存在していなかったので、私たちは自治体にも話に行きました。 いざ行くと、どれほど地震の被害を予測するサービスが必要かと訴えられ、私たちは起業を決意したんです。
災害被害を事前予測できるソリューション
――具体的なサービス内容や、利用している技術について教えてもらえますか。
私たちは、既存の災害科学の物理モデルをAI/機械学習技術と融合させた防災・減災ソリューションを提供しています。私たちのツールは、災害の被害規模を予測したり、リスクを低減するための意思決定を支援します。
例えば、洪水であれば気象予測や河川水位情報等を随時取り込むことで、災害発生の最大72時間前に被害状況を予測することができます。災害発生前の段階で、私たちのデータを使用して防災計画を立てることができます。また、開発途中ですが、電気や水道インフラ等ライフラインへの影響 や、被害を受けた企業のダウンタイムなども予測することができます。
Photo: One Concern提供(画像はイメージであり、実際の被害予測データを表示したものではありません)
私たちの目標は、事前に予測・準備を行うことで自然災害の被害を最小化することです。現在は洪水と地震の両方に対応していますが、将来的には他の種類の自然災害も予測モデルに追加する予定です。
困難をチャンスや学びの機会と捉える
――スタートアップを成長させていく上で、どんな苦労がありましたか。
スタートアップは急成長していますから、毎日が新しい挑戦の連続です。共同創業者として常に心がけているのは、困難をリスクとして見るのではなく、チャンスや学びの機会として受け止めることです。
会社の成長と共に、自分個人で対応できる問題というより、会社ぐるみで解決しなくてはならない問題の方が多くなります。社員が3人の場合は、システムをどのようにコーディングしようかという類の悩みで済みますが、社員が90人にもなると、適切な人材を雇用しているかや、会社が正しい方向に進んでいるかという悩みに変わります。自身がより良いリーダーとして急成長する会社を牽引できているかという点が一番の困難なのではないでしょうか。
――女性がテック業界でキャリアを積んでいく上で、アドバイスはありますか。
「私はこれをやっていいんだ」と自分に自信を持つことが大切です。また、本当に信頼できる人に囲まれていることも重要です。私はジェンダーや多様性という面で非常に理解力のある人々に恵まれました。共同創業者、取締役会、他のチームメンバー等の支援があるからこそ、ここまで来れたのです。
そして本当にひたむきになれるものがあるなら、恐れず前を向いて行動をとってほしいと思います。自信がないと思っても助言をくれるような理解力のある人を周りに置き、自身のポテンシャルを開花させてくれるような人と関わってほしいです。
SOMPOと戦略的提携。日本での実用化を目指す
――2020年にSOMPOホールディングスと戦略的パートナーシップを締結しています。今後の日本展開の計画は何でしょうか。
私たちはSOMPOホールディングスと共に、AIを活用した防災・減災システムの導入を推進していきます。2019年3月に熊本市で実証プロジェクトを開始していますが、今後は国内の他の地域においても展開の拡大を目指しています。
Photo: One Concern提供(画像はイメージであり、実際の被害予測データを表示したものではありません)
1つの都市だけでなく複数都市で製品の試用を行い、ゆくゆくは全国で利用可能にすることを目指しています。また、自治体のみならず企業向けにもサービスを提供していく予定です。
日本はその土地柄、災害に見舞われることが多いですが、テクノロジーという面では非常に前向きな国です。多数の人々が災害支援・災害対策活動に関わっており、問題解決のためのツールは常に模索されています。被害の最小化・リスク管理といった面で私たちとつながりたい企業がいれば、前向きにコラボレーションに取り組みたいと思っています。