Oatside(本社:シンガポール)は、植物性ミルクとして普及が広がるオーツミルクを製造・販売するスタートアップだ。クリーミーで香ばしい風味に仕上げた同社の商品は、2022年1月の発売以来、急速に市場を拡大。11月に本格的に販売を開始した日本を含め、アジア13カ国で展開している。原料には厳選したオーストラリア産の高品質オーツ麦を採用し、インドネシアにある自社工場で一貫した生産体制を確立している。保存料や香料、乳化剤、増粘剤、人工甘味料などの食品添加物を使用していない。「アジア人の味覚に合うオーツミルク」にこだわり、APACでの市場拡大を進める同社創業者でCEOのBenedict Lim氏に、業況や今後の展望を聞いた。

投資会社からケチャップのハインツへ フードビジネスを学ぶ

 Lim氏は英ケンブリッジ大学を卒業後、投資会社Bain Capitalに2年弱勤めた後、The Kraft Heinz Company(以下、ハインツ)に入社した。「もともと、私は食べ物、食べることが大好きなんです。トマトケチャップも大好きです。当時、ハインツの関係者と知り合い、食品業界に入る機会を得ました」

 ハインツではアジア太平洋、中東、アフリカ地域のM&Aの責任者などを務めた後、Heinz ABC Indonesia & Papua New GuineaのCFOに就任。フードビジネスの生産から販売まで全体を学んだと語るLim氏。そんな時、着目したのが植物性ミルクだった。

「植物性ミルクの多くは、ヨーロッパからの製品で、アジアではまだあまり見かけませんでした。その中でもオーツミルクは、他の植物性ミルクと違って、よりクリーミーで、よりニュートラルな味わいがあるため、コーヒーやお茶にも簡単に混ぜて楽しむことができます。そこで、アジア人の味覚に合うオーツミルクを作ろうと思いました。2020年にOatsideを創業し、研究開発のプロセスを経て、3種類の商品を発売しました」

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Benedict Lim
Oatside
Founder & CEO
シンガポール出身。University of Cambridgeで経済学の学士号を取得。投資会社Bain Capitalで不良債権および不動産投資関係の事業に従事した後、2017年3月、The Kraft Heinz Companyに入社。アジア太平洋、中東、アフリカ地域のM&Aの責任者として事業の売却・買収などを担い、2019年からHeinz ABC Indonesia & Papua New GuineaのCFOを務める。2020年8月にOatsideを設立しCEOに就任。

味へのこだわり 抽出から焙煎処理など一貫した製造ライン

 Lim氏がオーツミルクの可能性として感じたのはその味わいと、健康・環境の面でのサステナビリティ、そしてアジア市場での伸びしろだ。「植物性ミルクは急速に普及していますが、それでもまだ現在の牛乳の市場の10~15%程度と言われており、これからもっと伸びていきます。我々は植物性ミルクの普及が持続可能な未来につながるということを知っています」

 シンガポールは国土が狭く、農業が盛んではないため、フードテックによる植物由来の食品や代替肉の開発に取り組むスタートアップが数多くある。シンガポールの出身のLim氏もこう説明する。

「私自身、シンガポール人であることをとても誇りに思っています。これからシンガポールは、ますます重要なフードテックのハブになっていくと思います。シンガポールでは、多くの研究開発が行われており、非常に優れたエコシステムがあります。サプライヤーやパートナーとも、シンガポールでは同じ日に何人も会うことができます。ですから、私たちはシンガポールに本社を置くことにしたんです」

 ヨーロッパ産の製品ではなく、アジア人の味覚に合ったアジア発のオーツミルクを開発しようとしたとき、最大の参入障壁は「味」だったという。

「私が最初にオーツミルクに興味を持ち、いろいろ試飲したときに、原料の種類によって食感や味に大きな違いがあることに気づきました。その理由は、製造工程にあります。オーツミルクの場合、豆乳やアーモンドミルクと違い、原料(オーツ麦)を水ですりつぶすだけではダメなんです。オーツ麦の抽出工程をどのように行うかで、味や食感の点で全く異なる製品ができ、表現の余地も大きく広がります」

Image: Oatside

 Oatsideは原料や製造工程にこだわる。原料のオーストラリア産オーツ麦は、ヨーロッパ産地の豆っぽい味わいや青臭さなどに比べ、ナッツ感、モルト感が風味として味わえるという。

 加工分離粉末も一切使用せず、オーストラリア産オーツ麦のナッツ感、モルト感を最大限に活かすため、一般的なスチーム処理ではなく、焙煎加工を施している。独自の酵素加工・処理製法で自然な甘さと香ばしさ、クリーミーさを引き出したオーツミルク作り。その製造工程を一貫して行っているのが、インドネシアにある最新設備が整った自社工場だ。

「自社工場の場所に選んだのは、インドネシアの西ジャワ地域にある山岳地帯です。その理由は『水』です。水はオーツミルクの重要な要素であり、天然の湧き水を調達することができます」。湧水を工場に引く過程で、近隣の家庭にも新鮮な水を提供しており、地域貢献にも取り組む。

 自社の生産設備を持つことで、製品のカスタマイズの余地も大いにあるという。「私はラーメンが大好きですが、ラーメン屋さんもそれぞれの店によって食感や味にこだわりを持ち、個性がありますよね。そんな感じです。私たちも自社工場によって、異なる表現を持つ製品を作ることができます。それはとてもエキサイティングなことです」

 アジア人の味覚に合う製品へのこだわりについて、Lim氏はこう語る。「味の好みとは、親しみやすさのことでもあります。自分が何を食べ飲んで育ったか、自分にとって馴染みのある味は何かということです。Oatsideの製品は、アジアで育った人間にとって馴染みのある味と質感で、心に響くものがあると思っています」

Image: Oatside

発売1年弱で13カ国展開の急成長 コーヒーやスイーツにも

 味わいにこだわったOatsideの製品は2022年1月の発売以降、急速にアジア各国へ市場を広げている。2022年11月現在、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、香港、日本、韓国、フィリピン、モルディブなど13カ国で製品を販売している。日本ではAmazonで商品を取り扱っている。

 ヘビーユーザーは、18歳から35歳の消費者で、そのほとんどが女性だという。また、ベジタリアンやヴィーガンに限らず、多くがフレキシタリアン(Flexitarian、準菜食主義)の人々だという。

 現在展開している製品は3種類。そのまま飲んでも、コーヒーやお茶と混ぜても相性が良いプレーンタイプの「バリスタブレンド」、リッチなダークチョコレートの味わいの「チョコレート」、ヘーゼルナッツの香ばしさを加えた「チョコレートヘーゼルナッツ」だ。オーツ麦だけでなく、カカオとヘーゼルナッツも100%レインフォレスト・アライアンス承認のものを使い、持続可能な農業の支援にもつなげている。

 これらの製品を活用したタピオカミルクティーやラテ、シェイクはもちろん、スイーツなど、多彩なレシピの可能性も広がる。

「この3つの製品に共通しているのは、本物の材料のみを使っていることです。どの製品も人工甘味料や増粘剤、保存料、乳化剤を使わず、プレーンには砂糖も使っていません。チョコレートはパームシュガー(ヤシ由来の砂糖)が少し入っていますが砂糖の含有量は、他の多くのフレーバーミルク製品の半分かそれ以下だと思います」

 発売から1年足らずで急速に販売が広がった理由について、Lim氏は「いくつかあると思いますが、まず第一に、製品の良さです。私たちは情熱を傾けて作っています。それを多くの人にまず試していただくことです。カフェなどを通じて、Oatsideの製品を試してみる人、味わう方法を見つける人が増えれば増えるほど、その効果が高まります。普段は牛乳しか飲まなかった方が、初めて当社の製品を飲んで喜んでいるのを見ると最高の気分です」と語る。

 フードビジネスで豊富な経験を積んだチームメンバーによる製造やサプライチェーンへの展開も創業2年で急速に成長を遂げている理由だという。

 海外では大手カフェチェーンやインターコンチネンタルなどのカフェでも提供されており、高級店から手ごろな価格の店舗など、さまざまなカフェや小売店などで販売が広がっている。カフェなどで扱う店舗は約1万店に上るという。

 例えば、京都発のコーヒーブランドで、世界的にカフェを展開する「%Arabica Kyoto」でもOatsideの製品が採用されているほか、約1000店舗を展開するインドネシアの「Janji Jiwa」もOatsideのパートナーだ。「こだわりのカフェから、1杯2ドルのコーヒーを気軽に楽しめる大衆的なチェーンまで、当社の製品はとても汎用性が高いため、多くのコーヒー消費も促進しています」とLim氏は胸を張る。

Image: Oatside

植物性ミルクのマーケット自体を拡大させていく

 シンガポール政府系投資会社Temasek Holdingsの出資を受け、急速に成長を続けるOatside。競合について、Lim氏は「アジアでは、植物由来のミルクの普及率が低いため、私たちの重要な役割は、他の植物由来製品のプレーヤーからマーケットシェアを奪うことではなく、カテゴリーを成長させることだと考えています。当社はアジアの市場において、より深く、流通を促進するよう力を入れていきます」

 アジアの植物性ミルク市場を広げていくため、Oatsideはこれからもさまざまな商品展開を考えており、2023年には新商品の発売も予定している。

「私たちは、この植物性ミルクの開発のまだ初期段階にいると思います。当社の役割は、味を通じてカテゴリーを拡大することです。普段は牛乳しか飲まない人たちが、もし週に2~3回、カフェでオーツミルクのラテを頼むようになると、その人の選択肢のバラエティーが広がり、カテゴリーの拡大につながります。そして、スーパーマーケットに行き、家族のために家に買って帰るようになるでしょう。そうやって、すべてが始まります。私たちは他のメーカーを競争相手としては見ていません」

 2022年8月にシリーズAラウンドでTemasekなどから調達した約9050万シンガポールドル(約95億円)は、生産能力の向上やサプライチェーンなどに充てていく。今後1年間の目標として、2022年に製品を発売した各国市場のチームを強固にし、消費者との接点を増やして市場をより深く掘り下げていくという。

Image: Oatside

日本では六甲バターが販売 より幅広いパートナーも求める

 Oatsideの急速なアジア市場展開において、各国のディストリビューターとの協力が欠かせない。日本市場では、六甲バター(本社:兵庫県)が販売の主要なパートナーとなっている。「各国のディストリビューターや企業との連携の上で、私たちが注目するのは、ブランドに対する価値観や信念が一致していることです。ブランドに対する情熱を感じられることが大切です」とLim氏は語る。

 日本展開における幅広いパートナーシップにもオープンだというLim氏。「カフェやタピオカティーのチェーン、レストラン、小売店など、私たちの製品をぜひ試してみたいという企業様向けに喜んで試飲会を開催し、一緒にマーケティングやブランドのコラボレーションを図っていきます」

 また、投資や合弁事業、共同開発など、さまざまな可能性に対しても前向きな姿勢だ。「機会があれば、例えば、Oatsideのオーツミルクを活かしたヨーグルトなどといった新たな製品の開発などについても、ぜひ検討していきたいです」と語り、今後も潜在的なパートナーシップへの探求を進めていく。

 Oatsideの長期的なビジョンは「サステナブルミルクの普及を推進すること」だ。持続可能な未来に向け、Lim氏は「もちろん私たち1社だけでできることではありませんが、少なくともアジア全域でその動きをリードしていきたいと思っています」と語った。

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