発想のきっかけはパンデミック。困難をプラスに転換する
Evernoteの創業者でもあるLibin氏は、2016年にEvernoteの仕事を終えたあと、投資家に転身した。しかし、自身でアイデアを形にすることを希望し、2017年にAll Turtlesを創業する。
そして2020年3月、パンデミックを機に、サンフランシスコ、東京、パリのオフィスを閉鎖し、全員がリモートワークとなった。リモートワークを余儀なくされる中、退屈なビデオ会議のコミュニケーションを改善したいと、mmhmmのアイデアを思いつく。
2020年5月、当初、ジョークのようにはじめたプロダクトだったが、わずか42日という異例の速さでプロトタイプを完成。これはすぐに話題となり、創業資金を得ることに成功する。こうしてパンデミックをきっかけに生まれたアイデアは、事業化のスタートを切った。
mmhmmが変えようとしているのは、ビデオ会議やプレゼンテーションの改善だけにとどまらない。彼らがフォーカスするのは、ミーティングのスタイルそのものだ。ミーティングには、対面が向いているものもあれば、オンラインで済むものもある。さらに、非同期で情報を共有することで同時に集まることを必要としない場合もある。Libin氏は、これまで対面で行うのが当たり前とされてきたミーティングのあり方を根本から変えようとしている。
「対面によるミーティングは本当に特別な、貴重な時間を過ごしたい時だけにすべきだと思います。ピラミッドの頂点(優先度の高いミーティング)は直接会って話をすることであり、その一つ下の階層がオンラインミーティング、さらに最下層は非同期でも済むものです。すべてを貴重なリソースである対面式でリアルタイムに行うことから、非同期をおりまぜたコミュニケーションに移行して、ストレスが少なく、質の高い生活を送ることをサポートしたいのです」(Libin氏)
実際、世界中に分散したmmhmmチームでは同時に皆が集まる会議を極力減らし、ビデオメッセージやチャットで情報共有する非同期のものが中心となっている。同じ時間にミーティングする際は、全員が最新情報を事前に共有し、あとはディスカッションするだけにしているという。そのおかげで、ミーティングが非常に効率的でクリエイティブな時間になった。
いつの時代にも現れる、新たな時代の先駆者に、競合はいない
2021年7月にはソフトバンクビジョンファンドからシリーズB、1億ドルを調達した。Libin氏のプレゼンはとてもシンプルだ。1年目はスタート、2年目はプロダクト、3年目はスケール、4年目に利益にフォーカスする―これだけだ。
2年目である今期は、プロダクト作りがテーマである。プロダクトを欲しがるユーザーはどこにいるのかを知って、要望に応える機能を提供することにパワーを注ぐ。これからリリースされる新機能を、2021年5〜7月のオンラインイベントで公開したばかりだ。これまでのZoomの背景を変えるだけでなく、2人で同じ画面に登場するテレポートや、収録したビデオとライブ配信を組み合わせるタイムシフトなど数々のユニークな機能を提供している。
ローンチ当初からスライドを使ってプレゼンできる機能が搭載されている(Image: mmhmm)
Libin氏はこれまでの起業において、競合はいなかったという。ビデオコミュニケーションのmmhmmについても競合は意識しておらず、人々が夢中になる新たな価値観を作って市場のリーダーになることに注力している。パンデミックによって大きは変動が起き、この数年間で大きく変化するであろう社会に必要なユニークな存在になろうとしているのだ。
「私は、必要だからという理由で使うプロダクトを作りたくありません。私が作りたいのは、人々が愛着を持って使ってくれる製品であり、人々が進んで使ってくれる製品です。リモートワークが普及したことによって、分散チームによる同期・非同期コミュニケーションが、時代の転換期に大きなスピード感をもたらしました。私たちは『これはCOVID-19対策ではなく、すべての人の生活と仕事を改善するためのものだ』と考えています。私たちのユーザーや投資家もそれを理解してくれています。だから、プロダクトを作っている者にとって、今はとてもエキサイティングな時期です」(Libin氏)
目指す姿は、最高の仕事ができるところで、最高の人生を送ること
mmhmmでは日本を最も優先したい国の一つとして捉えている。実際、日本にもチームメンバーがおり、彼らのサイトや多くのプレゼンテーションは日本語に訳されている。ただしLibin氏は日本をプロダクトの市場としては見ておらず、最高のデザイナーやエンジニアと協力して作りたい場所だと考えている。mmhmmは、この夏の終わりまでに10ヶ国語に対応する予定だ。完全ローカライズによる形で、世界中で支持されるものを目指す。もちろん、販売ではリセーラーやイベント会社などさまざまなパートナーシップも求める。その際、最も重視したいのは彼らが考える「分散型ワーク」の理念に賛同してくれる企業だ。
パンデミック生まれのmmhmmではあるが、その価値は一過性のブームで終わるものではない。Libin氏はmmhmmによって、今後訪れる分散型ライフスタイルをサポートしたいとし、次のように語った。
「現在は、私が生きてきた中で、最も変化の激しい時期だと思っています。誰もが同じ時間に起きて電車に乗り、何時間もかけて通勤し、一度に10時間も同じ場所にいなければならないというような、当たり前としてきた考え方が揺らいでいます。私たちが掲げるスローガンは『最高の仕事ができるところで働き、最高の人生を送れるところで暮らすべき』です。仕事と暮らす場所を別々に決断できるようになったのは、多くの人にとって初めてです。教育・医療・不動産などは永遠に変わるでしょう。私たちは、これら全ての変化をもたらす手助けをしたいのです」