AIを開発する企業にとって重要なのが、大量のデータにその意味をラベル付けする「アノテーション」のプロセスだ。アノテーションに特化した技術で、機械学習プロセスの学習データ生成を支援するプラットフォームを提供するのがLabelbox(本社:米カリフォルニア州)だ。企業が独自で取り組むと時間もコストもかかるAI構築をシンプルにし、開発期間を短縮・効率化する。幅広い業種の多くのエンタープライズがLabelboxのプラットフォームを導入するのはなぜか。共同創業者でCEOのManu Sharma氏に話を聞いた。

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大量のデータをラベリング 時間とコストがかかるAI開発を手助け

――御社の事業について教えてください。

 私たちは、AIを開発する企業の手助けをするサービスを開発しています。今日、多くの企業がAIを開発して自社のプロダクトやサービスに磨きをかけようとしています。AIを機能させるためには、大量のデータに対して、同じ要素を持ったもの同士にラベリングする「アノテーション」というプロセスがあります。私たちは、このアノテーションに特化したプラットフォームを提供しています。

 AIの構築には、大量のデータを賢く選択し、反復学習する必要がありますが、反復のプロセスは工数がかかり、大変な作業です。私たちのプラットフォームは非常に使いやすく、エンドツーエンドのワークフローを提供します。ラベル付けを自動化し、AI開発のスピードを加速させることができます。

 アノテーションでは、画像、ビデオ、テキスト、地理データ、医療画像などのデータをラベリングします。顧客は当社のプラットフォームからラベリングのサービスにいつでもアクセスできます。また、AI開発の上でのバグやエラーの発見を手助けする機能もあり、データを一元管理できるため、顧客のAI構築期間の短縮と早期稼働を実現するプラットフォームとしての役割を果たしているのです。

Manu Sharma
Labelbox
Co-Founder & CEO
Stanford UniversityでAerospaceの修士号を取得後、DroneDeployにてエンジニア、プロダクトマネージャーとして約3年間勤務。小型衛星の画像データ提供企業Planet Labsで、分析プラットフォーム構築にも関わる。 2018年、Labelboxを共同創業した。これまで再生可能エネルギーや宇宙探査関連の事業を立ち上げた連続起業家でもある。

――どんな顧客が御社のサービスを使っているのでしょうか。

 ITサービス事業者から製造業、政府機関まで、あらゆる業界の顧客がいます。具体名を挙げると、米空軍や海軍、アメリカの農業機械メーカーDeere&Company、ドイツの機器メーカーBosch、多くのヘルスケア企業が名を連ねています。

 多くの大企業は、コンピュータビジョンや自然言語処理を活用しています。例えば、新しい家電にはカメラが搭載され、住む人の顔や声を認識して会話もできるようになるでしょう。そういった機能の構築には、データのラベリングが必要なのです。

Image: Labelbox

多くの企業がLabelboxを使う理由とは

――なぜ、御社のサービスは幅広い業界の多くの企業から支持を受けているのでしょうか。

 私たちのサービスがとてもシンプルで、AI構築プロセスの最初から最後まで、全てを提供するものだからでしょう。

 例えば、ラベリングの作業だけを行う事業者も存在しますが、データを分類し、そのデータの正当性を確認し、不要なデータまで削減することができるのは、Labelboxだけです。

Image: Labelbox

――サービスの使用例を教えてください。

 Deere&Companyの農業機械の主要製品である「John Deere」の例をお伝えしましょう。「John Deere」の新世代モデルは、自動走行のシステムが搭載されています。農薬散布機械では、コンピュータービジョンで雑草を検知し、農薬を散布する、という機能が付いています。この新世代の機械を使うことで、農薬の量を減らし、効率的な農作業でコストを抑えることができるようになります。

 この「雑草を見つけ出し、自動的に散布する」という機能を搭載するためには、農薬散布機械のコンピュータービジョンシステムに、雑草の画像など大量のデータを入れ込み、それらを精査しなければいけません。その一連の作業を手掛けるのがLabelboxです。

 また、アメリカの保険会社であるAllstate Insurance Companyも私たちの顧客です。保険会社は衛星画像を使って、家の状況について把握します。例えば、家の損害状況や、課税対象のスイミングプールがあるかどうかなどが分かります。そのデータをもとに、保険加入者の納税状況などを確認します。こうした衛星画像を活用する仕組みもLabelboxを使って構築されています。

――創業した経緯を教えてください。

 共同創業者のBrian Riegerとは、Embry-Riddle Aeronautical Universityで出会いました。その頃からAIやニューラルネットワークに関心がありました。私は大学院に進み、その後シリコンバレーで働き、BrianはBoeing社に勤める中で、現実世界でAIを構築することがいかに難しいかを知りました。

「AI構築をよりシンプルにするサービスをつくりたい」と思うようになったのです。Labelboxを設立した2018年は、AIが非常にホットなトピックでした。

SBグループ主導で1.1億ドル調達 日立ソリューションズとの提携も

――2022年1月には、ソフトバンクビジョンファンドが主導したシリーズDラウンドで、1億1000万ドル(約140億円)の資金調達に成功しました。投資家を惹きつけることができた理由と、調達した資金の使い道を教えてください。

 第一に、私たちのビジネスは急速に成長しています。収益も顧客数も急拡大しています。AIは非常に大きな市場であり、重要なインフラの一部となりつつあります。その中で、私たちの手掛けるサービスは先駆的で、競合も少ない点が挙げられるでしょう。

 ソフトバンク会長の孫正義氏にもお会いしましたが、彼はとてもユニークで先見の明のある素晴らしい人物ですね。彼のビジネスに対する考え方や、ビジョン、リスクの取り方には共感するところが大きく、「この人と一緒に働いてみたい」と心から思いました。

 調達した資金はまずR&Dとディストリビューションに投資したいと考えています。機械学習に特化したエンジニアも要らず、よりシンプルに、簡単にAIを操作できる新製品もローンチ予定です。

 ビジネスを拡大し、日本市場に注力していくことも目標の一つです。ソフトバンクとのつながりもありますし、日立ソリューションズとはパートナーシップ契約を締結しています。

Image: Labelbox

――日本での展開は今後どのように考えていますか。

 私たちは、大手の顧客を抱えるアメリカとヨーロッパで成功を収めています。日本でも私たちのサービスは必要とされると確信しています。

 繰り返しますが、AI構築はこれからますます必要とされる技術です。今後、日本市場に本格参入する上で、日立ソリューションズとの提携が非常に重要になってくると思います。日本で参考となる成功事例を作ることが大事ですね。

――長期的な目標を教えてください。

 人間とAIをつなぐ「インターフェイス」になることです。あらゆる機械やサービスに搭載されるAIは、私たち「人間」の技術によって構築されます。AIの力が必要とされる時代にあって、今後も、AIと人間をつなぐ存在としてサービスを磨いていきます。

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