金融関連企業向けに特化した、アプリ開発者のローコード開発プラットフォームを提供するGenesis Global。Citi、ING、BNY Mellon、Bank of Americaなどのグローバルな銀行やアセットマネジメント企業、金融インフラなどの顧客に対して、アプリ開発のコストと期間を抑え、スピード感のあるイノベーションの実現を支援している。CitiやTiger Global Management、Accel、GV(旧Google Ventures)などから戦略的な投資を受け、成長を続けている。ニューヨーク、マイアミ、ロンドン、ダブリン、サンパウロなどグローバルにオフィスを構える同社の創業者でCEOのStephen Murphy氏に聞いた。

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金融機関でのシステム開発のキャリアで感じた「ソフトウェア開発の課題」

――創業前のキャリアと、Genesis Global創業の経緯を教えてください。

 私は英国でコンピュータサイエンスの学位を取得して、Goldman Sachsで自動取引システムを開発する事業からキャリアをスタートしました。ニューヨークとロンドンで3年間勤めた後、Merrill Lynchに移り、3年過ごしました。その後HSBCではニューヨークとサンパウロに赴任するなど、IT関連のキャリアを歩みましたが、常にビジネス志向でもありました。

 私は、それまでのキャリアにおいて、ソフトウェアの購入と新規開発の間で大きな問題があることに気づきました。ベンダーからパッケージのアプリケーションを購入することと、ゼロから構築することの両方に良い点と悪い点があるのです。ベンダーから購入する場合は、ブラックボックスがあって、設定を変更するだけで中がどうなっているかわかりません。

 そこで、ソフトウェアを構築するためのより良い方法について考え、Genesis Globalを創業したのです。Genesisのローコードプラットフォームは、開発者がより速く構築することを可能にします。ブラックボックスはなく、本当に必要なものだけを手に入れて構築するこができるのです。

Stephen Murphy
Genesis Global
CEO
University of KentでComputer Scienceを専攻し、1999年に卒業後はGoldman Sachsで自動取引システムの開発を手掛ける。2002年にMerrill Lynch、2005年にはHSBCへとIT技術者としてのキャリアを重ね、2008年にはHSBCのブラジルにおけるCIOを務める。2012年にはブラジルの投資銀行であるBTG Pactualに移ったのち、2015年より現職。

――Genesisのローコードプラットフォームはどのようなものでしょうか。

 まず、金融業界の課題について説明しましょう。銀行やその他の大手金融機関は、長年にわたって集中的なIT投資を行ってきました。彼らにとって、イノベーションは競争優位を生み出すための核となるものです。現在、大手金融機関にとって、テクノロジーは非常に複雑で高価なシステムの集合体となっています。技術の追加、交換、再構成は非常に困難であり、時間がかかります。その結果、技術革新が遅れ、金融サービス会社が顧客に提供するサービス、トレーディング、リスクおよびコンプライアンス業務を管理する方法に影響を及ぼしています。新しいソフトウェア開発の方法が必要なのです。

 Genesisの製品は、開発者向けのローコードプラットフォームです。市民開発者でなく、専門のソフトウエア開発者のために最高の環境を用意しています。トレーディングシステム、リスクシステム、コンプライアンスシステムなど、複雑な要件から、シンプルなものまで、さまざまなビジネスプロセスのアプリケーションを迅速に作ることができます。まるでF1カーのテクノロジーを搭載した車で高速に移動するように、ソフトウエア開発を高速化できるのです。

 当社の調査では、80%以上のコスト・時間の削減が可能です。数カ月かかるようなプロジェクトも数週間で完了できます。たとえば、CitiやBank of Americaは、Genesisの技術を使ってCLO(Collateralized Loan Obligations、ローン担保証券)のマルチディールディングプラットフォームを速やかに構築しました。なお、収益モデルは、利用する技術の種類や数に応じたもので、初期導入コストは不要となっています。

業況は好調 今期も3倍の成長を目指し、グローバル展開を加速

――ビジネスの状況はいかがでしょうか。

 2021年は収益を3倍にしました。2022年も同様に前年の3倍に成長する目標を掲げています。チーム規模も、2020年末の50名から、現在(2022年6月時点)は260名以上に拡大しています。拠点は、マイアミ、シャーロット、ロンドン、サンパウロ、インド、ダブリン、オーストラリアなどにあり、今年中に日本とシンガポールにも進出予定です。

 急成長の理由は、スピードと市場投入までの時間です。金融サービスにおける競争優位とコスト効率に貢献できるプラットフォームを展開することで、新しいアプリケーションの構築、レガシーアプリケーションの強化、そして最終的にはレガシーアプリケーションの置き換えをサポートしていることが、ユーザー企業(開発者)の支持を得ているからです。

 他にローコード開発の技術を提供する企業もありますが、私たちのような金融サービスのスペシャリストではありません。トレーディングや関連機能など、金融市場の中核的なプロセスに対応できるのは当社だけです。競合他社の場合は、既成のアプリケーションを提供するベンダーです。しかし、顧客は独自のアプリケーションを構築する柔軟性とカスタマイズ性を好んでいます。ですから、Genesisのプラットフォームを使った方が、望む結果を得られるのです。

Image: Genesis Global HP

――今年も3倍成長との目標を掲げています。具体的にはどのような戦略をとっていきますか。

 2022年2月にシリーズCラウンドで、2億ドル(約270億円)の資金調達をしましたが、これは主に3つの使途を考えています。ひとつはグローバル展開をさらに進めることで、アジア・太平洋地域に進出します。2つ目はGenesisでの開発者コミュニティの構築です。Genesisプラットフォーム上で構築できる人々である顧客や、システムインテグレーター、コンサルタントを増やしていきます。3つ目はGo to marketで、これまで注力していなかったマーケティング、セールスをグローバルに展開します。

 その中で開発者コミュニティの構築は重視していまして、Genesisプラットフォームの将来のロードマップを定義するのを助けてくれるグローバルな開発コミュニティを作っていきたいと思っています。四半期ごとに主要な開発者向けリリースを行い、何千人もの開発者がGenesisプラットフォーム上で開発を行うGenesis開発者会議を開催したり、開発者やパートナー、コンサルティングファーム向けのコミュニティイベントを開催したりしたいと考えています。

 アジア・太平洋地域、とりわけ日本、オーストラリア、ニュージーランドへの進出も重要です。Genesisではすでに日本の大手金融機関の顧客がいます。私たちは顧客をパートナーととらえ、ともに旅をしていると感じています。もちろん、パートナーには金融機関だけでなく、顧客向けにアプリケーションを構築するコンサルティング会社やソフトウェア会社も含まれています。

次は「ヘルスケア市場」 あらゆる産業のソフトウエア構築に変革を

――長期ビジョンと、顧客やパートナーとなりうる日本企業の方たちにメッセージをください。

 世界中の人たちがソフトウェアを構築する方法を変えたいと考えています。Genesisは明らかに規制の厳しい金融市場からスタートしました。金融市場は非常に複雑で、世界で最も困難な産業のひとつです。私たちはすでに金融市場のソフトウェア構築の方法を変えました。その後の長期的なビジョンとして、世界中のあらゆる産業のソフトウェア構築の方法を変えることを目指しているのです。たとえば、金融機関と同様に、規制が非常に厳しいヘルスケア業界への進出も考えています。

 日本企業の皆様にも、より優れたソフトウェア構築の新しい方法であるローコードについて知っていただきたいです。そして、新しい技術に対してオープンなマインドであることが重要だと考えています。Genesisのプラットフォームでは、開発者は、アプリケーションごとに繰り返される基本的な業務に時間を費やす必要がありません。開発者はビジネス上の利点を生み出すアプリケーションのために、時間、労力、創造性を費やすことができるのです。

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