オフィス内ですれ違った同僚と何気ない会話をしたり、会議室でチームメンバーとプロジェクトの進捗を話し合ったり。世界中どこの職場でも見られる光景だが、2Dメタバース事業を手掛けるGather(米国カリフォルニア州)のサービス利用者は、バーチャル空間に構築されたオフィスでこれらを行う。メタバースと聞いて誰もが思い浮かべるような近未来的な世界観とは逆に、レトロRPG風の遊び心あふれるデザインが特徴。海外企業だけでなく、意外にも日本の新聞社や地方企業といったお堅いイメージのある企業にも採用されているという。共同創業者でCEOのPhillip Wang氏に、プロダクトのコンセプトや将来展望について聞いた。

2Dのバーチャル世界とビデオチャットの融合で新たなつながりを生む

―職業的背景と、Gatherを作った理由について教えてください。

 私の専門分野はテクノロジーの構築です。大学ではコンピューターサイエンスを専攻しました。現在の事業はもともと、ある情熱なプロジェクトから始まっています。私たちは当時、人々は誰しも友達や家族のような大切な存在を持っていると考え、たとえ相手が離れた場所に住んでいたとしても、そうした関係性を大切に守っていけるより良い方法はないかと模索していたのです。そして、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる1年前の2019年に最初の会社を起業しました。

 起業後は、いろいろなことに取り組みました。バーチャルリアリティーのようなものを作ったり、ハードウェア製品を自分たちで開発したりしていました。そんな中で、私たちのミッションは徐々に広がり、人々との交流の方法を変革することについて考えるようになったのです。親しい友人や家族だけでなく、新たなつながりを持つことができるような交流の方法です。

 もし遠くに住んでいる人々とも自由に交流することができたら、どんな働き方ができるでしょう?どんな教育の機会にアクセスできるでしょう?そう考えると、私たちのミッションは、物理的な世界ではできないことを実現する「メタバース(仮想空間)」の持つビジョンへと形を変えていきました。私たちは、どうすれば人々のコミュニケーションに立ちはだかる地理的な障壁を真の意味で取り払うことができるか、ということを常に自問自答しています。

Phillip Wang
Co-Founder & CEO
カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスを専攻。卒業後は大学時代の友人と共に、地理的な制約を超えて人間関係を維持するサービスを研究。そのアイデアを発展させ、2020年にGatherを創業。どこにいても人と人との関係を生み出せるような、表現力豊かなプラットフォームの構築を目標としている。

―現在のプロダクトの概要について教えてください。

 現在、2Dの仮想世界とビデオチャットを組み合わせたサービスを提供しています。一昔前のポケモンのような、レトロRPGのような世界観で、2Dゲーム風の画面上を自分自身の「分身」であるアバターが歩き回り、他の人に近づくとビデオ通話モードが自動的に立ち上がって、その人と会話することができます。

 主な用途は、バーチャルオフィスです。物理的なオフィスで行われていたさまざまなタイプのインタラクションを再現することができますので、リモートワークやハイブリッドワークを実施している企業が採用しています。オフィスユーザーの場合、1週間におよそ7万人が習慣的に利用しています。誰かに質問があれば、Gatherの中で相手に近づいて聞くことができますし、人々が会議室に集まってミーティングをしていることも視覚情報として認識できます。

 リモート環境では、人とのつながりや信頼感、メンターシップが失われ、上司との交流が減少すると言われていますが、私たちのプロダクトはそのような問題を解決するのです。それが、人々が私たちの製品を使い、楽しんでいる理由だと考えています。収益モデルはシンプルで、ユーザー単位の月額課金制です。

image: Gather HP

日本でも製造業や新聞社などが利用。文化を大切にする国民性にマッチ

―どんな企業が利用しているのでしょうか。

 お客様はテック企業ばかりではありません。むしろテック企業の割合は25%程度で、残りの大部分はコンサルティング会社やマーケティング会社などです。

 多くの企業で、パンデミックの時に入社した従業員の多くは、チームの他のメンバーとあまり顔を合わせることができませんでした。しかし、私たちの提供するツールを使うことで、彼らはすんなりとチームに溶け込めます。私たち自身もこのツールのユーザーですが、私たちの会社にとって十分に機能していると感じています。

 競争相手は大きく分けて2つ存在します。ひとつは、多くの人々が既に使用しているプロダクト、例えばSlackのようなものです。また、私たちと同様に特定の問題解決を目指して機能開発を行っている企業や人々も存在します。これらの競合との決定的な違いは、インタラクションを再現するためのバーチャルな世界があることです。

 もうひとつの競争相手は、バーチャル世界を取り入れたプロダクトですが、私たちはオーディオやビデオの性能や製品全般の品質などで差別化を図っています。ほかにも、アートスタイルと遊び心で差別化を行っています。一見こうしたものを受け入れそうにない従来型企業も含めて、本当に多くの人々がこの遊び心の部分を楽しんでいて、私たちも驚いているのです。

 起業してすぐにパンデミックが起き、多種多様な使用シーンにおいて成長を遂げることができました。私たちはずっと、長期的にどのようなユースケースがあるのかと自問し続けてきたのです。現在は、特にリモートワークに関連した需要を強く感じています。

 私たちは世界規模で展開を考えていますが、現状で3大市場と言えるのは、米国、日本、そしてブラジルです。日本は特に興味深い市場で、製品が全て英語のままでありながら、オーガニックな成長を遂げています。伝統的な製造業や新聞社、地方の企業など、予想もしていなかったような企業からも強い関心を持っていただきました。そのようなお客様に対して、私たちは最大限のサポートを提供していますが、これからも彼らのために何ができるのかを常に考えていきます。

 動画配信サービスの多国籍企業が世界各国で行った働き方に関する調査によると、日本は職場での関係性の観点から、企業文化を非常に大切にしていることが分かったそうです。それが、私たちが日本企業にも支持される理由の1つだと考えています。

image: Gather HP

ソーシャルプラットフォーム・教育分野にも意欲。ユーザーのフィードバックが資産

―次のステップへのマイルストーンを教えてください。また、Apple Vision Proには対応しますか?

 私たちが「1.0」と呼ぶステージでのプロダクトの目標は、より高画質なビデオの実現や、映像が途切れることなく通信できるようにすること、全てのシーンで最高精度を提供することなどが挙げられます。次の「2.0」と呼ぶステージでは、バーチャルの世界が物理的なオフィスでの体験と同等となることを目指しています。例えば、バーチャルな世界で同僚の隣に座った時、その人が何をしているのか、何を話しているのかが自然に理解できるような環境を作り上げることです。これを2024年中にはリリースする予定です。

 私自身はVR(仮想現実)の熱心なファンで、個人的に8つのヘッドセットを所有していますが、Apple Vision Proは、非常にエキサイティングなプロダクトです。従来のVRは常にハードウェアの制約に縛られていました。重さが問題だったり、解像度が不十分だったりといった課題があったのです。しかし、Appleはハードウェアとソフトウェアの両面でトップクラスの企業であり、人々が使いやすく感じる製品を作り出しています。ですから私たちはApple Vision Proの発売初日から試してみて、できるだけ早く開発に取り組むつもりです。とても楽しみにしています。

―今後もオフィス需要をメインに開拓されていきますか。長期ビジョンについてお教えください。

 現在はオフィス領域に集中していますが、当初掲げたビジョンの一部として、ソーシャルプラットフォームにしていくことも考えています。Gatherでは友人やコミュニティと共有できるさまざまな体験を作り出すことができます。

 また、将来的に教育分野での展開を非常に楽しみにしています。どのような場所であろうと、人々に教育の機会を提供したいです。教育というのは、人生において仕事よりも先に訪れます。今のオンライン教育は、教材自体は非常に良いのですが、生徒と先生、生徒と生徒のつながりが希薄です。だから、それを解決したいと思っています。Gatherでは既に教育での活用事例もいくつか出ています。

 私たちは既存のお客様にとても感謝しています。お客様からは、私たちのサービスをより良くするためにたくさんのフィードバックをいただき、多くの労力を費やしてくださっています。お客様がいなければ、私たちは何も成し遂げることはできないのです。また、当社のサービスを販売してくださるビジネスパートナーについても広く求めています。もし私たちの活動にご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ウェブサイトに掲載しているメールアドレスにご連絡いただければ幸いです。さまざまな可能性について意見交換しましょう。



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