FLYR Labs(本社:米カリフォルニア州)は、航空券のダイナミックプライシングを提供するSaaSを航空会社向けに運営するスタートアップ。多様なデータと機械学習を活用することで、従来の価格予測システムに比べてより良い収益性を企業にもたらす。航空業界での成功から、ホテルやレンタカー、クルーズ、鉄道など、旅行にまつわる企業の支援へと事業を拡大する同社の創業者でCEOのAlex Mans氏に事業内容や将来展望を聞いた。

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巨大産業がスプレッドシートで「手作業」の非効率性

――ご経歴と、FLYR Labs創業の経緯を教えてください。

 私の経歴はユニークです。オランダで生まれ育ち、早くに高校までを終え、14歳で最初の会社を設立しました。これはネットワーク・セキュリティの企業で、19歳のときに会社の一部を売却しました。その後、22歳のときにシリコンバレーに移ってからもずっとスタートアップに携わってきました。

 私は人工知能(AI)による予測に情熱を注ぎ、また航空機も大好きでしたので、その両方を手がける会社を作りたいと思っており、それがいまのFLYR Labsになっています。今31歳ですので、17年間テクノロジー企業の仕事をしていることになります。

Alex Mans
FLYR Labs
Founder & CEO
オランダ出身。10歳の時からソフトウェアを書き始める。2008年にネットワークセキュリティ企業Nova Networksを創業。2011年には高齢者の健康状態を医療従事者に伝えるウェアラブルデバイス技術を提供するPOLSを共同創業し、CTOに。米シリコンバレーへ移り、2013年にFLYR Labsを創業する。

 航空業界は巨大な産業なのはご存知の通りです。私は航空券の価格をどのように管理しているかを学び始めたとき、航空会社がスプレッドシートを使って多くの手作業をしていることを知りました。巨大な産業にもかわわらず、このような作業をしていることに驚きました。航空会社各社がより良いデータテクノロジーを求めているのに、その技術を提供する人がいないことを目の当たりにしたのです。それがFLYR Labsを立ち上げたきっかけです。

 私たちは、航空会社のデータを管理し、予測を行い、価格設定を自動化するプラットフォームを提供し、さらに、航空会社がより適切な経営判断を行えるようにしています。

――当初は、旅行者向けに航空券の価格最適化のサービスをされていたそうですね。

 はい。当初は、機械学習によるデータテクノロジーを使って消費者が航空券を買うべきタイミングをより良く判断できるようにするサービスを作っていました。その後、いくつかの航空会社の関係者と会ううちに、企業向けのサービスにもっと大きな機会があることに気づいたのです。

多様なデータで精度の高い予測 パンデミックで需要が高まる

――現在の主なプロダクトの概要について教えてください。

 私たちは4つのことを行っています。まず1つ目は、航空会社の商業データをすべて管理することです。航空会社が持つすべてのデータを1つのデータウェアハウスやデータベースに統合し、管理します。2つ目は価格設定の提供です。航空会社の価格決定を自動化し、AIを使って、航空会社の収益パフォーマンスを最大化することができます。

 3番目に行うのは予測で、航空会社のネットワークにおける全てのフライトの収益実績と、今後の需要や予約実績を予測します。これはより賢明な意思決定のためのものです。

 4つ目は、ビジネス・インテリジェンスまたはレポーティングと呼ばれるものです。すべてのデータと予測、価格設定を取り込んで航空会社や航空会社のアナリストが利用できるようにします。データをまとめ、価格を決め、予測として、レポートします。これを私たちのプラットフォームが行っているのです。

 航空会社が私たちの技術を使う理由は、私たちが航空会社の収益を上げる手助けをするからです。ですから私たちは、航空会社の収益向上に応じて報酬を得ています。航空会社にとってリスクがなく、ウィンウィンのかなり良い価値提案だと思います。

――従来と違ったデータで精度の高い予測ができるとしていますが、どのようなデータを使っているのでしょうか。

 データの例をいくつか挙げてみましょう。スケジュール、予約の定員、チケットを検索する人たちのアクティビティなどです。さらに、休日、プロモーション、会計データなど、これらのデータはすべて顧客である航空会社から提供されます。そして、航空会社の各種システムと連携しています。サイロ化された情報なども集めて活用できるようにします。イベントや天候、競合他社の運行スケジュールや価格など、サードパーティから得られるデータも活用します。

Image: FLYR Labs

――業況はいかがでしょうか。競合との差別化要因についても教えてください。

 現在のところ、毎月1社ずつ新しい航空会社と契約するほど急成長しています。航空会社だけでなく、ホテルやレンタカー、クルーズライン、鉄道、貨物などの横展開もしています。なぜなら、私たちのシステムは、航空会社のためのオペレーティングシステムから、旅行全体のためのオペレーティングシステムに変化を遂げているからです。

 私たちが急成長している理由の1つは、旅行業界のシステムの技術やアプローチが非常に古く、効率的でないからです。その中で当社はイノベーターとなっています。

 もう1つの理由は、新型コロナによってこれまでのパターンとロジックが大きく変化したことです。旅行会社はこの新しい環境の中で、どのように営業すればいいのかを真剣に考えています。そのためにはより良い予測、データ管理、価格設定が必要です。旅行会社は、Covid-19のパンデミックを機に危機感を覚え、新しいシステムを求めるようになったのです。

 当社の競合には、2種類の企業があります。1つはチケット価格設定・収益管理を提供する企業です。このタイプの競合企業は、チケット価格をルールベースのエンジンによって設定します。一方、私たちはAIとデータを活用しているので、より優れた設定が可能です。

 競合のもう1種類は、ビジネス・インテリジェンスサービスです。MicrosoftのPower BIやTableau、Snowflakeなどのプラットフォームですね。お客様はさまざまな製品を選択することもできますが、私たちは、データウェアハウス、価格設定、予測システム、レポーティングをすべて統合したプラットフォームを提供できる点が違います。

航空会社は平均5%の収益増 旅行業界全体のプラットフォームへ進化

――成功事例をいくつか共有いただけますか。

 Covidによる変化によって、航空会社は、需要があればどこにでも飛行機を追加したいと考えています。航空券が売れるところに迅速に便を置きたいというわけですね。航空会社はより機敏に、より反応的にならざるを得ないのです。ある航空会社は今、私たちの予測を使って、どこの便を増やし、どこの便を減らすかを決定しています。そして、より多くの座席を販売することができています。私たちのテクノロジーを導入した航空会社は、平均で約5%の収益増を果たしています。収益が増えれば、より多くの需要に応えられるようになるはずです。

 私たちのプラットフォームを使っている航空会社同士がコラボレーションする事例もあります。スケジュール管理、マーケティング、リーダーシップチームなど、すべての人が同じ当社のテクノロジーを使っているので、コラボレーションが可能になります。

 実は、中東の非常に大きな国と仕事をしています。その国は航空会社だけでなく、多くのホテル、アクティビティ会社、鉄道会社などを所有しています。私たちはそれらすべての企業に対してサービスを提供しています。国全体の旅行事業者が協力し合っています。航空券を予約する際に、ホテルやアクティビティーの価格も把握できるようにし、それらすべてをパッケージ化できるようにします。このように、異なるタイプの旅行関連企業のコラボレーションの支援もできるのです。

Image: FLYR Labs

――今後の事業展望について教えてください。

 今後3年間の目標は、3つあります。第1に、私たちは、航空会社が収益を高めるオペレーティングシステムになりたいと考えています。このコアビジネスに集中したいのです。2つ目は、このシステムを旅行会社やホテル、鉄道会社にも提供することで、2022年中にレンタカー会社、貨物会社、ホテル、航空会社と提携する予定です。

 3つ目は、これらの企業内部で意思決定を行うだけでなく、Eコマース上でもっと活躍できるようすることです。先日、Newshoreという、予約エンジンを提供する企業の買収を発表しました。航空会社のウェブサイトやホテルのウェブサイトの予約、チェックイン、支払いなどを支援する予約エンジンです。これによって、Eコマースでの販売も支援できるようになりました。

 旅行会社が、データ収集・分析から顧客への販売まで、エンド・ツー・エンドのテクノロジープラットフォームを運営できるようにしたいと考えているのです。経済的な観点では、今後3〜5年の間に上場させる可能性が高いと思います。

――日本市場への参入状況はいかがですか。また、読者へのメッセージもお願いします。

 現在は多くを語ることはできませんが、日本の非常に大きな企業数社と積極的に会話しています。日本市場で成功するためには、現地でパートナーを見つける必要があります。つまり、日本で一緒に仕事ができる技術系企業を見つけ、私たちのテクノロジーを日本の企業に展開する手助けをしてもらう必要があります。そのために2023年には、東京に事務所を開設するかもしれません。

 私が日本企業の皆さんにお伝えしたいことは、私たちがイノベーターであるということです。企業がイノベーションを起こすには、従来の仕事のやり方を変えなければならなりません。

 新しいテクノロジーの導入はチェンジマネジメントを意味します。チェンジマネジメントを実現するには、パートナーシップが必要です。ですから、私たちが日本で成功するには、私たちのテクノロジーを日本企業に導入するために一緒に働いてくれるパートナーが必要です。日本企業との関係を、日本の文化に基づいてマネジメントしてくれるパートナーを積極的に探しています。

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