機械学習を利用した開発者向けプラットフォーム
――まずEdge Impulseのサービスについて詳しく教えてください。
私たちは開発者向けの機械学習を利用したプラットフォームを提供しており、2年ほど前にエッジコンピューティングの分野に機械学習を持ち込みました。
通常ニューラルネットワーク等を行うのには大きな計算能力が伴いますが、従来のクラウドではそれを行うことは不可能でした。データセンターを使用し計算をするのですが、3〜4年前からこれらの計算を行うデバイスが進化しはじめました。
複雑な機械学習のネットワークを、データセンターを使わず行うことができるようになったのです。エネルギーやコストがほとんどかかりませんが、ニューラルネットワークを使用した音声検出もできますし、小型カメラが搭載されているものでは顔認識や人物認識もできます。
そこで私たちは、コードを書いて行われる従来の開発プロセスに機械学習を導入しようとしているのです。機械学習を使うことで、既存データを利用して開発を行うことができるようになります。具体的な事象についてのデータをアルゴリズムを通して検証し、データを回収し、その都度アルゴリズムを修正していくという具合です。このやり方は、いつか開発者の間で常識となり、機械学習は、データドリブンなエンジニアリングの革命となるでしょう。
ARMへの会社売却を経て、2019年に起業
――なぜEdge Impulseを創業したのですか?
私はキャリアの大部分を不可視コンピューティングをよりインテリジェントにすることに費やしました。昔から、どのようにコントロールシステムやデバイスが機能するのかに興味があり、2000年半ばにも起業し、のちにARMホールディングスに会社を売却しています。
その過程を経て分かったのは、ハードウェアは日々進化しており、必要とする能力やデバイスのサイズもどんどん小さくなっているということでした。今まで組み込むことが難しかったものにも、ハードウェアを装填することができるようになってきています。
そこでそのような小さなデバイスで最大の計算能力を発揮するのが機械学習であるということに気づきました。しかし当時の機械学習ツールは、ML専門家及びサイエンティスト向けにのみ開発されていて、誰でも利用できる状態ではありませんでした。開発者全員が組み込みシステムや機械学習に詳しいわけではないので、みんなに行き渡るようにするにはどうしたらいいでしょうか? その問題を解消すべく、私たちはコードベースではなくグラフィックに焦点をおいたクラウドサービスの開発に乗り出したのです。
通常これは非常に時間のかかるプロセスですが、私たちは開発者向けツールの全てをエンドツーエンドで提供しており、クリックのみで機械からデータを回収することを可能にします。アルゴリズムも私たちのライブラリーから、選択できます。信号処理も、グラフィックを使って簡単に行うことができます。私たちはデータに何が起こっているのか、機械学習の効果、そしてテストやデプロイを可視化しているのです。私たちの機械学習ライブラリーは小さいですが、どのハードウェアでも展開することができます。
ほとんどの開発者が、機械学習の可能性に気づいていない
――直近の資金調達ラウンドで1500万ドルを調達したそうですね。どんな用途を考えているのでしょうか。
私たちは非常に持続可能なビジネスで、顧客にも恵まれましたし、成長率も高いです。 ただ、この資金に関しては、将来への投資だと思って、マーケティングや教育活動に充てようと考えています。現在99%の開発者が、機械学習の可能性に気づいてすらいません。チュートリアルやワークショップなど、私たちは様々な教育の機会を設けています。日本でも、このような教育活動を展開できればいいと思っています。
また、人材の雇用にも資金を充てる予定です。例えば、エンジニアやユーザーサクセスの担当など、チーム全体を拡張していきたいと考えています。
そして最後に、無料で提供しているサービスのメンテナンスやカスタマーサポートを維持し続けることです。機械学習のクラウドホスティングなど、無料で一部のサービスを提供し続けることを止めないこと。長い目で見れば、回収できる投資だと考えています。
――日本進出についてはどう考えていますか。
現在すでに北米と欧州にチームを置いています。活動は基本的にリモートなので、オフィスはありません。ゆくゆくアジア進出も考えています。サービス自体はクラウド上なので、日本を含む世界のどこからでもアクセスはできます。営業やマーケティングチームなどは現地で見つけていく予定です。
また、様々なハードウェアに対応可能な製品を作れるよう、カメラなどハードウェア業界での戦略的パートナーシップはいつでも歓迎します。機械学習用のクラウドベンダーや、データを様々なシステムに保管している企業ともぜひ組みたいと思っています。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
何かを開発する上でデータがどのように利用されるのかという点については、世界中で革命が起きていると感じています。通常「データ」と言われると、データ保管庫に送られ、いつか誰かがどうにかするだろうと思われがちです。これからはただコードを使って開発するのではなく、今あるデータをうまく開発戦略に入れ込むことを考えなくてはいけません。
第四次産業革命をはじめ、資産追跡、ITインフラ管理など、機械学習の応用可能性は無限です。その技術を活用するのには、何十年も待つ必要はありません。もう既に、既存のハードウェアに活用できる技術は存在しているのです。企業は、自身の抱えるデータをいかに有効活用するか考える時が来ているのです。