科学的な分析により、製造業における人の生産性を改善
―まずはDrishti設立の経緯を教えてもらえますか。
製造業において自動化が進み、人ではなくロボットが製品を作っていると誤解している人がいるかもしれません。しかし、実際は多くの場合、工場労働者が部品を手で組み立てています。製造業のラインで働いている世界人口は約3.5億人、製造業で使われているロボットの数は約150万台です。
しかし、人はミスをする可能性があり、欠陥品が市場に出回ると、消費者に危害が及ぶ可能性や、大規模リコールに発展すれば企業は数十億ドル規模の損失を被る場合があります。こうした問題は、110年前にヘンリー・フォードが自動車の大量生産を実現した時代から存在しています。
しかし、フォード式の大量生産や、トヨタの生産管理システムであるリーン生産方式においても、労働者の活動測定や、製品の欠陥や不具合につながる作業時のミスの把握や科学的な分析は行われてきませんでした。また、産業用ロボットや機械の予測分析が行われる現代においても、人による手作業の予想分析は行われていません。測定や分析が行われなければ、改善はできません。
製造ラインに関わる人がこれだけ多くいるにも関わらず、活動の測定や手作業の科学的な分析が行われていない。この問題を解決することを目指し、Drishtiを設立しました。
自動化ではなく、行動のデータ化で人の作業効率と能力の向上を目指す
―製造ラインで導入されている他のAIを使った自動化技術とはどういったところが違うのでしょうか?
労働者と製造ラインの間にあるインタラクションにおいて、変則的な動きがあればそれに気づき、作業に影響がなく正しく行われたか把握する必要があります。これを実現するために当社は行動認識技術(Action Recognition)を使っています。ラインにカメラを設置し、労働者の作業を動画で撮ります。動画は後で見て分析に使うこともできますし、リアルタイムでミスを見つけることも可能です。
他の会社は、コンピュータービジョンや物体認識技術を使って画像を数枚撮影し、検品作業などを行っています。行動認識技術を使っていること、これが他とは違う点ですし、とても重要なポイントです。
製造業は自動化が進み、人に代わるロボットの開発が注目されていますが、当社は労働者の作業を可視化することで、KPIを変え、既存のROIに基づいた考え方も変えることを目指しています。Drishtiが製造業に変革を起こし、Industry4.0における新カテゴリーを築くと考えています。例えば、iPhoneは数ヶ月おきに新しい製品が発売されます。製造ラインでの作業内容もそのたびに変わります。こうした変化に、人間は柔軟に対応することが可能です。人は、製造業に貢献できる力を十分備えています。その能力を広げるために技術を使えばいいのです。
―具体的にどういったことが可能なのでしょうか。
例えば、文章を書いている時に、スペルを間違えると赤い下線が付いて、ミスを教えてくれますよね。それにより、スペルミスをその場で修正することができ、あなたの文章はより良いものに仕上がります。同様に、例えば、製造ラインで4つ目のネジを締め忘れたら、Drishtiが「4つ目のネジを締め忘れているよ」と教えます。すると、労働者はその場でミスに対応できます。作業の質が上がり労働者の評価も高まります。欠陥がない製品は消費者も喜びますし、会社の評価も上がるでしょう。皆がハッピーになる、これもDrishtiがもたらす価値の一つです。
製造業に変革をもたらしたい
―今後のビジョンをお聞かせください。
我々の目標は製造業に変革をもたらすことです。トヨタがリーン生産方式を製造業へ持ち込みましたが、データを利用し、よりムダを省いていくことが、もう一度製造業に変革をもたらすと考えています。なぜならムダを省くことはデータの価値の一つであるからです。
私たちの顧客の中にはすでに私たちのソリューションを利用し、KPIが素晴らしい改善をしている企業もあります。
そして私たちのもう一つの目標は、自動化が進む世界であってもヒトに力を与え続けることです。すでに話している通り、最終的にはヒトがモノを作っているわけですから、彼らの仕事をより楽にしていくことが我々の役目だと思っています。
―日本での展開もお考えですか。
もちろんです。私自身、日本のつくば市に2年ほど住んでいたことがあり、日本語も少し理解できます。当社のビジョンは、日本企業にはご理解いただけると考えています。事業展開に向け、日本のパートナーも探しています。そして、特に自動車、電子機器、医療機器の3つの産業において日本の製造業に貢献したいと思います。