昨今発展を続けるAIモデル。人間の「インプットとアウトプット」と遜色ないレベルまで発達してきているが、企業にとっては、「ハードウェアがAIモデルの発展に対応できない」ことがボトルネックとなっていた。イスラエル発スタートアップのDeci AIは「AutoNAC」というプラットフォームを開発し、その課題を解決しようとしている。同社共同創業者でCEOのYonatan Geifman氏に話を聞いた。

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AIモデル応用のボトルネックとは?

――御社はどんなサービスを展開しているのでしょうか。

 Deci AIは、コンピューター・ビジョンや自然言語といった分野で活躍するデータサイエンティストがAIモデルを最適化し、配置できるデベロッパー・プラットフォームを提供しています。データ解析方法の1つであるAIの機械学習モデルは、年々拡大し続けています。

 AIモデルは、コンピューターが「入力」→「モデル」→「出力」を行い、人間でいうところの「経験を通じた学習」を、コンピューター1つで完結させることが可能になります。AIモデルは現在、ロボティクスや自動車産業、コンシューマーエレクトロニクスといった分野で使われています。

Yonatan Geifman
Deci AI
Co-Founder & CEO
Israel Institute of Technology(Technion)にてComputer Scienceの博士号を取得。同校でディープラーニングなどを教えるTeaching Assitantを約3年務めた後、2019年にDeci AIを共同創業、CEOに就任。

 そんなAIモデル界で有名なのは、OpenAI社が開発した「GPT-3」という高性能なAIモデルです。これは従来よりも膨大なテキストデータを入力できるので、プロが書いたような文章を作成できたり、画像を自動生成したりと、経験を積んだ人間ができることを、モデルを通して自動でつくれるようになる画期的なサービスです。

 このように、AIモデルの発展は著しいのですが、コンピューター側、つまりハードウェアはその進化に追いついていないのが現状です。そのため、最先端のAIモデルを使用しても、動作にラグが出るなど、本来の能力が発揮されない場合もあるのです。

 そこで、DeciAIは「AutoNAC」というアルゴリズムに特化したテクノロジーを開発しています。AutoNACは、使用しているコンピューター(ハードウェア)のキャパシティに合わせて、AIモデルを調節し、正確に動作させるサービスです。AutoNACを使うことで、企業のデータサイエンティストは、最大約15倍速くAIモデルを使用できるなど、AIモデル本来の能力を発揮させたうえで仕事に取り組めるようになるのです。

Intelともパートナーシップ提携

――御社のサービスは、どのような点で競合との差別化を図っているのでしょうか。

 AutoNACが、ハードウェアのキャパシティに合わせてAIモデルを調整しながら、そのAIモデルの精度を落とさない点にあります。競合他社の同様のサービスは、確かにAIモデルを「圧縮」し、ハードウェアに対応するのですが、その際にAIモデルが本来持っていたはずの正確性を犠牲にしてしまう場合が多いです。

 AutoNACは、AIモデルを「圧縮」せず、「リ・デザイン」するのです。実際に、ユーザーはAutoNACを使った場合、これまでよりも正確かつ速く、AIモデルを使用することができています。つまり、ハードウェアに対応するために、いくつかのAIモデルの能力を犠牲にするのではなく、ハードウェアに対応しながら、AIモデルが有する性能をフルに使うことができるのが、当社のプラットフォームの最大の強みなのです。

――Deci AIには、どのような顧客がいるのでしょうか。

 AutoNACはすでに、企業のオンプレミスシステムにデータ共有なしで統合可能です。当社の顧客のなかには「Fortune500」にランクインするグローバル企業も存在します。特に、2022年に入ってからは需要が増大していて、パートナー数も、対前年比で2倍を記録しています。

 また、IntelやAMD社といったコンピューター製造業者ともパートナーシップを構築しています。特に、Intel社とは、戦略的業務提携契約を結んでいて、彼らのCPU(中央演算処理装置:コンピューターで演算処理や制御を担うコンピューターの頭脳)にAutoNACを搭載し、最新のAIモデルに対応したハードウェアを製造しようとしています。

Image:Deci AI HP

著名投資家を惹きつけたワケ

――御社は2022年7月に実施したシリーズBでの約2,500万ドルをはじめ、累計約5,510万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道について教えてください。

 当社のプラットフォームを搭載した企業が成功するようにするため、営業人員とマーケティングチーム、カスタマーサクセスの人員を増強しています。また、新たなドメインに対応するため、R&Dチームの人員も採用する予定です。

 向こう12カ月では、ヨーロッパとアメリカ市場の深耕を考えています。2023年からはアジア市場進出をめざします。具体的な場所は市場分析の後に決定する予定です。

――Insight Partnersなど、著名なVCが投資家に名を連ねます。彼らを惹きつけることができた理由は何だとお考えですか。

 Deci AIが、AIの未来を考えたときに、最大のボトルネックになりうる課題を解決しているからでしょう。ご存知の通り、未来には、あらゆる産業・分野において、AIが応用されるようになるでしょう。

 先ほどお話した通り、AIモデルはさらに複雑・高度化していますが、その進化を受け入れられるだけのハードウェアが整っていないのが現状です。そのようなマーケットを見たときに、当社の提供するプラットフォームが非常にユニークで、現実の問題を解決するものになっていると考えたからこそ、VCは投資の判断をしたのではないでしょうか。

 事実、私が創業を決意したのも、Israel Institute of TechnologyでのPhD取得中の経験と、Google社に短期間勤務したことがきっかけになっています。ハードウェアとの融合を進めない限りは、AIモデルの実用化は、どこかで頭打ちになるだろうと感じていたのです。当社を創業した2019年までは、まだ多くの人の理解を得る段階にはありませんでしたが、我々に投資しているVCは業界とDeci AIの独自性を分かっていたということでしょう。

日本市場にも関心 拡販・代理店契約といった協業も選択肢

――日本市場に進出する予定はありますか。

 日本市場への当社の姿勢は「機会があれば進出したい」というものですが、進出に関してはオープンです。特に、日本の自動車産業や家電産業、ロボティクスといった分野は、AIのアーリーアダプターでしたし、興味深い製品を開発しています。

 例えば、自動車産業では、ドライブアシスタンスシステムや安全運転機能などに、AIを搭載していて、当社とも親和性が高いと考えています。また、ロボティクスや家電産業といった製造業全般では、製造ラインで、製品の欠陥を自動的に検知するシステムを導入していますが、ここでも、当社のテクノロジーを応用できると考えています。

――日本の大企業と協業したいというお考えはありますか?あるとするならば、どのような分野・業種の企業との提携を求めていますか。

 拡販・代理店契約といった形態がベストだと考えています。なぜなら、日本市場進出前に、現地市場の分析をしておきたいからです。AutoNACは、製品面から考えると、特段ローカリゼーションが必要なプロダクトではありませんが、当社の製品が受け入れられる余地や、必要としている分野・企業など、市場全体の分析を行ってから進出するのがベターだと考えています。

――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 当社のプラットフォームを通して、AIを使用する際のボトルネックをなくしたいです。現在はハード面の制約により、AIモデルのポテンシャルを最大限活用できていませんが、AutoNACにより、そのハードルを乗り越えるサポートができると確信しています。AIモデルを作成するデータサイエンティストにとって、なくてはならないサービスを提供し続けたいですね。

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