クレジットカードを持たない人などのために近年、BNPL(Buy Now Pay Later)という後払い決済サービスが普及しているが、ChargeAfter(本社:米国ニューヨーク州)はBNPLをさらに進化させた「POSファイナンス」を提供している。これまでのBNPLは通常、1種類の支払いオプションしか提供していなかったが、ChargeAfterは購入者のプロフィールや購入品の価格、貸し手の条件を照合し、複数の支払い条件を提示できる。創業者でCEOのMeidad Sharon氏に、プロダクトの概要と日本市場への参入など将来展望を聞いた。

POSファイナンスとは
商品やサービスの購入時に、その場で借り入れの申し込みや審査の手続きを行い、購入費用の融資を受けて分割返済をする融資サービス。融資を受けた金額は、分割払いや後払いで支払うことができる。若年層などを中心に、オンラインでの借入に抵抗感が少ないことから、特に米国で急速に普及している。POSは「Point of Sale」の略。

目次
ChargeAfterが構築する「即時信用ビザ」とは
競合他社との差別化ポイント
銀行側にはどんなメリットがあるのか
出資元にMUFG、日本市場をどう見るか

ChargeAfterが構築する「即時信用ビザ」とは

―ChargeAfterは、どのような課題を解決しようとしているのでしょうか。

 ChargeAfterは、消費者や法人が商品を購入する際、パーソナライズ化され、かつ、最適化された融資をリアルタイムで提供できるよう、加盟店が販売時点で複数の貸し手を組み込むことを可能にする組み込み型融資(Embedded Lending)のプラットフォームです。

 私たちがやっていることはとてもエキサイティングです。非常に大きな問題を解決しようとしているからです。今の信用空間(Credit space)は、クレジットカードによって支配されています。一旦、クレジットカードを入手すると、顧客はそのクレジットカードにコミットすることになり、競争はありません。

 しかしChargeAfterの場合、消費者が商品を購入したい時、家のリフォームをしたい時、医療を受ける必要がある時など、「Point of Sale」の瞬間に好みの支払い方法に申し込み利用することができます。

 予期せぬ出費が発生した際、当社は消費者の詳細情報を取得し、消費者に代わって異なる金融機関への入札を行います。これは消費者に、パーソナライズ化され、最適化された選択肢を提供できるという、クレジット業界にとって非常に新しい、非常にエキサイティングな経験となっています。

 このクレジット業界の未来の世界で私たちが構築しているのは、言わば「即時信用ビザ」です。

image: ChargeAfter HP

―創業の経緯を教えてください。

 ChargeAfterを設立する前も決済会社で務めていたのですが、当時からPOSファイナンスに対する需要は感じており、しかし同時に、POSファイナンス市場にはさまざまな金融商品の分割払いやリボルビングリースを提供する何百もの貸し手がいるのに、お互いが全くつながっていないことに気付きました。

 そこで、加盟店が販売時点でさまざまな条件の融資を提供できるよう、これらの貸し手同士をつなぎ加盟店と接続するプラットフォームが必要と考え、ChargeAfterを設立したという経緯です。

Meidad Sharon
Founder & CEO
テルアビブ大学で経営と経済学の学士、テクニコンイスラエル工科大学で経営管理の修士を取得後、Market.com社とSafeCharge社の副社長を経て2016年にテルアビブでChargeAfterを設立。現在はニューヨークに本社を移している。

競合他社との差別化ポイント

―競合他社をどう見ていますか。また、彼らとどのように差別化を図っていますか。

 当社が他社と違うのは、「接続性」という市場の満たされていなかったニーズを満たしていることです。Citibank、Synchrony Bank、TD Bank、Wells Fargo、Citizens Bankなどを含む米国の大手銀行と提携しています。その他金融機関も含め、POSファイナンシングに取り組むすべての主要銀行が当社と提携しており、非常に強力な貸し手ネットワークがあります。さらに、カナダとオーストラリアも加えると40行以上の銀行と提携しています。

 このように当社はPOSの貸し手側の最大規模のネットワークを持っていますし、プラットフォーム上でクレジットカード払いやリボ払い、割賦ローン、BNPLなどあらゆる決済方法がサポートされています。加盟店は当社と連携するだけで、顧客が望むパーソナライズ化され、最適化された融資をあらゆる金融商品で提供することができます。

 また、銀行が当社のテクノロジーをホワイトラベル(ある企業の製品を、他の企業が自社ブランドで販売すること)で使用して加盟店に接続し、消費者がローンを返済するための引受を行う銀行となることも可能にしています。当社のテクノロジーを加盟店にアクセスするために使用することや、当社が開発したすべてのテクノロジーを使用することも可能です。

―実際にPOSファイナンスを利用する消費者はどのような層なのでしょうか。

 それはさまざまで、若者もいれば年配者もいます。クレジットカードを使用している人は年齢層の高い消費者かもしれませんが、若いユーザー向けの分割払いやBNPLも提供しています。

 また当初はオンラインサービスとしてスタートしましたが、現在は店舗やコールセンターを通じても利用できるため、ユーザーはあらゆる年齢層に広範囲に存在します。

―より具体的に、解決しようとしている問題について教えてください。

 私たちが解決しようとしている問題は、各金融業者がリボ払い、割賦、またはリースの内、一つしか金融商品を提供していないということです。

 しかし、加盟店は信用格付けに関係なく、商品やサービスの購入を希望する消費者を全てカバーしたいと考えています。顧客が分割払いとリボ払いのどちらを好むかはわかりません。リボ払いの柔軟性を好むかもしれませんし、分割払いの明朗さを好むかもしれません。

 加盟店と貸し手のどちらか一方が米国にいて、もう一方がカナダや日本にいたとしても関係ありません。加盟店は私たちが作成したプラットフォームとネットワークを使用して多くの貸し手により、あらゆる消費者のニーズに応えることができるのです。貸し手は一社ではなく複数いるため選択肢が多くなり、取引の承認も得やすくなります。これが私たちが加盟店側で解決している問題です。

銀行側にはどんなメリットがあるのか

―加盟店にとって多くのメリットがあることが理解できましたが、貸し手側、つまり銀行にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 銀行には私たちは2つの問題を解決しています。

  1つは加盟店ネットワークへのアクセスの提供です。当社とつながっているどの銀行も当社と提携している加盟店に事前に統合されます。また、先ほど申し上げた通り、当社のテクノロジーをホワイトラベルで使用することも可能です。しばらく前にCitibankとの提携に関するプレスリリースを公開しましたが、私たちには「Lending Hub」と呼ばれるプロダクトがあります。Citibankが自社で開発することなく、Lending Hubを使用することでアクセスできる機能には加盟店への接続、ショッピングカートへのアクセス、バックエンド機能、フロントエンド機能などがあります。

 加盟店と消費者のインターフェイスが私たちが解決している2つ目の問題です。銀行はPOSファイナンスに参入したいと考えています。銀行は、それが新たな消費者を獲得できるデジタルの世界であることを認識していますが、参入のためのテクノロジーと俊敏性が不足しています。私たちは、彼らが「消費者にフィンテック体験を提供する銀行」になれるような、市場で実証済みのテクノロジーを提供しています。当社がこれらの機能を提供することによって、銀行は法人顧客への融資など、私たちが「銀行業務」と呼ぶ本来の業務に集中できるのです。

image: ChargeAfter

出資元にMUFG、日本市場をどう見るか

―三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から出資を受けていますが、MUFGとの業務提携の可能性を教えて下さい。

 MUFGとは業務提携を検討しています。日本に複数の銀行を持っているのはもちろん、他の多くの国にも展開しているMUFGとパートナーシップを模索しています。MUFGは非常に優れた投資家で、大いに支援してくれており、投資家およびパートナーとして大変感謝しています。

―他の日系企業とも提携していますか?日本市場についての所感もお聞かせください。

 他の日系企業との提携はまだありません。まずMUFGとの提携を検討しています。さまざまな面で投資とビジネスパートナーシップはつながっていて、それが私たちがMUFGと取り組んでいることです。私たちは投資後のパートナーシップの機会を模索しています。

 日本市場、さらにアジア市場全般には大変興味深い可能性が存在していると感じています。日本市場においてはビジネスパートナーを探すことは重要だと思います。効果的に日本市場に参入するためには当社のテクノロジーを使用しつつ、日本市場に精通した現地パートナーが必要と考えています。

―日本ではPOSファイナンスはまだあまり普及していないと思いますが、これが将来的に変わる可能性はありますか。

 はい、間違いありません。今の日本の消費者のニーズはクレジットカード業界によって満たされ、クレジットカードの普及率が非常に高いことは存じ上げています。

 しかし、POSファイナンスはクレジットカードが提供していないものを提供しています。 POSファイナンスにより、代理店は消費者を金利面でサポートすることができるようになります。例えば、あなたが家を改築する場合、改築用の機器を販売している代理店は購入を促したいため、金利なしの0%の融資で販売することができます。これはクレジットカードではできないことです。また、クレジットカード会社ではカバーできない可能性のある予期せぬ高額な融資をより良い条件で提供することができます。予想外の高額商品が必要になった際、購入時に即融資を受けることができる機能はクレジットカードでは満たされません。この点でも日本市場には素晴らしい可能性があると思います。

 また米国市場の経験から学べるのは、クレジットカードの普及とPOSファイナンスの間に矛盾はないということです。むしろ、その逆です。POSファイナンスは消費者に関する情報が多く存在し、貸し手が消費者を比較的早く評価する能力がある場合に使用されます。日本市場では消費者に関する情報を多く得ることができるため、金融​​業者は消費者にどの程度の融資限度額と利率を提供できるかを瞬時に判断できると思います。

―今後の短期的な目標、そして長期的なビジョンについて教えて下さい。

 短期的には私たちはExecution(実行)に重点を置いています。そして加盟店や銀行が当社のテクノロジーを長期的に使用できるよう、実行と成長に重点を置いています。

 私たちが構築しているのは即時信用のビザで、消費者がどこにいても、どのようなタイプの購入に対しても融資を利用できる、あらゆる種類のPOSファイナンスの世界的なネットワークです。

 これがクレジットの未来であると私たちは信じています。

―現時点では日本市場への本格的な参入は予定されていないとのことですが、御社のビジネスに興味を持っている読者にメッセージをお願いします。

 もちろんです。私たちのサービスが加盟店と銀行、双方にもたらす新たな大きな可能性についてぜひお伝えしたいです。ChargeAfterについて知りたいと思っている日本の加盟店や銀行、加盟店や銀行と協力しているビジネスパートナー、そして投資家の皆さまとぜひお話したいです。



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