「着物や切手、古銭の出張買取」のテレビCMでも知られるBuySell Technologies(本社:東京)。リユースビジネスという確立された業界で、年平均30%以上も売上高を伸ばし続けている注目のスタートアップである。なぜ同社はリユース市場で、これほど急成長することができているのだろうか。従来のリユース企業や中古品通販サイトとは異なり、「出張訪問買取」にこだわるBuySell Technologiesの戦略について、代表取締役社長兼CEOの岩田匡平氏に語ってもらった。

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37兆円に上る「かくれ資産」のリユース需要

――御社のビジネスモデルは他のリユース企業と何が違うのでしょうか。特徴を教えてください。

 私たちが他のリユース企業と違うのは、ターゲット商材を着物や切手など、自宅に眠っている「かくれ資産」(自宅内の1年以上利用されていない不用品の推定価値)に絞っているところです。

 ある調査によると、リユース市場で出回っている「見えている」商材の市場規模が3兆円であるのに対し、「見えない」かくれ資産の市場規模はおよそ37.1兆円もあると言われています。つまり、かくれ資産市場は非常に大きなリユースニーズがあるにもかかわらず、ほとんどが眠ったままだということです。

 私たちはこの顕在化していない資産を見つけ出すために、全国のお客さま宅へ出張訪問することにこだわってきました。

――どうして出張訪問にこだわるのですか。

 着物や大量の切手、古銭は重くて、運び出しにくいものが多いからです。しかも高級品のためネットの中古品サイトとは馴染みません。売りたくても処分できず、大量に自宅に保管されたままとなってしまっているのです。私たちは「整理したい」「処分したい」というニーズにファーストタッチしているのです。

 しかも、お客さまの80%以上は、50代以上のシニアの富裕層です。シニア層はたくさんの資産をお持ちです。利用者の60%以上が遺品整理、生前整理、自宅整理を理由に挙げていて、中には「今すぐ処分してほしい」とか「全部片付けて、部屋を空けなければならない」と言う人もいらっしゃいます。

 ですから「出張訪問」という方法が、かくれ資産にリーチするために最も適しているのです。現在は、年間約21万件に及ぶ出張訪問と、19カ所の実店舗(2022年4月時点)による買い取りを行っています。私たちと同じような戦略をとった企業はこれまでありませんでした。そういう意味で私たちはリユース業界のパイオニア的存在なのです。

岩田匡平
BuySell Technologies
代表取締役社長兼CEO
東京大学卒。博報堂を経て、2014年にマーケティングコンサルティングのOWL株式会社(現・株式会社AViC)を創業し2014年に代表取締役就任。ベンチャー企業を中心とした急成長企業のマーケティング活動を幅広く支援する。2016年6月よりBuySell Technologiesのコンサルティングを開始し、2016年10月に取締役として参画。2017年9月に代表取締役社長兼CEO就任した。

「出張買取」は信頼がすべて 多額の広告費で認知度浸透

――しかし、見ず知らずの人が直接訪問する営業方法はかなりハードルが高くなりそうです。

 私がBuySell Technologiesに参画した時、これまでのやり方をいくつか改革しました。そのひとつはマーケティングです。

 かつて、着物などのリユース業界は「たたき」と呼ばれる強引な買い取りが横行していました。私たちはそれを改善しようとしたのです。お客さまから自ら進んで「BuySellに出張買取に来てほしい」と言ってもらう必要がありました。

 そこでとにかく広告費を投入することにしました。シニア層は非常にマーケティングが難しい相手です。というのも、20代の若者の場合、デジタルマーケティングが効くので少ないイニシャルコストでPDCAを回すことができますが、シニアの場合はデジタルに触れない人も大勢いるので、紙媒体やテレビなどマスメディアの広告にもしっかり広告費をかけていかなければなりません。これらのメディアはイニシャルコストがかかる割に、反応をトラッキングできないためPDCAを回しづらいというデメリットがあります。

 それでもクロスメディアによる広告投資をしたのは「着物の買取ならBuySell」というブランドを一度作ってしまえば、あとは営業を自動化できると考えたからです。積極的な広告宣伝のおかげでBuySellの認知度とブランドが浸透し、今では年間約35万件ものお問い合わせをお客さまからいただくようになりました。

 そしてもうひとつ工夫したこととして、社内の組織改革があります。かつての買取営業は基本的にインセンティブが大きなモチベーションとなっていました。しかし、お客さまの信頼を得るためには、営業担当の個人の力ではなく、チーム全体による営業力がものを言います。

 旧態依然の営業方法を改めるために、まずインセンティブ・ドリブンではなく、「循環型社会の形成に貢献する」というミッション・ドリブンなカルチャーを醸成するよう努めました。またインサイドセールス人員120名を内製し、フィールドセールスと連携した組織型営業ができるように改めました。インサイドセールスの導入以来、高収益が見込まれるアポイント獲得率は30.6%(2019年)から44.4%(2021年)へとアップしています。

Image: BuySell Technologies HP

偶然発見したマルチチャネルのニーズ

――御社の出張訪問買取は好調ですが、路面店や百貨店にも進出しています。販路を多角化する理由は何故ですか。

 たしかに出張訪問の問い合わせ件数はコロナ禍にもかかわらず、ずっと順調に伸びてきました。5年前の2017年は約21.5万件だった問い合わせ件数が、2021年は35万件を超えています。

 ところが、たまたま立地条件のいい穴場の物件があるとお声がけいただいたのを機に、3カ月間限定でトライアル店舗を出してみたところ、大きな発見がありました。

 当初の想定として、お客さまは当社が得意とする着物ではなく、ブランド品や時計、貴金属など、「よくあるリユース品を持って来るに違いない」と思っていました。しかし蓋を開けてみると全く違ったのです。お客さまは重たくて運びづらい着物や古銭、骨董品の一部を抱えてわざわざ来店されました。

 その姿を見て、「BuySellといえば着物」というブランド認知は進んだけれども、出張訪問に抵抗のある人がまだこんなにいるのだと気付かされたのです。出張訪問買取で最初から自宅に呼ぶのにはまだ抵抗がある人が一定数いらっしゃる。そこでトライアル店舗を3店出してみたところ、軒並み同じような結果だったため、店舗展開にも力を入れるようになりました。

 百貨店に出している店舗は、これまでの客層とは少し違うお客さまを獲得するために出店しています。百貨店にいらっしゃるようなシニア層は基本的に元気で若々しい方が多い。遺品整理や生前整理など頭にない方ばかりです。こうした出張訪問でなかなか出会えない客層にリーチするチャネルとして有効だと捉えました。

次の狙いは「リユース業界のDX」 中古着物のアップサイクルも

――テクノロジーを用いたリユース業界のデジタル化にも取り組んでいると伺いました。

 そうです。BuySellは着物メインの出張訪問買取に特化してきましたが、楽器や家具、家電など、買取商材の種類をもっと増やしていこうとしています。それと同時に新しい販売チャネルも確保していかなければなりません。2020年10月にブランド品買取とオークションの「タイムレス」をM&Aしましたが、同じくリユースの同業他社をもっと買収していくつもりです。

 そこで、さまざまリユース業者が参加できるようなプラットフォームの構築を始めることにしました。リユース商材は買い取った後、数々のプロセスを経て出品にいたります。例えば本物かどうか見分ける真贋の判定、値付けをする査定、在庫管理、お客さまの情報管理、出品管理など本当にさまざまです。これらの機能をSaaS型プラットフォームに統合して、一気通貫で提供できるようにしてはどうかと構想しました。もちろんリユースに必要な機能だけ、取捨選択しながら利用することもできます。

 またプラットフォームを整えることで、データを活用できるような基盤に整えていきたいとも考えています。例えば、当社は出張訪問と店舗のほかに、toC向けのECサイトやモール、toB向けのオークション運営もしています。買取と販売の両方を合わせれば膨大なデータ量に上りますが、現状はこれらをまだまだ活かしきれていません。

 AIと私たちが培ったデータを活用すれば、リユースビジネスをもっとオペレーションナルな、データをもとに最適化できる仕組みづくりができるのではないかと考えています。例えばオークションや査定価格の予測や、どの場所でどのような価格で売れば一番売上が最大化できるか、出張訪問ルートの最適化など、効率化できる箇所はたくさんあるでしょう。

 このプロジェクトには昨年、元ZOZOテクノロジーズのCTOとして活躍した今村雅幸氏を迎えました。今村氏はZOZOでプロダクト開発やエンジニアリング組織マネジメント、情報システム、セキュリティリスクマネジメントなど、幅広くDXを推進し、日本CTO協会理事としても活動を行う実績のある人物です。

――これから開発していきたい目標は何ですか。

 タンスに眠る着物の中には、色ヤケがかかっていたり、虫が食っていたりして、実際のところリセールするのが難しい商品もたくさんあります。これらを廃棄せずに何とかできないかと思い、一度シルク繊維原料に戻した後、ニットやデニムなど新しい洋服を作る取り組みをはじめました。

 「sáisilk(サイシルク)」と名付けたこの再生素材は、当社が着物の供給を行い、クラボウが生産・販売を行う共同企画です。これまで長繊維シルク素材の再生は技術的難易度が高いと言われてきましたが、クラボウが糸に戻す技術を確立したことで、開発が実現しました。

 この商品の特長は、着物特有の色味や金銀糸が生かされるため、キラキラとした独特な素材感を持つところです。シミや色ヤケ、ほつれがある着物でも生まれ変わらせることができるため、着物を手放されたお客さまの想いも無駄にすることがありません。またサステナブル素材の開発から販売まで行う「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に貢献することにもつながります。

 2022年秋冬コレクションに、ブランドコンセプトを大事にするオートクチュールデザイナーから、サイシルクを採用していただくことも決まりました。今後もアパレルブランドやデザイナーなどとコラボしながら、若い人たちでも楽しめるようなファッションアパレルアイテムに変えていけたらと期待しています。

Image: BuySell Technologies HP

2次流通マーケットの圧倒的リーダーを目指す

――ところで、以前はBuySell Technologiesのコンサルタントだった岩田社長は、2016年に役員として参画し、翌年には社長就任されています。リユース市場のどこに魅力を感じたのでしょうか。

 私は学生時代から20代で起業しようと決めていました。29歳11カ月というギリギリのタイミングで博報堂を退社し、自分が35歳、40歳、50歳になった時のミッションステートメントを書いたのです。目標数値は35歳で10億円、40歳で100億円、50歳で1000億円というものでした。別に「お金持ちになりたい」とか、そういう単純な理由ではありません。資本金300万円を握りしめて起業した自分が、20年間で1000億円まで会社を大きくできたら、起業家としてなかなかではないかと考えたからです。つまり「世の中にインパクトを与えたい」というのが私の原動力です。

 BuySell Technologiesに入ることを決めたのは、自分のミッションステートメントと合致したからでした。リユース市場は少子化の影響を受けることもなく、37兆円という非常に巨大なポテンシャルが眠っているにもかかわらず、誰もこの有望性に気づいていない、もしくは成功できていません。リユース市場は自分のミッションを賭けるだけのチャンスがあると感じました。

――今後の長期目標を教えてください。

 いまグローバル全体で世の中は持続可能な社会に向かっています。私たちは「作っては捨てる」という時代にピリオドを打たなければなりません。BuySellのリユース事業は、循環型社会づくりに真正面から真剣に取り組むことができる意義のある仕事です。その夢を叶えるためにも私たちは2次流通マーケットの圧倒的なリーダーを目指さなければなりません。企業の資産価値でいえば、10年後までに時価総額1兆円を達成できるようになりたいですね。

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