出張はホテル暮らしが当たり前、そんな常識を変えつつある企業がある。ニューヨーク発のスタートアップ、Blueground(ブルーグラウンド)は、世界100都市以上でビジネスパーソン向けにスタイリッシュで快適な家具付き高級賃貸物件を月単位で提供。顧客にはグローバル企業の幹部も名を連ね、利用者の約9割がリピーターという驚異の数字を誇る。日本では三菱地所との提携で本格展開を始め、国内の法人需要に応える新たな選択肢として注目を集めている。ブルーグラウンドの共同創業者でCEOのアレクサンドロス・シャテレフセリアウ(Alexandros Chatzieleftheriou)氏に話を聞いた。

目次
ホテルでもアパートでもない「第3の選択肢」
法人顧客に支持される理由
「空室率の低さ」と「予約手数料なし」に強み
三菱地所と独占的パートナーシップ

ホテルでもアパートでもない「第3の選択肢」

―ブルーグラウンドが提供するサービスについて教えてください。

 当社は出張者やノマドワーカー向けに、世界約100都市で家具付きの短・中期滞在アパートを提供しています。現在4万戸以上の物件を取り扱い、累計宿泊数は1,000万泊を超えています。

―創業のきっかけは?

 私はマッキンゼーで6年半勤務し、そのうち5年間は世界各地のプロジェクトに携わりながらホテル暮らしを続けていました。何カ月も狭いホテルの一室で過ごし、キッチンもない環境で生活するのは非常に不便でした。

 そこで家具付きアパートを探しましたが、どこでも1年以上の長期契約が前提で、しかも大家と直接交渉しなければならないというハードルがありました。この問題はヨーロッパでもアメリカでもアジアでも共通していました。

 こうした体験を通じて、私はコンサルタントとしての視点から「短期滞在者向けの良質なアパート不足」という課題を解決する方法を模索し、その答えとして、ブルーグラウンドを設立したのです。

image : Blueground ニューヨークにある物件

―ホテルやアパートなど既存サービスと比較した際の差別化要因はどのような点ですか?

 最大の特徴は、「最低限の私物を持ち込むだけで、すぐに快適な生活が始められる」点です。顧客には、グーグルやアップル、ウーバー、ゴールドマン・サックス、テスラなど世界的企業の幹部層も多く、頻繁に出張や異動を行う彼らに支持されています。

 数日間の出張であればホテルでも問題ありませんが、1カ月以上の滞在となると事情が変わります。ホテル暮らしでは調理や洗濯などの日常生活がしにくく、一方でアパートを借りようとすると多くの大家が年単位の契約を条件とすることが多く、柔軟な利用が難しいのです。

 その点、ブルーグラウンドの物件はすべて家具付きで、デザイン性にも優れています。ベッドやソファ、キッチン用品、リネンやタオルなど生活に必要なものは一通り揃っており、一般的なホテルと比べて3〜4倍の広さを確保していて、快適さが段違いです。主要な交通機関やオフィス街へのアクセスも良好で、予約はオンラインで完結します。滞在期間も日数単位で柔軟に設定できるのが特長です。

 要するに、ブルーグラウンドは短・中期の滞在が必要なビジネスパーソンにとって、ホテル以上に快適で利便性の高い選択肢となっているのです。

Alexandros Chatzieleftheriou
Co-Founder & CEO
欧州経営大学院(INSEAD)にて経営学修士号を取得。McKinsey & Companyで6年半、サムスン電子で約2年間勤務。出張時に理想的な滞在先を見つけられなかった自身の経験を活かして2013年4月、Bluegroundを設立しCEOに就任。

法人顧客に支持される理由

―利用者は、どのような層が多いのですか?

 利用者には、先ほど申し上げた世界的企業の幹部層だけでなく、例えば「東京を拠点にしながら、数カ月間は大阪で業務を行う」といった国内の短期異動者や、企業が新しいオフィスや工場を立ち上げる際に、多くの社員が一斉に移動するケースなどでも頻繁に活用されています。

 ほかにも、インターンシップへの参加、新規プロジェクトの立ち上げ、さらには移住を目的とした利用など、多様なニーズがあります。利用目的の約7割は仕事関連で、そのうち約半数は法人契約です。

 加えて、グルーグラウンドの特徴として、利用者の約90%がリピーターである点も特筆すべきでしょう。

―ブルーグラウンドの利用者の約9割がリピーターとのことですが、その理由はどこにあるのでしょうか。

 主に2つの理由があると考えています。

 まず第1に、他の選択肢より優れていることです。多くの家具付きアパートは1年以上の長期契約を前提としており、短期利用に対応している物件は限られています。また、個人オーナーから物件を借りる場合、家具やサービスの品質にばらつきがあり、プロフェッショナリズムを欠くことも少なくありません。

 その点、ブルーグラウンドのアパートは常に一定の品質が保証されており、数カ月単位の滞在を希望する人々にとって、安心して選び続けられる存在となっています。

 第2に、手続きの簡便さです。例えばニューヨークでアパートを借りようとすると、申請から契約までに数週間から数カ月かかり、信用調査も必須です。国外からの利用者は、契約のために何度か渡米する必要さえあります。

 これに対して、ブルーグラウンドは独自の信用審査システムを導入し、手続きを非常にスムーズにしています。こうした利便性の高さが、利用者が繰り返しブルーグラウンドを選ぶ大きな理由になっています。

image : Blueground 東京にある物件

「空室率の低さ」と「予約手数料なし」に強み

―物件所有者との収益配分はどのように設定しているのですか?

 物件所有者との収益配分には2つの形態があります。1つは、契約で定めた固定家賃をブルーグラウンドが支払う方法。もう1つは、収益を分配する方法です。配分の割合は市場によって異なりますが、例えば物件所有者が75%、ブルーグラウンドが25%を受け取るという形です。

―ホテルや民泊サービスと比較して、価格競争力を維持できる理由は?

 ホテルと比較すると、一般的なホテルの平均宿泊日数は約3日で、空室率が高くなります。例えば、1カ月のうち20日間しか予約が埋まらず、10日間は空室だとその分の損失が発生する。だから、料金を高く設定して損失を補う必要があります。

 一方、ブルーグラウンドの顧客の場合、3〜4カ月滞在する層が多いため、空室率が低い。これが1つ目の理由です。

 2つ目の理由は、アパート自体の構造です。ホテルのように多くのスタッフを配置する必要がありません。さらに、マーケティング費用、大手チェーンへの手数料が不要なので、平米あたりのコストが低く抑えられます。

 さらに、顧客の90%が直接予約です。ホテルの場合、予約サイトなどを介して顧客を獲得すると約20%の仲介手数料がかかりますが、ブルーグラウンドはそれが不要です。

 つまり、ホテルには予約手数料、空室分の損失といった余分なコストがかかり、それが料金に上乗せされています。ブルーグラウンドにはそれがないため、より安く提供できるのです。

―2013年の創業から現在までの成長について教えてください。

 2013年に、私たちはわずか1戸のアパートから事業を始めましたが、現在では世界各地で約4万戸の物件を展開するまでに成長しました。うち約1万5,000戸は自社で直接運営し、残りはブルーグラウンドのネットワークに加盟するパートナー企業が運営しています。

 創業当初からこの市場に可能性を感じてはいたものの、これほど急速な拡大は想像していませんでした。結果として、質の高い短期滞在用アパートへの需要がいかに大きかったかを示していると思います。

 過去5年間の成長率は年間およそ50%に達し、今後も新興市場の開拓を積極的に進めていきたいと考えています。

image : Blueground ロンドンにある物件

三菱地所と独占的パートナーシップ

―日本市場をどのように見ていますか。

 私たちはすでに三菱地所と独占的なパートナーシップを結んでおり、東京ではまもなく50戸のアパートが完成する予定です。さらに、大阪での事業展開も計画しています。

 三菱地所は非常に先見性が高く、革新的な企業です。東京には多くの海外駐在員がおり、ブルーグラウンドはこうした駐在員をはじめ、さまざまな法人向け住宅ニーズに対応できます。今後もこのパートナーシップを軸に、日本市場をさらに深く開拓していく方針です。

―これから、日本でどのようなビジネスチャンスが待っていると思いますか。

 日本の大手企業が進める新拠点の開発に注目しています。例えば、オフィスの新設や移転、工場の開設などに伴って多くの従業員が一時的に移転するケースです。

 特に海外に投資をし、製造拠点を設立する際は、ブルーグラウンドの柔軟で高品質な短期滞在用アパートが合理的な選択肢となるでしょう。場合によっては、特定の企業のニーズに合わせて専用物件を確保することも可能です。

 今後はこうした機会を通じて、日本企業と連携し、事業の拡大や人材の移動を支援していきたいと考えています。



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