住宅を貸したいオーナーと借りたい入居者のマッチングと管理を手掛けるBelong(本社:米カリフォルニア州)は、契約から集金、住宅の保守・管理まで、賃貸住宅にまつわるサービスを広く提供するプラットフォームだ。メンテナンスのチームや年中無休の問い合わせ窓口など、手厚いバックアップ体制によって、利用者から高い評価を受けている。アメリカでは賃貸住宅を巡り、オーナーと入居者間のトラブルが絶えないというが、Belongはどのように双方の信頼関係を築いているのか。共同創業者でありPresidentのOwen Savir氏に話を聞いた。

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ドアを蹴破ろうとする家主 自ら体験した壮絶な賃貸トラブル

 Belongの創業に至ったきっかけについて、Savir氏はアメリカの賃貸住宅がいかにトラブルやストレスが多いか、自身や共同創業者の苦い体験を語った。

「創業メンバーの1人は賃貸住宅から引っ越そうとした時、大家に『家賃を滞納している』と嘘をつかれたそうです。その大家は彼に引っ越してほしくなかったから、阻もうとしたのですね。私自身も賃貸住宅に住んでいる時、大家に無断で侵入されたことがあります。ちょうどその時、私はシャワーを浴びていて、彼が中に入ろうとしても入れませんでした。それで、彼はドアを蹴破って入ろうとしたんです。なぜそんな暴挙に出たかというと、禁止されているはずの犬の鳴き声が聞こえたからと言うじゃありませんか。ひどい言いがかりをつけられて私たち家族はすぐに引っ越しました」

Owen Savir
Belong
Co-Founder & President
Reichman University、University Pennsylvaniaでコンピューターサイエンスを学ぶ。2013年、スタンフォード大学大学院ビジネススクールでMBA取得。2006年に教育向けソフトウェア開発のiContact、2013年に中古車販売の仲介会社Beepiを共同創業する。2018年、Belongを共同創業した。

 一方で、自身が家の貸主になった時の経験についても教えてくれた。「私がオーナーとしてひどい体験をしたこともあります。私が貸した住宅の借主が、掃除もせず、ゴミも出さず、家賃も払いませんでした。退去してもらうのにずいぶん長い時間がかかりました。つまり、オーナーであろうと、入居者であろうと、住宅を巡る同じような嫌な思いをしている人が必ずいるということです。お互いに本当に信頼できるオーナーや借主、不動産会社はなかなか存在しないのだと痛感しました」

入居者探しから家賃の集金、メンテナンスまで、賃貸管理すべてを代行

 Belongのミッションは、アメリカ国内の時代遅れの賃貸住宅のあり方に疑問を投げかけ、もっと人に優しく、近代的で合理化されたものにチェンジしていこうという試みだ。最も重視しているのは「安心感」というSavir氏は、ホームオーナーのためにワンストップの賃貸管理プラットフォームを提供することにした。

 例えば、ホームオーナーはBelongと契約して鍵を渡すと、空室に関係なく家賃の支払いが開始される。住宅の掃除やメンテナンス、契約交渉などはBelongの専門チームが代行してくれるため、オーナーは鍵をBelongに預けておくだけでいい。しかも困りごとがあれば、24時間365日対応で専門チームが相談や緊急メンテナンスを担ってくれるというものだ。

「オーナーは鍵を渡した後、全てを私たちに任せていただければいいのです。リフォームやマーケティング、宣伝、入居者探しも代行します。入居が決まったら、家賃の集金やトラブル解決、保険や融資、引っ越し業者の手配にいたるまでお引き受け可能です。入居者が退去する時には、すべてが正常な状態かどうかを確認します。オーナーは何も心配する必要はありません」

 一方、入居者にとって最大のストレスは、オーナーが入居者のことを「金目当て」でしか見ていないことだとSavir氏は指摘する。

「残念ながら、賃貸住宅の入居者の多くは低所得者層です。だからオーナーにとって、彼らは大事な家の『招かれざる客』なのです。オーナーは収入だけが目的で入居者のことなど本当はケアしていないと、入居者は気づいています。一方、Belongは入居者と長く良好な関係を築こうと努めてきました。その秘訣は、真摯に入居者のことを考え、5つ星ホテルに住んでいるように扱い、我々はいつでも助けに入ると常に示すことです」

 Belongは、賃貸住宅の入居者が将来的に持ち家のオーナーになれるようサービスを提供するところもユニークだ。

 入居者が期限内に家賃を支払うと、その一部を「Belong Wallet」という口座に自動的に積み立てる。入居者はBelong Walletに貯まった貯蓄を住宅購入の資金に当てることができる。こうしたホームオーナーと入居者の双方が喜ぶ体験を提供する姿勢が身を結び、Belongは賃貸業界の「信頼できる企業」としてブランドを確立することに成功した。

 利用するホームオーナーは2022年8月下旬時点で約1,880人、入居率は66%となっている。およそ29件の資格にマッチした申込者があり、平均19日で入居が決まるという。しかも71%の入居者は1年後に賃貸契約を更新するというから、満足度の高さが伺えるだろう。

Image: Belong HP

住宅のことなら何でも相談される企業になりたい

 Belongは現在、カリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリアや、グレーターロサンゼルスエリア、サンディエゴ、オレンジカウンティ、フロリダ州マイアミ、タンパ、オーランド、ワシントン州シアトルなどで事業を展開している。収益源は賃貸収入の一部と保険・金融商品の販売からなっている。Savir氏によると、今のところ、事業は前年比3倍以上と順調に成長しているそうだ。今後はテキサス州やアリゾナ州など米国内のマーケットを拡大させていく見込みだ。

 資金調達の面でも、2022年5月のシリーズCラウンドでAndreessen Horowitzなどから5000万ドル(約68億円)を調達し、累計資金調達額は1.38億ドルに達した。調達資金の使途は、アプリやプラットフォームの開発を世界レベルに前進させることと、既存市場でのブランド確立、新市場の開拓、そして保険や金融商品の開発を考えているとした。

 日本市場へ進出する可能性について尋ねると、Savir氏は「私の父も妻も、なぜか日本にとても縁があります。だから、将来的にはぜひチャレンジしてみたいですね。おそらく最初に必要なのは、日本市場に詳しいゼネラルマネージャーでしょう。市場について多くの知識とコネクションをお持ちの方が必要です」と述べた。

 最後にこれからの抱負として、「家を探す時、引っ越す時、『助けが必要だ』と思った時はいつでも真っ先に思い浮かべてもらえるような企業になりたいです」と語った。アメリカ社会の格差や、伝統的ビジネスの矛盾を、新しい手法やテクノロジーで変えようとするBelongのチャレンジに今後もぜひ期待したい。

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