※レポート本誌は、2023年12月に「BLITZ Portal」ご利用企業向けに発刊しております。
2023年のユニコーン企業の動向は?
Pitchbook “Unicorn companies tracker (Nov 1, 2023)”
「ユニコーン」とは一般的に評価額が10億ドル以上で概ね設立10年以内の未上場企業、つまり創立後の年数が浅く上場していないにもかかわらず企業価値が高いと評価されているスタートアップを指します。10年前にベンチャーキャピタリストのAileen Lee氏がこの造語を提唱した当時は、こうした企業はごく僅かであり、その希少性から想像上の動物「ユニコーン」に例えたのが由来だそうです。
その後、テクノロジーの発展やスタートアップ投資の活性化に伴い、ユニコーンはそれほど珍しいものではなくなりました。Crunchbaseによると2023年12月時点でその総数は1,490社を超えています*¹。また近年では評価額が100億ドル以上の「デカコーン」、1,000億ドル以上の「ヘクトコーン」なども登場するようになりました。近い将来ユニコーンとなると目されている企業は「ネクスト・ユニコーン(Next Unicorn)」や「エマージング・ユニコーン(Emerging Unicorn)」などと呼ばれ、有望なスタートアップのステータスとなっています。
パンデミック下で抑制された経済活動の下支えのための財政刺激や金融緩和政策の影響によって投資活動全般が活発化した結果、ユニコーンの誕生は2021年第1四半期から2022年第1四半期の終わりまでの間に650社を記録してピークを迎えました。その後、マーケットの不透明感やマクロ経済環境の不安定さから投資の手控えが続き、新規ユニコーンの数は激減しています*²。
2023年は中国の「ゼロコロナ政策」の終了を皮切りに、国内では5類感染症への移行、WHO(世界保健機関)による緊急事態宣言の解除などがあり、アフターコロナの新しい経済活動が本格化しました。しかしながら、高インフレの長期化と金融引き締めによるGDP成長率の減速、地震・洪水・山火事などの大規模な自然災害、出口の見えないウクライナ情勢やイスラエルとハマスの衝突、急激に深刻化する政治的分断など、投資を慎重にさせる要素には事欠かない一年でもありました。
一方で、このように厳しい経済の見通しや地政学的な不安定さから全体的に投資に対して消極的な空気が漂うなかでも商機を捉えてユニコーンになった、あるいはIPOに踏み切った企業は注目に値すると言えるでしょう。特に2022年秋から類を見ない勢いで発展を見せた生成AI関連スタートアップの躍進には目を見張るものがありました。2023年3月、Bill Gates氏が自身のブログ*³で「これまでの人生で革命的だと感じた技術デモは2つ。1つはGUIでもう1つはChat GPT。AIの進歩は、マイクロプロセッサ、PC、インターネット、携帯電話の誕生と同じくらい根本的なものである」と述べているように、今後のAIの社会実装の方向性や勢いが気になるところです。
*1 Crunchbase “The Crunchbase Unicorn Board (Dec 10, 2023)”
*2 CB Insights “Has the global unicorn club reached its peak?”
*3 Gates Note “The Age of AI has begun (March 21, 2023)”
Crunchbase “The Crunchbase Unicorn Board (Dec 10, 2023)” を参考にBLITZ Portalが作成
さて、2023年12月現在、ユニコーンの本社所在地は米国が728社と圧倒的に多く、次に273社の中国、86社のインドが続き、イギリス、ドイツ、フランスのヨーロッパ勢が僅差でその後を追っています(右図参照)。国内に目を向けますと、スタートアップへの投資額や起業家の絶対数が少ないことを背景に、ユニコーンは14社程度に留まっているのが現状です。政府は日本が目指す新たな社会Society 5.0の実装への取り組みの一貫として、「2023年までにユニコーンあるいは創業10年未満の上場ベンチャー企業を20社創出する」という目標を掲げており(未来投資戦略2018)、海外進出支援プログラム(J-Startup)や起業家とスタートアップの成長支援、海外起業家の呼び込みなどの活動を実施しています。また、日本経済団体連合会も2022年の『スタートアップ躍進ビジョン』で「2027年までにユニコーン企業を約100社にする」という目標を打ち出しており、今後の動きに注目したいところです。
本レポートでは、来たる2024年を見据え、厳しい状況下でも企業価値を高め、新たにユニコーンとなった企業を四半期毎に2023年を振り返りつつ紹介いたします。また後半では、「ネクスト・ユニコーン」と2023年に話題となったIPO企業についても紹介いたします。
短縮版でもユニコーンのスタートアップ47社をご紹介(本記事では、うち3社を紹介)
この先の記事では、2023年Q1~Q3に起こった主な出来事の概要と各時期に新ユニコーンとなった企業を1社ずつご紹介します。なお「新ユニコーン 2023」は以下の画像の内容で構成しており、本記事のフォームから入手できる短縮版では、冒頭の「Overview」と「新ユニコーン(Q3まで)」のセクションをご提供しています。 ※今回TECHBLITZ上で配布する「新ユニコーン 2023」は一部項目のみの短縮版となります。下記コンテンツを含んだ完全版は「BLITZ Portal」会員のみに配布いたします。 [完全版で追加される内容] ・新ユニコーン(Q4) ・ネクスト・ユニコーン ・2023年のIPO
2023年Q1
この時期の主な出来事
中国が厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」を終了、同国の偵察気球が米国領空で発見され両国間に新たな緊張が走りました。ロシアのウクライナ侵攻から約 1 年が経過するも戦況は依然として膠着状態にある中、この時期にトルコ・シリアで大地震が発生しました。米国ではSilicon Valley Bankが突如経営破綻し、その混乱は欧州の金融市場にも波及しました。テック業界全体で大規模なレイオフが相次ぎました。
Our Next Energy
Image : Our Next Energy HP
従来のEV用バッテリーとほぼ同じ体積と重量でありながら航続距離が大幅に向上したバッテリーを開発。創業者はFordやA123 Systems、AppleなどでEVやバッテリーシステム技術の開発に長年携わってきた。入手が容易なリン酸リチウムがベースの同社のバッテリーは、ニッケルの使用率が低く、コバルトを使わないため熱暴走リスクが低減できる。エネルギー密度は1,007Wh/リットルで、アノードフリー。黒鉛やアノードの製造設備が不要なことから、製造コストをkWhあたり50ドルまで下げることができるという。2022年、BMWグループと提携し、同社のバッテリー技術をBMW iX EV SAVに組み込んだ。同社のバッテリーパック「Gemini」を同モデルに搭載した走行実験では、再充電なしで978kmの走行に成功している。また同社は、エネルギーの長期貯蔵向けにリン酸鉄リチウムのバッテリーシステム「Aries Grid」を開発した。
- ユニコーンとなった時期:2023年2月(評価額:$1.20B)
- 資金調達額累計:$390.0M / Series B
- 本拠地:Novi, MI, US
- HP:https://one.ai/
- 企業概要ページ:https://blitzportal.com/startups/Our-Next-Energy-JxyJ2dlX
2023年Q2
この時期の主な出来事
WHOは新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を約3年3カ月ぶりに解除。国内ではG7 広島サミットが開催されました。ウクライナ情勢を巡っては、フィンランドが長年の軍事中立の方針を転換し、NATO(北大西洋条約機構)に加盟。現地では、ロシアの民間軍事会社ワグネルが反乱を起こすなど戦闘がさらに激化しました。
1Komma5°
Image : 1Komma5° HP
電気価格の変動に応じて家庭の電力消費を最適化し、集中型でインテリジェントな電力管理を提供する企業。家庭の太陽光発電システム、蓄電装置、EV充電器、ヒートポンプをネットワーク化してアプリでリアルタイムにトラッキングする。取得したデータを分析し、時間で変動する電気料金の恩恵を受けることができる独自の動的料金表に基づいて、4分または1時間ごとに電力を購入。EV充電器や蓄電装置、ヒートポンプをインテリジェントに制御することで15セント/kWhの平均電力価格を保証できるという。また、同社は顧客の太陽光発電 / 充電 / 蓄電装置やヒートポンプをプールしてネットワーク化する仮想発電所も運営しており、ネットワーク内の顧客システムの収益性を大幅に向上させている。同社はドイツ、スウェーデン、フィンランド、イタリア、デンマーク、スペイン、オーストラリアで65以上の拠点を運営、6月にはデンマークの太陽光発電会社Viasolを買収した。
- ユニコーンとなった時期:2023年6月(評価額:$1.08B)
- 資金調達額累計:$490.5M / Series Unknown
- 本拠地:Hamburg, Germany
- HP:https://1komma5grad.com/en
- 企業概要ページ:https://blitzportal.com/startups/1Komma5%C2%B0-ZjEYVAjp
2023年Q3
この時期の主な出来事
英国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加盟、アルゼンチンなど 6 カ国を加えてBRICSが11カ国体制に拡大することが決定。ウクライナのNATO加盟は見送られました。米国ではTwitterがXに。インドは無人探査機が月面着陸に成功。EUはテック大手を対象にデジタルサービス法で偽情報拡散の規制強化を開始しました。この時期、ハワイの山火事やモロッコの大地震、リビアの大洪水など自然災害が多発しました。国連安保理では初めてAIをテーマとした会議が開かれ、国連総会ではウクライナのゼレンスキー大統領が支援を訴えました。
Dragos
Image : Dragos HP
製造・産業機器の制御システムを保護するソフトウェアを開発。電気、水道、石油、ガス、化学などの業界のインフラ所有者や運用者向けに、産業環境のハードウェア監視やデバイスの管理・制御に対する攻撃からインフラを保護するサービスを提供する。同社のプラットフォームは分析によって脅威を特定し、脆弱性の優先順位付けを支援、攻撃に対応するためのプレイブックを提示する。同社はドイツ、オーストリア、スイスで存在感を高めた後、サウジアラビアとアラブ首長国連邦へも拠点を拡大。日本ではITコンサルティングを手掛けるマクニカと販売契約を締結している。2023年8月、同社はシンガポール政府のサイバーセキュリティ部門と、運用技術や重要インフラに対するサイバー攻撃を防御する取り組みを支援する契約を結んだ。また、同年12月には「Dragos Community Defense Program」を通して、年間売上高1億ドル未満の小規模インフラ事業者を対象に同社のソフトウェアを無償提供すると発表した。
- ユニコーンとなった時期:2023年9月(評価額:$2.00B)
- 資金調達額累計:$364.2M / Series Unknown
- 本拠地:Hanover, MD, US
- HP:https://www.dragos.com/
- 企業概要ページ:https://blitzportal.com/startups/Dragos-Ymj11Mjn
日本企業が現状のトレンドを予測するうえで、またオープンイノベーションの進め方を考えるうえで、本レポートが少しでもお役立に立てれば幸いです。
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※今回TECHBLITZ上で配布する「新ユニコーン 2023」は一部項目のみの短縮版となります。完全版は「BLITZ Portal」会員のみに配布いたします。
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