アプリやソフトウェア開発などでエンジニアの需要が急増する中、プログラミング業界への関心が高まっている。日本の学校でもプログラミングの授業が必修化されるなど、時代の流れとともに必要なスキルとなった。米サンフランシスコに拠点を置くReplitは、Python、C++、HTMLなど50以上の言語に対応するブラウザベースのコーディングプラットフォームを提供する。専門知識や技術の習熟度、プロ・アマを問わず、簡単にブラウザからのコーディングを可能にした。Y Combinatorをはじめ、Andreessen Horowitzなどの名だたるVCから総額1億ドル以上の資金調達に成功した同社。共同創業者でCEOのAmjad Masad氏に事業の経緯や日本進出について聞いた。

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複雑な設定、DL要らず クリエイター、開発者のコミュニティにも

――サービスの概要を教えてください。

 ReplitはブラウザベースのIDE(統合開発環境)を提供しています。ソフトウェアのダウンロードや複雑な設定などは不要で、私たちのウェブサイトにアクセスし、新規プロジェクトを作成すればすぐにクラウド上でコーディングを始めることができます。

 昔はプロジェクトを共有するのに、例えば、GitHubにリポジトリを作成し、指示を入力して共有する必要がありました。私たちの場合は、ブラウザ上でコーディングができ、URLを共有するだけで済むので、ウェブ上で画像を共有するのと同じくらい簡単にプロジェクトを相互共有できます。

 Replitでは、非常に活発なクリエイターや開発者コミュニティがあり、それぞれのアプリケーションを共有し合っています。コンテストに参加したり、ハッカソンに参加したりして知識を広めています。ソフトウェア開発を行うにあたって非常に楽しく学びの機会が多い場所となっています。

Amjad Masad
Repl.it
Co-Founder & CEO
Princess Sumaya University for Technology (ヨルダン) でコンピュータサイエンスを専攻。在学中からソフトウェア開発の仕事に従事。卒業後は、ヨルダンのYahoo!でソフトウェアエンジニアとして経験を積む。米Codecademy、Facebookを経て、2016年にReplit(旧Repl.it)を設立しCEOに就任。

――どうしてこのようなプラットフォームを作ろうと思ったのですか?

 私は元々ヨルダン出身で、父がエンジニアだった関係で幼い頃からパソコンに触れていました。大学でもコンピューターサイエンスを専攻したのですが、その当時は、ノートパソコンは高額で持つことができませんでした。毎回講義に出席するたびに、パソコン室に行き、必要なソフトウェアをダウンロードして設定する必要がありました。自分が開発したものを他の学生と共有したい時は、その学生も同じ手順を踏む必要がありました。

 これらの作業は非常に面倒くさく、いつも私用のパソコンと学校のパソコンで同じことを繰り返しているうちに、ブラウザでコーディングできれば楽なのに、と思うようになったのです。いろいろと検索してみましたが、2008〜09年当時は、そのようなサービスを提供している会社はありませんでした。そこで、自分でやってしまおうと思ったのがきっかけです。

プロフェッショナル、愛好家、年代、多様なユーザーに対応

――競合他社と比べてどのような点で優れていますか。

 パワフルでシンプルという両方の特徴を備えるプラットフォームは数少ないです。例えばApple製品は両方を兼ね備えた製品の例です。そのような製品を作るのは不可能ではありませんが、素晴らしいデザイン性に加えてハードワーク、徹底した管理が必要とされます。

 私たちの製品は、まさに機能性とシンプルさがバランスよく合わさった製品です。競合製品は、プロ向けが多いので趣味でコーディングを行う愛好家や学生には合いません。逆にアマチュア向けの製品は、おもちゃのようで現実性を持っていません。

 Replitのユーザーは、9歳の子供から60代まで多岐にわたります。このようなユーザーの多様性は他では見られません。これも、私たちの製品が汎用性があることを示しています。またコミュニティ内でライクをもらったり、コメントをもらったりとソフトウェアのソーシャルメディアのような面も備えています。これらの点でも非常にユニークと言えるでしょう。

コミュニティがプログラミング初心者をサポート ソーシャルメディアの側面も

――創業からここまでの道のりを振り返っていかがですか。

 ブラウザで完全なソフトウェア開発環境を整えるのは非常に大変でした。2010年頃にやっと困難を乗り越え、オープンソースでプラットフォームを提供し始めました。瞬く間に人気を博しました。その後、私は米国に移り住み、Facebook社で働いていた時もデベロッパーツールに関わる機会に恵まれました。

 数多くのプロジェクトに携わっていた2016年当時、その大部分が使いづらく熟練したプログラマー向けだったのでブラウザでコーディングするというアイディアの重要性を再確認しました。現在、Replitが提供しているバージョンはそのときに構築されました。

 2016年は、今とは違ってシリコンバレーは資金不足に見舞われていました。Gifthubが(マイクロソフトに)70億ドルで買収される前のことだったので、デベロッパーツールも当時はそんなに注目されていませんでした。私たちも資金調達に苦労したものです。

 その後、プラットフォームがより普及し、Y Combinatorの共同創設者であるPaul Graham氏に見つけてもらったおかげでその課題は解決できましたが、それを達成するまでの期間は節約に節約を重ねた経営を続ける必要に迫られました。立ち上げから数年間は2〜3人規模のオペレーションで、オフィスも非常に狭く、サンフランシスコの辺ぴな場所にありました。実はY Combinatorからも、最終的に2018年に参加するまで3〜4回断られています。

 ただ、大変ではありましたがこの経験は何かをゼロから立ち上げる大変さを知る機会になりました。他には、学校等でプログラミングを学ぶためにプラットフォームを使用する学生とじかに関わる機会もありました。会社設立の頃、実際にプラットフォームが導入されている高校を訪れ、学生が私たちの開発したものに価値を見出してくれていることを実際に目にした瞬間は感慨深いものでした。

R&Dに投資、将来的には日本への展開もトップリスト

――2021年12月には、シリーズBで8000万ドル(約94億円)の資金調達に成功しました。調達資金の使い道を教えてください

 大部分はR&Dに充てられます。例えば、大規模なプロジェクトを扱う際は少し速度が落ちる場合があり、プラットフォームはまだまだ改善の余地があります。ぜひ可能な限り多くの点を解決したいと思います。また、スマホでもコーディングできるよう、モバイルアプリの開発にも現在取り組んでいます。

 そして、「AIアシストコーディング」と呼ばれる技術にも多額の投資を行なっています。名前の通り、AIがコーディングをサポートしてくれるのです。私たちのミッションは、ソフトウェアをなるべく多くの人に届けられるようにすることです。AIのおかげでプログラミングがより幅広く普及することに期待しています。AIがコードを解説してくれる機能もあり、今後は、AIが修正の必要な部分を簡単な英語で教えてくれる機能をローンチする予定です。

 最後に、コミュニティ投資も行う予定です。より多くの人々にコーディングをしてほしいのでクリエイターファンドのようなものを創設し、選ばれたクリエイターにメンターシップを提供したり、ファンディングサポートをしたりすることができればと思います。

――これからの目標を教えてください。

 今年の目標は、Replitの機能性を広げることです。皆がより一層、スクリプトの拡張や環境設定、修正を各自でできるようソフトウェアのカスタマイズ性を向上していきたいと思います。長期的には、様々な人が人生で初めてコードを書くことに挑戦し、ゆくゆくそれを生計手段として使えるよう後押ししたいと思います。

 私自身、ヨルダンにいたときにプログラミングで初めてお金を稼いだのは、15歳の時でした。米ドルではなくヨルダンの通貨でしたが、私にとっては大きな意義を持ちました。そのように価値を生み出せるよう、支援していきたいと思います。

――日本市場での展開も期待できますか。

 もちろんです。随時Geoレプリケーションを図っていきますので、アジア地域のユーザー、とりわけ日本ユーザーにも使い勝手のよいものとなるでしょう。実は既に私たちのコミュニティ内でも大きな日本人ユーザーベースができていて、その規模もどんどん大きくなっています。コーディングの世界では、英語や日本語といった言語はあまり関係なく、プログラミング言語でみなつながっています。

 もちろん日本国内にオフィスを展開しローカルの存在感を高めることができたら嬉しく思います。今年の終わり頃、遅くても来年には進出できるかもしれません。現地でのミートアップや、コミュニティを形成するのが楽しみです。日本は進出したい国リストのトップです。

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