インドEC大手のFlipkartや、その親会社Walmartも同社に出資するなど、インドの農産物流通の課題解決や市場拡大に注目が集まっている。Ninjacart 共同創業者(Co-Founder)のVasudevan Chinnathambi氏に、ビジネスの特性や将来展望を聞いた。
安全な農産物を日常的に供給する手助けをしたい
――これまでの職歴や、Ninjacart創業の経緯をお教えください。
私は大学の工学部でバイオテクノロジーを学びました。2007年に卒業して3年間はシステムエンジニアとして働いた後、1年間MBAプログラムを受講しました。2011年からメディア系の企業のデジタル部門で3年ほどプロダクトマネージャーを務め、2014年にはインドでのUberのようなライドシェアサービスを提供する企業TaxiForSureに移ります。
TaxiForSureでは、タクシー運転手が使用するアプリのプロダクトマネジメントを担当し、この会社でNinjacartを共同創業したメンバー全員(Chinnathambi氏を含め6人)と知り合いました。TaxiForSureがライドシェアのOlaに買収された後、2015年にみんなで超ローカルな食料品配達会社を起業することにしたのです。
当初は消費者が食材をスーパーマーケットから調達できるB2Cプラットフォームを提供していました。半年ほど運営してみると、収益性や顧客体験の観点で、このモデルはあまり良くないことがわかりました。同時に、従来の生鮮食品のサプライチェーンは非効率的であることに気付き、B2Bのサプライチェーンプラットフォームに方向転換したのです。
インドの小売業はかなり細分化していて、アメリカのWalmartやTargetのような大型の店舗がありません。そこで、安全な農産物を日常的に供給する手助けをしたいと考えたのです。
典型的な小売業者は午前3時に起床して、商品を仕入れて帰ってくるのに5時間もかけています。これを私たちが玄関先まで配達をすることにして、すべての体験をより良くしたいと思ったのです。
Image : Ninjacart
テクノロジーを駆使し、農家・店舗・消費者に対するメリットを提供
――提供されているプラットフォームの概要やビジネスモデルをお教えください。
私たちの事業のステークホルダーは、農家と店舗です。農家には、農産物を販売できる場所を提供します。農家の方達は市場まで足を運ぶことなく、栽培した青果物を販売できます。また、生産者が農作物を収穫して市場に持ち込んだ後にしか、価格と必要な数量が分からないといったことも問題でした。農家にとっては賭けのようなものなのです。ですから、私たちはテクノロジーによって、需要を分析し、収穫の前に価格と数量を生産者に伝え、農家の経営を強化するとともに、農産物の品質を高めました。
店舗に対しては、より良い品質の農産物を提供できるようになりました。これまでは需要の予測ができなかったため、農産物の品質にばらつきがあり、店舗が市場で農産物を仕入れる際、20%〜30%は販売に適さないものでした。さらに私たちは農家から直接仕入れることで、競争力のある価格で取引することも可能にしました。
農家と店舗の間に独自のサプライチェーンを構築していますが、これには3つの機能があります。まず、農家の近くに集荷センターがあり、そこから私たちがコンサルティングを行ったフルフィルメントセンターに送られます。その後、店舗近くにあるマイクロ・ディストリビューションセンターに運ばれ、店舗に野菜や果物が届きます。
このサプライチェーンは農家から店舗まで12時間以内で配達できる力を持っています。インドではコールドチェーン(生鮮食品や医薬品などを生産・輸送・消費の過程で常に低温に保つ物流)は非常に高価で、農産物のコールドチェーンはありません。新鮮さを保つために、素早く移動させる必要があり、その仕組みを作ったのです。当社の収益モデルは、農家・店舗ともに農産物の取引に関する手数料です。
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――ステークホルダーのメリットについて、もう少し詳しく教えてください。
農家の場合、Ninjacart以前は販売できる場所が限られていましたが、新たな選択肢が加わり、より良い価格で取引できるようになりました。私たちは農産物の品質向上にも協力します。質の良し悪しと正しい生産方法を伝えているのです。農家は以前よりも生産量を増やし、赤字になるようなこともありません。収益が増えてトラクターや機材に投資している農家の話もよく聞きます。
小売店舗は、より新鮮な果物を扱えるようになりました。以前は100人の店舗経営者がいるとすると、新鮮な果物を扱えるのは40人ほどだったのです。なぜなら、毎日の仕入れに5時間もかけなければならなかったからです。新鮮で質のいい農産物を供給することで、品揃えが強化されたのです。店舗では、Ninjacartを通じた農産物に「Powered by Ninjacart」と記し、より良い品であることを示し、消費者の信頼を得ています。
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――Ninjacart自体の成長や競合についてはいかがでしょうか?
2015年に創業し、毎年50%〜70%成長してきました。私たちはこの分野のパイオニアですので、同じような規模の競合はいません。最近、農業系のスタートアップを見かけますが、あまりスケールしていません。非常に厳しい分野だからです。農産物は腐りやすいので、オペレーションが難しいのです。膨大な量のデータ分析が必要となります。
国の制度やインフラが整備されてきたインドで、急成長を目指す
――次の12カ月での目標と、長期的なビジョンをお聞かせください。
この1年で事業規模を2倍にしようとしています。現在、インドの20都市でサービスを提供していますが、その中のいくつかの都市の事業を完全に黒字化したいと思っています。
私たちのビジョンは、農家から小売業者、あるいは加工業者まで、生鮮食品を収穫した後の一連の業務に関するリーダーになることです。この分野において、インドで最大のプレーヤーになりたいのです。100以上の都市までビジネスを拡大し、最大のプラットフォームを構築したいです。そのためには、3つのチャレンジがあります。
1つは、コスト効率の良いサプライチェーンを構築して利益を出すことです。これは大きなチャレンジですが、常に改善に取り組んでおり、コストが低く、納期も非常に効率的なサプライチェーンを構築することができました。これからもイノベーションを続け、インドのみならず、世界クラスのサプライチェーンを構築していくつもりです。
2つ目のチャレンジは、農家や小売業者の行動を変革することです。新しい働き方にシフトしていくためには信頼が必要です。信頼関係を築いていけば、必ず変わってくれるはずです。
3つ目は、生鮮食品を新鮮に保つ技術です。現在私たちは冷蔵・冷凍設備や温度管理ができないため、保存期間を延ばすことができません。保存性を高める別の方法を見つけなければならないのです。
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――ビジョン達成のため、日本企業との取引の可能性はありますか。
日本企業からは当社への投資のお話もあり、サプライチェーンや新製品開発の分野でパートナーになる可能性もあるでしょう。インドはこの5年で構造的な問題が解消されつつありますので、ハイテク産業に関わるには絶好の機会です。
例えば、高速道路はかなり改善され、輸送の効率も向上しています。税制も以前はいろいろ課題がありましたが、シンプルになりました。インターネットや携帯電話も普及しているので、生産農家もさまざまな情報にアクセスできるようになりました。国自体がネットワーク化されつつあるのです。次の30年〜40年を見据えると、今インドのスタートアップと関係を持つのはとてもいい時期だとお伝えしたいです。