肥料、農薬、種子から農業機械に至るまで、農業に必要なものを販売するインドのスタートアップ、AgroStar。農業資機材の流通プラットフォームを提供し、アプリのダウンロード数は500万件以上に上る。生産農家がAgroStarを選ぶ理由は、オンラインの購入目的だけではない。その高品質な保証と適正な価格、製品の入手しやすさ、無料で受けられる栽培技術のアドバイスなど、顧客サービス重視の姿勢があるからだ。同社のサービスを利用することによって、収益アップに成功した生産農家もあるという。AgroStarの共同創業者でCEOのShardul Sheth氏に、一般的なECサイトと何が違うのか話を聞いた。

インドの農家が直面する貧困問題を解決したい

 Sheth氏はインドのムンバイ大学を卒業した後、アメリカでMBAを取得。アメリカでは家電販売のBest Buyに勤めた。家族や友人など周囲に起業家が多かったというSheth氏。事業を起こそうと決意した時、着目したのがインドが抱える深刻な農業問題だった。

「残念ながらインドの農産物の収穫高は世界で最も低い水準にあります。それは2つの根本的な問題があるからです。1つは農業に必要な情報が不足していることです。インドの農家の多くは今でも伝統的で古い知識に頼っており、情報源が限られてしまっています。そしてもう1つは、農産物を育てるための種や肥料、農薬などで優れた資材の入手が難しいということです。そこで私はテクノロジーとインターネットを活用して、生産者が抱える問題を解決できないかと考えました」

Shardul Sheth
AgroStar
Co-Founder & CEO
ムンバイ大学卒業後、コンサルティング会社PwCインドに勤務。2001年、アメリカに渡りロチェスター工科大学でMBAを取得した。2003年より約6年間、アメリカ家電量販店Best Buyでビジネスチームファイナンス、製品開発、オペレーションを担当する。2013年、インド初、最大のアグリテックプラットフォームAgroStarをマハーラーシュトラ州プネで創業する。

 インドでは零細・小規模農家が多く、農業の近代化や効率化が遅れ、所得水準は低いままにとどまっている。経営に行き詰まり、自殺に追い込まれる零細農家も少なくないという。そんな社会を変えたいと、2013年、Sheth氏は農業の知見と良質な資機材を提供するプラットフォームの事業を始めようと、AgroStarを自身の弟とともに創業した。

「オムニチャネル販売」と「専門アドバイザー」で大きな信頼

 プラットフォームに生産農家を呼び込むチャネルとして、Sheth氏は大きく分けて3つのルートを用意した。1つ目は無料で利用できる電話相談窓口、2つ目はECアプリ、そして3つ目はAgroStarが運営する実店舗だ。

「インドの農家にとって電話や店舗などリアルな体験はとても重要です。だから、私たちは大規模なアドバイザリーセンターを設けました。ここに電話すると私たちの専門アドバイザーが、無料でおすすめの商品を教えてくれます。そして3000カ所以上ある実店舗に行けば、現物を見て、商品を購入できます。2021年は100万人以上の生産農家に利用していただきました」

 AgroStarの顧客はAmazonのようなドア・ツー・ドアのECを利用することもできるし、アドバイザーと電話相談しながら資材の購入を決めることもできる。店舗での購入も可能だ。AgroStarはECプラットフォームでありながら、顧客が3つのオムニチャネルから選んで購入できるようにしたのだ。

 このほか生産農家に信頼され、頻繁に訪れてもらえるよう、インド多言語に対応したコンテンツづくりにも力を入れる。作物ごとに最適な気候条件や育て方、体験談によるアドバイス動画など専門家による知見を、生産者らが音声検索で探すことができるようにした。

「私たちは50名からなる農学チームを結成しています。彼らの多くは実際の生産者として農業に携わり、病気や土壌、栽培方法など、農作物について熟知しています。彼らの知識を集めて、データベースを構築しました。このデータベースには農業を実践する際に必要な情報がデジタル化されて格納されています。大学を卒業したばかりの若者たちをアドバイザーとして採用し、トレーニングしています」

「また、どの農家が、どんな作物を育てているかを把握できるCRM(Customer Relationship Management)も10年かけて築きました。このCRMを生かして、アドバイザーは各農家に適した農業資材を提案できます」

 これまで個人の知識に頼っていた農業ノウハウをデジタル化することによって、AgroStarはインドの農家の生産性向上に導くことに成功した。実際にAgroStarのアドバイスを受け、成功した事例は数えきれないくらいあるとSheth氏は紹介する。

「私たちの取り組みによって、バナナ農家が複数の方法で利益を得ることができるようになりました。ほかにも、コストを抑えて収穫量アップにつながった生産者の事例は無数にあります。AgroStarのアプリはトータルで500万件以上ダウンロードされています。1日あたりのアクティブユーザーは20万人を超えています。YouTubeビデオの月間再生回数は300万回以上、トータル再生回数は6000万回以上です。競合他社は50万回を下回るでしょう。つまり、私たちは競合他社よりも200倍も優れた、インド最大のハイテク農業プラットフォームなのです」

 AgroStarの収益の柱は、資機材販売による手数料収入と、農家から仕入れたバナナやザクロなどをスーパーや輸出業者に販売して得る収入がある。2021年は業績が4倍に成長し、今後も毎年2倍の成長を見込む。実現のためのマイルストーンとして、Sheth氏はこれから実店舗を7000店に増やし、200万人以上の農家と取引を目指している。また数年先までには、AgroStarが仲買人となる農作物の数を20〜25種類に増やしたいと意欲を見せた。

Image: AgroStar

バナナ輸出や農薬開発で日本パートナーを求める

 AgroStarは2021年10月、シリーズDでSchroders Capital、AccelなどのVCから7000万ドル(約90億円)を調達した。同社は今後、企業の買収や事業の強化、技術開発に力を入れていく。海外進出の可能性についてたずねると、Sheth氏はいまはまだ国内需要の掘り起こしに注力したいとしながらも、バナナの輸出で日本の小売企業や販売業者とのパートナーシップを今後は求めたいとした。

 また、Sheth氏は日本の農業資材メーカーの技術力を高く評価している。「日本企業がインドで活用できる技術があると思います。実際に日本企業と提携するインド化学メーカーもあります。そうした企業がAgroStarのビジネスモデルを活用して、作物の病気や害虫被害を減らす商品を生産者にすすめたりすることができるでしょう」と、日本企業が農薬開発を手助けできる可能性があると述べた。

 そして将来的には、インドと似た課題を抱えるアフリカ市場への参入や、高品質な果物の生産、脱炭素化へチャレンジするつもりだ。

「私たちは生産面で多くのイノベーションを起こし、ヨーロッパ市場や中東市場でも受け入れられるような、等質な果物を作ることに成功しました。これからは、例えばブドウやメロン、タマネギなどのような作物で、国際市場に通用する最高品質の農産物を生産できるようになりたいと思っています。そのためには、どうすればより良い栽培ができるか、収穫後の管理や保管、輸送、物流はどうすればいいか、多くの技術革新が必要とされています。そして、生産農家が炭素クレジットを獲得できるような解決策にも取り組みたいと考えています」

「インドの農業従事者がもっと収入を得られるよう、生産者の成長を助け、世界中で農産物を販売できるようにするのが夢」というSheth氏。将来に向けて、「インドで最も大きく、最も価値のある、農家を中心とした会社を作る」というミッションを語った。



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