他業界に比べ、DXがなかなか進まない製造業。なかでも調達領域は紙やFAXに頼っており、業務効率化のボトルネックになっていた。そんな部品調達領域を超効率化させたプラットフォームが「meviy(メヴィー)」だ。調達に要していた時間を90%以上削減し、国内7万ユーザーに導入されている本サービス。立ち上げに従事したミスミグループ本社の吉田光伸氏に、開発秘話などを語ってもらった。

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ミスミが取り組んできた2つのイノベーション

――meviy(メヴィー)開発の経緯を教えてください。

 ミスミは1963年設立、機械部品など製造業で必要な部品の製造・販売を行う、グローバルで1万2000人ほどの社員を擁する企業です。部品といっても、スマホや自動車などの最終製品に使用されているものではなく、これらを作る工場で使われる装置や機器などに組み込まれる、いわゆる生産間接材とされる部品を扱っています。品揃えは世界最大級の3000万点超となります。

吉田 光伸
株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員 兼 ID企業体社長
国内事業、海外事業、新規事業を経てオンライン機械部品調達サービス「meviy」(メヴィー)を展開。ミスミ入社前は、国内大手通信会社、外資系大手ソフトウェアベンダに籍を置き、インターネット黎明期からデジタルを活用した新規事業の立ち上げ・事業拡大に数多く携わる。 

 また、ストックしておいた部品を発送するのではなく、売上の6~7割が受注生産です。注文を受けてから部品を生産し、標準2日で出荷するという極めて高度なサプライチェーン・生産システムを持ち、納期遵守率は99.96%。このサービスをグローバルで展開しており、海外売上比率は52%、33万社のお客様と直販で取引を行っています。

 ミスミは過去、2つのイノベーションを同時に行った経緯があります。1つが顧客側にとっての革新となるカタログ販売です。それまでは顧客から寄せられた紙の図面をもとに部品を製造して販売していましたが、1977年に初めてカタログ販売を実施。価格・納期が記載されたカタログから番号を選ぶだけで部品調達できるというイノベーションを実現しました。

Image: meviy

 もう1つが生産側にとっての革新となる製品の標準化です。ベトナムや中国などローコスト国で途中まで加工した半製品をストックしておき、注文が入ってから仕上げ加工を行うことで、安く・早くを実現したのです。こうしたイノベーション要素は、meviyでも受け継いでいます。

製造業の戦い方は転機を迎えている

 meviyのミッションは「ものづくりに創造と笑顔」です。無駄を省くことで時間を生み出し、より創造性のあるものづくりができるように。いいプロダクトを作ることで、ユーザーが笑顔になるように。そんなサイクルをサポートしたいという思いを込めています。

 なぜこのミッションに至ったか、その背景をご説明しましょう。

 日本での製造業の割合はGDPの2割超を占めており、国の基幹的な産業といえます。『2019年版ものづくり白書』によると、世界の製品・部材市場で日本企業のシェアが60%以上を占める製品数は、全体の30.2%。アメリカの2倍、中国の5倍にあたり、国際競争力も非常に強いことが分かります。

Image: meviy

 一方、製造業の労働生産性については、1995年・2000年の調査では世界1位でしたが、2005年は9位、2010年11位、2018年16位と、下落の一途を辿っています。

 そこには大きく2つの原因があります。製造業に限らず日本企業全体が抱える経営課題ともいえますが、1つは、生産年齢人口の減少による人手不足、もう1つが時間不足です。製造業を営む企業の99%が中小企業ですが、働き方改革関連法案などによって中小企業も月45時間以上の残業が禁止となり、それまで残業でまかなっていた業務量をこなせずに経営が悪化し、廃業が増えているのです。

Image: meviy

 製造業の戦い方は、今まさに転換期を迎えています。「量」の戦い方から「質」の戦い方へ、労働生産性の改革が生存要件です。改善ではなく、改革レベルで圧倒的に変えていかないと間に合わないのです。

Image: meviy

生産性向上のボトルネックである調達領域を変革

 製造業のDXが進まなかった原因は、設計・調達・製造・販売というバリューチェーンに潜んでいます。設計はCADやCAEで、製造は自動化ロボットで、販売はEコマースといった昨今のデジタル化により、生産性が向上しました。

 一方、部品などの調達領域は、未だに紙図面やFAXで仕事を進めています。昨年、当社が行った製造業企業への大規模アンケートでは、FAX利用率が98%にも上ることが分かりました。製造業の生産性向上でのボトルネックは、調達領域だったのです。

Image: meviy

 調達現場はとにかく時間がかかります。たとえば、1500点の部品を調達して機器を作る場合。必要な部品を1つずつ調達して機器を組み立てるのですが、機器の設計はソフトウェアで行いますが、調達の際に必要な部品の設計は「紙」です。1枚あたり30分~1時間をかけ、1500点分を作図します。30分で済むとしても計750時間かかります。

 見積もりのやりとりはFAXや電話で行われることが多く、数社に見積もりをとるため、FAX送信やその確認に1500点分で25時間。さらに見積もり回答に1週間かかるとして、56時間の待ち時間が発生します。部品は紙の図面を見ながら製造されるため、納期まで2週間かかるとして計112時間。作図~見積もり~待ち時間で約1000時間。つまり、部品を調達するだけで3~4ヵ月もかかるわけです。

Image: meviy

 このことを製造業全体のインパクトで考えてみましょう。1社につき1台分の部品を調達する場合、38万社あるといわれる製造業全体で年間3億8000時間かかります。コスト換算すると、部品調達の領域だけで年間2兆円以上の経済損失となるわけです。

 これからのものづくり産業で我々ができる最大の価値創造は何かと考えた結果、答えは「時間の創出」でした。時間創造のための製造業のDXが「meviy」なのです。

1000時間の仕事が80時間で済むようになった

 meviyでは、当社が40年前に行った2つのイノベーションを引き継いでいます。顧客側にとっての革新がAI自動見積もり、生産側にとっての革新がデジタルものづくり。この2つを同時進行させ、大きなイノベーションを実現しています。

 詳しくご説明しましょう。まずは、顧客側にとっての革新から。これまでは設計はソフトウェアで行い、調達の際に紙の図面を作成し、FAXで送るというプロセスでした。この従来の紙の図面を作成するというプロセスをなくし、設計データをmeviyにアップロードすることで、AIが自動で部品の形状を認識し、数秒で見積もり回答ができます。これにより、紙の図面作成時間+FAX送信・確認時間+見積もりの待ち時間がゼロになります。

Image: meviy

 次に、デジタルものづくりという生産側にとっての革新の仕組みについて。従来は人が図面を見ながら、部品工作機械にプログラムを入力する作業が必要でした。meviyでは顧客からアップロードされた設計データから、製造プログラムを自動生成し、受注から製造までを無人で行います。

 2つのイノベーションの同時実現により、設計データのアップロードから最短1日での出荷を実現したのです。

 現在、meviyのユーザー数は7万を超え、国内シェアNo.1を維持。自動車・機械・電子・電機・化学・医療など、幅広い業種の企業に利用していただいています。お客様からも「無駄な時間が大幅に減り、純粋な設計に頭を使えるようになった」「20年ぐらい前から『図面はなくなる』といわれていたが、meviyでようやく実現した。設計者の仕事やものづくりがガラッと変わりそう」との声を多くいただいています。

 産業界からも高い評価をいただき、『令和元年度情報化促進貢献個人等表彰』経済産業大臣賞、『日本産業技術大賞』文部科学大臣賞、『日本サービス大賞』JETRO理事長賞、『素形材産業技術省』経済産業省製造局長賞など、10を超える数々の権威ある賞も受賞しました。

 また、meviyを早期から活用いただいているトヨタ自動車様とはオープンイノベーションを行っており、ものづくりのさらなる向上を目指しています。

 meviyによって1000時間の仕事が80時間で済むようになり、約900時間を創出できました。その時間を人間にしかできない付加価値の高い仕事にあてることで、製造業に元気になってほしいと考えています。

Image: meviy

 meviyによって時間創出による人手不足の解消だけでなく、紙の削減によるカーボンニュートラルも期待できます。紙の管理からデータ管理へ移行することでセキュリティが向上し、管理業務からの解放も実現できます。

 また、meviyは最適化提案機能もあるため、ユーザーの設計力向上や、難しいとされる技術継承の受け皿としても役立つはずです。事業成長と社会貢献の同時実現も可能になるのです。

 今後は、meviyのグローバルに展開にいっそう注力していきます。同時に、サービスをさらに進化させ、トヨタ自動車様だけでなく世界の有力パートナーとの連携強化も行っていきます。それらを通じ、世界レベルでの労働生産性改革を推進していきたいと考えています。

時間は普遍的な価値である

――meviy開発の裏側やプロセスを教えてください。どのような着想からスタートし、実装に至ったのでしょうか。

 大きな展開からゼロイチを行うことはなく、meviyも非常に小さな展開からスタートしています。当社は40年前にカタログでイノベーションを起こしましたが、meviyはカタログの発想を180度転換させたものです。

 カタログは「今ある製品の中から選ぶ」という仕組みですが、meviyが目指したのは「顧客が自由に設計した部品の価格や納期が、カタログのようにその場で分かる」という仕組みです。

 ですが、言うは易く行うは難しでした。Web・3D・AI・製造をつなげる仕組みができないか多くのシステム開発会社に相談しましたが、ことごとく断られましたね。そこからは、meviyの構想をさまざまなところで話し、「ここへ行けばこういう技術をもった人がいる」という情報を得ては現地に出向いてと、文字通り世界を行脚して、一人ひとり仲間に加わってもらいました。

――社内の合意形成はどのように行ったのでしょうか。

 「なぜ、それをやる必要があるか」というストーリーや文脈を明確にし、トップと目線を合わせ、トップを巻き込んで進めていかなくてはなりません。

 当たり前ですが、トップを同じ船に乗せないと、新規事業はすぐに潰れます。大企業でDXイノベーションを起こすには、プロダクト開発と同じくらい、ストーリーや戦略づくりも大事なのです。

国内でどれだけ頑張っても、世界シェアの2%しか獲得できない

――meviyは「時間を創出したい」という顧客の要望から開発されたわけではありません。顧客の潜在ニーズをどうとらえたのでしょうか。

 「イノベーションは顧客の要望からは起こりにくい」とよくいいますが、当時は部品調達の際は紙で図面を作成し、FAXで送るというプロセスが当たり前の状況でした。そこに疑問はなかなか生まれません。ただ、ミスミという企業はそもそも時間を大事に考えている会社です。時間戦略を掲げ、顧客がより早く、楽になる商品やサービスを創ることをミッションとしていたことが奏功したと感じています。

 昔は規模が大きい会社が強いとされていましたが、時代は変わっています。いろいろな企業を見てきて思うのは、今後はスピードが早い会社が勝つ時代になるということです。そういった意味でも、時間は普遍的な価値だと感じています。

――時間の価値を顧客に理解してもらうために、サービスをどう浸透させていったのでしょうか。

 我々が取引しているのはプロフェッショナルエンジニア、イノベーター理論で保守層に位置する方々が中心です。爆発的に浸透させるのは難しいですが、一度使っていただければリピート率は高く、使い始めたユーザーがインフルエンサーとなり、社内で普及してくださるケースも増えています。

――開発難易度の高いサービスだと思いますが、どんな体制で開発されましたか?

 当社の哲学は「創って、作って、売る」。このワンセットを顧客の要望・声を取り入れながら早回しさせていく風土が根付いています。実際の開発ではニッチな領域の技術も組み合わせながら、10ヵ国以上から集まったエンジニアで開発を進めていきました。

――meviyの事業評価はどう行ったのでしょうか。

 ユーザー数・売上・ブランドイメージなどさまざまな指標があり、我々も模索している段階です。

――今後、日本企業が「勝つ」にはどういうポイントを大事にしたらいいでしょうか?

 よく日本語を話せる人の比率は世界の2%と言われます。つまり、国内でどれだけ頑張っても、言語では世界シェアの2%しか獲得できないということ。日本企業が得意な領域はたくさんありますし、世界で通用するポテンシャルも十分あります。

 日本発グローバルという視点や、グローバルでどう戦うかという「戦略」を持つことがとても重要です。日本の製造業には大企業だけでなく中小企業でも世界で戦える技術を持った企業が数多くあります。同じ日本企業として世界を舞台に戦う企業が今後増えていき、お互いに切磋琢磨しながら製造業を元気にしていきたいですね。

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