冨樫 良一Ryoichi Togashi
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Skycatch Founder & CEO
Christian Sanz
<モデレーター>
スタンフォード大学アジア太平洋研究所 リサーチアソシエート
櫛田 健児Kenji Kushida
コマツ
http://www.komatsu.co.jp/
Skycatch
https://www.skycatch.com/
Stanford Silicon Valley - New Japan Project
http://www.stanford-svnj.org/
現地にオフィスを持たず、出張ベースで事業提携
櫛田:一般的に日本の大手企業がシリコンバレーのスタートアップと事業提携する場合、「スピード」や「オープンネス」が課題になりがちです。コマツさんはどうやってその課題をクリアし、速いスピードで事業提携を進めることができたのですか?
冨樫:そもそも私たちは、実際にこのシリコンバレーにオフィスを構えているわけではありません。そのため、フットワーク軽くどこへでも出かけていくことができます。これがスピードの速い、一つの理由です。もう一つの理由は、コマツの経営陣が現場をよく理解しているという点です。2015年11月にSkycatchさんと本格的に事業提携の話し合いをする前に、私は経営陣をシリコンバレーに連れてきて、現場で多くの実際のデータを見せることができました。
櫛田:両社の最初の出会いは何でしたか?
Sanz:人の紹介を通じて、冨樫さんが私たちのオフィスに来てくれました。最初の面談では、技術的な部分について多く話し合ったわけではありませんが、われわれの過去の取り組み、そしていま何をしているのかを共有することができました。それから1ヶ月後、私はコマツの経営陣の方々とお会いすることができました。そして実際にどのようにSkyCatchがコマツさんをサポートできるのかを話し合ったんです。
コマツさんの素晴らしい点はスピード。なにかに真剣に取り組んだときのスピードはすごい。最初、私たちがコマツさんのスピードを上げられるようにサポートしようと思っていました。しかし話が詰まってくると、コマツさんのスピードは私たちより速かった。冨樫さんはよくこうおっしゃっていました。「クリス、私たちにかかるプレッシャーは非常に大きくなっていくと思う。だから、今はこのゆっくりとした時間を楽しもうじゃないか」と。(笑)
スタートアップが提携先に期待すること
櫛田:日本企業と事業提携する際、「スピード」以外にどんなポイントを重視しますか。
Sanz:スタートアップはリソースが足りないので、リソースを補ってくれるのはありがたいですね。コマツさんは私たちと提携するにあたって、投資家や顧客を紹介してくれました。冨樫さんは「クリス、君たちの成功はわれわれの成功なのだから、好きなだけわれわれのリソースを使いなさい」とサポートしてくれました。
櫛田:冨樫さんにお聞きします。日本市場において、スマートコンストラクションはとても速いスピードで浸透していきましたね。コマツさんはその市場のトップを走っており、さらにSkycatchさんとの提携により、よりグローバル市場へ近づいたと思います。グローバル展開の大きな一歩と見た際に、この事業提携の手応えはどうでしょうか。
冨樫:グローバル展開について言うと、日本の建設業のグローバル展開はまだ始まったばかりです。われわれは、アメリカ国内はもちろんオーストラリアでも、こらからますます当社の技術を普及させていく予定です。また当社のICT建機はプラスマイナス数センチという極めて高い精度で、施工を行うことができます。その中でSkycatchさんのデータ解析はとても精度が高く、GPSマーカなしで数センチの違いまで正確に測定することができます。この技術は私たちの手がけるICT建設機械にも応用が可能です。
契約と事業開発を同時並行で進める
櫛田:日本の大手企業とスタートアップが組む際に、ただ一回のMTGをするためでも、日本の法務部門が厳しいNDAを要求しがちです。そういった点に関してはどうでしょうか?
Sanz:たしかに決して簡単ではありませんでしたが、私たちはコマツさんと事業提携することの重要性がわかっていました。ですから、コマツのさまざまな方と電話のやり取りをし、さまざまな契約書を交わしました。これはとても難しいプロセスでしたよ。同時並行で私たちの技術そのものも改善し、コマツさんの要望に答えていかなくてはいけなかったのですから。しかし、お互いにこの作業を乗り越えたからこそ、成果を出すことができたのだと思います。
冨樫:多くのデューデリジェンスもこなしましたよね。
Sanz:そうですね。資金調達に際して、コマツさんは伝統的な日本の大企業のスタイルではなかったと思います。シリーズA、Bの資金調達について、とても多くのミーティングを経営陣の方々と実施し、どうすれば資金調達後にうまく経営できるか話し合ってきました。個人的にはその時間はとても楽しかったですね。もちろん契約の交渉自体は真剣でしたけどね。
対面でのコミュニケーションを重視し、月2回シリコンバレー出張
櫛田:コマツさん側は、少数のメンバーでシリコンバレーと日本本社の関係をうまく構築していましたよね。どんなにイノベーティブなアイデアであっても、物理的な距離のためにシリコンバレー側が孤立し、最終的に実現できないことがよくあります。シリコンバレーの仕組みを日本本社に伝え、シリコンバレーと日本本社の関係性を良好に保つために、どんなことをしていましたか。
冨樫:一番重視していたのは、対面でのコミュニケーションです。月2回の頻度で、誰かを連れて東京からシリコンバレーへ出張に来ていました。実際のところ、私たちはシリコンバレーにオフィスを持っていなかったので、バックパッカーのようにホテルを転々としながら、こちらでオフィスを構える誰かにお世話にならざるを得ませんでした。それは大変でしたが、対面でのコミュニケーションは、やはり効果がありました。もう一点、当社の代表はスタンフォード大学出身でした。そのため、私たちよりもシリコンバレーのことをよく理解しており、これも大きな要因だったかもしれません。
将来のビジョンを一緒に共有できるかが大事
櫛田:今回はさまざまな業種の日本企業がイベントに参加しています。彼らが本日のイベントで出会ったスタートアップと組むために、本社に紹介する場合、どうしたら良いと思いますか。何かいいアドバイスはありますか。
冨樫:スタートアップにとっては、目の前の事業も大事ですが、5~10年先の将来のビジョンも大事です。私たちの場合、スライドやビデオを使って、私たちの将来のビジョンを伝えるようにしています。将来のビジョンを伝えるビデオは7本あり、様々なジャンルに分けて作っています。もしその一つにでもスタートアップから共感が得られれば、一緒に組むことができるというわけです。
櫛田:なるほど、面白いですね。では、ここからオーディエンスからの質問に移りたいと思います。まず1つ目の質問は、Skycatchがコマツに対してソフトウェアを提供するにあたり、何がチャレンジだったかという質問です。
Sanz:私たちの一番のゴールは、データをコマツさんに提供することです。もう少し正確に言えば、数センチ単位で正確にデータを計測できるものを提供することです。そのデータセットには車の自動化、さらにはそれらをどのようにコマツの所有しているサーバーに入れるか、ソフトウェアを日本に持ち込んだ時にしっかりと互換性があるかどうかも含まれます。また、さらに私たちが分析した機密性の高いデータも提供しています。その他にもマシーンラーニングを用いたソフトウェアも提供しています。
櫛田:次の質問です。自動運転のダンプカーを設計し、人間が操作しているような動きをさせる必要がありますが、一体誰がそのような動きをするソフトウェアを設計しているのですか。それに関してのパートナーシップを外部の企業と結んでいるのですか。
冨樫:以前はすべてのコマツ社内で設計してつくっていました。しかし今後は他の企業と提携してつくっていかないといけません。
櫛田:外部からソフトウェアエンジニアを採ってきたのですか。
冨樫:ソフトウェアエンジニアを採るのは、新しい技術の発展や建設に関するソフトウェアを設計する際のベストな方法だと思います。現在、コマツは5万人の社員を抱えていて、そのほとんどの人間は依然として保守的です。少数の人間が未来志向の考え方を持っている。さらに私たちのIT部門もなぜか保守的なのです。私たちはそういったところから革新的なアイデアを導き出さなくてはいけません。
日本企業は1社と深く組み、米国企業は複数社と広く組む
櫛田:次の質問です。事業提携において日米企業ではどんな違いがあるでしょうか。
Sanz:私たちは日米企業どちらとも事業提携をしています。私が思うに、日本企業はとても革新的で、テクノロジーにも前向きです。しかしながら日本とアメリカではレギュレーションの部分がとても違います。日本のほうがレギュレーションに柔軟で、私たちはより速く動くことができます。
また、日本では親密な1社と深い事業提携をすることが多いですが、アメリカではそれはとても難しいでしょう。アメリカでは複数の企業と組むことが多く、1社の企業のみと事業提携をするということがとても難しいのです。それらの違いは事業提携の障壁になりやすいと思います。日本企業は多くの企業に投資をするのではなく、SkycatchならばSkycatch、他の企業ならば他の企業と、1社に重点を置いた事業提携の形を取っていますね。
櫛田:ありがとうございました。今後もコマツさんとSkycatchさんのような日米企業の提携事例が生まれてくることを願っています。