シンガポールを筆頭にスタートアップエコシステムが急速に整ってきた東南アジア。東南アジアのスタートアップと日本企業はどのように関係を作っていくべきか。東南アジアに橋頭堡を築く大手企業の戦略を、NTT、三井住友海上、2社のキーマンに聞いた。(モデレーター:Ishin Group 伊田 健一)

※本記事は「イシン・スタートアップ・サミット シンガポール2019」のトークセッションをもとに構成しました。

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投資の最大の理由は人口ボーナスによる経済成長

―今回は日本企業がどのように東南アジアを活用すべきか、スタートアップと連携するべきか、といったテーマでお話しして頂きます。まずは自己紹介をお願いします。

杵渕:我々は約3年前から東南アジアにおけるオープンイノベーション施策の一つとして、「NTT Com Startup Challenge」というピッチコンテストを開催してきました。初年度はインドネシアで開き、2年目はインドネシア、マレーシア、ベトナムへと広げています。今年は6月にインドで開催し、11月20日にインドネシアでの開催を予定しています。

 私たちの目的はブランディング、協業推進、販売促進の3つです。3年前から草の根的に始めて、スタートアップ企業とは500社程度、VCだと100社程度、直接会ってきました。少しずつパートナーの協力を得てきているところです。

宮津:三井住友海上は「グローバルデジタルハブ・シンガポール」という組織を今年2月に立ち上げました。まだ3名のチームで、私がその1人です。このチームで、主に東南アジアの保険におけるデジタライゼーション戦略を立案し、実行しています。私自身は今年の7月にシンガポールにやって来ました。

 現在、注力していることは、バンカシュアランス戦略とB2B2Xビジネス戦略です。どちらも似た内容ですが、保険は直接、保険会社から買うことは少ないと思います。自動車保険はディーラーで契約しますし、火災保険は不動産を購入した際に併せて契約することが多いと思います。保険とはモノやサービスを買った時に、一緒にニーズが発生するものです。つまり、そのようなパートナーと協業しながら売るのが、保険販売の特性です。その売り方もデジタル化で劇的に変化していくと考えられるので、そこを構築していくのが私たちのミッションです。デジタルソリューションを日本でも考えていて、そのコンセプトをシンガポールに持って来て事業開発するのが、私の今の仕事です。

杵渕 保敬
慶應義塾大学経済学部卒業、2006年NTTコミュニケーションズ入社。法人営業部、グループ会社を経て2015年に米ノースカロライナ大学経営大学院修了。2015年から同社グローバル事業推進部企画部門。2017年よりアジアにおけるStartup連携施策「NTT Com Startup Challenge」発起人。

宮津 新
慶應義塾大学経済学部卒業、1992年入社。IT部門で保険基幹システムのプロジェクトマネジメント等を担当。2009年〜2014年米国現地法人出向、CIO。帰国後海外現地法人のITガバナンス統括。その後外資系生保に転職し、IT開発部門長、保険金支払部門の業務改革プログラム等に従事。2019年6月に三井住友海上に復職し、7月よりシンガポールでASEAN地域のデジタル戦略立案に従事。

―スタートアップのエコシステムとしては、シリコンバレー、イスラエル、インドなどもあると思いますが、なぜ東南アジアで活動しているのでしょうか?

杵渕:我々はマクロ的には東南アジア、特にインドネシアの人口ボーナスに伴う経済成長に注目していました。ミクロ的には自社の重点領域も東南アジアであり、特にインドネシアの投資先の販売促進、マーケティングの観点でオープンイノベーションを狙いました。

宮津:杵渕さんも言われるように、成長する市場であることが一番大きいです。もう1つは、当社の強みが東南アジアにあることです。東南アジアでは十数年前に企業を買収して、リテール事業を手に入れ、その後、M&Aと事業成長を続けて、東南アジアで業界シェアはナンバーワンになりました。東南アジアにはビジネスの蓄積と人とノウハウがあるので、引き続きここでデジタルを活用して事業を伸ばしていこうと考えています。

小国であるがゆえの進展スピード、未整備であるがゆえの革新性

―東南アジア各国、特色があると思います。保険の分野では法律も異なると思いますが、国による違いはありますか?

宮津:保険は守りたいものがないとニーズが生まれないので、中産階級が増えると売れ始めます。ですから先進国のシンガポールにはすでに大きな市場はあります。タイ、マレーシアがそれに続きます。ベトナム、ミャンマーはこれから伸びていきます。

 シンガポールは小さな国で、政府が色々なことをコントロールしているので、何かを変えようとすると、あっという間に変えることができます。だから技術の進展、浸透も速いと思います。一方でシンガポール以外の国は、まだ社会の仕組みが十分に整っていないがゆえに、古いプロセスや仕組みに縛られることがなく、逆に新しいことを始めやすい環境があると思います。

杵渕:私たちは東南アジア各国を、3つのカテゴリーに分けて考えています。それは、十分に成熟している国、成熟しつつある国、これから成熟する国の3つです。我々のピッチコンテストは、この3つから1カ国ずつ選んで開催することにしています。インドネシアは十分に成熟している国、成熟しつつある国はマレーシア、これから成熟する国はベトナムという感じです。成熟しきった国ばかりで開いても後発組の我々にメリットがないと考えているからです。

パートナーとしてのスタートアップ、顧客としてのスタートアップ

―数多くのスタートアップ企業がありますが、どのように優秀なスタートアップを見つけますか?そしてその後、どのように付き合っていきますか?

杵渕:基本的にはピッチコンテストを通してスタートアップを見つけます。過去2年で1400社ぐらいの応募があり、入賞者以外にも優秀な会社はたくさんあるので積極的に会っています。とはいえ、本当に優秀なスタートアップはピッチコンテストにはなかなか出てこないと思っているので、知り合ったスタートアップのコネクションを通じて優秀な会社を探しています。

 私たちはスタートアップを2つの視点で見ていて、1つは協業、パートナーとしての候補、2つ目は将来有望なお客さまの候補です。スタートアップが劇的に成長すると、ICTインフラのリソースもたくさん必要になります。ですからコンテストの入賞者には、ICTインフラを一定期間無償で提供していますし、我々の顧客に紹介しています。また我々のセールスチャンネルを使って販売の向上を狙ったり、NTTグループでサービスを使うことなどで協業を進めています。

宮津:現在はスタートアップを探すというよりも、戦略立案の方に重きを置いています。まず我々のやりたいことがあって、それから、その分野で一緒に成長していけるスタートアップを見つけるということだと思います。

 違う見方では杵渕さんとまったく同じ意見ですが、保険は色々なパートナーに売ってもらうものです。色々なスタートアップが成長していくと、彼らが保険の販売チャンネルになり得ます。Grabなどの企業はあっという間に何万人という顧客を持ちました。保険を販売していただける潜在的なパートナーとしてもスタートアップを見ています。

―東南アジアのスタートアップは日本と比べて技術力はどうでしょうか?

宮津:ここ数年で劇的に変わった感じはあります。これまでも小さなIT会社はあり、アイデアは良かったのですが、実用としてはまだまだでした。システムインテグレーターと協業しないと使い物にならないことも多くありました。この数年で、いいアイデアを持っていれば使えるモノが出てくるようになりました。もちろんシリコンバレーには技術を持ったスタートアップがありますが、東南アジアでビジネスをするのであれば、東南アジアのスタートアップと協業する方が親和性は高いと思います。

課題はやはり日本側の組織体制

―日本企業の悩みとして、協業の前段階の社内の説得、組織運営、現事業部の巻き込み方などがあります。オープンイノベーション活動を推進する組織体制はどうなっていますか?

杵渕:NTTは非常に堅い組織で、必ずしも意思決定が早いとは言えません(笑)。ですからプロジェクトを始める前に、副社長にプレゼンテーションをして全面的なバックアップを得ました。メンバーは全員、他に本業を持っていて副業でやっています。よくKPIや短期での成果を求められますが、開始から2、3年はブランディングと人材育成を目的としています。ですから予算も少なく、メンバーは副業なので、リスクも低いということです。

―副業に対しては給与もプラスされるのですか?(笑)

杵渕:絶対につきません(笑)。特別に評価されることもないので、メンバーには、本業で一定の成果を出している若手、中堅を中心に、オープンイノベーションに興味を持っている社員を誘っています。これは副業ですので、プロジェクトにおいてメンバーにはそれぞれが好きで得意な分野で活躍してもらっています。

―メンバーの現業のマネジメント側は、本業に集中させたいと思っているのではないでしょうか?

杵渕:副社長に承認を得たあとは、配属するメンバーの上司まですべて説明しています。凡そ業務の20〜30%で行う話がついています。

宮津:私たちは立ち上げたばかりなのですが、社内では担当役員が強力に進めているので、大きなサポートは得られています。ただ保険は、売れば売るほど儲かるとは限らず、売った後で保険金を支払うので、売れば売るほど損が発生することもあります。そのリスクが常にあるので、いかに損をしない仕組みをつくるのかが難しいところです。

 やってみないと分からないことが多く、現事業組織には利益の責任があるので、異なるセグメントを作ってやらないと実験的なことが難しいと考えています。またスタートアップとのスピード感の違いに対しては、決裁権限の社内規定を破ることはできないので、PoCなどを行うための権限委譲などが今後の課題と考えています。

ブランド力はあるが、過大評価すべきではない日本

―東南アジアにおける日本企業のポテンシャルについてどう感じていますか?

杵渕:日本と協業したいというスタートアップは多いですし、日本から見ても地理的にやりやすさはあると思います。しかし自戒を込めて言うと、協業やオープンイノベーションが先行して、こちらから提供できるリソースが定まらないままスタートアップとの付き合いが始まってしまう。そうするとスタートアップに迷惑をかけるだけになります。我々は、現時点では出資はしないという立場を取っていますので、販売チャンネル等の自社リソースをを活用してもらうことなどで協業を進めようとしています。

 もう1つは日本のマーケットを過大評価すべきではないということです。東南アジアのスタートアップは東南アジアで成長できるので、わざわざ離れた、言語の壁もある日本に喜んで来たいとは思っていないでしょう。それは認識した上でプロジェクトを進めないといけないと思います。

宮津:東南アジアは、欧米に比べて日本ブランドがまだ通用する地域だと感じます。日本のブランドに対する信頼感はあるので、欧米企業以上にやっていけるポテンシャルはあると思います。ただ日本企業は、現地の人を慮るばかりに、欧米企業と比べて強引さがありません。それでは物事は進まないですし、変わってはいきませんから、そのバランスは課題だと思います。

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