Image: 株式会社デジタルホールディングス, Rebright Partners
[スピーカー]
株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長
鉢嶺 登
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Rebright Partners Founding General Partner
蛯原 健

2020年9月8日、Ishin Startup Summit 2020で開かれたパネルディスカッション「中国・インドの事例から学び、日本流のDXをいかに進めていくか?」。中国や東南アジア、インドなどのDXに詳しく、企業にアドバイスをする立場から株式会社デジタルホールディングス代表取締役会長の鉢嶺 登氏、Rebright Partners Founding General Partner蛯原 健氏が登壇した。(モデレーター:イシン株式会社 片岡聡)

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デジタルシフトしないと生き残れない

―今日はインド・東南アジアから日本がDXについて学べることを聞いていきたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

鉢嶺:デジタルホールディングスの鉢嶺です。7月にオプトホールディングから社名変更しました。従来、インターネット広告を主軸に事業を拡大してきましたが、デジタルシフトに関する相談が増える中で、事業の軸と社名を変える決断をしました。デジタルシフトに関する情報提供、コンサルティング、デジタル人材を育てるためのアカデミーや、デジタル人材の派遣もやっていますし、デジタル新規事業を顧客企業と共に作ったり、AI人材のプラットフォーム等を展開しています。

 最近では、デジタルシフト総研を設立し、デジタルシフトに特化した最新情報を会員向けに提供しています。2000年代前半に「これからはインターネットの時代」と、インターネット広告や効果測定システムを提案しました。当初、賛同企業は少なかったものの、20年後の今では当たり前のものとなりました。そして、2020年代はDXです。デジタルシフトをとを世の中に普及させていくことが会社の使命だと思っています。

蛯原:私たちはアジアに特化したベンチャーキャピタルです。DXはここ数年で注目の分野です。我々は日本企業とスタートアップをつなげるゲートウェイ的役割を果たしており、日本の光り輝く大企業をアジアにお連れして業務提供したり出資や買収等していただいたりすることが、アジアでのアピールになります。そこを我々がやらせていただくことでアジアでの成長にも寄与するという形でつなぎ役をしています。

 東南アジアからはじめて、2014年にインド専門ファンドを立ち上げたのですが、その時はまだ日本企業にはインドで合弁を作って失敗した、だまされたというような悪い記憶が残っており難しいという見方が主流でした。しかし、ここ2-3年でガラッと変わって、皆様軒並みインドに強い関心をお持ちです。

鉢嶺 登
株式会社デジタルホールディングス
代表取締役会長
1967年千葉県出身。91年早稲田大学商学部卒。森ビル株式会社勤務の後、米国で急成長しているダイレクトマーケティング業を日本で展開するため、94年株式会社オプト (現:株式会社オプトホールディング)設立。2004年、JASDAQに上場。2013年、東証一部へ市場変更し、現職。eマーケティング支援にとどまらず、未来のデジタル事業の立上げやベンチャー企業の投資育成にも努め、グループ全体で未来の新事業創造に挑戦している。また、デジタル産業革命の中で、「デジタルシフトカンパニー」に軸足をうつし、株式会社デジタルシフトの代表にも就任。日本の企業、社会全体のデジタルシフトを牽引、支援している。
蛯原 健
Rebright Partners
Founding General Partner
1994年横浜国立大学経済学部卒。日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社以来、20年以上にわたりベンチャーキャピタルおよびスタートアップ経営に携わる。2008年リブライトパートナーズ株式会社を日本で設立し、スタートアップ投資育成に携わる。2010年よりシンガポールに事業拠点を移し、東南アジアでのベンチャー投資を開始。また2014年にはインドに常設チームを設置し投資活動を始める。日本証券アナリスト協会検定会員CMA。

守りのDXと攻めのDXがある

―そもそもDXとは何ですか。

鉢嶺:DXと一言に言っても、「攻めのDX」と「守りのDX」があります。印鑑を電子化する、テレワークにするなど主に業務プロセスをアナログからデジタルにするのが「守りのDX」。これも重要なことで最低限やらなければならないことですが、コスト削減にしかならず延命措置にしかなりません。

 一方、「攻めのDX」とは、ビジネスモデル自体をデジタル産業革命時代に合った新たなものに変えていきます。GAFAやネットベンチャーはこの領域に既にいます。企業の対応として「守りのDX」はCIOでいいのですが、「攻めのDX」には、CDOという別の立場から新規事業を起こしていく決断が求められます。

蛯原:DXは一言でいえば産業革新です。最近Leap Frogという概念がよく使われますが、これは銀行口座やATMができる前にいきなりウォレット決済ができるようになるなど、段階を飛ばして次の発展がいきなりやってくるという概念です。

 これと対立するのがイノベーターズジレンマで、既に既存のインフラを持っている会社ほどそれを壊してから新しいものに向かうのが難しい。スタートアップや新興国ではこのジレンマがない点で有利と言えます。

 たとえばインドでは遠隔医療、薬のECなど医療でDXが進捗しています。フィリピンでは銀行のDXで新しい事業が生まれています。農業でもアグリテックなど、あらゆる産業でDXの波が起きていて、アジアでは鉢嶺さんのおっしゃる「攻め」、新産業を作るDXが進展しています。

ユニコーン企業が続々

―東南アジア、中国でのDXの勢いをどう見ていますか。

蛯原:シンガポールの上場企業時価総額ランキングを見ると、DBSなどの銀行や通信などが上位に来ますが、いま東南アジアの時価総額トップ企業は、NY上場しているSEA Limitedの719億ドル、実に8兆円です。これはゲームとEコマースなどを展開する企業で、東南アジアではDX企業がこれだけのインパクトになるということを示しています。インドでもOne97 Communications やBYJU'S、Oyo RoomsというEdutech企業が世界のユニコーンランキング上位入りしています。

鉢嶺:以前はシリコンバレーが一番進んでいるということで企業の経営者や幹部の視察ニーズも高かったのですが、ここ2-3年は、中国への関心が高まっており、私たちもコロナ禍以前は、中国視察ツアーを開催していました。たとえば、中国の深センでは、トヨタのタクシーが見られなくなり、電気自動車タクシーが走り回っているのを目のあたりにします。街中にカメラがあり、違反した車のナンバーが電光掲示板に表示されていたりするなど、デジタルシフトしていく都市のリアリティを直に感じられると思います。

 また、店舗でも変化が起きています。従来、店員の業務は接客がメインでしたが、店員自らがSNSのインフルエンサーになって、ライブコマース(お店にいながら動画で商品をPR・販売する手法)を行っているのです。コロナ禍でこの変化は加速しました。このような動きは日本も取り入れつつありますね。

―日本をスルーして東と西が盛り上がっているという構図なのでしょうか。

蛯原:日本企業も東南アジアは頑張っていますし、インドも中国からの出資に対する厳しい規制が先日新たに敷かれたため、インドはチャンスです。

鉢嶺:言語圏が重要です。やはり英語圏、中国語圏に比べて日本語圏は人口が少ない。企業の売上も利益も、サービスがカバーする言語語学の人口に比例して大きくなっていくので、日本語圏でサービスを展開する限り、日本企業のR&Dにかけられるコストも少なくなってしまうんですよね。その意味で他国のプラットフォームを使わざるを得ない状況があります。それを使ってどこを攻めていくのか考えないと先はないと思います。

日本の課題は危機感のなさと若手の抜擢

―なぜ日本ではDXが進まないのでしょうか。

鉢嶺:一言でいえば、まだ深刻になっていないからです。蛯原さんから「新興国ではインフラがないから逆に進む」という話がありましたが、日本の場合、ある程度インフラがあるので、企業も尻に火がついていない。様々な業界でオンライン業態が進出してきているということは20年前から分かっていた話ですが、コロナの影響でようやく慌てているという感じです。

 GAFAを例にしても、直接影響を受ける業態、間接的に影響を受ける業態、あるいは、あまり影響を受けずむしろGAFAを有効活用できる業態があります。それぞれで、この数年のうちに、自社の業界の行く先をシミュレーションして戦略を立てるなど、危機感をもって会社を変えてもらわないといけないと感じています。

蛯原:アジアがなぜ進んでいるかを考えると、ヒントになるのではないでしょうか。アジアではDXと地方革命、ソーシャルインパクト(社会問題解決)が同時に進んでいます。貧困などの問題だらけで、おのずとスタートアップの大半は社会問題解決のために動いています。インドで言えば人口の3分の2は田舎に住んでいてインターネット接続がまだ続いていない中で、地方がこれからのフロンティアになります。

 こうした動きがなぜ進んでいるかというと、理由の一つには人口が若いから。例えばGojek創業者は一国の大臣になりました。当社投資先ユニコーンのBukalapak創業者は32歳で国営通信会社でインドネシア最大級の企業の取締役としてデジタル部門を統括しています。デジタルネイティブの世代が企業や国のトップになっているわけです。若手を抜擢することが1つの解ではないでしょうか。

鉢嶺:残念ながら一般的にデジタルの知識は年齢と反比例するので、その差を埋めていく作業は重要ですね。我々はできる限り分かりやすく、最新のデジタルシフト情報を「デジタルシフト総研」などを通してお伝えしていこうと考えています。

蛯原:地方に関していえば日本は人口の94%が都市圏に住んでいて、海外から見て投資が集まる環境ではない。遠隔医療などで地方の問題解決に向かうという需要はあるのですが、経済的な価値観ではないところで日本企業に取り組まないといけないと思います。

トップの覚悟が問われる

―最後に具体的に企業が変わっていくためには何が必要でしょうか。

鉢嶺:まずはトップが本気でデジタルシフトを戦略の中心に置く覚悟をしてほしい。定年まで逃げきれればいいという感覚ではなく、そうしないと未来がないということをお伝えしていきたいです。若手は分かっているので、突き上げ続けるしかない。そこを我々は支援したいですね。

 このままいくと日本は観光でしか食べていけなくなるので、社会全体をデジタルシフトしていく必要があります。プラットフォーム争いでは勝てないので、その次に何をするか。たとえば、リアルの製造業が持っている力をどう活用していくかが今後のヒントになるのではないでしょうか。

 企業内においては、まずはデジタルシフトに臨むにあたり、新規事業を扱うことになるので、担当する組織を分けてほしいですね。当然最初は赤字で、「将来の投資のためなのだ」と味方をしてくれるのはトップしかいません。その中である程度自由に意思決定できるように新しい組織に裁量を渡すべきでしょう。

蛯原:ポジショントークに聞こえるかもしれませんが、「アジアに取り組むべし」ということです。日本はコロナで強制的に既得権益が壊されて遠隔医療が進むということもあったとは思いますが、まだ恒久化されてませんよね。一方、中国やインドには既に何億人規模で利用者がいて、データが集まっている。数年先のDXが既にそこにあるのですから、まずは投資なり提携なりしてお付き合いをはじめて、そこから刺激や情報をもらってはどうでしょうか。

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