日立ソリューションズ流「シリコンバレーで継続して成果を出し続ける仕組み」(前編)

日立ソリューションズ流「シリコンバレーで継続して成果を出し続ける仕組み」(前編)

Silicon Valley / Japanese Corporation / Hitachi Solutions America
2018-05-11 04:50
日立ソリューションズは1970年設立のシステムインテグレーター。シリコンバレーには2007年から進出しており、有力なスタートアップと事業提携や再販契約を結んでいる。現在は2〜4名の少数精鋭の体制で、スタートアップと年間4件の契約を締結しているという。一定頻度で駐在員が入れ替わり、日本本社との連携も必要不可欠な中、いかにして年4件ものスタートアップとの協業を実現しているのか。今回はHitachi Solutions Americaの内田知宏氏に「シリコンバレーで継続して成果を出し続ける仕組み」について聞いた。
内田 知宏
Hitachi Solutions America
Director of Business Development and Alliance
2001年に日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現:株式会社日立ソリューションズ)にSE職で入社。その後プリセールス、プロセス改善コンサルタント職を経て、 英国子会社在籍時の2010年に欧州通信事業者と共同での新規事業立ち上げを主導。日本帰国後、2014年にも新規の国内事業を立ち上げ、その後該当事業の推進役として新規顧客獲得に貢献。2016年1月よりシリコンバレーに駐在し、スタートアップとのパートナーシップによる事業拡大に従事。

年4社のパートナー契約締結

―まず御社のシリコンバレーでの歴史を教えてもらえますか。

 日立ソリューションズは、もともとシステムインテグレーター(以下SIer)として、日本のお客様のITニーズを満たすコンサルティングから、導入・開発までを一貫して担っています。以前は「こういうことをやりたいから、システムをつくってほしい」という仕事が多かったのですが、それだけだとSIerとしてお客様に自分たちの付加価値が出しづらい。また、お客様自身がどう変えたらいいのかわからなくても、こちらから新しい提案をしていく時代になると考えていました。

 そこで、2007年に有力なスタートアップとのパートナーシップを求めて、シリコンバレーに進出したのです。当初は素早く成果を出せるネットワーク領域に絞り、新たな技術や商品を探していました。

―具体的に、どんな商品を取り扱っていたのですか?

 最初に取り扱ったのがPalo Alto NetworksやAmazon Web Service(以下AWS)だったので、売上が急激に伸びました。それにより本社内の他部門もシリコンバレーでの活動に関心を持つようになり、2012年からはセキュリティ領域の商品も取り扱うようになりました。そして、2012年から2015年までは平均して年に2件の契約実績をつくり、今は年4件の契約をスタートアップと締結しています。

(出典:日立ソリューションズ社 社内資料)

二桁億円規模の売上に貢献

―売上面ではどのくらいの規模で貢献したのですか?

 AWSに関して言うと、年間二桁億円。Palo Alto Networksもそれくらいの売上規模です。AWSは比較的すぐに立ち上がりましたが、Palo Alto Networksは最初から売れたわけではなく、売上が出るまで1年以上かかっています。新しいスタートアップだったため、日本のお客様が受け入れるのに時間がかかったためです。今もこの2つが年間二桁億円の売上があり、大きく貢献していますし、その他の事業もまだ二桁には届かずとも順調に業績貢献しています。

―ネットワークやセキュリティ以外にも取り扱う商品の領域が増えていますが、どのような経緯だったのですか。

 社内でシリコンバレーの商品が売上を上げていると話題になったのです。「どうもセキュリティ部門の売上が最近伸びているけど、なんでだ?」と。「どうやらシリコンバレーに人を置いて、いい商材を見つけて日本に紹介して、売上を伸ばしているらしい」ということが、日本側の他部門の部門長間で認識され始めて、「うちの部も何か見つけてほしい」という要望が来始めたんです。

 以前から、ネットワークやセキュリティ以外の商材を発掘した際は、日本側に紹介はしていたのですが、実際の契約にまではなかなかつながっていませんでした。そこで方針を転換して、日本側から「こういうものを探したい」と依頼を受けて、それに応える形でスタートアップの商品を探すことにしました。その方法で契約締結できたのが「ServiceNow」(ITサービスマネジメントを実現するクラウドサービス)などです。

 活動領域は広範囲になり、日本本社側でも認知が高まったとはいえ、社内の仕組みが整っていない。シリコンバレー側の案件を渡す“ピッチャー”はいても、日本側の案件を受け取る“キャッチャー”が揃っていなかった時代が続いていました。

日本側の“キャッチ率”を高める仕組み

―内田さんがシリコンバレーに赴任したのはいつですか。

 私は2016年1月からシリコンバレーに赴任しました。駐在員としては第三世代目になります。私が赴任する2〜3ヶ月前から、セキュリティとネットワーク以外の部門でも売上の伸びが見え始めていました。そこで、日本側でシリコンバレーの案件をキャッチできる仕組みを整え、キャッチ率を上げることが重要視されるようになったのです。

 その当時から、社長を含めシリコンバレーでの活動をフルにバックアップする体制になりました。「シリコンバレーの活動を経由して、新しい事業を立ち上げていくぞ」と、社長から全部門長にトップダウンで落とし、全事業部門にキャッチャー役がアサインされるようになったのです。私は全事業部門に出向き、「これからどんな領域に関心がありますか」と聞いて回り、日本側のインプットをもらいながら、シリコンバレーで活動するようになりました。そして半年に一回は日本に帰り、各部門のテーマに沿った調査の報告や、組むべきだと思える注目スタートアップを紹介しています。

―シリコンバレーは何名体制で活動しているのですか?

設立当初から現在も、コアになるスタッフが1〜2名、プラス研修生1〜2名体制で、現在は2名です。研修生は人材育成目的で、日本本社から通常1年程度、派遣しています。研修中はスタートアップと付き合うスキルなどを学び、研修後は日本側の“キャッチャー”として活躍してくれることを期待しています。

―扱う領域が広がっても、人数は大きく変わっていないのですね。

 そうですね。領域が広がり、目標とする契約数も増えたので、“数”よりも“キャッチ率”を高めることにシフトしています。キャッチ率を高めるために、日本の事業部門の関心領域にひも付いており、日本市場に興味があり、かつ日立ソリューションズの事業にも関心があるスタートアップを探すことに注力しています。

 また、こちらが紹介して日本側がキャッチした後に、事業化するか否かを判断するまで何ヶ月かかっているのかを数値化して、6事業部門分ならべて各部門長に報告しています。

コストメリットやROIの高い商品は売れやすい

―現在、本社の事業部門からはどういう領域の依頼が来ているのでしょうか。また、内田さんが注目している領域を教えてください。

 我々はSIerで、本社の全事業部門をターゲットにしているので、ハード以外は何でもです。

 私が個人的に注目しているのは、ハードベンダーやハードパートナーと組むことが前提となりますが、今までデータとしてあっても情報として処理する形になっていなかったものや、情報を吸い出す技術がなかった領域に注目しています。

 コンピュータビジョンやハードウェアに仕込むセンサーなどですね。たとえば、この部屋の中に何人いて、それぞれがどういう感情を持っているというような、人間だったら感じ取れる情報が、今はカメラやセンサーの技術でデータとして取れるようになっています。今後はデータを持っていないと、会社としても価値が出せなくなっていくと思うので、今まで取れなかったデータを取れるようにする技術にかなり注目しています。

―最近は、サブスクリプション支援ソフトウェアの「Zuora」と契約するなど、取り扱っている領域が広がっていますね。

 それは、私のバックグランドが影響しているかもしれません。セキュリティのバックグラウンドよりも、プリセールスというか営業系のSEに近かったので、見てわかりやすいものが話しやすく、理解しやすいため、アプリケーションレイヤなどを見て、コストメリットやROI(投資利益率)が高そうだとわかる領域に注目しています。

 そういったサービスや技術は日本でも受け入れられやすく、お客様にも売れやすいため、スタートアップと組むと、すぐに引き合いが増えます。そして、スタートアップからも、日立ソリューションズと組んでよかったと思ってもらえるのです。

アメリカで売れている商品が、日本でも売れるとは限らない

―どういうスタートアップを選んでいますか。領域もとても広い中、どう目利きするのか、経験則的なものもあれば教えてください。

 今はキャッチ率重視でやっているので、一番は事業部門や、事業部門のお客様が抱えているペインポイント、もしくは気づいていないペインポイントに当てはまるもの。そして、アメリカである程度実証されていて実績が出ているものに注目しています。

 アメリカで注目されているスタートアップのことは、よく見ています。ただ、アメリカで注目されているスタートアップだからといって、それがそのまま日本で通用しない場合もあります。コアとなる技術が日本企業のペインポイントを解決できるスタートアップなのかが一番見ているポイントです。

 見極めは難しいです。日本市場がわからないと難しいので、毎日のように日本側とコミュニケーションを取り、こちらの進捗を伝えて、日本市場でどういったことが通用するか、情報のアップデートをしています。

―米国で実証されているという判断基準は何ですか。優秀なVCがついているということや、顧客がついているということが基準になりますか。

それも含めて全部ですね。どういうVCがついているかに加え、マネジメントチームのバックグラウンドも見ます。また、ついている顧客の領域や、有名な企業が顧客にいればそれはそれで一つの判断材料になります。あとは顧客獲得のスピードですね。どのくらいの早さで顧客がついてきているかを含めて、総合的に判断しています。

「ヨーロッパに行くよりも日本に行こう」

―規模の大きい有名なスタートアップだと、他社と既に契約を結んでいたり、小さすぎるとまだアメリカでも実績が出ていないという難しさがあると思います。どのくらいの規模のスタートアップを狙っていますか。

 まだ若い、アーリーステージのスタートアップと契約して、きちっと当社内で試し、フィードバックをして育てていくのが理想的です。ただし、実態はそこにリソースを割けませんから、アーリーステージでも少し後半の時期にある会社で、アメリカである程度の売上が立っていて、次に海外展開しようと思っているフェーズにある会社をターゲットにしています。

 そういう会社に「ヨーロッパに行くよりも日本に行こう。日本の方が売上を伸ばせるよ」と声をかけ、まず国として戦います。そして、日本で伸ばすなら日立ソリューションがベストパートナーだと思うし、日立が合わないなら、そのスタートアップに合うパートナーを探し、他社を紹介しています。

―どうやって「日本で売上を伸ばせるよ」と説得するんですか。

 アメリカ人と話をする時は、“数値”が大前提なのですが“ストーリー”も大切です。ストーリーがないと話には乗ってきません。たとえば、「日本市場はこうなっています。こういう課題を抱えている企業が潜在的にこれだけあります。その課題を解決できると、これだけの売上を見込めますが、興味ありませんか?」と提案するのです。

 日立ソリューションズの提案は、日本市場への誘いから始まります。スタートアップが「日本市場いいね」と思ってくれて、日本市場進出の優先順位が上がり、日本市場を選んでくれた時に、日立ソリューションズを選んでくれたらいいですし、当社がベストパートナーでなければ、他社を選んでくれていいよ、というスタンスで話します。
後編に続く)

※実際に内田氏が提案した際の資料
日本市場の動向、日本進出のタイミングが今であること、見込める売上規模、見込み顧客名までを“ストーリー”と“数字”で提案している。

(出典:日立ソリューションズ社 社内資料)

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