Image: Greeneye Technology
近年、農薬の過剰散布による農作物や環境への影響があらためて問題になっている。EUは2030年までに化学農薬の使用量を約50%削減することを目標にするなど、世界各国が農薬の使用量を抑えようと動いている。そんな課題を解決するイスラエル発のスタートアップがある。AIを使い、農薬の散布精度の向上と、使用量の削減に取り組むGreeneye Technology社だ。CEOのNadav Bocher氏に事業の展開や今後の見通しについて聞いた。

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除草剤コストを約60〜90%削減 業界待望の技術を開発

――御社のサービスについて教えてください。

 私たちのミッションは「農薬の使用量を劇的に削減しながら、農家の生産性と収益性を向上する」というとても大胆なものです。このミッションを、AIなど最新のテクノロジーを駆使しながら実現しようとしています。

 Greeneye Technologyの最初のチャレンジは「雑草」の問題を解決することです。雑草は農家の悩みの種で、米国では毎年約300億ドルの生産量のロスを生んでいると指摘されています。従来の雑草を駆除する方法では、除草剤など農薬を農地の全ての場所に、季節毎に散布するしかありませんでした。これは効率的ではありません。

Nadav Bocher
Greeneye Technology
Co-Founder & CEO
イスラエル国防軍の特殊部隊に15年間所属した。コンピュータービジョン / AI / 農学 / 機械工学 / ビジネスの専門的学際チームを率いて、2017年7月、Greeneye Technologyを共同創業し、CEOに就いた。

 この課題を解決するために、SSPシステムと呼ばれる農薬噴射器に取り付けるカメラモジュールと、撮影した画像を瞬時に分析するAIベースのコンピュータービジョンシステムを開発しました。私たちの技術で以下のことを実現できます。①除草剤の使用量を抑え、農家が支出する除草剤のコストを約60〜90%低減させること②効率的な農薬散布で雑草の量をコントロールし、作物の育成を促進すること③画像認識で農地のデータを集積・分析結果を提供し、生産性を高めること④世界的な農薬量削減のトレンドに対応できること(例:EUは2030年までに化学農薬の使用量の約50%の削減を目標にした)ーの4つです。

Image: Greeneye Technology

――御社の技術について、もう少し詳しく教えてください。

 我々の技術は、農薬噴射器の種類に依存しません。なぜなら、我々が提供するシステムの中にハードウェアとソフトウェア両方が搭載されているからです。詳細にお話しますと、噴射器の長さに応じて、下向きのカメラモジュールを取り付けます。カメラはGPUプロセッサー搭載のため雑草を自動的に検知できるので、検知の際にノズルが反応し、農薬を散布します。

 この技術にインターネットとの接続性は必要としません。また、36メートルほどの大きさで、時速20キロで走行する世界最大の農薬散布トラクタにも対応しています。

 「雑草をリアルタイムに自動で検知し、農薬を撒く」という技術はとても複雑で今までどの企業も製品化できていませんでした。雑草の位置を正確に把握し、農薬を散布するテクノロジーを業界は待っていました。その中でも私たちが注目されているのは、雑草を検知する精度の高さと、農薬散布の効果の高さにあります。我々は、業界にとってのゲームチェンジャーになる可能性も秘めています。

 私たちの技術を使えば、約95%の精度で雑草を見つけ、駆除することができるのです。この数字は、農地全体に農薬を散布したときとほとんど同じ効果が見られるという意味で、とても効果的なのです。さらに、Greeneye Technologyの製品を使った農家は、除草剤の使用量を約78%削減できることも明らかになりました。これは、農家の収益性を考えても非常に大きな数字であり、同時に、土壌や水質汚染を防ぐことにもつながります。

Image: Greeneye Technology

米国3州で導入スタート トウモロコシ、大豆が主 今後拡大も

――実証実験に向けて、どのようなロードマップを描いていますか。

 2017年に設立した当社は、翌2018年に初めての実験を研究室で行い、2020年には実際の農地に出て、実験を始めました。2021年には、当社初の製品販売をイスラエルで始め、2022年には、世界で初めてAI機能を搭載した農薬噴射器の商業販売をアメリカで開始する、というとても大きなマイルストーンが待っています。

 私たちの製品は、3つの鍵となる州、アイオワ州、ネブラスカ州、イリノイ州で導入されます。対象作物は、トウモロコシと大豆が主ですが、現在対象領域を拡大しているところです。

 さらに、syngenta社やFMC社等、世界有数の農薬メーカーともパートナーシップ契約を締結しています。興味深いのは、彼らがGreeneye Technologyを「脅威」として認識していないことです。私たちの存在は、今後農薬の使用に対する規制が強まる世の中でビジネスモデルを変革するチャンスでもあるのです。

 言うまでもなく、私たちの技術を使えば、農家の農薬使用量自体は減りますが、農薬メーカーにとっては付加価値の高い農薬の評価が高まることを意味するのです。また、クボタ社やヤンマー社等、農業機械メーカーとも既に契約を結んでいます。

――ビジネスを立ち上げるに至った経緯を教えてください。

 Greeneye Technologyには私を含め、3人の共同創業者がいます。私たちはイスラエル国防軍の特殊部隊にいた頃、「いつか一緒にビジネスをやろう」と話していました。全員がAIのバックグラウンドを持っていたのですが、ITの領域ではなく、「現実の問題を解決したい」という想いが私たちの総意でした。「現実の問題」には当然、農業が含まれます。

 農業の中で、1番の問題は何だろうかと考えた時に「農薬の過剰散布」だと考えました。もし、我々が、この問題を解決できれば、サステナブルな未来に向けて、ポジティブな形で社会を変えることになります。それだけでなく、収益性という観点からも、農家の生活をより良くできるのではないかと考えました。

Image: Greeneye Technology

$22Mの資金調達に成功 北米展開を強化 日本市場にも興味

――2021年12月にJVPのリードで2200万ドルの資金調達に成功しました。資金の使い道を教えてください。

 まずは、本社の営業を含むオペレーション業務に投資する予定です。北米、それからヨーロッパやアジアなどでビジネスを展開する準備をしています。またR&Dにも投資をする予定です。現在対応可能な農薬は除草剤だけですが、それ以外の農薬も散布できるような仕組みを構築したいです。

――日本市場への参入は考えていますか?

 ITの観点から見れば、Greeneye Technologyはテクノロジーの会社です。テクノロジーの発展で使用可能な農薬の種類を増やし、対応可能な作物のバラエティを広げようとしています。日本市場は大変ユニークなマーケットです。コメの生産量は世界有数ですね。ですが、我々が現在注力する北米では、トウモロコシや大豆が主流です。

 既に、日本企業とも何度か交渉をしていて、彼らは私たちにとても興味を持っています。日本市場に進出するとしたらどの作物に注力して、どの地域に参入するべきか、今のところは評価している段階です。まずは、製品のテクノロジーに磨きをかけて、対応できる範囲を広げていくことが優先されるべきだと考えています。

――日本市場に参入するとしたら、どんな会社とどのような契約を結びたいですか?

 第一に、広大な農地を有している農業企業です。なぜなら、究極的には彼らが私たちのエンドカスタマーになるからです。農業機械メーカーともお話してみたいです。既に、クボタ社の欧州部門とは交渉経験がありますが、他にも日本企業には世界でビジネスを行うグローバルメーカーがたくさんあります。彼らにぜひ、私たちのプロダクトの話をしてみたいですね。

――最後に、今後の目標を教えてください。

 農業という業界は、変革期を迎えています。これまでの農薬のあり方や使い方が根本的に見直されて、新たなテクノロジーが導入される余地も間違いなく増えるでしょう。私たちの技術の効率性や与えるインパクトは、まだ世界中でどの会社もやったことがないものです。私たちの技術で、よりサステナブルな世界を実現することに貢献できればいいですね。

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