<目次>
・三菱UFJ銀行のDX推進体制
・【事例1】米スタートアップと組んで実現した、顧客コミュニケーションのDX
・【事例2】東南アジアユニコーンGrabとの連携のねらい
・【事例3】データドリブンな金融サービスの展開
・【事例4】スタートアップ協業で印鑑票の電子化を効率化
三菱UFJ銀行のDX推進体制
三菱UFJ銀行におけるDXの推進体制は、グループCDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)を筆頭に、デジタルサービス企画部、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)からスピンアウトしたJapan Digital Design、MUFGに於けるCVCである三菱UFJイノベーションパートナーズ、Global Innovation Team(GIT)等からなります。これらのチームと信託・証券・カード等、銀行以外のMUFG各業態も含めた形で日々連携をしており、新しい事業の芽を育てていこうとしています。
なお、私が所属している米国GITは2014年に設置され、新技術・新ビジネスモデルの動向調査、活用領域・事業イメージ具体化、有望なスタートアップとのパートナーシップ構築、テック・VC等エコシステムとの連携を主な活動領域としています。
Image: 三菱UFJ銀行
チームを設置した2014年以降、MUFG全体としてもDX関連の取り組みが活発化しました。具体的には、2015年に邦銀初となるアクセラレータプログラムをスタート。2016年には、Coinbaseなどスタートアップへの戦略出資を開始し、各出資先とは現在までさまざまな協業を行っています。特にこのスタートアップ投資にあたっては、さらなる加速を目指し、2019年に三菱UFJイノベーションパートナーズをMUFG傘下のCVCとして設立しました。
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各種DXへの取組みを加速させる背景としては、事業環境の変化という点が大きいです。歴史的な低金利、外部事業者の参入、などの外部環境変化もあり、銀行業務そのものを筋肉質にする必要があります。
また、MUFG内の観点では、店舗・人員が大きく減っていきます。具体的には、本邦のMUFGでは、銀行単体で店舗総数は4割減、フルバンクサービスを提供する店舗は7割弱が姿を消します。人員についても、銀行単体で2023年度までに6,000人が自然減する見通しとなっています。ゆえに、DXを絡めたプロセス改革が待ったなしの状況ということになります。
これらに対応する形で、MUFGの主な取り組み概要としては、フロント部分での「商品開発・チャネル改革」のほか、ミドルバック領域での「業務効率化・高度化」にメインに取り組んでいます。なお、それらをきちんと回していくため、社内推進体制の構築、および、いわゆるデジタル人材の育成・拡充にも積極的に取り組んでいます。
Image: 三菱UFJ銀行
【事例1】米スタートアップと組んで実現した、顧客コミュニケーションのDX
いくつかのDX取り組み事例をご紹介します。まず、デジタルチャネルの強化では、対人コミュニケーションの方法をコロナ後のニューノーマルに対応させるべく、アメリカのMoxtraと協業を進めています。
具体的には、顧客と銀行の間に、新たなデジタルチャネルとなるコミュニケーションプラットフォームを設け、訪問ベースだった顧客とのコミュニケーションをメッセージングやビデオ会議などデジタルコミュニケーションへ切り替えるというものです。
本プラットフォームはドキュメント類の管理機能や電子署名などの取引承認機能も有しており、紙の契約書・帳票の削減、オペレーションの効率化・高度化が見込めます。まさにワンプラットフォームで「いつでもどこでも」お客さまが銀行担当者とつながることが可能となります。
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【事例2】東南アジアユニコーンGrabとの連携のねらい
続いての事例は、プラットフォーマー連携の多様化についてです。高度な金融サービスを提供するうえで重要なのは、データと密な顧客接点です。MUFGが金融サービスだけで得られるデータには質・量ともに限界があるため、顧客の行動・購買履歴データをもつプラットフォーマーとの連携は非常に魅力的です。プラットフォーマー側としても、規制産業であるため参入が難しい金融領域に早期進出できるチャンスとなります。
そんな両者の強みを活かして新たなサービス提供を行うため、2020年に東南アジア最大のユニコーン企業であるGrabと資本・業務提携を締結しました。MUFGはタイ・インドネシア・ベトナムなどの地場の銀行を傘下に持っています。Grabにとっては、MUFGとの提携が各国で金融サービスをラインナップする上で最短ルートだったと言えます。すでに様々な協業が実現しているほか、Grabと設立したAIテクノロジーラボでの共同研究活動もスタートしています。
Image: 三菱UFJ銀行
【事例3】データドリブンな金融サービスの展開
次の事例は、データドリブンな金融サービスの展開についてです。
先ほど申し上げた通り、金融サービス高度化には、多岐にわたるデータが必須です。ここでご紹介するMUFG傘下のアユタヤ銀行ですが、タイで力強く根を張って総合金融サービスを提供しているものの、いわゆる従来型のデータに頼った与信業務では、拾うことの難しいセグメントが存在していました。
その壁を、Grabと組み、彼らのプラットフォーム内のデータを用いて健全性を評価し、与信判断することで、今まで融資することが難しかったセグメント、例えばGrabのドライバー、飲食店事業者などへの融資を能動的にオファーすることが可能になりました。
また、MUFGは、イスラエルのフィンテック企業であるLiquidity Capitalと合弁会社であるMars Growth Capitalをシンガポールに設立。オルタナティブデータを活用し、成長過程にあっても創業赤字等により、従来の与信手法では金融機関からの資金調達が困難であった有力スタートアップへの融資を実現しています。
Image: 三菱UFJ銀行
【事例4】スタートアップ協業で印鑑票の電子化を効率化
最後の事例は当チームも関与している施策である、米国Ripcordとの協業です。
同社は、書類の電子化を「倉庫搬出からシュレッダーまで」を一気通貫に行うほか、データを高度に管理するプラットフォームも提供するなど、ハードウェア・ソフトウェアを絶妙に掛け合わせた、非常にユニークなビジネスモデルが特徴です。
特に有名なのは、ホチキス外しとスキャン工程を自動化している部分です。また、書類に挟んでいた間仕切りなどもデータ化するので、段ボール箱のデジタルツインが完成します。これにより、全て人手によりスキャンするのと比較すると、格段に速く・高品質で、電子化が可能です。さらには、電子化した書類をすぐに検索し利活用することもできます。
実はMUFGは世の中にRPAという言葉が浸透する前からRPAに取り組んでおり、すでに幅広い業務で活用しています。しかしながら、紙、特に外部から持ち込まれる紙書類が介在する業務については書類フォーマットが一定でないことから、正確なデータ抽出が難しく自動化に組み込むことが困難でした。
また、紙の場合、ホチキスを外す作業負荷が思いのほか大きく、電子化には手間とコストがかさむという問題もあります。例えば、書類キャビネット一本を電子化するのに業者委託だと100万円かかるイメージです。
その辺りを抜本的に変える目的で彼らとの協業に踏み切りました。最初のユースケースは全印鑑票を電子化するというプロジェクトです。業務量としては、人が4名で作業すると510年掛かる作業量なのですが、本件では30名で約5年で完遂することを目指しています。なお、MUFGのビル内に機械搬入も終わり、いよいよ最終段階の準備に入っています。
Image: 三菱UFJ銀行
MUFGでは「会社のあり方をデジタル化する」という方針を掲げています。本年4月からはデジタルサービス事業本部を立ち上げ、まさに今、さらにDXを加速させようとしています。歴史ある企業なだけに課題は多いですが、課題があるということは、DXの観点からは多くの機会があるということと、私はポジティブにとらえています。