(モデレーター:Ishin USA CEO 丸山 広大)
「au事業だけに頼ってはいけない」という危機感
―まずKDDIさんのオープンイノベーションの取り組みを紹介してもらえますか。
私は2007年にKDDIに入社して、フィーチャーフォン向けのキャリアポータルにて、グーグル社との検索広告事業を推進していました。2011年にシリコンバレーに拠点をつくることになり、送り込まれました。
それから7年間駐在して、北米のスタートアップへの出資、日本進出支援を通した事業開発をしてきました。2018年4月に本社に戻り、国内外のスタートアップへの投資、ベンチャーアクセレレータープログラムである「KDDI∞Labo」の統括を任されています。
KDDIはご存じの通りauというブランドにて、国内2位2400万人のお客さんがいます。しかし日本の人口減少、格安携帯電話にお客さんが流れていることなどから、au事業だけに頼ってはいけないという危機感が2010年ごろからありました。
当時、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行時期であり、我々が10年かけて積み上げてきたフィーチャーフォンでのビジネスモデルがすべて置き換わるところでした。ネット事業しか残らないかもしれず、通信事業以外の売上を伸ばさないといけないと考えていました。現在は売上の8割がau事業で、それ以外の部門を伸ばしていますが、その新規事業のタネを育てていくべきだということで、その一つの重要拠点としてシリコンバレーを位置づけています。
6年間で49社投資、5社グループ化
現在本社は「通信とライフデザインの融合」を長期スローガンとして掲げています。具体的には安定した通信環境を基盤としながら、様々な体験価値を増やしていこうと、銀行や保険会社、英会話スクールもグループ会社となっています。
それらのパートナーとは、パートナーファーストという考え方で連携をしています。我々の資産、顧客基盤、信用を先に提供し、パートナーのスピード、アイデア、技術が我々に返ってきて、結果、数年後にオープンイノベーションと呼ばれる新規事業に繋がればよいと考えています。
シード、アーリーのスタートアップには「KDDI∞Labo」というプログラムを2011年から半年おきにやっています。出資は伴わないのですが、アイデアを形にする、形あるものは実証実験を目指すプログラムです。
「KDDIオープンイノベーションファンド」はCVCで、日本のグローバル・ブレイン社と共同運営しています。主にアーリー、ミドルのステージのスタートアップにマイナー出資をして一緒に事業をしています。その中で、うまくいった事業に関しては我々のグループに入ってもらいます。
ファンドは6年間で49社の出資先があり、約半数は海外のスタートアップです。アメリカだけでなく、イギリス、韓国、インドの企業もあります。最終的にグループ会社化したのは5社で、アメリカのスタートアップはまだありませんが、49社中5社という割合は比較的高いと評価をもらっています。
日本にまだないものをいち早くキャッチする
―重要な点なのであらためて確認なのですが、何を目的にシリコンバレーで活動しているのでしょうか?
我々は日本市場で勝負しているので、まだ日本にないものを早くキャッチすることが重要で、それらはシリコンバレーで生まれています。
スマートフォンもそうです。我々が拠点を立ち上げた当時のミッションはファンドではなく、面白いアプリを探すことでした。あるCEOに直接、我々のためだけに日本語化したアプリを開発してくれと交渉したこともありました。世界のビジネス、サービスを日本へ届けるためには、それらが生まれているシリコンバレーに利があると考えています。
―シリコンバレーで事業開発をするためには、スタートアップとの連携は欠かせません。まず、どのように良いスタートアップを探していくのでしょうか?
アメリカでは誰もKDDIなんて知らず、当初は全く人脈もありませんでした。有望なアプリを探していたのですが、なかなか誰も会ってくれなかったのです。
投資ができないとダメだということが分かり、私が赴任した翌年にファンドを立ち上げました。そこでようやくスタートラインに立った感覚でした。それから投資実績を積み上げていく中で、投資先のスタートアップが知り合いのスタートアップを紹介してくれるなど、地道に投資を積み重ねていきましたね。
―清水さんの言う通り、日本で有名な企業もシリコンバレーでは有名とは限りません。その中で、どのようにスタートアップに対して自社を売り込むのでしょうか?
我々は日本進出を支援しているのですが、ドコモもソフトバンクもシリコンバレーに拠点を持って、我々と似たようなことをしています。さらに人数は彼らの方が多いので、どう差別化するかを常に考えていました。ある案件を3社で取り合い我々が勝ちましたが、それは我々の歴史や精神を丁寧に説明し理解してもらった結果でした。
ピッチャーもキャッチャーもいらない。全部自分でやる
―スタートアップとの協業が始まった場合、日本本社、既存の事業部との連携が必要になります。どのように橋渡しをしていますか?
いわゆるピッチャーとキャッチャーの議論ですが、私個人的にはピッチャーもキャッチャーもいらない、全部自分でやるのが一番いいと思います。
結局、自分がベンチャーのCEOと向き合っているので、彼らから見ても私が頑張っているのが見えることが大事です。私の考えはなかなか日本側には伝わらないし、日本側も主業務があるので情報をもらっても、積極的には動けない。
自分で探してきたスタートアップを、自分で事業にしていくのが一番効果的だと思いますし、スタートアップ側にもコミットしているように見えると思います。
投資先の倒産、インターン活用の失敗
―あかせる範囲でいいので失敗談を聞かせてもらえますか。
投資先が倒産することもあります。ロボットを作る会社に出資して、開発から日本展開まで準備していましたが、出荷が遅れアメリカでもうまくいかず、結局倒産してしまいました。数億円を失う結果になりましたが、この失敗から学んだことも多かったですね。
あともう一つ、ある時、若い人たちのトレンドをキャッチするためにインターンシップで大学生を雇いました。しかしシリコンバレーのインターンシップの給与はとても高いのです。我々は割り当てられた予算の中で雇ってはみたものの期待通りにいかなくて、彼も日本企業に合わず3カ月で辞めてしまったということがありました。
―フェイスブックやグーグルのインターンシップは月給50万円とか、80万円とか言われていますよね。シリコンバレーではどういった方が活躍できると思いますか。
横に立っている知らない人に平気で話しかけられる人ですね(笑)。これは非常に大事で、これができないとイベントに出る意味がありません。
あとスタートアップのCEOは非常に能力を持った人なので、彼らを尊敬しながら、伴走できるかどうかですね。日本ではスタートアップから出向いてきますが、シリコンバレーではそうではありません。こちらから出向いて目線を合わせて話ができる人が向いていると思います。