成熟してないがゆえ、日本企業が参入する余地がある
―アメリカだとVC、大学がスタートアップエコシステムをリードしていますし、イスラエルでは軍の技術や出身者をベースに、多くのスタートアップが生まれています。インドのエコシステムはどうなっており、どうすればエコシステムに入り込めるのでしょうか。
江藤:シリコンバレーと比べるとインドはシンプルだと思います。アメリカのVCのジェネラルパートナーは4、5千人いると思いますが、インドではおそらく200人ぐらいです。200人だと知り合えるレベルですし、成熟していないので、日本企業に入り込む余地は十分にあります。
ですから有力なVCと関係を持つことや、創業者が自ら投資したり、新たな事業を始めたりしているので、彼らと関係を持つことが大事でしょう。時間がかかってもそれが重要です。
―日本企業はどのようにエコシステムに入り込めますか?
村上:日本もそうですし、アメリカではさらにそうだと思いますが、ベンチャー業界はムラ社会なので、そこにしっかり入ってメンバーとして認めてもらうことが重要です。
私はプライベートでは、起業家や投資家を集めたポーカーナイトを開催したり、ウイスキーパーティーを開いたりして関係を作っています。友達になるには時間がかかりますが必要なことで、そこに近道はなく唯一の方法だと思います。
インドとの付き合いにはスピードとリスペクト
―アメリカの場合、スタートアップを発掘する際、メディアやデータベースを活用できますし、投資しているVCの序列もはっきりしているので、スタートアップを評価しやすい面があります。インドではどのようにスタートアップを発掘・評価していますか。
村上:我々は、シード対象で最初の投資家であることをモットーとしているので、自分たちでスタートアップを見つけなくてはいけません。インドは私、一人で見ているので、じゅうたん爆撃的なこともできません。
ですから、ある程度仮説をつくって探します。毎週、東京、シンガポールのパートナーと議論をして、インドで伸びそうなビジネスモデルの仮説を出し、それに合ったスタートアップを探すのです。
スタートアップの探し方としては、エンジェル投資家にそのビジネスモデルを持っている企業を教えてもらったり、データベースで探すなどです。
我々が考えているビジネスモデルに近い会社を見つけた場合、事業に関する判断はある程度終わっているので、あとは創業者がきちんと事業を作れるかどうかの判断だけです。なるべく起業家と同じスピードで事業を考えられるようにしています。
江藤:我々は有望なビジネスモデルの仮説をたててその領域の企業を自分たちで探す方法と、紹介から検討する方法があります。ヘルスケアとモバイルエンターテインメントでは自分たちで探しています。やはりデータベースで探して10社ぐらいに絞って会いにいきます。
スタートアップへの投資は経験値が重要で、企業や経営者の評価は絶対的ではなく相対的です。同じ領域で数社に会って、横比較をすることが大切です。また、会社のDNAとして、評価をする際に客観的ファクトを重視しており、結果としてある程度の数字が評価できるシリーズAを中心に投資をしています。シード投資をしている村上さんとは多少違う形になります。
―日本企業がインドのスタートアップと付き合う上で、気を付ける点はどこでしょうか。
江藤:スピードが結構、重要です。興味があるならある、ダメならダメと早く言うことです。また、インド側の期待値コントロールの意味で、日本企業では判断に時間がかかることをインド企業側に最初からきちんと伝え、お互いにできることとできないことを握ることが大事でしょう。
インド人は日本が好きですし、技術に対するリスペクトもあります。日本からのお金にも期待していると思います。ソフトウェアはともかくハードウェアはインドはまだ遅れていると考えていますから、「インドのソフトと日本のハードを組み合わせると良い」と思っている企業は多いんです。
村上:インド人は純粋ですので「興味がある」と伝えると、本当に興味があって投資してくれるのではないかと思います。ですから言葉や伝え方に気をつけることが重要です。
インドだけではないですが、スピードと相手に対するリスペクトは必要です。小さな会社だとしても、投資の検討に彼らの時間をもらっているので、対等に向き合うことや考えをしっかり伝えることは大事です。これはインドが特殊なのではなく、グローバルに当然のことといえば当然のこと。相手をリスペクトして接することは大前提です。
―インドのスタートアップと日本企業がうまく事業連携している例はありますか?
村上:インドのeスポーツの会社に、日本のゲーム会社のGameWithが投資しています。お互いに学べるものがあって、ゲーム会社がインドでeスポーツの事業を立ち上げるのに支援を得られますし、インド企業側は進んでいる日本のノウハウを得られています。
他には我が家も使っていますが、食肉のデリバリーのLiciousがあります。ここにはニチレイが投資をしていてノウハウが注入されています。食肉加工では世界の先端をいく韓国系のVCも投資をしています。注文から90分以内に真空パックでカットした肉が届くというクオリティを達成しています。
江藤:インドのヘルスケア会社と日本の保険会社の提携があります。合同で東南アジアへの進出を検討しています。
優秀で信頼できるパートナーを見つけることがカギ
―インドを市場と捉えた場合、難易度が高いようですが、攻めやすいでしょうか。もし攻めるのであればどうしたらいいでしょうか?
村上:マーケットが広大で巨大なインドではBtoCで成功するにはお金が非常にかかります。インドに軸足を置いてお金を調達しないと難しい。シェアを取りにいかないと同じビジネスをする人が現れて、マーケットを持っていかれます。狙っている領域で伸びてきたスタートアップに資金を投入して、連携しながらビジネスを作るのが1つのやり方だと思います。
BtoBはまだ可能性はあると思います。しっかりした販売拠点を作ったり、販売のパートナー企業を見つけることで可能性が高くなると思います。
とりあえずやってみるでは失敗する国なので、きちんとリサーチして常駐者を置くか、優秀で信頼のおけるインド人に権限委譲をするかでないと難しいと思います。日本からのコントロールは、文化があまりにも違う国なので簡単ではありません。
江藤:BtoCは規模とスピードの勝負なので難しいと思います。ただ、インドにいるプラットフォーマーに何かしらの付加価値をつけられるのあれば、提携という形で入ることは可能だと思います。
村上:自力でスクラッチで作るのではなく、パートナーを見つけることが重要です。どんな形であれ優秀なパートナーが大事で、日本企業の失敗例のほとんどは焦って適切なパートナーが見つけられなかったことだと思います。人選には時間もお金も掛けるべきです。
イノベーションの震源地に飛び込むなら今しかない
―最後に、インドでスタートアップとのコラボレーションを考える方へメッセージをお願いします。
村上:インドは面白い国で奥深い。そして経済成長をしているので、長い目で付き合っていくことが大事だと思います。インド企業と付き合うのであれば焦らず、地に足を付けてほしいと思います。スタートアップは伸びないことはないので、しっかり取り組めば成長は取り込めます。一緒にインドの成長を取り込めたらいいと思います。
江藤:日本企業がインドのスタートアップに入る余地はまだあると思いますが、3、4年後はおそらく駄目になるでしょう。世界的に見てイノベーションの震源地になるのはアメリカ、中国、イスラエルとインドです。インドだけはまだ可能性があるので今、入って情報収集からでも検討すると良いと思います。
村上:スタートアップの投資金額を見てもまだ7割以上は外資なので、国として外国のお金を求めている段階です。中国も以前はそうでしたが、今は国内でお金が回せるようになっています。ですからインドもこの2年が勝負。これを逃すと入れなくなると思います。