新聞社がCVCを立ち上げた理由
――まず朝日メディアラボベンチャーズの設立の経緯や取り組みを教えてください。
当社は朝日新聞社の100%子会社で、戦略子会社という位置付けになると思います。業務はベンチャーファンドの運用、新規事業開発。オープンイノベーションに関するコンサルなどにも取り組んでいます。コアメンバーは4名で、うち3名がパートナーとして投資を担当し、1人がコントローラーでファンドのバックオフィス業務全般を担っています。
CVC立ち上げにおいて外部から人材を採用しなかったのかと聞かれますが、正確には私はNTTの研究所出身、コントローラーは金融機関出身で朝日新聞に中途入社しています。ですが、会社勤めも長くなっており、ほぼ純粋培養というふうに位置付けられるかと思いますので、外部からの採用なしでCVCを立ち上げています。
その理由は、最終的に朝日新聞社にこのCVCの運用やベンチャー投資のノウハウを残していくことが1つのミッションだからです。外部からの人材を採用すると、立ち上がりはうまくいったが、最終的なノウハウが残らないというケースを見聞きしていました。朝日新聞はさまざまな形でメディア事業に携わってきたので、少なくともこの領域については誰よりも知っているのではないか。そういった視点で、外から人を採用しないで自分たちでやっていくという方針になりました。
――なぜ、CVC設立に至ったのでしょうか。社内の意思決定はどのように行われましたか?
朝日新聞社の新規事業開発の取り組みの歴史を紹介すると、2013年に社内で新規事業だけを専門で行う部門として「メディアラボ」を立ち上げました。このタイミングで国内外のファンドにLP出資をしております。朝日新聞社のバランスシートからのベンチャー投資も始めました。
少し時間が経つと、特に投資先の管理が課題になってきます。事業会社とファンドの会計基準の違いによるものですが、ベンチャーは基本赤字なので、事業会社の会計ルールとしては出資後、即減損となってしまいます。それを踏まえて、投資先管理のファンクションだけを切り出して、別ビークルにする方がいいのではないかという議論が自然と出てきました。そこでCVCに落ち着きました。ですので、社内の理解、意思決定としてスムーズにいったのかなと思います。
Image:朝日メディアラボベンチャーズ
ポートフォリオ構築の3つの柱
――投資領域についても教えてください。
1号ファンドの投資領域は3つの柱を立てて、ポートフォリオの構築を進めてきました。
1つはコンシューマー向けサービスです。キーワードとしては、D2C / サブスク、ライフスタイル、メディアといったコンシューマー向けのサービスとして1つ大きな塊を作ってきました。
2つ目は、B向けのサービスです。既存産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進したり、働き方の自由化を促進したりというキーワードで、ポートフォリオ構築を進めてきました。
3つ目が、次世代インターネットサービスで、これは主に海外の案件が該当します。メディアテクノロジーやエンタメ、次世代向けのサービス、こういったキーワードで主に海外のスタートアップを中心にポートフォリオの構築というのを進めていきました。
1号ファンドの投資先は約3分の2が国内、3分の1が海外という割合です。投資のステージごとに見ると、およそ7割ぐらいがシード、あるいはアーリーステージとなっています。
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――日本のCVCは国内スタートアップへの投資をする企業が多いですが、御社は3分の1が海外で、また全体もシード、アーリーが中心ということですが、その理由は?
ステージとしてシード、アーリーを見ているのは、端的にファンドドサイズがそれほど大きくないので、ポートフォリオを組む中で必然的にシード、アーリーにならざるを得ないことが事情としてあります。また、リターンの面でも、レイタ―で入るよりはシード、アーリーである程度ポートフォリオを組んで、リスクを下げていくことが後々のリターンを考える上でもいいという理由があります。
海外スタートアップ投資についてですが、我々の投資領域の1つである次世代インターネットサービス関連の産業はやはりアメリカが中心で、そこのトレンドを把握することが大事です。メディアテクノロジー、エンタメ周りも投資先に考えていますが、日本のスタートアップでその領域をやる方は少ないです。そういった理由で海外投資をやっています。
――野澤さんご自身の投資基準を教えていただけますか?
私自身は3つの軸で見ています。1つ目はマーケットです。投資先企業が見ているマーケットの規模感がどのぐらいのものなのか。そのマーケットのどこを取りに行こうとしてるのかを見ています。
2つ目はトラクション(traction、事業の成長性、事業成長の可能性を示す初期の実績)です。売上だったり、抱えてるユーザー数だったり、そういった点を見ております。
3つ目はチームです。どうしてその人たちが取り組まなければいけないのか、やることにどんな意味があるのか、どんな技術を持っているのか。こうした3つの軸で投資先を見ています。
メディアならではのバリューアップの仕組み
――メディアのCVCとして独自の取り組みを打ち出しているとお聞きしています。具体的な取り組みを教えていただけますか?
メディア企業のバックグラウンドを生かしたPR支援やマーケティング支援を強みに、独自の支援で投資先のバリューアップにつなげていると自負しております。
特に、我々が実際に投資先などと作り上げてきたソーシャルメディアを使ったマーケティングのノウハウを利用して、顧客のターゲットを定め、それを横展開することでユーザーを獲得している点で確実に実績が出ています。そういったところを投資先への独自支援として強みにしています。
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もう1つの特徴として、投資を受ける側を育成するところのお手伝いとして、朝日メディアアクセラレータプログラムというベンチャー支援のプログラムを2015年から実施しています。これから本格的な資金調達に入るシードからシリーズAの中でも、C向けのビジネスに取り組むスタートアップの皆さんに、マーケティングや広報PRのノウハウを提供して成長してもらう。そういったプログラムになっています。
その中でも特徴的なのが、メディアキャラバンと呼んでいる活動です。広報PRのノウハウをレクチャーした上で、メディア企業を訪問して、テレビ局であれば、ディレクターやプロデューサーの方、新聞や雑誌、ネットメディアであれば、記者や編集長といった皆さんのところで、スタートアップ側が直接プレゼンするという機会を設けています。
これは、メディア側が何か取材をしたいと思ったときに、スタートアップがその第1想起のポジションを得るという意味合いでやっている活動です。
投資する側としてどんな強みを打ち出せるか
――ソーシングする企業に対して、投資ニーズを発掘して振り向かせるには、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。
非常に難しい話かと思います。お金を出すだけでは、スタートアップはなかなか振り向いてくれません。誰から資金を調達するのか、なぜその人たちから調達するのか、という点がポイントだと思っています。
その上でも、我々はメディア企業のバックグラウンドがあるので、広報PRやマーケティングに強みがあり、その強みを認識してもらった上で、投資してほしいというような流れになると思っています。
投資する側にどういった強みがあって、これから投資したいと思っている企業に対してその強みが刺さってるポイントなのかどうか。そこがスタートアップを振り向かせるための1つのポイントだと考えています。
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――日本でも多くの企業がCVCを立ち上げ、スタートアップ投資に取り組んでいます。その傾向をどうご覧になっていますか。
なぜCVCを立ち上げてファンドを組成し投資するのか。ポイントは2つあると思っています。その1つとして、スタートアップ企業への戦略的な投資は非常に不確実性が高くて、難しいということ。この不確実性を下げるために時間をかけてポートフォリオを作って投資をするということがあると思います。
事業会社がスタートアップに出資をするとなると、よく言われるのがシナジーを求めるといった点です。すぐにシナジーが生まれるものもあるとは思いますが、多くの場合、実際のシナジーが生まれるまでに一定程度の時間が必要になります。投資してからシナジーが生まれるまでの間に、出資先が予定通りの成長をしないことや描いていた成長戦略を大幅に変更する必要が生じることがあります。
そのために時間をかけてポートフォリオを作って、不確実性を下げる。そのためにファンドを作って投資をする部分があると思っております。
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もう1つの意味として、事業会社における管理コストを下げる点にあると思います。スタートアップ投資には、皆さんご存知のように特有の商習慣があります。例えば、投資のスキームや優先株であったりとか、株式に転換する権利、日本で言えばJ-KISS、アメリカだとSAFE、そういった特有のスキームです。
あるいはそもそもの株価算定、バリュエーションの算定が曖昧といったところでの特有さもあります。この商習慣に慣れるまでには時間がかかります。
加えて、事業会社とファンドでは会計基準が違うために、特に減損のルールが厳しく、ポートフォリオを作るまでのPLへの負担が非常に大きいです。こうした事業会社における管理コストを下げる、事務手続き上の課題を少なくする、そのためにファンドで投資をする意味があるんではないかと私は考えています。我々もこういった理由で、CVCを立ち上げて、ファンドを組成することを選んで取り組んできました。
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外部から資金調達が必要な理由
――御社の1号ファンドでは、外部からもLP(Limited Partnership / 有限責任組合員)を募り、2号ファンドでは加えて個人をGP(General Partner / 無限責任組合員)とする仕組みを取ったとお聞きしています。その狙いを教えていただけますか?
1号ファンドはポートフォリオへの組み入れはほぼ終わり、2022年1月に2号ファンドを立ち上げました。そのタイミングで、社員でありながら、個人で出資をするという選択をしました。
1号ファンドのストラクチャーはいわゆる2人組合の派生型で、親会社の朝日新聞社があり、ここがLPでファンドに対してお金を出し、子会社である朝日メディアラボベンチャーズがGPとして、ファンドの運営管理に当たるスキームになっています。プラス、朝日新聞社以外の方々からも、LPとして出資いただいてファンドを大きくしたのが、1号ファンドのストラクチャーです。
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一方、2号ファンドのストラクチャーは私を含めた個人パートナー3名がコミットメントするということで、法人としての朝日メディアラボベンチャーズと、個人パートナー3名で、有限責任事業組合、LLPを組成しました。
このLLPがファンドの無限責任組合員、GPとなって、ファンドを管理運営している、いわゆる一般的なVCのスキームを取っています。
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こうしたスキームの違いがあり、意思決定フローも少し違いがあります。1号ファンドの意思決定フローはシンプルで、ソーシングしてDDして、投資委員会に諮って投資の可否を決めるというシンプルな流れになっています。
2号ファンドの意思決定フローは、投資委員会の前に、投資検討会議を開催しています。この投資検討会議において、GPであるLLPの一組合員である朝日メディアラボベンチャーズの意思決定を行い、その上で投資委員会を開いて、個人パートナー3名を含めた4人の組合員で投資の可否を決める。そういった意思決定フローになっています。
社員がGPを担う理由
――2号ファンドで社員が個人GPとして出資した理由を教えてください。
これは外部からの資金調達をするためには、個人のコミットメントが必要だということに尽きるかと思います。特に金銭的なコミットメントが外部資金の獲得のために必要だということです。では、なぜ外部から出資を募る必要があるのか。その理由は「投資の成功」と「戦略的な成果」を得るためだと考えています。
ポイントの1つはファンドサイズを大きくすることで、多様なポートフォリオを組めるようにするということ。もう1つのポイントは、多様な出資者からの出資を受けて連携することで競合のVCとの差別化を図る、というところにあります。
当社の1号ファンドから、朝日新聞社が単独のLPではなくて、テレビ局をはじめ他の企業の皆さんから出資を受けていることを理由に、LP出資者の皆さんとの接点を求めるスタートアップから投資を検討してくださいと言われることがよくあります。
多様な出資者と連携した投資活動をすることで、VCとしての強みや特長の打ち出しができ、それが魅力的な投資の機会獲得につながっていると我々は考えています。
LP出資者の皆さんと連携を図るためにコミュニケーションにも非常に力を入れています。交流の場を増やすことで、情報やノウハウを提供する。それを通じて、LPの皆さんの新規事業開発などに貢献することにもつながります。
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その例として、LPミーティングがあります。隔週で開催していて、1回はスタートアップの紹介です。我々が投資検討する / しない、投資した / しない、に関わらず、LPの皆さんに興味を持っていただけそうなスタートアップは全て紹介しています。
もう1回は、テーマ勉強会として開催しています。これまでに100回を超える勉強会を開催してきました。
LPの皆さんとの協調投資も多数あり、我々の紹介から事業買収に至ったケースもあります。当社は出資を見送ったけれども、別のLP参加企業が出資したといったようなケースも出てきております。
通常のVCファンドだと、投資を実行した後にポートフォリオ企業のみを紹介することが多いと思いますが、当社は違う形でやっている点が特徴の1つだと思っています。
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社内から出た論点とその落とし所
――個人GPについても詳しく教えてください。社内の調整も含め、どんなハードルを乗り越えてきたのでしょうか?
2号ファンドで我々は社員でありながら個人GPとして出資するということで出発しました。そこに至るまでさまざまな論点がありました。個人GPによる出資検討の経緯ですが、検討した期間は、社内のステークホルダーへの説明を始めてから約1年半かかりました。
役員会やそれに準ずるような会議での集中討議を6回ほど開催し、役員や人事管理部門、関連する部署が出席する検討会議は20回以上開き、非公式なミーティングも数十回以上やりました。それから数十項目にわたる質問表を作り、弁護士や税理士といった外部の識者へのインタビューも行い、朝日新聞社の顧問弁護士への照会もしました。
出資分配のルール、試算も数十パターン作るなど、すごく泥臭いことを長い時間やってきたのです。この検討の中、論点は大きく2つありました。
1つは報酬が発生することについての論点です。「外部から資金調達をするために、なぜ個人のGP出資が必要なのか」「給与が保証されているのに、キャリーがもらえるのはローリスクハイリターンであり、給与を減額すべきだ」「個人出資をするのは構わないが社員である以上は、その職務の対価はあくまで給与なので、給与とは別のキャピタルゲインによるリターンが発生することは認められない」「他の社員と比べると不公平であり、合理的に説明できるのか」。このような意見が出てきました。
もう1つの論点は報酬の設計についてでした。例えば、「LLP‐LPSスキームをとることの合理性はあるのか」「管理報酬とキャリーの分配ルールに合理性があるのか」「GP出資ではなく、LP出資ではだめなのか」「そもそも本社の人事給与制度に反している」「法務・税務の観点から(報酬を少なくするような)抜け道はないのか」などといった論点・意見が出てきました。
1つクリアすると、また1つ出てくるという感じで、なかなか論理的な議論ができない局面もありましたが、最終的な落とし所を見つけ、2号ファンド組成にこぎつけました。
――個人GPになると、シナジーよりも、財務リターンを重視する傾向になりますか?
大きくそこに振れたという実感はないです。ただやはり、本当にこの投資に対してリターンが出るのかに対しては、よりシビアになったという感覚は持っています。とはいえ、コーポレートとして、ファイナンシャルリターン以外のシナジー、戦略的リターンも求められているので、そのバランスの中でよりファイナンシャルリターンの確実性が高いかどうかという視点が増したという感じです。
――CVCの活動は中長期のタイムラインを見る必要がある一方、人事評価は単年度で行われます。どう整合性をとられていますか?
非常に的を射た質問ですね。2号ファンドでは、個人、社員でありながら、個人GPとして出資をするという、ある意味一般的なVCの形に一歩近づけたとは思っています。ですが、ご指摘の部分はやはり課題として残っています。
単年度で何か成果を出して評価されるというのが会社員の基本です。一方、CVCの活動はスパンが長く、例えば今は種まきの段階で刈り取るタイミングはまた先に来るという活動になります。そこをどう評価するかは一般的な企業の評価ルールに即していない部分があり、この点を今後どうしていくかが私の課題だと思っています。
CVCは「鳥かごの中のカナリア」
――親会社の本業とはあまり関係のない領域にも出資をしているようですが、その際の意思決定はどのように行っていますか。
これはCVCをどう位置付けるかにも関わってくる話だと思います。私は「CVCは鳥かごの中のカナリア」だと考えています。時間軸で見たときに、比較的手前の新しい事業であれば、事業部門が取り組むのがいいと思います。
ですが、5年先、10年先にどういった領域が当たるかということについて、正直、事業部門はなかなかそこだけに注目することはできません。その役目を誰かが担わなければいけないとすれば、それはCVCではないかと考えています。
ですので、一見すると本業とは関係ないように見えるところでも、それは5年後10年後に、もしかしたら本業と関係がある領域になっているかもしれない、といった視点で我々は投資判断をしています。将来的にメディア企業と何らかの親和性が出てくる可能性があるのではないかと、何らかの青写真を持って意思決定はしますが、その際も、実務的には通常の意思決定と何ら変わらないルール、フローでやっています。
――M&Aについてはどのような戦略を持っていますか。スタートアップの価値が高騰した後、最近はバリュエーションが少し落ち着いてきている状況ではありますが、買収などはまだやりにくい印象です。
M&Aするときに、何を目的に買収したいかによって、そのバリュエーションの算定は変わってくると思っています。ユーザーを取りたいのか、その事業や、やっているチームを取りたいのか、その目的や、買収側としてどのぐらい欲しいのかといった点からもバリュエーションの考え方が変わってくると思います。そこをまず明確にすることが基本として必要ではないでしょうか。
いろいろな案件を見ていると、その点が明確でない、ぼやっとしている印象の案件も散見されます。なぜそこを買うのか、そこを買うための意味は何なのか、その点が明確になると、お互いが納得できるようなバリュエーションが出てくると思います。
――御社の事業活動のKPIはどう設定していますか?
VCという側面から見ると、もちろんリターンを出すことになるんですけれども、頭に「C」が付いているCVCの側面としてのKPIは何かということも併せ持って考えなければいけないと思います。
CVCならファイナンシャルリターン、ストラテジックリターンのいずれに振るかという点が一般的な考え方とは思いますが、我々はそこは時系列に応じて、追うKPIが違ってくると考えています。
投資した直後は、投資先がちゃんと成長してくれるかどうかが大事な点であり、まずはファイナンシャルリターンを狙いにいくことが活動のKPIとして1つあると思っています。投資先が順調に成長していくと、LPの方々からも「あそこと組みたい」という話が自然と出てくるタイミングがあると思います。そこで初めて、今度はシナジーを作っていく、というように活動のKPIが変わっていきます。ですので、そこは時間軸で変わってくると認識しています。
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多様なLPがスタートアップの成長を促進させる
――御社にとっての戦略的リターンはどのように定義されていますか?
これは朝日新聞社にとってのリターンだと思いますが、なかなか難しい質問ですね。私としては、まだしっかりと意味あるものを返せていないというふうに認識しています。ただ、我々の投資から、本社による事業買収に至ったケースはあります。こういった活動を通して、我々の取り組みや関心を業界に伝える効果があるかと思います。それによって、今後いろいろな案件が入ってくるといった期待もあります。
スタートアップ投資に取り組んでいる皆さんはご存知だと思いますが、CVCは比較的、足が長い活動で、やったらすぐ目に見える成果が出るものではないです。一方で時間が蓄積してくると、取り組みが「ブランド」になって、「あのCVCにいけば成長に寄与してもらえる」というようなイメージや信頼が構築されていくので、長くやることが必要なのかなと思っています。形になるものを目指して、引き続きやっていきたいと思っています。
――外部からもLPを募ると、朝日新聞社単体で実施する場合と比べて、EXIT戦略の自由度が低くなることはありませんか?その辺りの調整やバランスはどう取っていますか?
いろいろなタイプのLPの皆さんに入っていただくことで、EXIT戦略は逆に自由度が増すと思います。ファンドの運営に関しては全責任をGPが担うことが基本的なルールで、一義的には我々が考えていくことではあります。ですが、投資先の成長段階において、朝日新聞社単体のLPより、例えばテレビ局などさまざまな業種の方々がLPに参加されている方が、その成長を促進する、サポートするためのオプションが増えると思います。
朝日新聞社単体だと、やれることに比較的制限があります。投資先を成長させるための多様な戦略をとれるという意味では、マルチLPの方がいいと思いますし、EXIT戦略の自由度が低くなるとは考えていません。
――野澤さんの投資基準は「マーケットの規模感」「トラクション」「チーム構成」とお話されていましたが、1つ目の「マーケットの規模感」で今注目している領域はありますか?
私個人はやはりClimate techあたりが非常に面白いと思っています。特にシリコンバレーでは、そこに大きなお金が動いていますし、VCもClimate tech向けのファンドを組成したりという動きもあります。スタンフォード大学でも新たに地球環境などサステナビリティ関連の学部を新設したそうです。産官学を上げた気候変動への対応といったところの動きが非常に活発になっているので、そこは投資の領域の1つとしてあるのかなと個人的には思っています。
朝日新聞社の事業と直結するかしないかで考えると直結はしないかもしれませんが、Climate Techは我々の生活に直結する部分でもあり、朝日新聞社も地球で活動する企業の1つだと考えると、取り組んでもいい領域だと思います。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。
やはり、日本の大企業の活動は今後の日本のスタートアップシーンを大きく左右すると思っています。その中の活動の1つとして、CVCがあります。
景気が少しダウントレンドになると、新規事業や投資の活動に停滞感が起きたりしますが、実はこういった時期こそ、投資の種まきのタイミング、活動する絶好のタイミングだと思います。
先ほどM&Aの話もありましたが、買い手からすると、バリュエーションもだいぶ落ち着いて買いやすい環境ができてきました。日本の大企業の皆さんもぜひアクティブに活動していくと、スタートアップシーンがもっともっと盛り上がっていきますし、その中心が日本の大企業であることで、世界的に見ても日本のプレゼンスが非常に上がるのではないかと期待しています。