アメリカ・シリコンバレーに本社を構え、北米・ヨーロッパを中心に世界約15ヵ国でデータ解析のプラットフォームを展開するAscend.io。多くの企業が顧客情報を中心に自社のデータを活用したサービスや製品の開発に注力する中、Ascend.ioはデータを取り込む、移動させる、統合させるといった作業を自動化・迅速化させるというSaaS型デベロッパープラットフォームを提供している。彼らのコア・コンピタンスは、クラウド時代に特化した様々な機能をプロダクトに搭載していることにある。Ascend.ioの創業者であり、CEOのSean Knapp氏に話を聞いた。

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データに携わる人たちの「生産性向上」がミッション

――御社は、どんなサービスを展開しているのでしょうか。

 Ascend.ioは、自動化に特化したデータプラットフォームを提供しています。当社のプラットフォームは2つの価値を提供しています。1つ目はデータの取り込みや変換、オーケストレーションと、データ処理とパイプラインに必要な作業を統合できる点が強みです。2つ目に、データエンジニアやアナリティクスエンジニアが接する膨大な量のメタデータを収集し、機械学習を使うことで1つにまとめたり、属性によって最適化したりすることができます。

 AWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)、Microsoft Azureという3大クラウドサービスに対応しており、自動化し、分析を加えたデータは、SnowflakeやDatabricks、BigQuery、Apache Saprkなどのデータ解析プラットフォームの上に乗せることが可能です。

 我々のサービスの顧客は、主に世界中にいるデータエンジニアやアナリティクスエンジニアです。彼らは、金融やヘルスケアなど、さまざまな企業に勤めています。当社が解決しようとしている大きな課題は「データに携わる人たちの生産性を向上させること」です。

Sean Knapp
Ascend.io
Founder & CEO
Stanford Universityでコンピュータサイエンスの学士号、修士号を取得後、Googleにソフトウェアエンジニアとして勤務。ウェブ検索、画像検索、サイトスピード、広告UIチームのテクニカルリードを務める。2007年に動画プラットフォームを展開するOoyalaを共同創業し、CTOとして勤務。複数のスタートアップのアドバイザー、投資家などとして活動した後、2015年にAscend.ioを創業し、CEOに就任。

 当社は年間を通じて複数の調査を実施していますが、ある調査結果では約95%の企業がデータ部門の人員不足に悩んでいることが明らかになっています。これは大きな問題です。なぜなら、多くの企業が自社の顧客や競合に関する情報など、ありとあらゆるデータを活用したシステムやサービスを早急に構築したいと考えているからです。

 各企業はデータを搭載したプロダクトやデータを統合した社内システムをいち早くつくろうとしていますが、データを正しく扱える能力ある人材の採用は簡単ではありません。そこで、我々のプラットフォームは顧客企業のデータチームをサポートする形で、膨大な量のデータを自動化することで統合・最適化し、彼らの生産性向上を支援するという訳です。

 ほかにも、当社が実施した調査によると、90%以上の企業のチーフデータオフィサーがデータの自動化を志向していることが分かっています。このようなニーズがある中、Ascend.ioのプラットフォームは非常に価値が高いものとなっています。

金融、メディア、家具メーカーなど多様な分野で導入広がる

――実際に、どんな企業が御社のサービスを使っているのでしょうか。

 例えば、金融業界であればDriveWealthという、APIを通じて金融事業者に投資機能を提供するFintech企業が当社のサービスを導入しています。彼らが取得するデータからインサイトを得ようとしています。また、マスコミ業界であれば、アメリカやイギリス、オーストラリアでメディアを運営するNews Corpが読者に対する高度なレコメンデーションシステムを構築するために当社のサービスを利用しています。

 また、HNI Corporationという家具や住宅用建材を生産するメーカーも我々の顧客で、サプライチェーンのリスクを当社のプラットフォームを使って分析することで工場や倉庫の生産性向上を目指しています。

 顧客数は公表していませんが、非常に多くの企業が当社の顧客となっています。業界であれば、製造業からメディア事業、IoT企業、小売業、金融、ヘルスケアとありあとあらゆる業界に私たちの顧客がいます。先ほどお話したように、今の時代はすべての企業が「データカンパニー」であると言えます。

 企業のデータエンジニアやアナリティクスエンジニアは、Ascend.ioのプラットフォーム上で、SQLやPython、Javaといった様々な言語でコーディングしますが、Acned.ioはより高い層のデベロッパープラットフォームであり、IT基盤構築のためには使われていません。

Image:Ascend.io

――競合他社とは、どのような点で差別化を図っているのでしょうか。

 Microsoftのデータベース管理システムのSQL Serverや、IBMのDataStageなど、オンプレミス(ハードウェアを自社で保有し、運用すること。Acned.ioのようなクラウドサービスとは対照的なサービス)が長年市場を牽引していたこともあり、現在のようなクラウド全盛期においても、データエンジニアリングの分野においては、有力なプラットフォームが存在しないままでした。

 そのため、当社の顧客はAscend.ioのサービスを使うまで、複数のオープンソースのツールを自分たちでまとめたり、多くのカスタムが必要になったりと、苦労が多かったのです。当社のプラットフォームは先ほどお話した通り、データ集積の自動化にも特化していて、膨大な量のデータを機械学習を活用して最適化したり、まとめたりすることもできるのです。さらに、そのデータをクラウドサービスへ移行できます。

 1つのプラットフォームでここまで多くの機能が搭載されているのは当社のサービスだけです。つまり、クラウド時代に対応した、データエンジニアリングに必要な様々な機能を搭載していることがAscend.ioの強みであり、同業他社との差別化のポイントです。

プロダクトの機能向上へ APACはじめ海外展開にも投資 

――御社は2022年4月のシリーズBラウンドで、Tiger Global Managementなどから3100万ドル(約42億円)の資金調達に成功しました。資金の使い道を教えてください。

 まずは、当社のプラットフォームの増強に投資していきます。データエコシステムの多様化にも取り組んでいきたいですね。また、海外への事業拡大のためにも資金を使っていきます。私たちの顧客の多くが、アメリカやカナダといった北米にいますが、ヨーロッパ諸国の顧客数も増加中です。現在、約15カ国に展開しており、オーストラリアにも顧客がいますが、今後はアジア太平洋地域により積極的に投資していく考えです。

――日本市場への進出は考えていますか?

 日本市場への興味は尽きませんし、参入については積極的に検討しています。日本のテクノロジーの浸透具合、企業の洗練度を見れば明らかなように、日本市場は高度な自動化レイヤーを提供できるAscend.ioのようなデータの自動化技術が高く評価され、受け入れられる素地は十分にあると考えています。仮に今後、日本市場に参入するとしたら、直接進出する形になるか、日本の大手企業と何らかのアライアンスを組むかといった選択肢を考えることになると思いますが、現時点では特に決まったものはありません。

Image:Ascend.io

――今後、日本の大企業との協業や、パートナーシップ構築の可能性はありますか。

 事業会社からの投資や、アライアンスの締結など、様々な可能性が考えられるでしょう。ですが、私たちはまだスタートアップの段階であり、まずは北米やヨーロッパを中心に、足元を固めていく時期にあると考えています。それに、日本は諸外国と比較すると言語の壁もあるなど、とてもユニークな市場です。日本市場でのビジネスを開始すると決めたときに、どんなタイプの関係性がベストかをお伝えしたいと考えています。

――日本市場全体を、どう分析していますか?

 日本は魅力的な市場であるとみています。最近はデータ市場において、多額の投資をしているケースが目立ちます。同業他社でも過去に日本で成功した例があります。しかし、まだ「レガシープレイヤー」が市場でドミナントを築いているのが現状です。今後、日本のデータ産業そのものが進化して、Ascend.ioのような新しいサービスが受け入れられる余地が出てくることを期待しています。

――最後に、長期的な目標を教えてください。

 最適なデータ解析プラットフォームを企業に提供し続けることです。テクノロジーの分野においては、民主化、つまりより多くの人が技術を使えるようになることが大きなテーマであると常に考えています。Ascend.ioが開発するテクノロジーを通じて、より多くの人に、生産性の高いデータ解析プラットフォームを提供することが長期的な目標です。

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