庭に来る鳥の名前を知り、何を食べるのかを尋ねる。いつもの訪問者に名前をつけ、再び姿を見せたら知らせてもらう。AI搭載の野鳥給餌器を開発するBird Buddy(バード・バディ)は、そんな身近な自然との出会いを届けている。
スロベニアと米国にチームを持つ同社は、庭先で野鳥を観察する「バックヤード・バーディング」の愛好家を中心に利用を広げ、取材時点でアプリの登録ユーザーは100万人超、稼働端末は約50万台に達した。
目指すのは、鳥を撮影する便利な道具にとどまらず、人と自然の関係を深めること。さまざまなAIモデルを組み合わせた体験づくりから、ユーザーと進める屋外製品の開発、日本での協業への期待まで、共同創業者兼CEOのフランツィ・ジダール(Franci Zidar)氏に聞いた。
目次
・「庭先の野鳥観察」という巨大市場
・鳥は現実世界のポケモンだ
・自然との出会いから逆算する製品設計
・AIモデルを組み合わせて体験をつくる
・屋外製品を育てるユーザーの力
・給餌器から身近な自然へ広がる構想
・日本での販売とサポートを担うパートナーに期待
・自然に目を向けるきっかけをつくる
「庭先の野鳥観察」という巨大市場
―まず、バード・バディが対象とする市場と、米国の野鳥観察文化について教えてください。
会社を立ち上げたとき、まず驚いたのは市場の大きさでした。米国では、自宅の庭に給餌器や巣箱を置き、野鳥を楽しむ「バックヤード・バーディング」が、とても人気のある屋外の趣味なのです。
北米では、庭に色鮮やかで美しい鳥がやってきます。ヨーロッパにもそうした文化はありますが、米国の庭先は、より多彩な生命を感じられる場所だと思います。ここが私たちの主な市場です。
―バードウォッチングといえば、従来は退職後のシニア層の静かな趣味という印象もありました。
歴史的には、高齢者や退職した人たちの趣味と見られてきました。ただ、今ではそれが当たり前ではなくなっています。自宅の周りで何が起きているのかに興味を持つ若い人たちもいます。バード・バディというブランドやコミュニティが、この趣味を多くの人にとって身近にする手助けをしてきたと感じています。
鳥は現実世界のポケモンだ
―以前はゲーム関連の会社を立ち上げていたそうですね。なぜ野鳥の給餌器に取り組むことになったのでしょうか。
私はこれまで、テクノロジーと実世界、自然が交わる領域で事業をつくってきました。バード・バディの前に立ち上げたのは、『ポケモンGO』のような実世界のゲームをつくれるプラットフォームです。チャット形式の物語やAR(拡張現実)の要素を取り入れられるものでした。
その会社を離れて次に取り組むことを探していたとき、偶然出会ったのが庭先の野鳥観察でした。私は鳥を、現実世界のポケモンのように捉えていたのです。
外には色鮮やかな生き物が暮らしているのに、私たちはそのことをあまり知りません。場所によって出会える鳥も違いますし、すぐに飛び去ってしまいます。テクノロジーを使って人々を自然や実世界に近づけたいという私の関心に、とても自然に重なる領域でした。
―開発を始めた当初から、現在のようなAIの活用を考えていたのですか。
当初は、AIでできることとして、主に鳥の種類を識別する機能を考えていました。その後、会社の成長と並行してAIが急速に進化し、できることが大きく広がったのは幸運でした。
多くの人にとって、自然は少しブラックボックスのようなものです。庭にきれいな鳥が来ても、種類が分からない。種類を知っていても、どこから渡ってくるのか、オスなのかメスなのかまでは分からない。詳しく調べるために、長い解説を読み込む必要もありました。
AIがあれば、知りたいことにすぐたどり着ける、楽しく親しみやすい体験をつくれます。自然を理解し、学び、より大切に思うための入り口になれると考えています。
Image : Bird Buddy AIカメラと太陽光パネルを搭載したスマート野鳥用餌台『Bird Buddy Pro Solar Smart Bird Feeder』
自然との出会いから逆算する製品設計
―他のスマート給餌器との違いは、どこにありますか。
私が見ている限り、競合製品の多くは、家庭用の防犯カメラを給餌器に組み込んだものです。アプリも防犯用のものを使っているケースが多く、鳥を見るのも、荷物を届ける人を見るのも同じ仕組みになっています。独自の体験をつくろうとする競合もありますが、私たちは野鳥観察のための設計を重視しています。
庭に置きたくなる製品のデザイン、写真や動画の質、アプリの使い心地まで、自然とつながりたい人に向けて一から考えています。既存のカメラを転用するのではなく、この用途に合わせて設計していることが、撮影結果にも表れていると思います。
| 比較項目 | 一般的な競合製品 | Bird Buddy |
|---|---|---|
| ハードウェア設計 | 市販の家庭用防犯カメラを給餌器ケースに流用 | 至近距離・専用画角に特化したゼロベース開発 |
| ユーザー体験(UX) | 防犯通知と鳥の飛来が同列に扱われる | 自然との触れ合い・観察に特化した魔法のようなUX |
| ソフトウェア機能 | 単純な動体検知・映像録画 | 1万種の識別、鳥とのチャット、個体追跡機能 |
| 目指すゴール | ガジェットとしての映像確認 | 人間と自然の関係性の再定義・アテンションの奪還 |
―アプリでは、どのようなことができるのでしょうか。
鳥が給餌器に止まると写真を撮り、AIが種類を識別します。取材時点で約1万種の鳥のプロフィールを用意しており、読みやすい説明でその鳥について学べます。
鳥を相手にするような感覚で、AIに質問することもできます。例えばショウジョウコウカンチョウが来たら、「何が好きなの?」と聞くと、「ひまわりの種が好きだよ」と答える。巣箱が必要なのかといったことについても、案内を受けられます。
鳥に名前をつける機能もあります。お気に入りの鳥を「ボブ」と名付け、再訪したときにAIが識別できれば、ボブが戻ってきたと通知します。鳥に名前をつけるユーザーは、利用頻度や継続率が高い傾向があります。
さらに、ボブが近所のユーザーの給餌器を訪れたことが分かる、といった体験も考えられます。生成AIでそこに物語を添えることも含め、数年前には想像できなかった可能性が広がっています。
Image : Bird Buddy 餌を食べにきたヨーロッパシジュウカラ
AIモデルを組み合わせて体験をつくる
―AIシステムは、自社で開発しているのでしょうか。
初期には自社でモデルをつくっていましたが、直近の1〜2年は、外部のさまざまなモデルやシステムを積極的に試すようになりました。今は一つのモデルに頼るよりも、複数のモデルやサービスをどう組み合わせるかに力を入れています。
OpenAIやAnthropicのような企業と、基盤モデルの開発で競争するのは難しい。私たちの役割は、それらを創造的に組み合わせることです。まず、ユーザーに届けたい体験を明確にする。そのうえで、思い描いた通りに動くよう、技術を組み合わせていきます。
―利用者や端末の規模は、どのくらいになっていますか。
アプリの登録ユーザーは100万人を超え、米国を中心に約50万台のバード・バディが稼働しています。写真は月間約1,000万枚生まれています。
ユーザーがきれいな写真や動画を友人や家族に共有することが、新しい顧客の獲得につながっています。AIを使ってより魅力的な体験をつくり、それがまた共有される。この好循環をどう育てるかが、私たちにとって大きな機会です。
―蓄積された鳥類データは、外部の研究機関や保護活動などにも活用されているのですか?
鳥の目撃情報をまとめたスプレッドシートを、毎月公開しています。位置情報は匿名化し、研究者にも利用できる形で提供しています。
ただ、外部の研究者が深く活用している例は、まだあまり見ていません。むしろ私たちのユーザーが、データを使ってさまざまなことを試しています。蓄積した情報を、自然とのつながりを深める体験にどう生かすかを考えています。
Image : Bird Buddy
屋外製品を育てるユーザーの力
―製品開発において、ユーザーのコミュニティはどのような役割を担っていますか。
バード・バディのような屋外製品をつくるのは難しいことです。半年ほど使い、冬、春、夏と季節を経験して初めて、どう動くかが分かります。室内用の製品のように、閉じた環境だけで開発するわけにはいきません。
そこで、初期から応援してくれているユーザーや熱心なファンに試作品を渡し、しばらく使ってもらいます。その意見を設計に反映することが欠かせません。野鳥観察は、人と話したり体験を共有したりしたくなる趣味でもあり、コミュニティを育てられること自体に魅力があります。
―ユーザーとのやり取りで、印象に残っていることはありますか。
初期の顧客インタビューで、野鳥に餌を与えることを、とても「与える喜び」のある行為だと説明してくれた方がいました。
給餌器に種を入れて仕事に出かけ、帰ってくると種がなくなっている。鳥を一羽も見ていなくても、何かが来て、食べて、自分がその世話をしたと分かる。それだけでうれしくなるのです。
私たちのコミュニティには、親切で温かい人たちが集まっています。もともと特別なこの体験に、さらに価値を加え、自然とのつながりを深めることが私たちの仕事だと思います。
Image : Bird Buddy 本体に追加して購入できる別売りのアクセサリーも多彩。写真は野鳥用Water Fountain(給水器)
給餌器から身近な自然へ広がる構想
―今後、製品をどのように広げていくのでしょうか。
給餌器のデザインを20種類もつくりたいわけではありません。バード・バディといえばこれだと分かる、一つの象徴的な製品をつくりたい。私たちは、対象を絞ることを重視しています。
最大の市場である米国のユーザーを優先し、主力製品に続いて、花の蜜を飲むハチドリ向けの給餌器を投入しました。人気のある製品に育っています。続く水浴び器「Bird Bath」は、ポンプを備えた製品なので、慎重に進めています。取材時点で約1万台を出荷し、使われ方を確認しているところです。
短期的には、「Bird Buddy Home」の出荷がすでに始まっています。さらに、小型で手頃な価格の製品も計画しています。鳥以外の身近な生き物へ体験を広げるプロジェクトも進めており、2027年半ばごろの投入を想定しています。
―長期的に実現したい製品はありますか。
究極の目標の一つは、どんな給餌器にも取り付けられる、魅力的なカメラをつくることです。
愛好家の中には、邸宅や城の形をした木製の給餌器に、数千ドルをかける人もいます。そうした給餌器にも取り付けられるカメラがあれば、それぞれが工夫を楽しみながら、バード・バディの体験に参加できます。DIYの文化を後押しし、その一部になりたいのです。
―鳥以外にも、体験を広げているそうですね。
身近な木に名前をつけ、自分の木として登録できるアプリの初期ベータ版を、すでに公開しています。
木は身近にあり、人々に親しまれていますし、鳥もそこで暮らしています。木や鳥との関係をつなぎ合わせ、人と自然とのつながりを継続的に感じられる体験をつくりたい。鳥で実現してきたことを、周りのさまざまな生き物にも広げていく考えです。
日本での販売とサポートを担うパートナーに期待
―日本市場をどのように見ていますか。
私が知る限り、アジアでは日本、韓国、台湾などに、野鳥観察や餌付けの文化が根付いていると感じています。日本市場にも関心があります。
取材時点で売上の約90%は米国です。欧州やアジアにも需要はありますが、米国だけでも対応すべき需要が大きく、運営の負担を増やさないために集中してきました。欧州と米国を中心とするチームで、遠く離れた地域の顧客を十分にサポートするのは簡単ではありません。
―どのようなパートナーとの協業を希望していますか。
協業にはとても前向きです。在庫を購入し、販売やカスタマーサポートなどを担っていただける企業があれば、ぜひお話ししたいと思っています。こうした製品を日本市場に届けた経験があり、製品を調達して販売するまでを幅広く担えるパートナーを歓迎します。
Image : Bird Buddy
自然に目を向けるきっかけをつくる
―最終的に、バード・バディでどのようなことを実現したいのでしょうか。
現代では、人々の関心や注意が大きな価値を持ち、誰もがそれを得ようと競っています。その中で、自然にはなかなか目が向きません。美しく、面白く、多くの人に大切にされているのに、私たちは日々さまざまな情報に気を取られてしまうのです。
そこから少し離れ、身近な自然に目を向けられるような体験をつくりたい。鳥に餌を与える人、植物に水をやる人、木を大切にする人は、すでにたくさんいます。自然を好きになるよう、一から教える必要はありません。
身近な生き物をもっと知りたい、つながりたいと思ったときに、それを楽しく、簡単にできる入り口をつくる。自然が私たちの関心を引きつけられるようにすることが、私たちの目指す姿です。
Image : Bird Buddy