目次
・南アジアからファッション業界を変革
・技術とネットワークで納期短縮を実現
・「中国以外」を求めるグローバル企業の選択肢に
南アジアからファッション業界を変革
ミトラ氏がグローヨの構想を描いたきっかけは、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーでの業務経験と、その後のファッションテック企業での実務経験にある。
「私はムンバイ出身で、大学では経済学を学びました。学生時代から社ベイン・アンド・カンパニーのプライベートエクイティチームに参加し、その後シンガポールのファッションテック系スタートアップで働く機会を得ました。ファッション業界でのこの経験が、グローヨのアイデアにつながったのです」
ファッション業界が直面する大きな構造変化と課題を目の当たりにしたことが、起業の決め手となった。
「グローヨを立ち上げた理由は大きく2つあります。ひとつは、ファストファッションの台頭によって業界全体が急速に変化していると感じたことです」その「変化」とは、ザラやH&Mといったブランドが短いサイクルで新商品を投入し続け、消費者の需要が多様化かつ加速している現象を指す。
「もうひとつは、その変化がサプライチェーンに大きな混乱をもたらしていたことです。将来のファッション業界には、グローバル規模でテクノロジーを活用したサプライチェーンが不可欠であり、そこに大きなチャンスがあると考えました」
グローヨの事業モデルは、単なるブランドと工場のマッチングを超えた、エンドツーエンドのサプライチェーン管理にある。フロントエンドでは、マンゴー(Mango)、ベストセラー・グループ(Bestseller Group)、インディテックス(Zaraの親会社)、Ross Stores(米国の大手ディスカウントチェーン)といった企業に対し、デザインから製造業者の選定、品質基準に沿った出荷までを一括で提供する。「『注文したら、あとは忘れてください』というソリューションを提供しています」とミトラ氏は説明する。
一方のバックエンドでは、インドやバングラデシュを中心とした中小規模の製造業者(SME)と連携し、世界有数の大手バイヤーとの取引やグローバル展開を後押ししている。
収益モデルはマージン型だ。ミトラ氏は例として、「顧客からシャツを1枚5ドルで受注した場合、3.5〜4ドルで製造します。その差額が私たちの粗利益になります」と語る。

技術とネットワークで納期短縮を実現
グローヨはブランド、SMEの双方に対して、テクノロジーを駆使したシステムとサービスを提供している。同社が開発した複数のツールは、これまで手作業に依存していた工程を大幅に自動化し、企画・デザインから製造、納品までのプロセスを合理化している。
その一例が、ブランド向けの「グローヨ・デザイン・スタジオ(Groyyo Design Studio)」だ。リアルタイムでデザインを生成でき、ミトラ氏は「春物のレディースウェアコレクションが欲しいと入力するだけで、AIが即座に関連するデザインを提示します」と説明する。
このツールはデザイン生成にとどまらない。「『3Dトライオン機能』を使えば、ドレスが実際にどう見えるかを試せます。色やデザイン要素の変更も可能です」とミトラ氏は続ける。
さらに、製造現場向けにはSaaSツールを提供。原材料の入荷から最終生産までの工程をデジタル化し、工場オーナーはSKU(ストック・キーピング・ユニット)単位・時間単位で生産の進捗や予定をリアルタイムに把握できる。
競合についてミトラ氏は「テクノロジーを活用した領域では大きな競争相手はいません。もし競争があるとすれば、長年テクノロジーを使わずにやってきた従来型の企業です」と語る。
同社の差別化ポイントは2つある。第1に、分断され不透明だったこの業界で、テクノロジーを本格的に導入した先駆けであること。第2に、数多くの小規模ながら優れた製造業者と連携し、スピードと柔軟性に優れたサプライチェーンを構築していることだ。
こうした取り組みは納期短縮に顕著な成果を上げている。「業界平均では注文から納品まで75〜90日かかりますが、グローヨでは45〜60日で完了します」と、ミトラ氏は胸を張る。
現在、同社は約175名の体制で、デリー、ムンバイ、アブダビ、ダッカ、ロンドン、イスタンブール、ニューヨークに拠点を展開。ブランド側では主に英国・欧州・中東の急成長ファストファッションブランドと取引している。
一方、製造業者とのパートナーシップでは品質管理を重視し、インド、バングラデシュ、ベトナムを中心に小規模事業者と協業。新たに提携する際は社内コンプライアンスチームが厳格な基準でチェックし、必要なテクノロジーツールを導入した上でビジネスを開始する。ミトラ氏は「適切な製造業者を確保することがサプライチェーン全体のスピードや効率性を高める鍵です」と強調する。
image : Groyyo 「Groyyo Design Studio」HP
「中国以外」を求めるグローバル企業の選択肢に
グローヨは着実に成長を続け、収益性でも業界トップクラスを誇る。「現在、約30%のマージンを確保しています。これは業界内でも最高水準のひとつです。また純利益も黒字で、このエコシステムにおいて黒字のスタートアップは数少ないのではないでしょうか」とミトラ氏は胸を張る。
事業はすでに14カ国に広がり、さらなる飛躍を視野に入れている。「26年度には売上1億1,000万ドルを目指しており、これを達成できれば24年度比で約200%の成長となります」と見通しを語る。
今後の戦略としては、供給側でベトナムやスリランカでのプレゼンス強化に加え、インドネシアやトルコへの進出を計画。長期的には、中国以外の調達先を求めるグローバル企業にとって「あらゆるカテゴリーを1社でまかなえる」ワンストップショップとなることを目指している。
一方で、成長に向けた最大の課題は人材確保だ。「適切な人材を得られればマイルストーンを迅速に達成できますが、逆に誤った人材を採用すれば後退してしまいます」とミトラ氏は率直に語る。
世界展開の中で、日本市場も重要なターゲットに位置づけている。「日本は世界で最も成長スピードの速い小売市場のひとつです。将来的に大手ファッションブランドと協業できれば、大きな機会になるでしょう」と意欲を示す。さらに供給側についても、「日本はファッションでよく使われる独自の高品質な生地を生産しており、日本のSMEともぜひ提携したいです」と期待を寄せる。
同社の長期ビジョンは、ブランドにとって包括的なソリューションプロバイダーとなることだ。「完全にテクノロジー対応したワンストップソリューションを提供できる企業こそ、大きな価値を創造できると考えています。私たちはその企業になりたいのです」と語る。
事業領域もアパレルにとどまらない。「ザラのようにファッション、ホーム用品、アクセサリーを展開するブランドに対して、グローヨは1社ですべての調達をまかなえるパートナーを目指しています」
インド、バングラデシュ、ベトナムだけでもファッション輸出は約1,000億ドル市場にのぼる。この巨大市場でトップを取るという野心が、グローヨの挑戦を後押ししている。
最後にミトラ氏は、日本企業へのメッセージをこう締めくくった。
「ファッション業界はいま大きな変革期を迎えています。不確実な要素も多いですが、それは同時に大きなチャンスでもあります。私たちと共に成長したい、グローヨと共に未来を切り拓きたいという企業とのパートナーシップを心から楽しみにしています」