目次
・パープレキシティとGoogle検索の違いとは
・ウィキペディアとChatGPTが子供を生んだ!?
・人間特有の「好奇心」、それを満たす「質問」
・ソフトバンクとの戦略的提携に期待すること
・日本で「パープレ」と呼ばれる存在に
パープレキシティとGoogle検索の違いとは
―ソフトバンクとの戦略的提携で、日本でのパープレキシティの注目度が一気に上がっています。まず素朴な疑問として、パープレキシティでの検索と、Googleでの検索にはどのような違いがあるのですか。
Googleで検索すると、検索キーワードに関連するウェブサイトのリストが表示されますよね。いわゆる「10個のブルーリンク」と呼ばれるもので、検索者はリンクを1つ1つ開いて、探したい情報と検索結果が合っているかを確認する必要があります。この20年近くこの方法は変わっておらず、これは「サーチエンジン(検索エンジン)」として定義されてきました。
しかし、パープレキシティはアプローチが異なります。質問に対する「答え」を提示するのです。私たちのAIはウェブから関連情報を読み解き、誰かが皆さんの代わりにブラウズしたかのように回答を出し、語りかけるようにユーザーに提示します。私たちは「アンサーエンジン」です。パープレキシティは情報への最短ルートで、検索エンジンが車だとしたら、アンサーエンジンは新幹線くらいの速さです。
日本でもパープレキシティでたくさんの情報収集をしていると語るアラビンド氏(TECHBLITZ編集部撮影)
―実際の使用感など、より具体的な説明をお願いします。
例えば、このホテルの窓から庭園(浜離宮恩賜庭園)が見えますよね。私はサンフランシスコにある日本庭園の大ファンで、初めて日本に来たからには本物の日本庭園に行きたいと思い、パープレキシティにあの庭園の開園時間を尋ねました。すると、開園時間は午前9時から午後5時までで入園料が必要だと書かれていたので、その流れで、入園料の詳細をさらに質問したり、他にも有名な日本庭園があるかを追加で尋ねると、たくさんの回答を提示してくれました。
それから、部屋から東京タワーも見えたのですぐに調べてみたんです。いつ建てられたのか、どれくらいの期間で建てられたのか、建設に何人が関わったのかなどを知りたかった。1年半の工期で完成したと知ってすごく驚きました。もちろんエッフェル塔からの影響を受けているけど、かなり違う点も多い。ラジオやテレビの電波を送信するために電波塔として建てられたという理由が出てきて、日本は本当にすごいなと思いました。延べ22万もの人々が協力してあの規模のプロジェクトを短期間で完成させた、という知識もパープレキシティから得られました。
東京でコーヒーを飲むのにベストなエリア、おすすめのディナースポット、最高の日本酒はどこで手に入るか、日本の人口についてなど、本当にたくさんのことを質問しています。実際にお店に行ってメニューを開くと価格が円表示なので、質問を通して米国ドルへの換算だったり、それに関連した全ての計算も任せています。
このような情報収集や計算などが、パープレキシティというアプリだけで完結できるわけです。これらの機能はGoogleでも断片的になら利用できますが、たくさんの質問に答え、会話し、さらに追加で質問するというシームレスな体験はGoogleではできないものです。
ウィキペディアとChatGPTが子供を生んだ!?
―確かにパープレキシティを使っていると、まるで会話をしているような検索体験が得られて新鮮です。回答の精度や正確性についてのこだわりは。
AI検索結果の正確性を最優先にして、皆さんが誤情報を得ることのないようにしています。ユーザーの質問に対して、常に関連した情報源をピックアップし、その情報源の内容のみを使って回答を書き、自分たちで作り上げた内容は書きません。
そして、必ずユーザーに情報源も提供しています。検索結果にソース一覧を表示し、AI検索が何を参照したかを正確に知ることができます。そうして間違いを減らし、ハルシネーションを回避するために最善を尽くしています。
―アラビンドさんは研究者出身というバックグラウンドをお持ちですが、学術論文の執筆にも似た考え方ですね。
その通りです。論文を書くにあたって最初に教え込まれることは、引用を提示することが可能な文章だけを書くということ。記者や編集者も同じで、記事に何でも好きなことを書いて良いわけではなく、必ずインタビューした内容に基づいていますよね。こうした考え方は、ハルシネーションを減らすのに役立つと思っています。
このように情報源を明示するスタイルはウィキペディア的ですが、人間のように会話できる部分はChatGPT的です。パープレキシティとは何なのかを言い表すなら、「ウィキペディアとChatGPTが授かったベイビー」がベストだと思います。
―新たな世代であると。
そう、新たな世代の検索のあり方です。
ハルシネーションを回避するための工夫を説明するアラビンド氏(TECHBLITZ編集部撮影)
人間特有の「好奇心」、それを満たす「質問」
―パープレキシティは1つの質問に対する回答だけでなく、さらにその先の情報にリーチできるような質問も提案してくれるのが非常に便利だと感じています。
そうなんです。こんな慣用句がありまして、「人を開眼させるのはそこにある答えではなく、質問そのものである(It is not the answer that enlightens, but the question)」。他にも「賢人とはすべての答えを持っている者ではなく、正しく質問できる者である(The wise man is not the one who knows all the answers, but ask the right questions)というものです。
パープレキシティは、根源的に「好奇心」に関する会社です。AIについて議論する時、必ず「AIは人間にとって代わるのか」という議題が俎上に載せられますが、人間的な資質として人間にだけ宿るのは好奇心だと考えています。
AIはさまざまな質問に回答できますが、その質問を考えるのは人間です。どのトピックに興味を持つかを決めているのも人間です。こうした根源的な好奇心と探求の精神は人間特有のもので、それに応えるプロダクトが必要です。私たちの製品がその好奇心に答え、人々がより好奇心旺盛になり、より多くの知識を求め、正しい情報を得て、あらゆることに対してより良い判断を下せるようになることを願っています。
ソフトバンクとの戦略的提携に期待すること
―先日、ソフトバンクとの戦略的提携が発表されました。この提携に期待することはなんですか。
ソフトバンクとの提携を通じて、ソフトバンクの加入者に無料で1年間、パープレキシティのサブスクリプションプランを提供することができます。これにより、日本の多くのユーザーにパープレキシティを知ってもらい、試してもらうことができます。
サービスの通常価格は年間2万9,500円からですが、これを無料で提供させていただき、今後さらに改善していく予定です。1年後には収益を共有し、企業向けの提携なども視野に入れています。日本はパープレキシティにとって収益の多い市場の1つであり、ソフトバンクは適切なパートナーでした。
アジアでは他に、韓国でSKテレコムと提携を締結していて、現在は日本と韓国の2カ国に注力しているという形です。私自身がインド出身なので、いずれインドでも適切なパートナーを選ぶつもりです。各国で独占的に提携するパートナーを選びたいと考えています。その提携相手が決まり次第、インドでも同様の展開をしていきたいですね。
image: Softbank
―日本がパープレキシティのアーリーアダプターとは驚きです。
私は全く驚きませんよ。日本は常に新しい技術に興味を持つ、好奇心旺盛な国です。新しい技術を取り入れ、学ぶことを好む国であるため、生成AIやAI検索を取り入れるのは自然な流れだと思います。このパートナーシップを通じて、日本でもさらに成長することを期待しています。
―ちなみに、孫正義氏とはすでにお会いされたのでしょうか。
いえ、まだ会ったことはないです。彼は偉人なので、ぜひお会いしてみたいですね。直接お話ししたこともないのですが、パープレキシティの存在は認知してくれているようです。
私は彼の大ファンで、小さなソフトウェア販売会社から始めて、ソフトバンクを巨大企業へ成長させたことに感銘を受けています。日本ではソフトバンクが広く知られていますが、小さなスタートから新しいトレンドに常に対応し続けてきました。インターネットのブロードバンド、モバイル通信、検索領域でもYahoo!を日本に導入するなど、常に興味深い取り組みを行っています。今や世界的に知られた投資家です。パープレキシティもまた、大きな成功の一里塚となれるよう期待しています。
日本で「パープレ」と呼ばれる存在に
―日本でどんな存在になっていきたいとお考えですか。
皆さん、最初はパープレキシティが複雑だと思われるかもしれません。しかし、生活に馴染んできた便利なものは最初は複雑だったという歴史があります。日本でスーパーマーケットが「スーパー」となり、コンビニエンスストアが「コンビニ」と呼ばれて皆さんの生活に馴染んだように、パープレキシティも「パープレ」と呼ばれ、愛される存在になっていきたいです。パープレキシティから皆さんが何を学んでいただけるか、本当にわくわくしています。
※「創業2年のパープレキシティが挑む、『Google』という常識の再考 CEO来日インタビュー後編」に続きます。