ビルや高層マンションの建設現場の写真を何万枚も撮影して、手書きの撮影情報と一緒にこれを管理する。これだけを聞いても大変さが伝わってくるが、建設現場ではこうしたさまざまな施工管理が長らくアナログで行われ、その煩雑さが現場のリソースを圧迫してきた。フォトラクション(本社:東京都品川区)はこの課題を解決するべく、建設生産支援クラウドサービス「Photoruction(フォトラクション)」を提供し、建設現場のデジタル化に貢献。2016年の創業以降、国内30万件の建設プロジェクトで利用されている。竹中工務店を経て同社を創業した代表取締役CEOの中島 貴春氏に、建設業界の課題や今後の展開について聞いた。

目次
建設現場にはびこる課題とは
ゼネコン時代に知った現場の苦労
業界出身者が多いから、かゆい所に手が届く
水道工事版の研究開発や保険会社との協業も

建設現場にはびこる課題とは

―これまで、建設工事の現場にどのような課題があったのでしょうか。

 建設工事の現場監督は建設の進捗管理を行いますが、これがかなり煩雑です。職人が作成したものが適切に完成しているか、品質が保たれているかなどを検査する必要があり、建設プロジェクトマネジメントにおいては、本当にさまざまな進捗確認が求められます。

 確認作業には、多くの図面や写真が使用され、1つの建物を建てる過程で何万枚もの写真が撮影されることがあります。また、撮影時には、どのような作業をいつどのように行ったかを記載した黒板を職人が手に持ち、現場と一緒に写す必要があります。撮影された写真は、アルバムにまとめられ、工事写真台帳として保管されるのですが、非常にアナログで煩雑な作業です。

 当社のプロダクトである「Photoruction」は、これらの煩雑なアナログ作業を大幅にデジタル化することで効率化します。情報を記載した黒板をソフトウェアで画面上に表示し、現場の風景と一緒に撮影できるため、現場での記録や事務所での台帳作成の工程を簡単なクリックで完了できます。これにより、業務の大幅な削減が可能になります。

 Photoructionはゼネコン向けのSaaSで、「工事写真」管理機能と「電子小黒板」機能からスタートしましたが、その後、図面や工程表、タスク管理などの機能を追加し、現在では建設現場の多様な作業に対応可能なオールインワンのSaaSに成長していきました。

中島 貴春
代表取締役 CEO
2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、竹中工務店に入社。施工管理を経験した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。在籍中にPhotoructionの原型になるソフトを自作開発し、それを契機に2016年3月にCONCORE'S(現 フォトラクション)を設立した。

ゼネコン時代に知った現場の苦労

―そのような建設現場の課題感をどのように知ったのでしょう。創業の経緯と併せてお聞かせください。

 私は新卒時、ゼネコンの竹中工務店に入社しました。大学の専攻は建築でしたが、入社後はITで工事現場の利益率や生産性を高めるためのIT戦略を立てる情報システム部門に配属になりました。当時、建設の現場では作業を記録する写真の管理、業務にまつわる書類の管理などで現場の苦労が絶えないという話を聞いていました。

 入社した2013年当時はSaaSやクラウドといったIT環境は建設業界には普及しておらず、私たちの課題解決につながるプロダクトはありませんでした。ならばそれを自分で作ってみようと思いました。もともとプログラミングは好きだったので、プログラミングの学校に通いながら、現在提供しているサービス「Photoruction」の原型になるプロダクトを作りました。その学校では、3カ月間授業を受けた後に3カ月間でサービスを1個作って、生徒や関係者の前で発表するという機会がありました。

 発表会でそれを発表したところ、参加していたベンチャーキャピタルや企業の方の目にとまり、もともと創業する気はなかったのですが、そうした方と話をしていくうちに自分のソフトを自分で展開してみようと思い立ち、2016年3月に創業をしました。

―創業期に苦労されたことはありましたか?

 創業当初は、製品が全く売れない時期がありました。理由は、創業したばかりで資金力やリソースが不足しており、プロダクトが建設業界のユーザーの期待するレベルに達していなかったからです。さらに、当時は建設業界でのITの浸透度がまだまだ低く、デジタル化が始まったばかりでした。例えば、ゼネコンの中で紙の野帳をiPadに置き換える動きが見られた程度でしたし、極端に言えば、クラウドのAmazon Web Services(AWS)についても「本屋がなんでサーバーやるの?」という感じでした。

image: フォトラクション HP

―2023年には建設業界向けの新サービス「建設BPO*」も開始しました。こちらはどのようなサービスでしょうか。

 建設BPOはクラウドベースのサービスです。Photoructionなどで活用するデータはすべてクラウドに集まります。建設BPOはこれらのクラウドデータを元に、建設ユーザーさんが欲しい形に整形してデータとして納品するサービスです。

 例えば、配筋検査という鉄筋が正しく配置されているかを確認する検査では、検査箇所が非常に多く、事前準備が大変です。検査箇所を確認し、それに合わせて黒板を用意するなど、準備作業には手間がかかります。しかし、お客様が弊社に図面をアップロードしていただければ、AIやオペレータを使用して検査箇所を特定し、必要に応じて有識者のチェックも加え、事前準備をサポートします。検査当日は、検査箇所と黒板情報を画面上に適切に表示し、検査を迅速に進めることができます。

 弊社のサービスによって、現場での記録や転記の手間、検査のための準備作業や書類作成が大幅に削減されます。弊社の調査によると、現場の1人当たり20時間の削減や報告業務の99%削減といった結果が得られています。Photoructionの費用は月額制、建設BPOは実施したアウトソースの分だけという形で設定されています。

*BPO:Business Process Outsourcing。業務プロセスの一部を専門業者に一括して外部委託すること。

―建設業界でサービスが受け入れられるになった、潮目が変わったような時期はいつごろですか。

 2018年ごろから、建設業界においてクラウドの必要性が高まってきたと考えられます。私が新卒入社した2013年ごろは、大手ゼネコンがiPadを工事現場で活用しようとした際に、「クラウドを使用しないと難しい」という意見が出始めましたころでした。その後、クラウドの利用に関する意向が中小企業を含む建設会社へと広がり、2018年から2019年にかけては、「クラウドを使用しないと不便である」という認識が強まってきました。この変化に伴い、弊社のサービスの利用も増加しています。

image: フォトラクション HP 「建設BPO」

業界出身者が多いから、かゆい所に手が届く

―御社のサービスが選ばれる理由として、どのような点が評価されていると感じますか。

 私を含め、当社のスタッフには建設業界出身者が多くいます。この背景が、顧客のニーズを深く理解し、かゆいところに手が届くサービスを提供できる大きな理由の一つだと思います。また、他のSaaS企業があまり手を出さないカスタマイズに、弊社は積極的に取り組んでいます。弊社サービスの核となる機能以外の部分で、他社の基幹システムとの連携や、企業の足りない部分を補うカスタマイズ対応をしています。これがお客様の課題解決に直結しているため、選ばれる理由の一つとなっています。

 さらに、BPOサービスを組み合わせることで、提供できるサービスの範囲が広がり、ユーザーの特定のニーズに応えられるようになりました。顧客である建設会社は、ノンコア業務をアウトソースすることで、自社のコア業務に集中できるよう支援し、実質的な工数削減につながっています。これらの点が、当社のサービスが成長している大きな理由だと考えています。

 建設業界向けのソフトウェアサービスは昔から多く存在しており、弊社のサービス開始は2016年ということで、後発の部類に入ります。競合他社を含め、多くの企業が「建設業向け」という一つのカテゴリーでソフトウェアやサービスを提供しています。しかし、建設業はその範囲が非常に広く、建築、土木、設備、プラント、工場など、建設する建物や求められるもの、文化が大きく異なります。業界はかなり細分化されており、弊社はこの細かな違いにも対応できる点が、競合他社に対する優位性になっていると考えています。

 さらに、弊社は最初からクラウドベースでモバイルネイティブな環境を提供してきました。最近では、建設各社もクラウドに蓄積されたデータを利用したい、Photoruction外のデータをPhotoructionに取り込みたい、生成AIを使って自社データを活用したいといったニーズが見えてきています。これは「もう一歩先を目指したい」という意欲の表れであり、カスタマイズへの対応能力を持つ弊社への関心の高まりを感じています。

image: フォトラクション

水道工事版の研究開発や保険会社との協業も

―次のステップとして今後1〜2年で達成したい目標や計画は。

 現在、Photoructionと建設BPOの2つのサービスで建設の施工フェーズに対応していますが、建物を作る過程には施工以外にも多くのフェーズが存在します。計画立案、資金計画、CO2排出量の計算など、様々なステップがあります。今後は、これらの各フェーズに向けてサービスのバリューチェーンを広げていきたいと考えており、まずは施工の直前フェーズである調達に対応したいと思っています。調達フェーズでは、参加業者の選定、緊急連絡先の整理、使用機材の決定など、書類作成やデータ整理の課題が多くあります。これらもデジタル化によって解決していきたいです。

 2023年にはIFAC合同会社(福井コンピュータホールディングスのCVC)とSMBCベンチャーキャピタルをリード投資家として、約17億円の第三者割当増資を実施しました。福井コンピュータホールディングスは、国内の建築、測量、土木のCAD市場で大きなシェアを持つ企業です。今後は、福井様のCAD設計ツールと弊社の施工ツールを連携させ、新たなソリューションを提供したいと考えています。これにより、ビルだけでなく戸建てや土木向けのサービス展開も目指しています。

 建設業界は、戸建て住宅やプラント建設など、プロジェクトによって作業内容や必要な空間が異なります。たとえば、戸建て住宅の場合は黒板を使用した写真撮影がほとんどなく、撮影枚数も100枚程度です。このように、ゼネコン向けの大量の写真管理サービスとは異なる文化や作業が求められます。似たような行為でも、新しい機能や表現が必要になる場合があり、これは大きなチャレンジだと思います。

―福井コンピュータホールディングスのような共創のパートナーは他にもあるのでしょうか。

 クラウドストレージのDropboxやBoxとは連携しています。栗本鐵工所さんとミライト・テクノロジーズ(現:ミライト・ワン)さんとは、Photoructionの水道工事版「photoruction water」の研究開発を一緒に行っています。施工の検査工程における検査代行業務を手掛けるバーンリペアでは、Photoructionを検査結果の質向上に使っていただいています。あいおいニッセイ同和損保さんとは、Photoruction上に蓄積したデータに関する保険として「サイバーセキュリティ保険」を提供いただいています。Photoruction使用時に、セキュリティ事故などによるデータの漏えいが発生した場合に対応いただく保険です。

―中長期の展望、そして共創していく未来のパートナーにメッセージをお願いします。

 建設業界をスマートで壁のない世界に変えたいと思っています。業界がスマートでかっこよく働ける場所というイメージを持てるようになればと考えています。そのためには、BPOで支援できる範囲を広げたり、ソフトウェアの機能を向上させたりと、支援の幅を広げていくことを今後も率先して行っていきます。

 また、私たちの会社も建設業界の一員として認められていると感じています。そこで「デジタルゼネコン」というキーワードを掲げ、デジタルを得意とする建設会社としての展開を目指しています。テクノロジーが進化するにつれてデジタルゼネコンが増え、私たちもそういった企業と共に成長していける世界を作りたいと思っています。

 共創については、一見、組み合わせることがないように見える場合でも、ディスカッションを進めると共に取り組めることが見つかることがあります。ニッチな市場であっても、将来的に大きなマーケットに成長する可能性があります。そのため、建設会社の役に立つものを作りたい、役に立つことを考えている方がいれば、ぜひお問い合わせをいただければ嬉しいです。



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