Image: Seahorse Vector / Shutterstock
リサイクル材料回収施設(通称「MRF」)をご存知だろうか。MRFは、Materials Recovery FacilityやMaterials Recycling Facilityなどの略。脱炭素やサステナビリティの観点から、廃棄物のリサイクル率向上へのニーズは高まっている。一方で、現場は労働力不足に頭を抱えている。これらのリサイクル施設に対し、ロボットによる自動化など様々なソリューションを提供するスタートアップが現れている。自動化の市場性や技術動向について、シリコンバレーを拠点とするVC、Translink CapitalのKaz Kikuchi氏の寄稿を紹介する。

マテリアルリサイクル施設 自動化の市場性

 まず、マテリアルリサイクル施設自動化の市場性について冒頭で述べさせていただく。廃棄物管理の市場自体は2030年に向けて成長が予測されている。背景には、昨今の技術革新などに伴う家電や電化製品の製品ライフサイクル、買い替えサイクルの短期化やEコマースなどによる物販、またそれに伴う梱包材の増加など様々な要素が起因している。

Image:図1 グローバル廃棄物管理市場規模予測2021−2030($B)
PrecedenceResearch社調査データよりTranslinkCapital作成


 また、後述する、中国による「Operation National Sword」政策の導入やサステナビリティ圧力などの外部要因により製品のリサイクル率を向上させる気運も高まっており、リサイクル市場も今後一層の成長が見込まれる。

Image:図2 リサイクル市場規模予測2021−2030($B)
PrecedenceResearch社調査データよりTranslinkCapital作成



 このような状況下、廃棄物の増加やリサイクル率向上に対応する上で、既存の廃棄物処理施設は設備投資を強化して対応を進めている。

Image:図3 米国廃棄物業界の年間設備投資額($B)
米国EnvironmentalBusinessJournal社調査データよりTranslinkCapital作成



 本寄稿では、リサイクル施設における自動化の事業機会及びそれを捉えたスタートアップ企業についてご紹介したい。

Kaz Kikuchi
Partner
2020年5月にTranslink Capitalに入社し、シリコンバレー本社に在籍。 Translink Capitalの前は、G2 Venture Partners (Kleiner PerkinsスピンオフのグロースステージVC)、三井物産にて、ベンチャー投資とベンチャーとのビジネスに取り組む。 Translink Capitalでは、ロボティックス、サプライチェーン & ロジスティックスをはじめとする、産業のデジタル化に資する投資に従事。 ロボティックスやAIをはじめ、デジタル技術で産業変革を目指す起業家や投資家の方々は、ぜひご連絡ください。 kkikuchi@translinkcapital.com

リサイクルの必要性

 米国内外では、各家庭はさまざまなリサイクル可能な材料を「青いごみ箱(リサイクル用)」に入れ、毎週回収してもらっている。しかし、このように日常的で簡単な作業であるにもかかわらず、多くの消費者は、これらの材料がどこに行き着くのか、どのように処理されているのかは把握していない。

 回収された材料は、リサイクル材料回収施設(通称「MRF」)に運ばれ、リサイクル材料ごとに選別・仕分けされ、販売、または新しい製品に生まれ変わるための「俵(ベール)」に加工されている。2017年までは、MRFで行われる選別・仕分けの工程は主に手作業で行われており、30人以上のメンバーがベルトコンベアの横に立ち、チームとして1施設あたり平均で年間約20万トン以上の原料を仕分けしていた。

 手作業による選別ミスなどのため、選別されたはずの俵型ベールのゴミ混在率は30~40%に達し、「青いごみ箱」によって回収された原料のうち、適切に選別され、リサイクルされるのはわずか25%であった。

 何十年もの間、外国(特に東アジア)は、原料を安く手に入れるため、このような品質の悪いリサイクルベールを受け入れ、購入していた(原料購入時に再選別が必要な場合も多い)。しかし、2017年の「Operation National Sword」の導入により、中国は米国やその他の外国からのリサイクルベールを一切受け入れないと正式に発表し、リサイクル業界は転換期を迎えている。

 この政策により、従来のベール販売先を失った米国のMRFは、混在率1%未満を要求することが多い新しいリサイクルベール購入者の高い品質基準を満たすため、より良いリサイクル作業を行うよう圧力がかかっている。このような世界的な政策転換に加え、米国環境保護庁は、2030年までに米国のリサイクル率を50%に引き上げるという目標を掲げている。つまり、米国はリサイクルの第一歩である材料回収をもっとうまくやる必要に迫られている。

Image:Translinkによる調査結果より

業界全体の労働力不足

 前述の通り、MRFでは手作業による選別が行われているため、作業員を増員する(例えば、作業員30人を60人以上に増やす)ことは、選別スピードを上げ、リサイクルベールの混在率を減らすなど、全体的な材料回収能力を向上させる方法の一つではある。

 しかし、MRFのスペースの制約に加え、業界全体の労働力不足により、労働力を確保することがほぼ不可能な状況になっている。COVID19やeコマースの発展が資源回収業界の人手不足を加速させ、より高い賃金で、クリーンな環境で働ける倉庫で働く人が増え、また、UberやDoorDashのような、フレキシブルなスケジュールで同等の賃金が得られるギグワークを選択する個人も出てきている。

 弊社が行った某MRF工場長へのインタビューによると、MRF従業員の20%から30%が毎日欠勤していることが明らかになった。入社して1週間以内に辞める人も珍しくない。MRFの従業員は従来移民により構成されており、その多くが定年を迎える中、2ndGenerationの米国市民は、回収施設以外の仕事を選んでいる。

 このような背景から、MRFのソーター数を増やすことは現実的ではないため、廃棄物リサイクル業界は前述の新しいリサイクル要件に対応するための代替策に目を向けている。

ソリューションとしてのロボット・オートメーション

 MRFは手作業を減らし、オートメーション技術を有力な代替策として注目している。MRFの過酷な環境での働き手が減少してきているため、ロボットによる自動化はこの問題に対する非常に有力な解決策である。

 材料回収業界におけるこの変革は、1970年代から1980年代にかけての自動車業界が自動化された潮流と類似している。今日、自動車工場における塗装や溶接の工程は、危険な化学物質を扱い、過酷な労働環境であるため、ロボットで完全に自動化されている。自動車工場然り、MRF然り、過酷な労働環境は自動化の強力な推進力となる。

 材料回収は、自動化とロボット適用のための最適なユースケースであり、MRFが自動化ソリューションを採用するためのビジネスケースは明確である。

 自動化ソリューションによるリサイクルの改善重要が明確になってきており、多くのテクノロジー新興企業が、ロボット工学とAI/コンピュータビジョンの進歩を組み合わせて、従来人間が担っていたMRFの最前線の作業を軽減する自動仕分けソリューションを開発している。

 MRF業界はこのような技術を積極的に受け入れており、すでに導入が始まっている。図4に挙げられるスタートアップ各社は、MRFのコンベア上にビジョンシステムを設置、通過する物品をスキャンし、材料の種類に基づいて分類、ロボットがピック・分別するソリューションを提供している。

Image: 図4:代表的な廃棄物管理におけるロボティクススタートアップの一例(Source:Pitchbook)


 北米での導入が先行している AMP Robotics社は2022年11月現在、累計で$239Mの資金調達に成功しており、この業界の先駆者としても挙げられる。同社のソリューションは、画像システムが検出した材料を大型ケージの中でデルタ式ロボットがが縦横無尽に材料をピッキングし選別する。処理速度が速く、その分コンベアも大きい、設置スペースも広く取れるMRFに採用されている。

  Everestlabs社は、ロボットアームとアーム先端の様々なアタッチメントを使用してピッキングを行うソリューションを提供している。そのため、既存のMRF施設にほとんど変更を加えることなく、レトロフィットでソリューションを提供可能、また、ロボットのサイズと性能は人間の作業員とほぼ同一のため、一対一で置き換えが可能なのが特徴。Everestlabs社は、競争力のある価格とその導入容易性により、現在多くのMRFが直面している、より少ない人員で、より正確に、より多くの容量を仕分けるという問題に対する解決策を提供することができると考え、TranslinkCapitalとして投資を行った。

Image: Everestlabs HP マクロの追い風となるサステナビリティ




 リサイクルロボットプラットフォームから収集されたデータは、MRF事業者だけでなく、製品のライフサイクルに関するさらなる洞察を得たいCPG(Consumer Packaged Goods=消費財)ブランドにとっても有益なものになる。多くの企業が今後20年間で二酸化炭素排出量を抑制することを約束している中、企業のサステナビリティチームは、二酸化炭素排出量の削減方法の特定に奮闘している。

 Everestlabs社をはじめ、リサイクル施設で導入される自動仕訳システムで取得される新たなデータは、CPG各社にとって、自社製品が廃棄物の流れに与える影響や、自社商品の何パーセントがリサイクルされているかについて重要なデータソースになっていく。

 オレゴン、メイン、ニューヨークなどの州では、EPR法案制定され、CPG企業に対して自社製品のライフサイクルを追跡することを義務付け、特定のリサイクル目標を達成しない企業には罰則を科すという動きが既に始まっている。

 また、カリフォルニア州、ワシントン州、ニュージャージー州では、新製品に一定レベルのリサイクル材を使用することを義務付けるPCR法案を制定した。このように、リサイクルによる循環型経済を支援するための法整備が進みつつある。

 MRFへのロボット導入は、リサイクル能力を改善するだけでなく、リサイクル施設からのデータ収集を可能にし、それをCPG企業に還元するという、循環型経済のループを閉じる機会を提供する重要なポジションを担っていく。

 自動化による労働人手不足の問題への対処が、MRFへのロボット導入の短期・中期的なドライバーとなり、長期的には、ESGと循環型経済に対する世界的なトレンドがさらなる自動化の推進力として作用し、本市場の形成を後押しするだろう。

自動化の次なるフロンティア

 TranslinkCapitalは、MRFとリサイクル業界は、今後10年間で大規模なデジタル変革(Digital Transformation)を遂げると考えている。今日、デジタル技術の導入と自動化の中心となっている物流倉庫も、昔は違った。2000年代初頭、物流倉庫はアナログな機械設備や手作業が中心だった。

 しかしeコマース(主にAmazon)の台頭による大幅な処理需要の増加がそれを一変させ、産業用オートメーションや産業機器メーカーが大規模な買収を行い、倉庫の自動化に参入したことで、物流倉庫へのデジタル技術の導入が加速し、今日の市場が形成された。

 ESGは、MRFにおけるデジタル技術の採用と自動化を促進する重要な触媒となり、隣接市場(例:物流倉庫)の大手産業プレーヤーが買収を通じてリサイクル産業に参入するだろう。

 MRFとリサイクル産業は、ロボティクスとオートメーションの次のフロンティアであり、私たちは現在、その変革の黎明期にあると信じている。1970年代の自動車業界、現在の物流倉庫業界のように、ロボティクスとオートメーションの次の波はMRFとリサイクル業界に訪れる。

Image: Translinkによる調査結果より

Translinkの注目分野

 Translinkのチームは、AI/コンピュータビジョンとロボティクスが、どのように伝統的な産業を再構築するかに注目してきた。今まで、FetchRobotics、PlusOneRobotics、Kargo、AiFi、YunjiRoboticsといったスタートアップを通じて、倉庫から小売、ホスピタリティまで、さまざまな分野で投資をしてきたが、今回、Everestlabs社への投資により、リサイクルという新しい自動化の市場に乗り出すと同時に、地球規模で持続可能な未来につながる循環型経済形成の一翼を担えることに、大きな期待を寄せている。



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