Snowplow(本社:英ロンドン)は、AIや機械学習など、高度な分析アプリケーションを強化するためのデータ集約プラットフォームを提供するスタートアップ。Web、モバイル、POS、カスタマーサポートといった複数の顧客接点から行動データをモデル化し、企業が顧客属性をより正確に把握できる優れたデータセットを作成できる。共同創業者でCEOのAlexander Dean氏に、プロダクトの特徴や将来展望について聞いた。

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デジタルサービスにおける顧客行動データベースの不足に着目

――まず、これまでの職歴やSnowplow創業の経緯についてお聞かせください。

 私の経歴は、経営コンサルティングとソフトウェアエンジニアリングが混ざっています。Snowplowを共同創業したYali Sassoon(現CPO)とは、2007年にOpen Xというスタートアップ企業で出会いました。2008年にOpen Xを離れ、ロンドンでコンサルティングの仕事に戻り、イギリスのブランド向けにさまざまなプロジェクトに関わりました。そして、顧客分析プロジェクトなどを多く手がけるようになります。

 それらのプロジェクトを行っているうちに、マーケットに興味深いギャップがあることに気づきました。私たちが一緒に仕事をしていたブランドは、顧客に関する非常に優れた取引データを持っていました。しかし、POSのデータは持っているものの、クリックストリームと呼ばれる、自社の顧客がWebサイトやデジタルサービス、モバイルアプリなどをどのように利用しているかについての詳細なデータを持っていなかったのです。

 そして、2012年にSnowplowを創業して最初の製品を販売しました。これは、ブランドがデータ分析をできるように、クラウドのデータウェアハウスに格納・管理できるようにするものです。AWSのデータウエアハウスサービスであるAmazon Redshiftがリリースする直前でした。

Alexander Dean
Snowplow
Co-Founder & CEO
University of Cambridgeにて歴史学を専攻。Deloitteにてアナリスト、Fathom Partnersでコンサルタント、OpenXではシニアプロジェクトマネジャーを務める。2012年にSnowplowを共同設立し、2018年にCEOに就任。

 最初の数年間は、このプロジェクトのニーズに適合するものを見つけることに費やしました。オープンソース・プロジェクトを立ち上げ、その周りにコミュニティを形成することで、Vodafoneなど当時の優れた企業にも採用してもらうことができました。そして、2015年には本格的なチーム編成を開始できるようになり、マネージドサービスの提供を始めました。2019年にはイギリスの投資家からシリーズAラウンドの出資(400万ポンド)を受け、直近(2022年6月)ではNew Enterprise AssociatesなどからシリーズBラウンドの調達(4000万ドル)をしています。

Webやモバイルの顧客接点から行動データを生成し、分析に役立てる

――プロダクトについて詳しく教えてください。

 私たちのプロダクトは、データパイプラインを作るためのものです。Webサイトやモバイルアプリなどに、当社のSDK(Software Development Kit、ソフトウェア開発キット)を組み込むことで、エンドユーザーの行動データを取得します。独自のテクノロジーによってデータを検証・作成し、品質を保証したのちに、Amazon RedshiftやBigQuery、Snowflakeといったデータ分析プラットフォームにロードします。

 Snowplowは分析で洞察を得たり、AIモデルを構築したりしやすくなるように、データをクリーニングやアノテーションを行います。多くの企業がデータクリーニングやアノテーションを社内で実施しようとすることが多いです。しかし、高品質のデータ製品を作るのは非常に難しく、骨の折れる仕事です。私たちは、オープンソース版もあるSnowplowを採用したほうが遥かに良いことを伝えています。

 Snowplowはデータを集約して自身でデータを作成しますので、データを集めてロードするだけのETLツールとは異なります。オープンソースとして10年前からプロジェクトを展開しており、マネージドサービスも顧客のクラウド環境で動作するようになっています。つまり、顧客である企業やブランドは、エンドユーザーのセンシティブな行動データを社内での管理に留めたまま、高度な分析ができるのです。

 ヨーロッパではGDPR(General Data Protection Regulation、EU一般データ保護規則)など個人情報保護が厳しくなり、アメリカでも同様に規制が変わっています。Snowplowは基本的にファーストパーティソリューションとして機能しますので、データが第三者に送られることはありません。そのため、多くの企業がSnowplowによる自社生成のデータを使ってデジタル分析の仕組みを構築し始めているのです。

Image: Snowplow

――顧客の事例をいくつか教えていただけますか。

 カナダの新聞社The Globe and Mailでは、デジタル版のパフォーマンス向上のためにSnowplowを導入し、ページビューや記事の読まれ方などとトラッキングし、購読者を51%、読者のロイヤルティを53%向上しています。

 美容ブランドのCharlotte Tilburyでは、ECサイトでの購買体験を理解するためにSnowplowを利用し、レコメンデーションによって買い物カゴに入れる行動を200%増加し、パーソナライズされたバナーのクリックも115%上昇するなど、大きな改善をしています。

 ソフトウェア開発者を支援するサービスを提供するSoftware.comでは、Snowplowによって開発者の行動を理解し、ユーザーベースを250%増加しました。分散型ゲームやクリプト系など、Web3企業での採用もあります。

シリーズBラウンドの調達によって、グローバル展開を進める。日本市場にも注目

――先ほど、2022年6月のシリーズBラウンドでの調達についてお話されていました。この資金はどのように利用されますか。

 今回の資金調達はグローバル展開に使います。現在、私たちの収益の50%以上はアメリカ市場からで、急成長しています。北米にも何人か社員を置いていたのですが、あちこちに分散していましたので、ボストンに第二本社を置きチームを増強しました。プロダクト自体も、企業がより競争力を持ち、ビジネスをより良くするためにモバイルデータを活用できるようにしていきます。お客さまの声に耳を傾けて、新たなニーズを理解しているところです。

Image:Snowplow HP

――日本市場への参入は検討していますか。その場合、どのようなパートナーシップを求めますか。

 私たちは、日本でデジタルネイティブな取り組みをされる方々に対して、非常に大きな敬意を抱いており、日本市場には大きな関心を持っています。Snowplowは10年前からオープンソースを展開していますので、アジア太平洋地域ではオーストラリアやインド、シンガポールにお客さまがいます。日本にも有料サービスのお客さまがいらっしゃいます。ただし、日本でビジネスを展開する場合、すべての資料が英語しかないという課題があるため、採用される数に制限があると思っています。

 日本で、変化の激しい環境においてデジタルネイティブな活動をされる企業に対して、Snowplowがもたらすメリットを感じてもらいたいと思っています。特に新興のユニコーン、デジタルビジネス企業やコンサルティング企業と関係を築いていきたいと思っています。

――グローバル展開のその先にある、長期ビジョンについてお教えください。

 私たちは、データ作成こそが、顧客行動から洞察を得るための最も強力な方法であると考えています。より多くの種類のデータを作成したいと考えており、データ作成をより良くするための技術をたくさん持っています。

 私たちの長期的なビジョンは、お客様のデータ作成を支援するソフトウェア会社になること、単にデータを作成するだけでなく、そのデータから非常に強力なデータ製品を構築する力をお客様に与えることです。そのために、人々がデータを作成して有効活用できるようにするためのプロダクトに取り組んでいるのです。

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