アフリカで新型コロナワクチンや血液製剤などの医薬品を届ける事業を展開し、ドローン配送の実用性と可能性を示してきたZipline(本社:米国カルフォルニア州)。ルワンダやガーナなどの国々で累計75万回以上の商業輸送をしてきた実績に加え、近年は医薬品以外の商品、例えば、電球などの日用品や食品なども届けており、物流の「ラストワンマイル問題*」を解決し得るソリューションとして注目を集めている。Ziplineのドローンには、どんな特徴があるのか、日本での豊田通商とのパートナーシップ、同社が考える物流の未来など、さまざまな論点をCOOのLiam O'Connor氏に聞いた。

※最寄りの配送拠点から届け先までの最後の区間で、商品を届ける際に発生するさまざまな問題。ドライバー不足や再配達など。

ドローンで近代の物流システムをアップデート

―Ziplineは、ドローンで数々の医薬品を届けてきた実績があります。配送のスタートは、2016年のルワンダからで、その後、ガーナやナイジェリアなどアフリカ諸国で勢力を広げ、米国、日本と他地域でも事業を拡大してきた形です。なぜ、そもそもアフリカで事業を開始させたのでしょうか。

 当社の経営理念に「本当に社会に必要とされている事業を行う」というものがあります。この理念にのっとり、アフリカ諸国で医薬品の配送をスタートしました。先進国に比べてGDPが低いアフリカ諸国では、そもそも医薬品の在庫自体が不足しています。例えば血液製剤に関しては、早急に患者の元に届ける必要があるため、在庫がないと患者の命に関わります。Ziplineで素早く血液製剤を届けることができれば、これまでは救えなかった命を救うことにつながります。これは文字通り「社会に必要とされている事業を行う」ことに直結しているでしょう。

 また、アフリカ諸国の政府が、当社の「ドローンで医薬品を届ける」というミッションに共感してくれたことも理由の一つです。先進国では、ドローンの運用に規制がある中、当社が考える新たな物流の姿に共鳴してくれたのです。

Liam O'Connor
COO
2011年、University of PennsylvaniaでOrganizational Dynamicsの修士号を取得。AppleでGlobal Supply Managementのグループマネジャーを担当。その後、Tesla Motors(現Tesla)でGlobal Supply Management & Supplier Industrialization EngineeringのVice Presidentとして勤務し、2018年にはLyftのCPO (Chief Procurement Officer)を務めた。2019年5月、ZiplineのCOOに就任(現職)。

―どのような物流の姿を思い描いているのでしょう。

 公害・騒音がなく、素早く商品がエンドユーザーの元に行き渡る未来です。現在のトラックによる幹線輸送を中心としたロジスティクスは環境に及ぼす影響が大きいほか、人手不足でシステム自体が疲弊しています。それに比べて、ドローンでの輸送は大地よりも広い「空」という資産を利用します。

 もちろん、旅行で私たちは空の旅を楽しんでいますが、特に近距離での商品の配送という意味では空をまだ十分活用できているとは言えません。当社が開発した「使い勝手が良く」「100km以内の広範囲をカバーできる」「静音で飛行する」という特徴を有するドローン物流システムは、ラストワンマイル問題の解決に資するソリューションとなるでしょう。

100km飛行できるスゴイ性能 都市部輸送向け次世代モデルも開発中

―Ziplineのドローン物流システムについて、詳しく教えてください。

 当社のドローンには、翼幅約3メートルの大型固定翼が取り付けられています。よくある商業用のドローンとは異なり、長距離の飛行に耐えるほか、地上300フィート(約91メートル)を飛行するためにこのような設計になっています。

 ドローンは電力で駆動し、飛行中は揚力原理を利用しています。商品を顧客地点まで届ける際には、専用にデザインしたパラシュートを商品に付けて落とします。

 さらに、当社のドローンは、拠点(配送センター)があってこそ、その力をフルに発揮できます。この配送センターでは、ドローンを効率的に顧客の元へ届けるためのさまざまな仕掛けがなされています。

 例えば、医薬品をメインに運ぶので、在庫管理には温度管理を徹底していますし(マイナス80℃まで保管可能)、ドローンが今上空のどこを飛んでいるのか追跡するシステムも用意しています。急を要するフライトに対しては、約2分でドローンを飛ばすこともできるのです。

 そんな中でも、当社の配送センターの最大の利点は、「配送拠点が少なくて済む」というところにあります。ドローンの特性である「片道100kmまで動力切れの心配なしで配送できる」点を活かすからです。100kmも配送可能であれば、1つの拠点を中心に何百〜何千もの顧客へ商品を届けられるでしょう。

 現在、世界中の都市部で土地不足から、新たな配送センターを建設できず、商品の到着が遅れる、という現象が多発しています。Ziplineの物流システムは、1つの拠点当たり100km圏内をカバーできるので、都市部の輸送不足を解決できるソリューションになると思います。

image: Zipline

―既に米小売り最大手ウォルマートとの協業をはじめ、医薬品以外の配送も始めているのですね。

 はい。特に食品については、当社のドローンの次世代プラットフォームである「Platform2(P2)」に期待をしています。このP2は、目的地に到着すると、その場で静かにホバリングし、ドローン下部から射出される小型ドロイドをコントロールして、荷物をそっと置くことができます。

 これにより、食品や日用品など、取り扱いに細心の注意が必要な商品を多く届けることができるようになるのです。Ziplineのドローンは静音で飛行する点が強みだと先ほどお話ししましたが、ドローンの配送では、「静かに」届けることは大変重要です。ドローンの騒音は社会問題になっているからです。P2は、前モデルよりもさらに静音性に力を入れていますから、都市部や郊外など、人が多く住む地域でも受け入れられるでしょう。

 また、現行のモデルでもルワンダでは家畜用のワクチンや抗生物質の配送も既にスタートしています。今後も、P2をECで活用することや、現行モデルで配送可能な品目を広げていくことも考えています。

―2011年に創業し、約12年が経過していますが、これまでの成長を示す数字を教えてください。

 Ziplineの商業輸送は累計75万回を超えており、飛行距離は5000万マイルを突破しています。5000万マイルという数字は、地球上で行われた無人配送としては、世界で最も大きい規模の数字の一つです。人々は「無人配送」と聞くと、自動車やトラックの自動運転をイメージしがちですが、実はドローンも立派な無人配送の一つです。車両の自動運転の実用化には長い年月がかかっているのとは対照的に、当社のドローンは既に多くの実績を挙げています。

日本では豊田通商と提携、五島列島で医薬品を配送

―日本では豊田通商への技術提供を通じて事業を展開しています。日本市場をどのように見ていますか?

 日本では、豊田通商から2018年に出資を受け、2021年に戦略業務提携を結んでいます。同社は2022年5月より、長崎県の五島列島で医薬品のドローン配送事業を開始させました。

 日本にはドローンのような新しい技術を受け入れ、それを安全に、大規模に展開させていくことに非常に前向きだという土壌があります。ですから、Ziplineにとっても、日本市場進出は大きなチャンスだと思っています。

 日本では国土交通省の関係者とも話しをしましたが、規制緩和にも前向きだという感触を得ました。今後、都市部や農村部など、さまざまなエリアでZiplineのドローンが活用されることを期待しています。

―日本の大企業とのパートナーシップを考えた場合、どのような形態が理想だとお考えでしょうか。

 形態に特にこだわりはありませんが、強いて言うならば研究開発に資するパートナーシップでしょうか。

 Ziplineのモーターに関しては、既に日本の企業や研究チームと連携して開発した技術を搭載しています。今後も、主に研究開発の分野で、日本の大企業と協業したいと考えています。一番興味がある分野はロボティクスになるでしょう。Ziplineに優れた機能を付加させたいです。

 また、Ziplineでこれまでになかったユースケースを展開してくれる事業者も募集しています。ドローンによる配送は医薬品や農薬だけでなく、さまざまな可能性を秘めています。もしこの記事を読んでいる読者の中に「こんなドローンの活用方法を思いついた」という方がいれば、ぜひお話をしてみたいですね。

image: Zipline

―最後に向こう1年間の目標を教えてください。

 向こう1年間の目標は明確で、Ziplineの次世代プラットフォームであるP2を市場に本格展開させることにあります。1年後に、世界のどこかの主要都市部で当社のドローンが実用的に活用されていたら、大きな成功と言えると思います。パイロット飛行をさまざまな場所で行い、いろいろな商品の配送を試したいと思っています。もちろん、第1世代の事業成長も狙っていますよ。



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