トヨタ自動車、TDK、IHIなど日本企業とも非接触電力伝送技術に関する提携やライセンス契約を締結。ワイヤレス充電によるEVの普及を促進する同社の最高マーケティング責任者(CMO)、Amy Barzdukas氏に、ワイヤレス充電の優位性、日本市場への参入、長期的なビジョンなど話を聞いた。
MITのスピンアウトで創業 特許取得済みの独自技術で可能性広がる
――まず、ご自身のご経歴とWiTricity設立の経緯を教えて下さい
私自身はMicrosoftで16年間、マーケティングに関わる様々な役職を経験した後、Hewlett Packard(HP)でワールドワイドマーケティング、ビジネスパーソナルシステム担当ヴァイスプレジデント、会議用電話やヘッドセットでおなじみのPolycom(Polyが買収、その後HPが買収)でCMOやエグゼクティブヴァイスプレジデントを経て、2021年にWiTricityのチームに加わりました。
WiTricityは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で、磁界共振技術のワイヤレス給電技術を開発していた研究室のメンバーがスピンアウトして創業しました。私は現在、Chief Marketing Officer(CMO)として、WiTricityのグローバル・マーケティングを主導し、WiTricityの特許取得済みワイヤレス充電ソリューションを搭載したEVの市販化に伴う次なる成長を推進する責任を担っています。
――磁界共鳴方式のワイヤレス送電技術による充電はどのように機能するのでしょうか?
地上に設置された充電パッドは、電気自動車の下側に取り付けられた受信コイルに電力を送ります。可動部品や物理的なコネクターはありません。独自の磁気共鳴技術は、2つの共鳴器による磁界共鳴方式により高効率な電力転送を可能にします。充電パッドの上に車両を乗せると、磁界によって充電パッドと車両のコイルの間でエネルギーが伝達されます。充電器と受信機の間の磁気共鳴を利用し、さまざまな車高の車両での高い電力転送効率を実現します。
地面に敷設した充電パッドからEV側の受電パッドに非接触で電力を供給できるためケーブルを接続する必要がなく、ドライバーは自宅のガレージなどに駐車するだけで簡単に充電ができるのです。これは便利ということだけでなく、EVをより安全に充電できることを意味します。お年寄りや身体が不自由な人が、重い充電コードと格闘する必要もありません。
家事や育児で手いっぱいになると、車にプラグを差し込むことをうっかり忘れてしまいがちですが、ワイヤレス充電ですと、駐車している間に充電されるので、充電を忘れることもなくなります。
高速道路の脇やテスラのような高速充電の必要性はありますが、大多数の人は、1日に160キロも走らないでしょうから、ドライバーの方は充電の大部分を自宅で行っています。パーキングやフリートなどで普及が進み、乗用車だけでなく、多くの商業用アプリケーションにも適用されるようになるでしょう。
――EVの販売台数は着実に伸びていますが、どのようなニーズがありますか?
EVの人気が高まると同時に、「EVは十分な距離を走れるの?立往生はしない?」というような心配する声も聞こましたが、実際に乗ってみると、EVは加速もよく、音も静かでかつハンドリングもよい車だという事実に気付くはずです。また、最近の調査によると、70%の人がワイヤレスで充電ができるなら、EVを購入したいと答えています。
ガソリン価格が上昇していることも受けて、EVに対する関心が一層高まってきています。EVはガソリンを使用する車より現状は高価ではありますが、維持費は抑えられます。光熱費が最も安い夜間に自宅で充電することができることもあり、EVはかなりの節約になるのです。
できるものは全てワイヤレス化へ 製品化も加速
――御社は様々な企業と技術開発提携をされていますが、現在どれくらいの特許を取得されているのでしょうか?
我々は既に1,250件以上の特許を取得してますが、常に新しい特許を申請しています。私たちのテクノロジーは豊富な知的財産を基盤としているのです。私たちが構築したのは、車載グレードの完全なエンド・ツー・エンド・システムです。電子機器やパワーエレクトロニクス、それを動かすソフトウェア、資産を管理し、リモートでトラブルシューティングを行うためのクラウドベースのシステムなど、全てを含みます。
――資金調達についてもお伺いします。御社は累計1億7600万ドルの資金調達に成功しています。2020年には三菱商事も戦略的投資を行い、2022年にはSiemens AGから2500万ドルを調達しています。投資家を引き付ける魅力は何だとお考えでしょうか。また、調達した資金の使途について教えて下さい。
携帯電話やコンピューターなど、現在のテクノロジーにおいて、ワイヤレス化できるものは全てワイヤレス化されています。それと同じレベルの利便性を、EVにもたらす絶好の機会であることを投資家の方々は理解して下さっているのでしょう。資金調達により、私たちの市場での地位とワイヤレス充電によるEVの未来に対するビジョンを証明したと思っております。
資金の使途ですが、私たちが最も力を入れているのは、技術の製品化を加速させることです。現在、製品化を進めるとともに、エンジニアリング・チームを拡大し、迅速に対応できるようにしています。
自動車市場や自動車産業は、それほど速く動いているわけではありません。私たちの技術に基づくワイヤレス充電の規格は、2020年に標準化団体によって批准され、自動車メーカーのロードマップや計画に組み込まれ始めたところです。
今後は主にエンジニアリング分野の人材を増やしながら、かなり速いペースで拡大をしていく予定です。従業員は昨年より2倍増加していますし、アジアでは香港にオフィスを開設し、中国、韓国、日本におけるセールスチームもいます。
タイミングを見極め日本市場へも将来的に参入 「ワイヤレス充電が当たり前」の世の中を目指す
――日本政府も2050年までの脱炭素を目指しています。こういうことを鑑みて、日本市場への参入はどうお考えでしょうか?
日本でのEV導入の進捗状況を見ていますが、ご存知のように、アジアでは中国がリードし、日本は中国や韓国に比べても比較的遅い立ち上がりとなっています。
しかし、2年前くらいから首相の発表により、EVのインフラへの追加出資が多くなっています。また、トヨタは、半年ごとに何度もEVに注力すると発表し、新しいEVプラットフォームを発表しています。ですから、日本市場がEVの普及を加速させていく中で、適切なタイミングを見極めることができるのではないかと期待しています。
現在、全ての自動車メーカーと交渉中であり、また、当社のベンダーとも交渉中です。ですから、日本市場に参入する機会が将来的につくれればと考えています。
――最後に御社の長期的ビジョンを教えて下さい。
私たちの長期的なビジョンは、あらゆる規模のEVにワイヤレス充電が当たり前のように搭載されるようにすることです。乗用車であれ、自宅のガレージやショッピングセンター、オフィスにもワイヤレス充電パッドがあり、駐車するだけでどこでも充電できるようになるといいですね。
同様に、商用車市場においてもEVが普及するにつれて、この技術が活躍することが期待されます。街中を移動する自律走行シャトルカーも、ワイヤレス充電パッドの上に停車すればいつでも充電することが出来るようになるでしょう。今後、全てのEVがワイヤレス充電を利用するようになる世の中になることを期待しています。