インドのインシュアテック、Turtlemintは、自動車保険、バイク保険、医療保険、生命保険の検索から購入までオンライン上でできるプラットフォームを運営する。消費者はモバイルアプリを通じて、保険アドバイザーの説明を受けながら、検索から購入まですべてのプロセスをわずか数クリックでできるというものだ。同社は2015年に創業し、累計資金調達額は1億9700万ドル(約268億円)に上る。インドの保険流通のギャップを埋めたいと開発したプラットフォームについて、Turtlemintの共同創業者でCEOのDhirendra Mahyavanshi氏に紹介してもらった。

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テクノロジーの力で、誰もが保険に加入できるようにしたい

――御社のプラットフォームには、どのような特徴がありますか。

 私たちの基本理念は、誰もが保険を利用できるよう「民主化」することです。まずはじめに、保険アドバイザーや保険代理店が自分たちの作成したコンテンツを配信できるモバイルアプリを作りました。

 このアプリでは、保険アドバイザーが顧客に保険証券を発行したり、購入してもらったり、保険金請求の手続きを解決したり出来ます。営業から見込み客の開拓、保険金請求の決済まで出来るので、アドバイザーは客先に出向く必要はありません。すべてがテクノロジーで完結できるのです。彼らは、新しいテクノロジーを使うことに非常に熱心で、API連携によるプラットフォーム形成に協力してくれました。

Dhirendra Mahyavanshi
Turtlemint
Co-Founder & CEO
DJ Sanghvi College of Engineering、Indian Institute of Management, Calcuttaで学ぶ。2002年、インドの多国籍タイヤメーカーApollo Tyresに入社。2003年からインド最大級の損害保険会社ICIC Lombardにて、法人営業、新規プロダクトの需要開拓、事業部長、副社長を歴任。2011年、インドのマーケットプレイス企業Quikrへ移り、営業トップを務める。2015年、Turtlemintを共同創業。

――Turtlemintを創業した経緯を教えてください。

 私は、現在までに約20年間の保険業界でのキャリアがあります。保険会社で10年近く勤務した後、スタートアップを経て、7年前にこの会社を立ち上げました。起業を決意した最大の理由は、インドの保険市場が民営化され、本格的な営業が始まったのは2002年ごろと遅く、保険に加入する人がまだ限られていたからです。インドの保険流通ビジネスには多くのギャップがあります。そのギャップをテクノロジーで埋めるために、Turtlemintを設立することにしました。

――どのようなギャップがあるのですか。

 インドはとても複雑な国です。多くの州や複数の言語があり、ヒンディー語や英語を理解しない人もいます。そのため私たちはプラットフォーム上にインドで使われる全ての言語を用意しました。

 また、地域によって保険に対する考え方も異なります。例えば、ある地域では保険は子供の教育のために必要と考えられていますが、別の地域では娘の結婚式のためにと考えられています。地域によって求められるものが異なるため、保険の要件も大きく異なります。

 私たちのアプリを使うと、アドバイザーは地域のニーズに合わせた提案ができますから、エンゲージメントが高まり、最適な保険商品を流通させることが出来ます。

多言語社会のインド 地域別アドバイザーが強力な営業マン

――どうやって御社のビジネスモデルはインド中に広まったのでしょうか。

 インドではこの5年間、スマートフォンの価格が劇的に下がりました。インターネットの通信速度も上がっています。農村地帯や地方都市にいる人でも、スマートフォンを使ってインターネットに簡単にアクセスできるようになりました。

 それまで大都市部以外の人々の生活は厳しく、収入を得る手段やビジネスの機会は限られていましたが、スマートフォンが身近になって、チャンスが広がりました。彼らがアドバイザーとなって自分の言語でコミュニティに働きかけ、かつ低コストで保険を販売できるようになったからです。

 今では16万人以上の保険アドバイザーと、全国15,000カ所でつながることができています。保険を知らなかった人々も、アドバイザーやコンテンツのおかげで保険について知ることができるようになりました。データ、スマートフォン、デジタル特性の3つが揃ったことが、当社が成長し、利用が広まった理由です。

――データドリブンなプラットフォーム運営につながっているのでしょうか。

 そうです。私たちのプラットフォームでは年間350億ドル以上の見積もりを行っていますから、得られるデータの量は相当なものです。AIを使って最近のトレンドや保険金支払い比率、消費者の行動まで把握し、なぜ契約に至らなかったのか、どんな商品が求められているか、分析結果を保険会社の商品開発に活かしてもらっています。また、顧客のユーザーエクスペリエンス改善にも役立てています。

Image: Turtlemint HP

――インドで同じようなプレイヤーは他にありますか。

 保険アドバイザーを巻き込んだプラットフォームとしては、当社がインド最大規模です。今ではインドの80%の地域をカバーしています。おそらくマルチブランドの保険販売では世界最大規模のネットワークの1つでしょう。現在、4億ドル以上の保険料が発行されており、私たちは保険会社の取引から収入を得る仕組みです。昨年の売上は120%成長することができました。

――新型コロナウイルス流行の影響はありましたか。

 流行の第一波ではマイナスの影響がありましたが、時間が経つにつれて、保険に対する意識が逆に高まりました。多くの人々が保険の大切さに気づいたからです。これが1つ目の変化です。

 2つ目の変化は、多くの保険会社がデジタル化なくして生き残れないと悟ったことです。今ではデジタル化による追い風が業界に吹いていて、もっと成長が加速する可能性があります。

シリーズEで1.2億ドル調達。UAEはじめグローバル展開に意欲

――御社は2022年4月、シリーズEラウンドで1億2000万ドル(約163億円)をNexus Venture Partnersや Jungle Venturesなどから調達しました。海外や日本へ進出する計画はありますか。

 今後は、グローバル展開に注力していく予定です。すでにUAEに進出しました。東南アジア展開も予定しています。消費者によりよい体験を与えられるようテクノロジーへの投資も強化していきます。

 世界第3位の経済大国である日本市場には、ビジネスチャンスがあると感じています。ただ、まだ調査中の段階ではあります。規制の理解とライセンス取得が必要ですし、それがクリアできれば、保険代理店などにぜひ協力をお願いしたいです。

――これからのマイルストーンと長期ビジョンを教えてください

 当面のマイルストーンは、9カ月以内にプラットフォームを通じて支払われる保険料が10億ドルに達すること、そして、新たな海外市場への展開を目標としています。

 技術開発面では、保険金請求に関する技術の構築、そして健康保険や自動車保険の請求決済を即座に行えるようにしたいです。インドだけでなく世界中で「保険のバリューチェーンを支える技術インフラを作りたい」というのが私の夢です。

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