日々情報過多に見舞われる現代人にとって、自分だけの空間でリラックスをする時間は貴重なもの。今回紹介するTRIPPは、VRを使い瞑想に没頭することができるウェルネスアプリ。資金調達や収益化に苦労しがちなVR業界で16億円の資金調達に成功し順調に成長を続けている。TRIPPのCEOであり、Oculusの初期投資家でもあるNanea Reeves氏にインタビューした。

瞑想 × VRで人生の辛い経験を乗り越えた

――TRIPPのサービスについて概要を教えてください

 TRIPPは、VR市場で最も急速に成長しているウェルネスアプリです。私たちは、「デジタル・サイケデリック」と呼ぶマインドフルネスに対しての異なるアプローチを通じて、ユーザーのメンタルヘルスを向上しようとしています。

――どうしてそのようなサービスを作ろうと思ったのですか?

 私がTRIPPを創業した理由は、テクノロジーが人の心理的な面をサポートするツールとなり得るのか確かめたいというゴールがあったからです。

 私は6年前に夫を癌で亡くしています。また、同時期に姉、母も重ねて亡くなるということがあり、その悲劇を乗り越えるのに瞑想が非常に助けになりました。個人的に人生の辛い経験をゲームと瞑想の手法を使って乗り越えた過去があるのです。

Nanea Reeves
TRIPP
Co-founder & CEO
Electronic ArtsでのCOO、GaikaiでのChief Strategy Officerをはじめ、ゲーム業界で15年にも渡る経営幹部職に従事した経歴を持つ。ビデオゲーム開発やVRテクノロジー開発などに携わり、2017年にTRIPPを創業。女性のSTEM領域への進出もサポートしている。

 その悲痛な経験から少しずつ前に進もうとしていた時に、自分が長年企業内のナンバー2であったことや、自分が会社の舵取りをするなら何をするだろうか、と深く考えるようになりました。

 また、私はVR大手Oculusの初期投資家であったので、そもそもVR自体にいつも関心がありました。のちにPlayStationの一部となりSonyに吸収されたクラウドゲーミング企業Gaikaiでも働いた経験があるので、当時から既に仮想現実とその精神面への影響に関するリサーチには大変興味がありました。

 そこで自身の長年のゲーム業界での経歴を活かして、ビデオゲームのテクノロジーやマインドフルネスの手法をVRに持ち込もうと思いました。その可能性にすごくワクワクしましたし、実世界で経験できないような世界を作り上げることは製品開発の段階から非常に楽しいことで、好奇心をそそるものでした。

人より強くある必要はない。悲劇を乗り越えるために自分の思考と向き合う

――どうしてVRを選んだのでしょうか。

 そもそも私は特に人よりタフであるということはありません。しかし、自身の考え方を瞑想を通し、日夜訓練をすることで変えることができました。その瞬間に自分の感情に流されず、大切な人のために「今」に集中できるようになるのはパワフルな転換でした。私はこの力にポテンシャルがあると思ったのです。

 そこで、人々がそうなるにはどうしたらいいのかと考えるように至ったのです。何十年も毎日そのような訓練を行うのは時間がかかり過ぎます。VRの場合、自分だけの空間に安心して浸れるような、入れ物のような感覚で精神面の安全を担保することができます。誰にも邪魔されず自分だけの一時を過ごせるので、自身を振り返ることに集中することができるのです。

Image: TRIPP

 また、ゲームを楽しむユーザーの6割以上が男性であるという統計結果も出ていますから、普段ストレスを溜め込みやすい男性の皆さんにもリラックスしてもらえる環境設計にもなっています。

――事業の立ち上げにあたり、どのような壁がありましたか?

 当初の課題は、自分たちが開発しているサービスがどれほどユーザーに影響を与えているのか見極めることでした。そのために、脳神経医や、精神科医にどのように数値化して統計をとればいいのか見解を聞いたりもしました。

 データ収集が始まるとその後は、研究の推論が正しいのかを検証しました。膨大な量のデータを必要とするため、病気を治癒できる等の臨床的な主張は行っていませんが、いくつかの臨床試験は既に進行していて、その結果も希望があるものが戻ってきています。当初は私たちが先駆者だったので、そのデータ管理に苦労したものです。

 過去1年間で、PlayStation上でサービスをローンチすることができたので、そこが分岐点だったと言えます。ユーザー数も爆発的に増えましたし、今後は成長を維持しながらユーザーの意見に耳を傾け、サービスを改善し続けることが課題となります。また、マーケティングにも力をいれて、よりVR業界でサービスを普及させ認知度の向上を図ることも目標です。

ハンドからヘッドへ。VRの社会浸透が目標

――現在までに16億円にも上る資金調達を行いました。どんな使い道を考えていますか。

 私たちにとって重要なことは、顧客獲得とディストリビューションの増加です。次の18〜24ヶ月で、マーケティングに集中しユーザーを増やすのがポイントです。

 私たちは、リピートユーザーを増やせるよう、工夫してプラットフォームを設計しました。先月だけでも、TRIPPに戻ってきたユーザーの54%が4ヶ月もしくはそれ以上に渡りサービスを使用してくれているという結果も出ました。VR、その上ウェルネス業界でそのようなマイルストーンを達成するのは偉業です。

 これからは、ユーザーがどうしてサービスを使わなくなってしまうのか等を把握して、どうしたらユーザーが何度も使いたいと思ってくれるのかを、ビデオゲームのメカニズムを駆使してプラットフォームを設計していきたいと思います。

 資金調達に成功して以来、チームのサイズも2倍に大きくなりましたし、マーケティング会社とも提携しています。引き続きサービスの品質改善に取り組みながら、なるべくたくさんの人に訴えかけていきたいと思います。

――どのような企業と協働したいですか。

 主なターゲットは、ハンドからヘッドへと移行しつつある新しいデバイスを開発している企業です。手元の小さな画面から、自分を取り巻く環境そのものが大きく変わっているので人々が見る世界も変貌しています。

Photo: franz12 / Shutterstock

 中でもKDDI社と共同で開発しているARのスマートグラスも軽量なデバイスで同じ世界を体験できるということで、期待のかかっている製品です。現在最終調整中で、近いうちにGoogleストアからダウンロード可能になります。日本ではKDDI社がパートナーとして主導する予定です。

 また法人向けのサービスとして展開したり、福利厚生の一貫としてウェルネスプログラムを刷新しようとしている企業にも声をかけています。

 そしてもちろん、医療分野で研究者や医療従事者と提携しながらインパクトを測ることで、様々な精神疾患の治療に応用できるよう期待しています。例えば、日本であれば文化的な要因に起因する精神疾患があるかもしれませんし、個々人にカスタマイズできるよう設計できれば、より一層影響があるのではないかと思います。従って、幅広い臨床学的な研究を行える研究機関とも連携を図りたいと思います。

――今後のビジョンは何でしょうか。

 現在TRIPPは世界のどこからでもダウンロード可能です。しかし提供言語は英語なので、今後はフランス語、スペイン語、ドイツ語等にローカライズしていきたいと思います。PlayStation上でのユーザー数が大きく、需要も1番大きい日本語はもうじきの展開を予定していますので、楽しみにしていてください。

 瞑想は、私の夫が大変なときに悲観的にならず、その瞬間瞬間で集中して共に時を過ごせるように「今」という時間に自分の意識を戻してくれました。最期、夫が息を引き取る瞬間まで、私は自分の恐怖心に苛まれず、目の前の現実を直視することができました。そのおかげで、最後まで深い絆で繋がることができたのです。

 2020年は全ての人にとって大変な年になりましたが、CEOとして資金調達をできたことを誇りに思います。今後の5年間で会社がどのように成長するのか楽しみですし、市場にVRがもっと普及するよう願っています。



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