国際ディープテックイベント「Global Startup EXPO 2026(GSE2026)」が2026年10月5日から7日まで、大阪・うめきたエリアなどを会場に開催された。主催は大阪・京都・兵庫の自治体や大学、経済団体でつくるGSE2026実行委員会で、テーマは「ディープテックを、世界と共に、産業へ」。バイオ・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI・先端ロボティクス、半導体・通信の6分野を軸に、60を超えるセッションが組まれた。

本稿では、その中からイベント2日目に登壇した米国のトップティアVCとスタートアップ・エコシステムの担い手に焦点を当てる。オープニングの基調講演に立ったAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、以下a16z)共同創業者のベン・ホロウィッツ氏、General Catalyst(ゼネラルカタリスト)・500 Global・Draper Dragon(ドレーパードラゴン)の投資担当者が並んだディープテック投資パネル、そしてスタンフォード大学発アクセラレーター、StartXのコミュニティ論。時系列で各セッションの論点と注目発言を追い、最後に「技術を産業に変えるには何が要るのか」という問いへの、彼らに共通する答えを整理する。


目次
【基調講演】a16zベン・ホロウィッツ氏
・日本拠点の狙いは「ロボティクス」と「日本文化×AI」
・「物理世界は線形にしか伸びない」。AIバブル論への回答
・AI普及率はまだ「2%」。スタックのすべてが作り直しになる
・「野心的すぎないか」から「十分に野心的か」へ
・「日本だけで会社をつくるのは危険だ」
【投資パネル】General Catalyst、500 Globalなど登壇
・技術を顧客に届ける仕組みをどうつくるか
・例えば、AIアプリと防衛産業。海外展開の順序は産業によって異なる
・開発と市場開拓では資金の性質も変わる
【パネル対談】StartX「成長を速めるのは弱みを共有できる仲間」
・信頼関係が試行錯誤の時間を縮める
・日本企業が提供できるのは資金と現場と経験
【編集者の視点】技術を産業に変えるために

【基調講演】a16zベン・ホロウィッツ氏

 イベント2日目の10月6日、オープニングを飾ったのは前夜に来日したばかりというホロウィッツ氏だ。聞き手はMPower Partners Fund共同創業者のキャシー松井氏が務めた。

キャシー松井氏と対談するアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者ベン・ホロウィッツ氏㊨(TECHBLITZ編集部撮影)

日本拠点の狙いは「ロボティクス」と「日本文化×AI」

 最初の話題は、同氏が5月に高市首相との面会後に表明した日本オフィス開設だ。狙いとして挙げたのは、①防衛やAIの最先端をゆく米国企業を日本につなぐこと、②製造・ロボット製造で日米企業のパートナーシップをつくること、③日本の政府・企業による米国テックへの投資を促すこと、④日本のスタートアップへの投資の4つ。

 とりわけ日本が世界をリードしうる領域として、ロボティクスを第一に挙げた。「現在のロボットのサプライチェーンはほぼ中国を経由している。だがアクチュエーターから力覚センサーまで、日本企業は長年その構成技術で優れてきた」とし、米国のAI技術と組み合わせれば日本から偉大なロボティクス企業が生まれると語った。もう一つは、世界で愛される日本文化をAIプロダクトで活かす領域だ。いずれも既に日本のスタートアップに投資しているという。

「物理世界は線形にしか伸びない」。AIバブル論への回答

 AIバブル論について問われると、同氏はまず普及の速さを強調した。OpenAIは2022年11月に製品の販売を始め、今やAnthropicとともに企業価値は1兆ドルを超える見方もある。ソフトウェア開発の生産性向上は、2025年末の「20%」から、今や優秀なプログラマーで「20〜30倍」に達したという。

 そのうえで、供給側の制約を指摘した。データセンター、電力、GPUは「2027年分まで完売」の状態で、変圧器やタービン、冷却、メモリも不足している。「AIインフラは物理世界だ。物理世界は線形にしか伸びないが、需要は指数関数的に伸びている」。だから少なくとも今後2〜3年はバブルではない、というのが同氏の見立てだ。ただし、インフラに必要な資金は「世界にあるお金を上回る」という予測もあり、膨らむ債務は「次の大きな暴落になりうる」とも付け加えた。

 この供給不足こそ日本の好機だという。電力関連の部品、小型原子炉、安全なデータセンター、メモリやCPU・GPUといった「つくる力」は、米国が苦しんでいる領域であり、「日本の強みに合致する。日本がその機会をつかむなら」と語った。

AI普及率はまだ「2%」。スタックのすべてが作り直しになる

 米国のAI普及度を問われると、「およそ2%」と答えて会場を驚かせた。用途はまだソフトウェア開発に偏っている。コードベースのように学習用のデータがそろっている領域は精度が高いが、会計や計画といった他の業務ではデータが足りないためだ。

 投資領域の話では、まずインフラを挙げた。「すべてが間違っている」というのがその理由だ。CPU、システムソフトウェア、ネットワーク、そして1920年代から変わらない変圧器にいたるまで、今のインフラはAIのような用途を想定していない。チップ内の銅配線は陳腐化し、冷却には材料科学の機会がある。

 アプリケーションで最大のカテゴリーはロボットやドローンなどのEmbodied AIだという。その中でも、汎用のヒューマノイドと並んで、特化型ロボットの市場がさらに大きい可能性を示した。「朝食のパンケーキを焼いて洗濯物もたたむならヒューマノイド。だがパンケーキを千枚焼くなら、それはおそらく特化型ロボットだ」。

「野心的すぎないか」から「十分に野心的か」へ

 日本のエコシステムに足りないものを問われると、同氏は人材や住環境の質を評価したうえで、最大の課題は「文化」だと述べた。旧来のやり方が強すぎ、優秀な若者が起業より大企業を選んできたことが、イノベーションを妨げてきたという。

 ただしAIは「前の時代からの文化的な断絶」だとも語る。AIを使いこなす若者は、過去の起業家をはるかに超える能力を持つからだ。投資判断も変わった。「かつては『野心的すぎないか』と考えたが、今は逆だ。『十分に野心的か』と問う」。例として、物理世界の幅広い自動化を掲げるUber創業者トラビス・カラニック氏の新会社への投資を挙げた。

 人口減少が変化の引き金になるとも語った。誰が高齢者を支えるのかという問いに対し、ロボットが必要になる。「年長者が望まないことをやっているのではなく、高齢者を助けるために働いている——それが文化的なブレークスルーになりうる」。

「日本だけで会社をつくるのは危険だ」

 最後に、米国進出を目指す日本の起業家への助言を求められた。同氏は「日本市場は中規模の会社をつくるには十分大きいが、世界を支配する会社をつくるには足りない」と指摘。しかも日本市場は世界と大きく異なり、日本での成功は海外での成功につながらない。

 比較対象として挙げたのがイスラエルだ。自国市場が小さいため、最初からグローバルに売る前提で会社をつくる。「私が日本で起業するなら、最初から日本と米国の両方で売ろうとする。一つだけなら米国を選ぶ。米国のほうが、日本よりずっと世界の他の市場に似ているからだ」

AI時代になり、投資判断が「(そのビジネスが)十分に野心的か」に変遷したと明かすベン・ホロウィッツ氏(同上)

【投資パネル】General Catalyst、500 Globalなど登壇

 基調講演に続く投資パネルには、General Catalystのアディット・スワループ氏、500 Globalのクリスティーン・ツァイ氏、Draper Dragonのサミズ・バヤン氏が登壇した。議論の軸は、技術の優位性をいかに事業の成長につなげるかだった。

技術を顧客に届ける仕組みをどうつくるか

 スワループ氏は、有望な技術を社会に普及できる形にすることが創業者の役割だと強調した。顧客ごとに説明や仕様を変える売り方では規模を拡大しにくい。顧客が購入しやすく、導入までの時間が短い製品にできているかを、投資の早い段階から見ているという。

 その考えを象徴するのが、General Catalystによる米オハイオ州の病院システム買収だ。投資先が医療現場で商業化を進める「リビングラボ」として活用している。「資本だけでは足りない」という同氏の言葉は、規制産業では技術を試し、導入する場まで必要になることを示していた。

 バヤン氏も、試作の費用が下がる一方、顧客の導入には今も時間がかかると指摘した。製造業では、2社目の顧客が現れ、需要予測を共有し始めることが事業化の前進を示すという。ツァイ氏は、研究と商業化の両方を理解し、状況に応じて軌道修正できるチームを重視すると語った。

例えば、AIアプリと防衛産業。海外展開の順序は産業によって異なる

 世界市場を目指すタイミングでは、見解が分かれた。ツァイ氏は、グローバル企業を目指すなら法人の所在地や米国での人員配置も創業時から設計すべきだと主張。国内で成功してから海外の投資家に訴えても、顧客や売上の基盤を変えるのは難しいという。

 一方、スワループ氏は分野による違いを挙げた。応用AIは早期の海外展開が有効だが、防衛やエネルギーなどの規制産業では、まず自国の顧客に集中するほうが規模を確保しやすい。バヤン氏も、最初の市場で勝ち、研究開発費を回収してから次へ進む考えを示した。世界を目指す野心と、最初に攻略する市場の絞り込みは両立する。

開発と市場開拓では資金の性質も変わる

 スワループ氏は、製品が市場に受け入れられる前後で、資金調達の方法も変えるべきだと述べた。研究開発段階ではベンチャー資金や補助金が中心となるが、回収の見通しが立つ市場開拓には、株式を渡さない資金も選択肢になる。General Catalystが応用AI企業Motiveに提供する、市場開拓の成果から回収する資金がその例だ。

 バヤン氏は、補助金の獲得に創業者の時間を費やしすぎることや、CVC出資に伴う独占条項などにも注意を促した。調達額だけでなく、その資金が顧客獲得や将来の選択肢にどう影響するかが問われる。

【StartX】成長を速めるのは弱みを共有できる仲間

 午後のStartXのセッションでは、技術の事業化を支える人のつながりが議論された。StartX創業者のキャメロン・タイテルマン氏、Playco共同創業者のテディ・クロス氏、Alation共同創業者のアーロン・カルブ氏、慶應義塾大学准教授の芦澤美智子氏が登壇した。

信頼関係が試行錯誤の時間を縮める

 タイテルマン氏によれば、スタンフォードの起業家の成否を分けるのは、授業や資金の豊富さだけではない。採用、資金調達、顧客開拓を支える、非公式な信頼のネットワークが大きいという。

 特に重要なのが、起業家同士で弱みを見せ、助けを求められる関係だ。投資家や社員には話しにくい問題も、同じ立場の仲間には相談できる。株式を取得しない非営利のStartXは、参加者に他の創業者を支援する時間を求め、この関係を意図的につくっている。

「以前は4カ月かかったことが1週間で片付く」。タイテルマン氏は、経験者に相談する価値をこう表現した。自社の経営と他者への支援を両立することで、他社の失敗から学び、必要な紹介も得られる。弱みの共有は、事業を前に進めるための実践なのだ。

日本企業が提供できるのは資金と現場と経験

 成長を支える人材についても、登壇者は肩書より経験を重視した。タイテルマン氏は、大企業のブランド力を前提に売ってきた幹部が、無名のスタートアップでも力を発揮できるとは限らないと指摘。芦澤氏も、日本には起業家の心理を理解するメンターやロールモデルの層が必要だと述べた。

 日本との連携では、シリコンバレーの仕組みをそのまま取り入れるより、日本の製造業や科学技術の基盤を生かす補完関係が重要だという。芦澤氏は、ホンダがモビリティや製造の強みを生かした起業家支援に取り組む例を紹介した。

 タイテルマン氏は、一部の日本のVCが求める早期IPOや大きな持分が、海外投資家の参入を妨げる場合があるとも指摘した。最後に大企業へ向けて、イノベーション部門に元起業家を採用するよう提言。資金や設備に加え、起業家の事情を理解し、事業化を支える人材の重要性を訴えた。

【編集者の視点】技術を産業に変えるために

 3つのセッションから浮かび上がったのは、技術の強みを顧客に届く形へ変える必要性だ。ホロウィッツ氏が挙げた電力、冷却、ロボット部品などの供給制約は、日本の技術を生かす機会になる。その機会を事業にするには、売り方、最初の市場、成長段階に合う資金、そして経験を共有できる仲間が欠かせない。

 日本の大企業や投資家にとっても、支援の役割は出資にとどまらない。顧客や実証の場を提供し、事業化を知る人材をつなぐこと。「ディープテックを産業に」というテーマは、技術を持つ起業家と、それを社会に届ける側の双方に向けられていた。

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