米国発のSlack、日本発のChatWorkなど、ここ数年でEメールに取って代わるメッセージサービスが出現している。そんな中、166millionもの資金調達を完了し、2015年9月からサービスを開始した新鋭のメッセージサービスがある。その名は「Symphony」。グローバルな金融機関からのバックアップを受けて、高セキュリティなメッセージサービスを提供している。今回はCEOのDavid Gurle氏に、従来のサービスとの違い、グローバル展開の道筋、ビジネスコミュニケーションの未来などについて聞いた。

David Gurle
Symphony
CEO
1992年、仏ESIGETEL卒。Thomson Reuters、MicrosoftやSkypeなどで、コミュニケーション、メッセージシステムの分野にて、20年以上もの経験を有する。2012年にPerzoを設立し、Founder & CEOに就任。同社は2014年9月にSymphony Communication Servicesに買収。10月にSymphony Communication ServicesのCEOに就任。

金融機関のDNAを持った高セキュリティメッセージサービス

―まず御社の事業内容を教えてください。

 高いセキュリティを備えた、クラウドのコミュニケーションプラットフォームを提供しています。社内外とのメッセージ送信、ファイル共有をすることができます。私たちのサービスは2015年9月にリリースし、現在のユーザーは50,000名で、そのうちの8%が法人利用となっています。

―もともと金融機関向けに作られたサービスだそうですね。

 もともと当社はGoldman Sachs、Bank of America、Credit Suisse、Citibank、JPMorganなど15もの金融機関が出資し、2014年10月に生まれました。サービスも金融機関のニーズに応える形でつくられており、金融サービスのDNAを持っているといえます。

―もともと金融機関ではBloombergの高額な情報端末サービスを利用しており、それを切り替えるためにSymphonyを立ち上げたと聞いています。

 Bloombergは、もともと情報コンテンツとニュースの会社です。彼らはコンテンツやニュース、コミュニケーションを併せ持ったサービスを提供しています。その料金は、1人につき年2万ドル。その2万ドルの中には、マーケット情報、企業情報、ニュースのコンテンツ料、とコミュニケーション機能が含まれています。

 一方、Symphonyは成り立ちが大きく異なります。情報コンテンツやニュースをつくることも、提供することもありません。メッセージ機能のみに特化しています。さまざまな情報を流す、ビジネスの神経系統といえます。

 いまNetflixやHuluなどのインターネットサービスがケーブルテレビのシェアを奪っています。それと同じように、Symphonyは、ビジネス情報プロバイダーのビジネスモデルに取って代わっていくでしょう。

―料金体系はどうなっていますか。

 個人で利用する場合は、無料です。ユーザー数、データのサイズに制限はありません。他社のサービスとは違い、私たちはどの機能にも制限はつけていないのです。法人利用をする場合は、1人につき月額15ドルです。また法人の場合は強固なセキュリティを実現するためハードウェアを導入する必要があります。

―市場規模はどれくらいあると考えますか?

 現在、ビジネスコミュニケーション市場とは、すなわちビジネスEメール市場ということなります。ビジネスコミュニケーションは、98%の割合でEメールが利用されています。グローバルでは3~5億席の規模になりますが、いま私たちがフォーカスしているのは、600~800万席の金融サービス業の市場です。

 しかも現在、徐々に金融業界以外にも顧客層が広がっています。たとえば、ヘルスケア、法律、メディア業界の企業にも利用されています。

高いセキュリティを実現する仕組み

―他のメッセージサービスとの違いは何ですか?

 3点あります。1つ目は、高いセキュリティとコンプライアンスの実現。当社のサービスは、E2EE(End to End Encryption)という暗号化方式を採用しています。暗号化キーは顧客のサイトで設定され、顧客が所有します。当社でさえその暗号化キーにアクセスすることはできませんし、再設定もできません。そのため顧客としては、データが外部に漏洩しない安心感があるのです。

 そして、当社は金融サービスにまつわる様々な法律や条例にも対応しています。金融サービスというのは、条例、契約保有期間、契約の解除などの事例がたくさんあるので、それぞれに適したサービスを提供しています。
 2つ目は、組織内コミュニケーションだけでなく、組織外のコミュニケーションでも使える点。そういう意味では、組織内のコミュニケーションにフォーカスしているSlackやHipChatよりは、LinkedInやFacebookのメッセージに近いですね。また、Symphonyは、相手が異なるアプリケーションを使っていても相手を検索でき、メッセージすることが可能です。これができるのはSymphonyだけです。

 3つ目は、第三者パートナーへのオープンソースの提供です。ソースコードをオープンにすることにより、誰でも私たちのシステムのコードを見て、プラットフォームの性能を上げる一端を担うことができるのです。

Image: Symphony

―IT業界で人気を誇るメッセージサービスSlackと比べられることも多いと思います。違いは何でしょうか?

 いまSlackからSymphonyに乗り換えるユーザーが増えています。その理由は、使いやすさとセキュリティの高さを両立しているからです。一般的にセキュリティレベルを上げると、通信がしづらかったりするなど、使いやすさが失われがちです。しかし、Symphonyはどちらのメリットも損なうことがないため支持されているのです。

ビジネスコミュニケーションを変える2つのアプローチ

― ビジネスコミュニケーションを、これからどう変えていくつもりですか。Eメールはなくなりますか?

 いま皆さんは、おそらくEメールだけでなく、複数のメッセージツールを使っていると思います。するとどうなるかというと、常にあっちこっちのEメールやメッセージツールの受信箱を確認して回らなければいけません。さまざまな大量の情報が送られてきて、複数の受信箱にバラバラに届く中、これをどう処理するか、管理するかが課題になるわけです。

 それを解決するためのアプローチを2つ考えています。1つ目は既存のEメールを活用するというやり方です。私たちはSlackのように、Eメールをつぶそうとはしていません。むしろEメールのように浸透しているメッセージツールに乗っかりたいと思っています。具体的には、Symphonyを使っていないユーザーにメッセージを送る場合でも、Eメールアドレスを入れればSymphony上でメッセージが送れ、相手のEメールの受信箱に届くという仕組みです。そして相手がそのメッセージにEメールから返信しても、自分にはSymphonyのプラットフォーム上でメッセージが受け取れるようにできます。

 2つ目は、必要な情報かどうかのフィルターをかけるシステムです。いま皆さんが受けとる情報量はどんどん増えています。そこで、必要な情報を見分けるために、私たちは「Signal」という機能を開発しました。Symphony上のコミュニケーションのうち、ユーザーにとって重要な情報を抽出できる機能です。

―2014年9月、Symphonyはあなたが創業したPerzoを買収しました。そして翌月にあなたはSymphonyのCEOに就任しています。なぜCEOに就任したのですか?

 私の夢とは、次世代メッセージツールを作ることです。10年後、皆さんがEメールを使っているとは思えませんし、SNSのメッセージ、メッセージツールを使うのもいい方法ではないと思います。そのころには世界で1つか2つのメッセージツールが市場を独占しているでしょう。でもそれはMicrosoftではありません。既存のものを破壊する、まったく新しいユーザー経験を実現する会社でしょう。

 私はそれをSymphonyのCEOとして実現したいと思いました。それは山頂を目指して登山をしているようなものです。私はこれまで20年にわたって、コミュニケーションツールの開発をしてきました。ようやく私のビジョンを実現する機会に恵まれたと思っています。

―$166 millionと十分な資金も調達し、これからグローバル展開も進めていくと思います。アジア市場の進出についてはどう考えていますか。

 私にとってアジア市場はとても重要なエリアです。私はシンガポールに3年住んだ経験があり、大規模なビジネスをアジアで展開する機会がありました。アジアは世界的にも経済成長が目覚ましく、当社の成長にとっても重要なエリアとなります。オフィスを東京、香港、シンガポールなどに展開し、ビジネスを成長させたいと考えています。

―日本進出にあたってどんなパートナーと組みたいですか。

 さまざまなパートナーを求めています。まず顧客です。顧客を開拓するために、日本のユーザーが使いやすいように、サービスの仕様を変更したいと考えています。また、コンテンツパートナー、通信事業者などとも組みたいと考えています。

「想像力」が世界を変える

―最後に、今後のビジョンを聞かせてください。

 私は「想像力」の力を強く信じています。アインシュタインは「想像力は知性よりも重要だ」と言いました。想像力のある人、夢のある人、投資のある人、あふれる情熱のある人、このような人たちが世界を変え、人類を前に進ませるのです。

 私の長期的なビジョンとしては、バーチャルコミュニケーションを、まるで私たちが今しているような対面コミュニケーションのように実現することです。テクノロジーの観点から見れば、意思や感情などを伝達するためのバリアはありません。遠隔コミュニケーションでもそれは十分に実現することができます。サイエンスフィクションや映画でもそう言ってますよね。それを夢見ている人がいます、私もそのうちの一人です。それを生涯にわたって、追い求め続けるつもりです。



RELATED ARTICLES
複数クラウド間のネットワーク構築、半年以上の作業期間をわずか数時間に Alkira
複数クラウド間のネットワーク構築、半年以上の作業期間をわずか数時間に Alkira
複数クラウド間のネットワーク構築、半年以上の作業期間をわずか数時間に Alkiraの詳細を見る
コーヒーショップの混雑観測から始まったスマートビル革命 Density
コーヒーショップの混雑観測から始まったスマートビル革命 Density
コーヒーショップの混雑観測から始まったスマートビル革命 Densityの詳細を見る
クラウド全盛時代の新常識?CPU・GPUが利用データを暗号化 Anjuna
クラウド全盛時代の新常識?CPU・GPUが利用データを暗号化 Anjuna
クラウド全盛時代の新常識?CPU・GPUが利用データを暗号化 Anjunaの詳細を見る
勉強を「学び」から「遊び」に ゲーム感覚の学習プラットフォームが子供に人気 SplashLearn
勉強を「学び」から「遊び」に ゲーム感覚の学習プラットフォームが子供に人気 SplashLearn
勉強を「学び」から「遊び」に ゲーム感覚の学習プラットフォームが子供に人気 SplashLearnの詳細を見る
ソフトバンクも出資する韓国の人気旅行アプリの強さとは ヤノルジャ
ソフトバンクも出資する韓国の人気旅行アプリの強さとは ヤノルジャ
ソフトバンクも出資する韓国の人気旅行アプリの強さとは ヤノルジャの詳細を見る
ライドシェアとは一線画す、相乗りビジネスの成功モデル BlaBlaCar
ライドシェアとは一線画す、相乗りビジネスの成功モデル BlaBlaCar
ライドシェアとは一線画す、相乗りビジネスの成功モデル BlaBlaCarの詳細を見る

NEWSLETTER

世界のイノベーション、イベント、
お役立ち情報をお届け
「オープンイノベーション事例集 vol.5」
もプレゼント

Follow

探すのは、
日本のスタートアップだけじゃない
成長産業に特化した調査プラットフォーム
BLITZ Portal

Copyright © 2024 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.