小売業、レストランなどの外食業の最前線で働く従業員の生産性向上を図るプラットフォームを運営するYOOBIC社。イギリス・ロンドンに本社を構える同社のプロダクトは、KENZOやLancôme、Lacoste、Puma、Vansなどのグローバルブランドの小売店に使われているなど、全世界で約350社をクライアントに抱える注目スタートアップだ。同社が展開するサービスの特徴は、従業員に対して「コミュニケーション」「ラーニング」「タスクマネジメント」という3つの機能をワンストップで提供していることにある。空手歴35年、極真会館の会員でもあり、黒帯保持者という知日派の同社共同創業者でCEOのFabrice Haiat氏に話を聞いた。

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コミュニケーション、教育、タスク管理を1つに

――御社はどんなサービスを展開しているのですか。

 YOOBICは主に以下の3つの要素を、店舗で働く従業員にワンストップで提供するモバイルサービスです。1つ目は、「コミュニケーションの促進」です。具体的には、従業員と日々の作業の進捗や、店舗の成績などを話し合えるコミュニケーションのツールとして機能します。Messenger のように、ダイレクトメッセージを送ることもできます。また、このアプリ上では接客の際のルールをまとめたハンドブックを確認することもできます。

 2つ目は、「従業員教育」です。Eラーニングの標準規格であるSCORMを搭載した接客や在庫管理に関するオンライントレーニングや、新人が店舗での仕事に慣れるようにする動画解説、ゲーム感覚で楽しみながら学習できるトレーニングなど、さまざまなオンライン教育を実装しています。

 3つ目は、「日々のタスク管理」です。従業員が日々店舗で行うべきタスクは通常、紙やエクセル、メールなど様々な場所に記録されていることがほとんどですが、これらをすべてYOOBICのアプリ上にまとめています。また、店舗でのオペレーションで行う作業を、「どの場所で」実行すれば良いのかを、カメラを使って伝える機能も搭載しています。

 YOOBICの特徴は、これら3つの機能を、アプリやWeb上でワンストップに利用できることにあります。

Fabrice Haiat
YOOBIC
Co-Founder & CEO
フランスの工学・技術系エリート養成のための国立機関であるCentraleSupelecで工学の学士号を取得。その後、McKinsey&Companyで勤務し、以降は連続起業家としてさまざまな事業を立ち上げる。兄弟で創業したエネルギー監視ソリューションのVizeliaは2011年にSchneider Electricに売却。2014年、機械学習を専門としバックエンドのエンジニアである兄とフロントサイドのエンジニアを担当する弟とともに、YOOBIC社を創業。

グローバル展開、チェーンストア運営に威力を発揮

 チェーンストアを経営する小売業は、地理的に離れた場所で、それぞれの店舗を運営しなければなりません。そのため、本部が主導して決める商品政策や日々のオペレーションを、各店舗にどのように伝え、現場に浸透させるかという難しさがあります。YOOBICを使えば、本部と店舗従業員のコミュニケーションもスムーズになりますし、従業員教育も容易です。YOOBICは、グローバル展開やチェーンストアを経営する上で、非常に便利なツールであると言えるでしょう。

Image: YOOBIC

――御社は、どのようにして競合との差別化を図っているのでしょうか。

 当社はグローバルカンパニーであり、YOOBICが3つの機能を統合していることと、AIを搭載していることです。そのため、従業員1人ひとりにカスタマイズされた体験を届けることができます。

 例えば、従業員が仕事で何らかのミスをしたとします。すると、報告を受けた本部の人間がそのタスクに関するトレーニングを当人に通知します。そして、その従業員がトレーニングを受け、以前はミスしていた仕事をこなせるようになってきたら、本部から「よくやった!」と激励のメッセージを送信することも可能です。

 このように、3つの機能を統合したプラットフォームだからこそ、従業員のポテンシャルを向上させられるのです。競合他社のなかには「コミュニケーション」に特化したサービスを運営している企業もありますが、「コミュニケーション」「従業員教育」「日々のタスク管理」をワンストップに提供しているのは当社だけです。

 小売業は、DXという大きなトレンドに直面しています。対顧客へのデジタル化も各社の成長戦略の1つですが、自社のオペレーションもデジタル化が必要とされています。従業員の生産性向上ツールを提供する企業のなかでも、当社は売上・顧客数ともに最大規模で、YOOBICがリーチ可能な市場は120億ドル規模だと考えています。

Image: YOOBIC

世界87カ国、約350社が導入 アパレル、外食、グロサリーで広く使われる

――創業の経緯を教えてください。

 小売業やサービス業において、店舗で働く従業員のクオリティがビジネスの結果を左右します。当然ですが、彼らが良い教育を受け、自らが従事するブランドへの愛着を感じることはとても重要です。一方、同業界では、従業員への投資が十分になされていない側面がありました。実際、これらの業界に従事する人のうち、約80%が現場の最前線の従業員ですが、彼らへのIT投資は企業の全投資金額のわずか数%程度に過ぎません。

 結果として、小売業における離職率は仕事を始めて2年間で約50%というデータもあり、とても高い数字になっています。つまり、小売業の経営陣は2年おきにビジネスを作り替えないといけないことを意味するので、離職率の高さは積年の課題となっていました。最前線の従業員に対して、どのようなサポートをするべきか、経営陣も頭を悩ませていたのです。

 私たちがYOOBICを創業した当初、テクノロジーを活用して、従業員同士のコミュニケーションを促進し、日々のタスクを管理するツールを提供すれば必ず必要とする企業が出てくる、という確信がありました。

 今日では、その確信が、現実に変わりつつあります。当社のサービスは、世界87カ国、350以上のクライアントで使われています。

――収益モデルと、主な顧客層を教えてください。

 YOOBICは、典型的なSaaSモデルのビジネスです。基本的には年契約をベースにしていて、登録する従業員数などで料金は変動します。

 主な顧客としては、Timberland、SMCPのようなファッションブランドやアパレル専門店が約33%です。また、Vitaliaなどグロサリーを販売する小売業が約20~25%、BugerFi、Urban Platesなど外食業が約20%、ほかにも家具専門店やおもちゃなどの専門店も当社の顧客です。

Image: YOOBIC

2023年より日本市場に本格進出 世界の顧客数50~70%増を目指す

――御社は、2021年7月の資金調達で約5億ドル(約685億円)を調達しました。資金の使い道を教えてください。

 2つあります。1つ目は、人員拡大です。現在、当社の従業員は約200人ですが、向こう1年で、300人体制まで拡大したいと考えています。

 2つ目に、顧客の拡大です。私たちの顧客の多くがヨーロッパ諸国にいますが、この地域でのビジネスを強化し、2倍にしていくのと同時に、アメリカやカナダなど、北米にも力を入れていきます。特に、アメリカ事業は4年前から開始し、ニューヨークにも拠点を置いているのですが、現在とても好調な地域の一つです。また、アジア事業にも注力していきます。すでに、日本とタイには顧客がいます。2022年の年末から2023年にかけて、アジアのこの2カ国を中心にビジネスを拡大していきたいです。R&Dにも力を入れています。

 当社は、2022年末には、顧客数対前年比約50~70%増を目指しています。過去にも、50%から70%増という目標を達成したことがあるので、決して荒唐無稽な数字ではありません。特に、小売業やサービス業にこれから入社するデジタル・ネイティブの若い世代には、YOOBICの体験がぴったり合うと確信しています。

――日本市場の深耕を考えたとき、今後どのようなパートナーシップが必要だと考えていますか。

 小売業、とくに経営陣主導でDXを実現しようと考えている企業とのパートナーシップがベストだと考えています。また、日本の小売業界に精通し、クライアントに対してYOOBICのような店舗オペレーションを変革するサービスを提案しようとしている企業なども、候補に挙げられます。YOOBICは、すでに日本語にも対応していますし、2023年からは本格的に日本市場に進出していきます。

 また、ヨーロッパや北米に本社を構える当社のクライアントの多くが、アジア太平洋地域の「コア・リージョン」として日本市場を位置付けていることも、我々が日本市場に注力したい理由の一つです。購買力がとても高い市場ですし、特に海外のアパレルブランドはとても興味を持っています。

――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 小売業、サービス業の最前線で働く人たちにとってのワンストッププラットフォームであり続けることです。YOOBICは、日々の業務に欠かせないツールでありたいのです。今後も、テクノロジーの力で小売業、サービス業で働く人たちを支えていきたいですね。

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