Veo Robotics(本社:米国ボストン)は、製造現場で稼働する産業用ロボットと作業員が安全に協働するためのソリューションを提供している。最新のコンピュータビジョンと3Dセンシングを用いて、人間とロボットの位置関係をリアルタイムで追跡し、人が近づくとロボットの動きをスローダウンさせたり、停止したりすることで安全性を確保する。既存の産業用ロボットシステムに組み込むことができるのが特徴だ。共同創業者で社長兼CEOのPatrick Sobalvarro氏に、製品の強みや日本進出への意気込みなどを聞いた。 

目次
普通の産業用ロボットを「協働型」に
製造現場で発見した産業用ロボットの課題
日本は一番に参入したい特別な市場
産業用ロボットを「機械」から「仕事仲間」へ

普通の産業用ロボットを「協働型」に

 主力製品の「Veo FreeMove」は、高度なコンピュータビジョンと3Dセンシングを駆使した安全システム。作業場の周囲に取り付けられた3Dセンサーが空間全体を3次元の視点でモニタリングし、作業中のロボットが人間との安全な距離を常に保ち、万が一、人が危険な領域に侵入した際は、すぐにそれを検知して、動作を止めるようになっている。

Patrick Sobalvarro
Co-Founder & CEO
マサチューセッツ工科大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得後、Boston Consulting Groupに入社。その後、Trenza Corp、IntelliVid(2008年にTyco Internationalに売却)、Upward Labsなど、さまざまな企業を立ち上げた。2016年、Clara Vu氏、Scott Denenberg氏と共にVeo Roboticsを設立し、社長兼CEOに就任。現在に至る。
 既存の産業用ロボットに組み込みも可能なため、普通の産業用ロボットを「協働型」のロボットにアップデートできるソリューションといえる。人間とロボットの位置関係をリアルタイムで追跡しており、作業者との距離に応じて、完全停止だけではなく、作業を続けつつ作業スピードを緩めて安全性を確保するといった対応もできる。

「私たちが作るプラットフォームには3つの要素があります。1つ目は、どんなに大きなロボットであっても、人間とロボットやその他の機械が安全に一体化できるようにすることです。私たちは、人々が自信を持って、ロボットのすぐそばまで歩いていけるようにしたい。そうすることで、産業現場における生産性やプロセス改善の問題を取り除くことができるからです。2つ目は、センサーが3次元で見ること、そして複数のセンサーを使用し、ある場所、つまり産業ワークスペースで何が起こっているかを1つの3次元ビューで把握すること。3つ目は、工場で使えるようなソフトウェアを作らなければならないこと。3つ目が、おそらく最も重要な要素でしょう」とSobalvarro氏は語る。

製造現場で発見した産業用ロボットの課題

 Sobalvarro氏は、コンピュータビジョン、ロボット工学、産業オートメーションにおいて25年以上のキャリアを持つ。マサチューセッツ工科大学、コンピュータサイエンス博士課程在籍時、当時日本から来ていたコンピュータービジョン分野の専門家である池内克史博士率いるMIT研究所にて、「産業用ロボットの制御システム」について研究論文を発表した。Veo Roboticsを設立する以前は、Trenza Corp、IntelliVid(2008年にTyco Internationalに売却)、Upward Labsなど、さまざまな企業を立ち上げた連続起業家でもある。

「人との協働作業を安全にこなす小型ロボット」のアイデアが生まれたのは、協働型製造ロボットを開発するRethink Roboticsの社長を務めていた2009年。チームを引き連れて大手自動車メーカーの工場を訪問したSobalvarro氏は、工場の生産ラインで多くのロボットが作業していることに注目した。工場で使用される大型の産業用ロボットは、人には不可能な重労働をこなす一方で、動作中の産業用ロボットと人が接触してしまった場合、大きな事故につながる危険性があることから、作業者の安全を確保するよう人から隔離しなくてはならず、決まった場所のみでしか作業ができないという欠点があった。

 また、生産ラインでは、ロボットがこなす重作業の他に、人間が手作業で行う工程が実は多い。工場・製造業の労働者数は年々減少傾向にあり、労働人口不足が深刻な問題となっている。労働者の平均年齢が高くなってきていることから、企業が将来取り組まなくてはならない大きな課題がある。

 同氏はこの点に目を付けた。Siemens Venture Capitalの初代アントレプレナー・イン・レジデンス(客員起業家)として、Veo Roboticsのビジョンの構築に注力した後、2016年にSiemens Venture Capitalからシードファンドを調達し、Rethink Roboticsで出会ったエンジニアのClara Vu氏(現CTO)、Jentek Sensorsで電気工学のシニア・ディレクターを務めていたScott Denenberg氏(現副社長)と共に、Veo Roboticsを設立した。

image: Veo Robotics

日本は一番に参入したい特別な市場

 Veo Roboticsは、過去5回のラウンドで合計5,700万ドルを調達した。出資者には、ヤマハ発動機のCVCであるYamaha Motors Venturesも名を連ねる。調達資金は、プロダクトの性能向上と、コスト削減をもたらす次世代製品の開発・製造、将来的なグローバル展開などに充てる予定だ。

「3Dビジョンとインテリジェント・ソフトウェアを組み合わせた直接の競合は現状見当たりません。また、インテリジェント・ソフトウェアに関しては、機能安全認証を取得した唯一の企業でもあると自負しています。私たちの戦略は、Veo Roboticsが作る製品の開発において、常に業界の最先端を行くことです」とSobalvarro氏は次世代製品に向けて、更なる意欲を示す。

 なお、同社は2020年に開催された世界経済フォーラムにて、Veo Roboticsは数百社の候補の中から、テクノロジー・パイオニアの1社に選出されている。

image: Veo Robotics

 同社は、グローバルな展開も前向きに検討している。中でも日本は一番に参入したい国であり、特別な市場と捉えているという。

 現在、世界大手のロボットメーカーであるファナック、安川電機、KUKA、ABBと密接に連携しているが、特に日本は「産業用ロボットで世界をリードしている存在」と語り、Sobalvarro氏は日本の技術、生産プロセスに尊敬の念を抱いているという。

「米国は、日本の生産方式を採用した結果、1980年代に産業プロセスに革命が起きました。それだけ日本の産業プロセスに関する文化が米国にとって素晴らしかったということです。私たちは日本の『産業革命』に多大な恩恵を受けていると感じていますし、安川電機やファナックなど、日本のロボットメーカーは最高のパートナーです。ですから、私たちにとって、日本市場は特別であり、日本の進出を一番の目標としています」(Sobalvarro氏)

 日本に進出するに当たり、システムインテグレーターが必要となってくるという。同社は北米、カナダにおいて、システムインテグレーターのパートナーはすでにおり、同様のパートナーを日本で探して、現地のニーズや状況に対応したい考え。そして、日本の顧客特有のニーズに精通したシステムインテグレーターと密に連携し、ゆくゆくは日本で販売を拡大していきたいと、Sobalvbarro氏は将来的な日本への進出に向けたビジョンを語った。

産業用ロボットを「機械」から「仕事仲間」へ

 日本をはじめとする先進国において、少子高齢化などに伴う労働力不足が懸念されている。労働力不足が深刻さを増す中、生産性向上への関心は高まっている。Veo Robotics独自の技術を駆使した安全かつ効率的な「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間参加型)」のロボティック・ソリューションは、ロボットが単なる機械ではなく、「仕事仲間」となっていくために欠かせないソリューションかもしれない。

「生産性を向上させることで、先進国の平均寿命を飛躍的に伸ばしたのは、冷蔵庫でした。家の中に冷蔵庫と冷凍庫があれば、食べ物が腐ることはなく、腐った食べ物を食べて病気になって死んだりすることもなくなりました。また、冷蔵庫や冷凍庫を手頃な価格で製造することにより、労働力が増え、かつ公衆衛生が大幅に改善できたのです」(Sobalvarro氏)

「このように、生産性は非常に重要です。私たちは、より良い安全性と人間工学によって、生産性を向上させたいと考えています。年配の労働者が腰を痛めないためにも、力仕事はロボットがやり、労働者は自分の頭脳、手先の器用さと技術を使って、ロボットができない部分をやればいいのです。そうすることで生産性が向上し、全体が良くなる。私たちはいつもそう考え、社会に貢献していきたいと思っています」(Sobalvarro氏)



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