移民の友人を傷つけてしまった経験
――どうして起業をしようと思ったのですか。
私はノースカロライナ出身で、父はトランプ支持者の白人、母はリベラルな民主派で黒人です。このような環境で育ち、世界の見方には常にフィルターがかかっていることを認識していました。
どうやって育ったか、どのような経験をしたか、教育や様々な資源へのアクセスといったものによって、人権といった非常にシンプルなものへの見方ですら変わってしまうということを小さい時から感じていて、自分自身はとてもオープンなマインドの持ち主だと思っていました。
彼女のことを酷く傷つけてしまいました。私にとって、自分が気にかけている人のことを傷つけてしまったということは大きな衝撃でした。私たちは皆、バイアスまみれであるということに改めて気づかされました。
米国で黒人であること、職場で女性であること、そして移民であることについて、他の立場に置かれた人がどのように感じるのかということを、どうにか感じられるようにならないかと考えました。これが起業に至った根本的な問題意識です。
実際に当事者にならなくても経験するツール
――なぜバーチャルリアリティーに行きついたのでしょうか。
「MeToo」や「Black Lives Matter」のハッシュタグが始まる前に起業をしたわけですが、これらの動きによって、社会問題が目の前で起こっていることに気づいた人は多いと思います。
でも、多くの視点は実際に当事者として経験をしないと得ることができず、起こっていることが見えず、知らずに相手を傷つけていることもあります。黒人が日々受けている差別を、全く経験したことがない人に理解できるかと言ったら難しいと思います。
なので、実際に当事者として生まれなくても、あるいは実際に何か間違ったことを言って誰かを傷つけてから気づく前に、様々な立場の人の置かれた状況や気持ちを理解するための経験をするツールを作る必要があると感じました。
それがバーチャルリアリティーだったのです。テクノロジーのバックグラウンドはなかったので、そこから数百人ものベンチャー起業家やプロダクトマネージャー、プロダクトデザイナーなどに会い、物凄い量の勉強もしましたし、物凄い人数にアドバイスを受け、起業するに至りました。
セクハラやダイバーシティマネジメント研修で活用
――どのような企業が顧客になっていますか。
私たちの製品は、セクシャルハラスメントやダイバーシティマネジメントにおけるバイアスに取り組もうとしている企業の研修などに使われています。すでに日本のコンサルティング会社とも契約しており、私たちの製品を翻訳して、日本市場に導入しようとしています。日本でも大きなMeTooムーブメントの動きがあったと認識しています。
Image: Vantage Point HP
――ハードウェアも作っているのですか?
ハードウェアは手がけていません。コンテンツ、ソリューションを提供しています。それぞれの組織の抱えている問題を分析し、ソリューションを統合して提供しています。ユーザー数に応じてライセンス契約をしています。
バーチャルリアリティーと言うとすごく値段が高いのではと思われがちですがそんなことはなく、他のバーチャルリアリティーサービスに比べると驚くような安さです。普通のビデオ研修と比べれば高価な部類に入りますが、顧客満足度は非常に高いと思います。