コンピューティングやデータベース、ストレージ、AIなどを提供するパブリッククラウドサービスは、必要なタイミングで必要なものを用意できるという利点を持つ。しかし、通信料や通信時間に応じて、利用した分を支払う従量課金制は、コストの全貌を把握しづらく、無駄な支出が発生しやすいとの声も多い。そこで、使用料の管理をシンプルにし、削減できそうな支出がないか分かりやすく支援するサービスが「Vantage」だ。創業者でありCEOのBen Schaechter氏に、Vantageでできる機能と、そのコスト削減効果について話を聞いた。

複雑なパブリッククラウドの使用料を分かりやすくしたい

 Schaechter氏は、技術系メディアであるTechCrunchのWebデベロッパーとしてキャリアをスタートさせ、世論調査アプリや金融ポートフォリオアプリなど消費者向けアプリ開発企業で経験を重ねてきた。

Ben Schaechter
Vantage
Co-Founder & CEO
TechCrunchのWebデベロッパーを経て、世論調査アプリや金融ポートフォリオアプリを開発した後、クラウドサービスのDigitalOceanやAWSなどでプロダクトマネジメントチームを率いた経験をもつ。その後、2020年にクラウドベンダーのDitalOcean時代に知り合った仲間とともに、Vantageを創業する。

 その後、シンプルさをセールスポイントとするクラウドサービスのDigitalOceanや、業界のリーダーであるAmazon Web Service(AWS)など、パブリッククラウドのインフラ開発に携わり、プロダクトマネジメントのキャリアを積む。その時、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)のサービスやコストは複雑で、請求内容の理由がわからないものがあると感じたという。もっと開発をシンプルに高速化できないかと疑問に思ったSchaechter氏は、Vantageを創業したきっかけを次のように述べた。

「開発チームのリーダーは毎月、パブリッククラウドサービスから送られてくる請求書に、どうすればコストを最適化できるのか、ずっと頭を悩ませてきました。彼らのコストマネジメントを容易にするだけでなく、さまざまなツールとコラボレーションするソフトウェアやアナリティクスを提供できないかと考えました」

使用料の予測と、ムダの最適化によって20%のコスト削減を実現

 Vantageの意味は直訳すると「見晴らし」。たとえばAWSアカウント全体で、今月いくらコストがかかったとか、どのリソースの利用が多かったかなど、支出状況を一目で分かるようにしてくれる。

 現在の使用料だけでなく、月単位の料金比較や、当月の予想使用料が分かる「コストレポート」と呼ばれる機能もある。どのサービスがコストに影響を与えているか表示することも可能だ。Vantageは、さらに使用料を節約するプランも提示する。たとえば、インスタンスの予約やインスタンスタイプの変更、ストレージタイプの変更、ライフサイクルポリシーやリテンションポリシーなどの最適化を提案することによって、中央値で20%ものコスト削減を達成しているという。

Image: Vantage HP

 Vantageのビジネスモデルは典型的なSaaS型で、AWSアカウントの月額料金が2500ドルまでは無料で利用できる。2500ドルを超えた場合や、基本機能以外を利用する場合は、追加で料金がかかる仕組み。ただ、上限料金や機能のアップダウンはいつでも変更可能だ。

 では、なぜAWSではなく、サードパーティであるVantageがこうしたサービスを提供するのか。その理由としてSchaechter氏は、「AWSの課金チームは正確に請求することだけにフォーカスをしており、ユーザーが喜ぶ操作性や、シンプルなインターフェースの開発に関心がないからです。DigitalOcean出身者で構成されるVantageのチームは、複雑なものをいかにシンプルで使いやすいものにするかに心血を注いでいます」と説明した。

AWS (Image: Tada Images / Shutterstock)

 また、Vantageの競合に、VM ware に買収されたCloud Healthや、Apptioが買収したCloud Abilityがあるが、最新のAWSサービスには対応していない。しかも、AWSの請求額に応じて利用料が引き上がるなど不満の声が多く、時代遅れなものになっているという。一方、Vantageは250種類ものAWSサービスに対応し、利用料も一定だ。導入のために長い社内手続きをせずとも、開発チームの使いたいと思った人が、使いたい時に利用できる手軽さも魅力となっている。

 Schaechter氏は、Vantageが「誰でも、相談することなく、製品をすぐに試すことができる数少ないセルフサービス製品です。開発者が私たちを試して、良ければ自分の組織に導入できるため、ボトムアップからのコスト改善を可能にします」と、AWSの手が回らない部分を補い、他社との差別化ができているからこそ、市場に彼らの製品が受け入れられているのだと強調した。

より安価なクラウドをレコメンド。マルチクラウド時代を睨んだ展開

 2021年6月、Vantageはシードラウンドでアンドリーセン・ホロウィッツやエンジェル投資家などから400万ドルの資金を得た。調達資金は開発要員の採用にあて、今いる6名のチームを10~15名に増やすつもりだ。

 VantageはAWSのコンソールに接続して最適化を行うため、日本のAWSアカウントでも利用できる。AWSのリソースは同じものであっても、接続するリージョンによって時間やデータ量あたりの単価が異なってくるため、東京の高いリージョンを利用している場合は、Vantageで調整してコストを削減できるという。すでに日本企業のユーザーが数百社あり、このままユーザーが増えれば、日本でカスタマーサクセスやセールスの採用も考えたいというが、明確な予定は立っていない。

 近々、リリースを考えている新しいサービスとして、「フィルターセット」というAWSにかかった使用料を、財務会計システムと連携するための機能を作っている。また、Amazon ECSやEKSで動作するKubernetesの料金を最適化するサービスも開発中だ。

 今後は、AWSのみに対応しているVantageのサービスを、他のクラウドサービスAzureやGCPにも対応させていく考え。2022年の第1四半期にはAzureを完了し、CDN&WebセキュリティサービスのsnowflakeやCDNのCloud flareなどのプロバイダーとも連携を拡大させていくつもりだ。

 さまざまなプロバイダーのコストを統合的に比較できるようになれば、どのプロバイダーを、どんな方法で利用するのが最もコスト削減につながるかレコメンデーションが可能となる。つまり、単一のプロバイダー内でコスト削減を目指すのではなく、複数のプロバイダー間のバランスを取りながら、全体で最もコストがかからない方法を探す仕組みを構築するのだ。

 Schaechter氏は、「一つのアカウント内で最適化できるコスト削減は限られているため、より良いレベルのサービスを安価に提供できる他のプロバイダーへスイッチすることが最善の方法です。Vantageは、すべてのクラウドに対して推奨事項を提供できるようにします」と、顧客のテクノロジー、財務、経営陣のコラボレーションを促進することがVantageのミッションだと語った。



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