新型コロナウィルスの世界的な流行以降、遠隔医療の必要性がより一層高まる中、コロナ前から成長し、国際的に拡大を続けているTytoCare。同社の共同創業者でCEOのDedi Gilad氏に、創業の経緯やプロダクトの優位性、日本進出について話を聞いた。
きっかけは子供の通院 自身の経験から生まれた遠隔医療のアイデア
――まずはご自身の経歴を教えて下さい。
イスラエルのテルアビブ大学で経営工学を学んだ後、MBAを取得しました。その後はハイテク関連分野の企業などに在籍しました。2012年にTytoCareをイスラエルで立ち上げ、ニューヨークに本社オフィスを設立しました。商業的にはニューヨークが拠点という位置づけです。
――遠隔医療診断のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
私には2人の子供がいます。10年ぐらい前のことになりますが、下の子が4歳の時、耳と喉の感染症が続いていたんです。ほぼ毎月、小児科医に連れて行くのが日課でした。病院へ連れて行く時間がかかるだけでなく、クリニックに着いてからの待ち時間もとても長く、待合室に座っているだけで、子供の症状が悪化しそうだと感じることもありました。しかも、長いこと待って受ける診断や治療もいつも同じなんです。
そんな経験から、医療にはもっといい方法があるはずだと考え、2012年にTytoCareを立ち上げました。
――御社の製品の特徴を教えて下さい。
モバイルアプリと検査機器によって患者と医師がつながり、自宅で診断や処方箋などを受けることができます。私たちの検査デバイスを使うことで、喉や耳、皮膚、心臓、肺などの状態を把握することができます。心拍数や体温、酸素濃度などの基本的なバイタルサインの他に、耳の炎症やアレルギー、せきや呼吸器系の疾患、風邪やインフルエンザ、発熱など、医師は様々な症状の診断にデータを利用できます。処方箋を出すこともできます。
検査デバイスには、耳の検査用の耳鏡(耳の中を観察する器具)、心臓、肺、腹部の聴診器など、診断に必要なツールが揃っているため、自宅と医師をつないでのリモート診断を可能にします。そして、バーチャルケアのレベルを、基本的な音声やビデオだけでなく、より対面式に近いものへと高めているのが特徴です。
より対面式に近いバーチャルケアのソリューションを提案
――COVID-19の流行により、遠隔医療の必要性や需要が高まってきています。パンデミックの前と後で業況はいかがでしょうか?
TytoCareはCOVID-19が始まる前から成長しており、2019年には3倍売り上げが伸びていました。COVID-19の流行は、消費者、医療システム、医療計画に大きな影響を及ぼし、ニーズという観点からも明らかに遠隔医療の需要は高まっています。
COVID-19以降、人々が医療機関を訪れる回数が減ったこともあり、多くの市場のプレイヤーは、バーチャルケアをプライマリケアサービスの最前線に据えていましたが、現在、バーチャルケアの利用が減少しているのを目の当たりにしています。
理由はビデオと音声だけのバーチャルケアではあまり多くのことを行うことができず、十分ではないからです。私たちの提供するソリューションは、バーチャルケアのレベルを、基本的な音声やビデオだけでなく、もっと対面式に近いものにしています。様々な患者を診断でき、様々な症状にも対応できる遠隔診療を可能にしていることから、私たちのソリューションが評価されているのです。
また、他の遠隔医療ソリューションと比較して、ROI(Return On Investment、投資利益率)と価値、そしてコスト削減に大きな違いがあることもわかりました。私たちの製品の利用率は、バーチャルケアを始めたときの少なくとも5倍は成長しています。
Image:TytoCare
15カ国にサービスを提供 日本進出は2023年を予定
――御社は過去7回のラウンドで計1億5670万ドルの資金調達に成功しています。資金の使途について教えて下さい。
米国では毎年約10億人のプライマリケアの訪問がありますが、非常に非効率的で、かつ非常に高額です。医師の数は減少し、バーチャル診療の必要性は高まっていますが、現在のやり方では持続可能なモデルとは言えません。ですので、大手の投資家や私たちが提携しているEcho Health Venturesや、Qualcomm Venturesなど大手の戦略的パートナーは皆、この問題を解決すべく、プライマリケアを遠隔で提供する方法を大きく変えることが出来る企業に投資したいと考えていたのです。
ですから、これまでの資金調達において、私たちのバーチャルケアソリューションが、医療業界で主要な問題を解決していることを証明できたと思っています。
現在、私たちは約15カ国にサービスを提供しています。70%は米国ですが、スイス、イギリス、フランス、イタリアなどの欧州やイスラエルでも活動しており、今後さらに拡大する予定です。また、南アフリカや南米、アジアなども視野に入れています。調達した資金では更なる事業拡大に充てる予定です。
――日本市場への進出はお考えでしょうか。
日本には2023年に参入する予定です。現在、日本での製品認可の最終段階に入っており、日本の大手保険会社と既に話し合いを進めています。
遠隔地の診療所や学校、訪問看護など、家庭用以外でも日本市場は非常に有意義な市場だと考えています。2023年には発売予定ですので、すでに試験運用はしています。
今後、日本にて新しいパートナーシップを探すとするなら、バーチャルケアを積極的に行っている大規模なプロバイダーグループ、ヘルスシステムまたは病院との関係は有益でしょう。
バーチャルプライマリケアの新しい標準となる
――最後に御社の長期的なビジョンを教えて下さい。
私たちは、2022年11月に、家族全員を対象とした初のリモートプライマリーケア製品「Home Smart Clinic」をスタートさせました。
「Home Smart Clinic」は、遠隔健康診断、独自のAI診断機能を組み合わせて、プライマリケアの全工程をサポートし、平均10%のコストの削減を実現し、従来の遠隔医療ソリューションよりも59%正確な診断を提供します。かつ、対面での予約を必要とせずに98%の病院への訪問を解決することが可能なため、従来のテレヘルスが抱えていたROIとケアのギャップを埋めることができるのです。そして、これが私たちの考える将来のプライマリケアの姿です。
私たちの長期的なビジョンは、「Home Smart Clinic」がバーチャルプライマリケアの世界に大きな影響を与え、業界全体に新しい標準を作り出すことです。
医師と患者が直接顔を合わせることは少なくなるでしょうが、私たちは医師と患者の双方に自宅から連続したケアをより多く行えるよう尽力し、前進していくべきだと思っています。