チーム内で効果的に議論が行える場づくり
―まずはあなたの専門的な背景と設立の経緯を教えてもらえますか。
私は大学で数学とコンピューターサイエンスを学び、2年生の時にFacebook社でインターンシップをしました。その際に正社員としての採用オファーを受けて入社し、ほぼすべての製品開発に関わり、貴重な経験をしました。
その後、Facebookを離れ、仲間と共に色々なアイデアに取り組みました。チームが成長して大きくなるにつれて、チーム内のメッセージのやりとりのみで全員の意思疎通を図ることが難しくなっていき、バラバラになっていくという興味深い問題にぶつかりました。小さいチームであれば、互いによく話をするので問題はないのですが、5人を超えるとグループが細分化し、グループ全体で互いにやり取りすることがなくなります。メッセージは断片化し、無秩序になっていきます。これは意図的でもなく、悪意があってでもなく自然とそうなっていくのです。そうなってしまうと、重要なことを決めるためには、メンバーを限定し、重要な人物だけで議論がされるようになり、そこに入れないメンバーは疎外感を持ちます。
その経験を通して、議論に参加する人が増えても効果的に機能するメッセージングプラットフォームの必要性を感じました。チーム内で知識を共有し、議論し、スムーズに決定を下すことができる場所、チームの共同作業で“知識”を形にできるプラットフォームを作りたいと思い、それが個人的な使命となり、Threadsを設立した目的にもなりました。
―製品について詳しくお聞かせください。
どの国、どの業界でも、ナレッジワーカーの仕事の多くはチーム内で情報を共有して、共同で意思決定を積み重ねて新しい“知識”を作り上げています。ですが、仕事の多くは多様で分散しており、働く場所も様々です。特にCOVIDによりそれは一気に加速しました。そのような状態で、チーム一体となって新たな“知識”を生み出すためには、オンラインで互いに繋がり、共有し、話し合うことが必要です。これは、“オンラインコミュニティ”のようなものです。
オンラインではインターネットリレーチャット(IRC)とForumsの2つのツールがよく使われており、Facebookグループ、Reddit、Quora、HackerNews、Twitterなどは、同じような機能を保持しています。何十人もの人が、フィードバックや返信、コメント、サブディスカッションなどで、一つのテーマについて話し合い、他人が何をしているかをリアルに知ることもできます。オフィスではいまだに電子メールや会議が主流ですが、世界の時流はオンラインコミュニティのような方向に向かっており、かつ求められています。
私たちはForumsを採用し、チーム内で効果的に意思疎通を図るために設計・構築をしました。オンラインチャットは時間がある時に気軽に開始できる会議のようなものです。作成したスレッドを誰が閲覧し、誰が話に追いついているかを確認できますし、誰にも邪魔されず一人でじっくりと考える時間を持てます。スレッドで議論した後、そこで解決策が提示されたら、それに合意の意思を表示すればそれが採決されるわけです。その議論の内容や決定された経緯はドキュメントとして残るので、それらは次にその仕事を引き継ぐ相手にとって貴重な情報になっていきます。まさにチームのためのすべてがそこにあります。
―どのようなチームがあなたの製品を使用していますか。
大変興味深いことなのですが、Treadsに関心のある人々は多様性に富んでいます。大規模なテクノロジー企業もあり、業界や企業規模などはあまり限定されておらず、大変幅広く多種多様です。
大企業のプレスリリースや戦略の議論、提案などは企業にとって大変重要なテーマであり、それらをThreads上で取り扱っていただけているのは信頼をいただけている証だと感じています。私たちは、すべてGDPRに準拠しており、プライバシーとセキュリティコンプライアンスを非常に重視しておりますので、プラットフォームがお客様の貴重な知識情報を危険にさらすことはありません。
パンデミックで加速されたリモートワークはチャンス
―コロナウイルスは業界にどのような影響を与えましたか。
COVIDにより、多くの企業がリモートで分散化された場所で仕事をせざるを得なくなりました。そうなると、情報を共有し、意思決定を図っていくために、Threadsのようなツールへの必要性が高まり、仕事をする方法そのものを根源から再考しなければいけない問題に直面しました。
―パンデミックの進展に伴い、顧客から何が見えてきたのでしょうか。 また、どのようにして彼らを支援できるのでしょうか。
まだ今は、人々が必要性を感じただけのフェーズ1の段階です。ですが、ほとんどの会社は有効なワクチンが開発されて、オフィスの安全が確認できるまでは、強制的にオフィスに戻すことは難しいでしょう。将来の理想的な企業はオフィスがあり、リモートオフィスがあり、労働力が分散されている状態になると私は思っています。その理想的な姿を実現するにはリモートで分散している社員について常に考える必要があり、「どのようにチームメンバーが一緒に“知識”を作るのか?」「それをどのように共有するのか?」「もっと効率的にするにはどうすればよいですか?」などを検討していく必要があります。 COVIDによりそのような時代の流れが促進されている状況はThreadsにとってはチャンスであり、今まさにおこっている事態を全面的にサポートするためにThreadsをさらに成長させていきたいです。
ユーザーが真に求めているものを追求し成長を目指す
―会社の中期的または短期的な目標を聞かせてもらえますか。
COVIDは、Threadsのようなツールへの関心を急速に高めました。ですが私たちはまだ成長過程にある企業です。利用を始めたいという人々をどうセグメント化するのか、どうすれば彼らが必要とするものを確実に提供できるのか、しっかりと焦点を当てて、私たちができるサポート内容について検討を進めることが短期的な目標です。システム全体の進化とレベルアップのバランスが取れ、安全性、コンプライアンス、スケーラビリティが向上すると同時に、ユーザーがより簡単に利用できることも重要です。ユーザーの声に耳を傾け、コミュニティに耳を傾け、人々が何を求めているかを理解し、Threadsを利用することでエンゲージメントの向上と企業の成功を達成できるようにサポートしていくことを目指します。
―次に、長期的なビジョンを聞かせてもらえますか。
ナレッジワーカーとしての仕事は、文字通り“知識”を生み出すことです。Threadsがそれらの企業にとっての重要な“知識”を生み出すプラットフォームとして最大の効果を発揮することが目指すところです。“知識”はゼロサムゲームではなく、そこから新しい無数のアイデアが生まれていきます。これまでの歴史でも、文書に残され、インデックスを付けられて蓄積された“知識”が発展に大きな影響を与えてきました。
日々ランダムなチャットやEメール、誰も議事録をとっていない会議などで多くの“知識”が生み出されています。でもそれらがThreads上で行われた場合、すべての価値ある“知識”と能力はそこに記録されており、それらは将来のためにも活用できます。当人にとっても、自分の仕事の背景や経緯などを常に記録しているので、最高の“知識”を生み出すことができるでしょう。
Threadsの長期的なビジョンは、仕事を真に包括的にすることであり、それは異なる場所にいる人々だけではなく、異なる時間のためでもあります。昔の社員が将来の“知識”の創造のためにサポートするわけです。
日本の職人技をナレッジ化
―海外展開について教えてください。日本市場ではどのようなパートナーシップを求めていますか。
Threadsはアメリカでだけなくヨーロッパ、南アメリカなど現在55の地域でご利用いただいています。日本のいくつかの企業も利用いただいているかとも思います。日本には優れたソフトウェア、職人技、企業内ルール、生産性の高い開発組織などが多くあり、大変興味を持っています。Threadsの需要が多くあると予測しているので、ぜひThreadsを試していただきたいです。そして日本での働き方の今後の傾向がどうなるのか、市場の動向を知るために、それらに詳しい企業と意見交換をしたいと考えています。
―日本の顧客へのメッセージはありますか。
日本には優れた職人技が多くあります。それらの技術は構造化されていますか?原理化されていますか?どれだけ上手に作り上げるか、良いものか悪いものかの判断ポイントはどこにあるのでしょうか。それは職人の経験や勘からくるかもしれません。
さまざまなリソースや専門家から話を聞くことができれば、多様な視点を得て、良いモノを作るために必要なデータが多くなります。Threadsを使うメリットは、効率性や品質の向上について他の人からの意見やアドバイスを聞くことができるということです。多面的な視点があると、職人技そのものも成長し、最終的な製品のクオリティも上がってくると思います。それは、私自身が日本市場からインスピレーションを得た最大のポイントです。そして、ナレッジワークとクラフトをミックスすることは、かなり興味深い観点だと思います。