SaaS型のソリューションで企業活動のCO2排出量を測定・分析
――Sweepの設立の経緯や事業の詳細を教えてください。
Sweepは大企業の脱炭素経営を助けるオールインワンプラットフォームを開発するSaaS企業です。CO2排出量の測定、脱炭素化に向けての活動支援など、主に大企業のカーボンマネジメントへのニーズを満たしています。
CO2排出に関する規制がどんどん厳しくなる中で、企業はただ「削減する」と宣言するだけではもう通りません。実際に行動して、社内の従業員と関わり、業務の一環として日常的に排出量を測定しなくてはいけません。CO2排出に関するイニシアチブをステークホルダーと定め、大企業として責任を持つ必要があります。
CO2というのは、データ、そしてネットワークに関する問題です。測定するには正確なツールが必要です。そしてなにより、そのツールを使用してCO2を大規模に削減できることが1番の重要事項です。ただスプレッドシートや社内システムで管理するだけでは、大規模なCO2削減は実行できません。
私を含む共同創業者4人はみんなヨーロッパ出身です。私自身はBIME Analyticsというスタートアップを共同創業しており、Sweepが初めて立ち上げた企業ではありませんでした。4人ともBI分野(ビジネスインテリジェンス)でキャリアを築いています。BIME AnalyticsがZendeskに買収された際に、さまざまな大企業が環境への取り組みに苦労している事実を知りました。
4人全員の経歴がテクノロジーやビッグデータに関わるキャリアだったので、大企業の抱える膨大なデータ量をどうやったらCO2の排出量が見えるように転換できるのかと考えました。
そこで、既存のデータベースの上に追加でCO2排出量に関するデータを重ねて、日々の経営活動でどれだけのCO2を排出しているのか測定できるようにしようと実践してみました。
データを収集し、1カ所にまとめるにはクラウド型のインフラが必要です。データがなければそもそも削減もできませんから、Sweepはスコープ1、スコープ2、スコープ3のCO2排出データの収集と分析など、既存の経営システムのギャップを埋める役割を果たしています。
スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3:1、2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
Image:BENJAMIN SCHMUCK
企業のフィードバックを組み込み、ソフトウェアを改善
――プラットフォームを開発する上で、どのような点が課題でしたか。
当初Sweepを立ち上げる際、さまざまな製造業の会社と話をしたのですが、そこで分かったのはまず、データ量の多さです。CO2がデータ問題であると言うのはそのような背景があるからです。幸い、共同創業者4人ともデータを扱うキャリアの出身であるおかげで圧倒されることはありませんでしたが、Sweepは粒度の細かいデータを処理する容量の大きさを必要としました。
また、CO2排出削減というのはネットワークに関連する問題であるとも言えます。Sweepを使うカスタマーが、科学的なデータに基づいた意思決定をするにはどうしたらいいのか、さまざまな連携システムやデータを1カ所で全てをまとめるにはどうしたらいいのか、というソリューションが必要になります。
結果的には、企業の環境対応に関する取り組みを最大限支援できるよう、私たちはひたすら企業のフィードバックを組み込み、ソフトウェアの改善を行いました。同規模、同業種の企業が2社あったとしても、その企業の成長具合は異なります。一方の企業は既に環境問題に積極的に取り組んでおり、もう一方はまだ始めてすらいないかもしれません。後者のような企業を支援するには、まずはテクノロジーの導入からです。
私たちは、コンサルティングファームではないので、会社のBIに重点的にアプローチし、自動化をできるようにしたり、システムのセットアップを担ったりと各社のニーズを満たせるよう学ぶ必要がありました。
Image:BENJAMIN SCHMUCK
――競合他社と比べて、どのような点が強みですか。
最近は各種規制に従った報告書を作成してくれるツールなどは存在しますが、データ分析の要素がありません。本来ならば、社内会計や業績を監視するのと同じ重要度でCO2の排出量も監視しなくてはいけません。
そのためには、過去に排出したCO2の量と比較したり、定期的にデータを更新して分析したり、自社・他社のシステムと連動するようなソリューションがないと、会社の成長は見込めません。この先10年間にわたり、CO2排出を監視できるシステムになっているかどうかという点が私たちが他の会社と一線を画している点です。
将来的には、世界中でCO2データが利用できるようなマッピングも視野に
――2021年12月のシリーズAで1950万ユーロ(約25億円)、2022年4月にはシリーズBで7300万ドル(約90億円)を調達し、過去1年の調達総額は約1億ドル(約126億円)に上ります。資金の使い道や今後の目標を教えてください。
調達資金は、製品の向上に充てます。中でもスコープ3の排出量の分析に注力しています。また、ヨーロッパでの営業活動にも資金を充てる予定です。ヨーロッパは規制が厳しく、環境対策に関しては非常に熾烈な市場です。環境に関する教育も盛んに行われている市場ですので、私たちも積極的に関わりたいと思っています。
日本でも一部の企業でSweepを導入しており、今後よりグローバルに展開することが目標です。また、営業活動に集中するため、マーケティングに長けている人材やエンジニアの雇用も短期的な目標のひとつです。
長期的には、世界中でCO2データが利用できるようなマッピングができればと思います。接続できるデータの点が増えれば増えるほど、バリューチェーンにおいても点と点をつなげることができ、CO2データを1カ所で管理できるようになります。そうすると、業界全体の排出量や、セクター別の排出量が一目で把握できるようになります。さまざま企業が一緒にCO2削減に向けて取り組めるようになることが私たちの希望です。
CO2削減は、次の10年間が勝負
――日本での導入事例について詳細を教えてください。
日本では大手の電気通信事業者で導入されています。CO2排出削減に関する取り組みを始めた段階で、スコープ1、2、3の全てを測定できるツールを探していました。2021年後半にその企業より問い合わせをいただきました。データ収集が可能で、CO2排出要素を定めて監視できる強固なインフラを必要としていたので、Sweepの導入に至りました。
他にも、中小企業で導入されていますが、冒頭に話したネットワーク問題はこのようなケースにも当てはまります。1社がSweepを導入すると、提携しているパートナー企業にも導入してもらうなど、チェーンのようにつながっていきます。導入が進めば、自社とパートナー企業でCO2の排出量を測定し、削減に向けての目標を設定してもらうことができるのです。これら全てを1企業のみで行うのは困難なので、Sweepがプラットフォーム同士を連携する役割を果たしてくれます。
――将来的にどのような企業と提携したいですか。
環境政策に真剣に取り組む企業、CO2の排出を重要な問題だと捉えている企業にSweepは貢献できると思います。また、コンサルティングファームなど実際にデータの収集業務などに携わらない事業者とも提携する余地があります。世界でさまざまな企業がSweepを活用してくれています。CO2削減は、次の10年間が勝負になるでしょう。